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公益通報者保護法とは?不利益を被らずに違法行為を是正させる方法

公益通報者保護法

勤務先で違法行為が行われていることを、偶然に知ってしまった場合、どうすれば良いでしょう。
やめさせたい。でも、こんな不祥事を内部通報したら、解雇されてしまうのではないかと心配にもなりますよね。

そのような内部通報者を守るのが公益通報者保護法です。

ここでは、公益通報者保護法の制度内容について、内部通報や公益通報制度に精通したベリーベスト法律事務所の弁護士が詳細に解説します。
この記事を読んでいただければ、公益通報者保護法で保護されるための条件、保護の内容等を知ることができ、通報すべきかどうかの判断の参考となります。

この記事が、通報者が不利益を被らずに違法行為を是正させるためのお役に立てば幸いです。

労働基準監督署について知りたい方は以下の関連記事もご覧ください。

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1、公益通報者保護法の概要

企業等の内部に、犯罪行為及び法令違法行為が存在するときに、これを明らかにして、防止・是正することは、法令の遵守を確保・促進し、ひいてはその法令が守ろうとした国民の生命身体の安全等の保護を確実にすることにつながります。
このような観点から、内部通報者を保護する制度が、公益通報者保護法です。

英語では、Whistleblower Protection Act、つまり警笛を吹く人を守る法律と称されています。

公益通報者保護法は、企業等が内部通報者を解雇する等の不利益な取扱いをすることを禁止するとともに、内部通報があった場合に、企業等がとるべき措置を定めています。

2、公益通報とは何か(公益通報者として保護される要件)

公益通報者保護法は、あらゆる内部通報を保護するものではありません。
一定の条件を満たす場合のみを「公益通報」として保護の対象とします。

以下に、公益通報者保護法によって保護される「公益通報」となる要件を説明していきます。

(1)「労働者」による通報であることが必要

公益通報者保護法によって保護される「公益通報」は、「労働者」によるものでなくてはなりません。

「労働者」とは、労働基準法第9条で定義されている労働者と同じです。
職業の種類を問わず、雇主(使用者)からの指揮命令を受けて業務に従事し、その対価として賃金の支払いを受けている者すべてを含みます。

①正社員

いわゆる正社員は、すべて「労働者」です。

②アルバイト・パートタイマー・契約社員

アルバイト・パートタイマー・契約社員は、その名称、雇用形態を問わず、皆、「労働者」です。

③派遣労働者

派遣労働者も、「労働者」です。

④退職者

退職者は、退職によって雇用関係から離脱していますので、「労働者」ではありません。
したがって、退職後に在職していた職場の違法行為を通報しても、使用者からの不利益な取扱いを受けることが想定できないので、保護対象外です。

しかし、在職中に違法行為を通報した後に退職した場合は、労働者の身分を有する時点での通報ですから、公益通報の対象に含まれます。したがって、退職後に、通報を理由として、退職金を不当に減額するような不利益取扱いは禁止されます。

⑤取締役

取締役は、会社との間で委任契約を結んで職務にあたっており、会社の指揮命令を受ける存在ではなく、また役員報酬は賃金ではないので、「労働者」ではありません。

ただし、取締役と従業員を兼ねる兼務取締役(使用人取締役)の場合(例えば、取締役でかつ営業部長等)は、会社代表者等の指揮命令の下で労務を提供し、その対価としての賃金を支払われる限りにおいて、「労働者」に該当します。

⑥匿名の通報者

公益通報者保護法は、「労働者」の通報であれば保護対象としますから、それが匿名の通報であっても、「労働者」に該当し、保護対象となります。
つまり、労働者が匿名で通報した後に、何らかの理由で氏名が特定された場合、解雇等の不利益な取扱いをすることは禁止されます。

⑦家族や友人の通報

たとえ家族や友人であっても、「労働者」による通報ではありませんから、公益通報者保護法による保護対象とはなりません。
ただし、その通報が、「労働者」からの依頼や指示でなされたような場合は、実質的にその「労働者」による通報と同視できますから、その「労働者」に対する不利益な取扱いは禁止されます。

(2)「不正の目的」による通報ではないことが必要

公益通報として保護されるには、その通報が不正の目的でないことが必要です。
不正の目的の立証は、事業者側が、その責任を負担します。
通報に対する不利益取扱いの是非が裁判になった場合に、通報が不正の目的ではないことを労働者側が立証しなくてはならないとすると、実際上、保護を受けることは困難となります。「ないこと」を証明することは、悪魔の証明と言われ、不可能だからです。

公益通報者保護法は、不正の目的として、以下のような場合を例示しています。

①不正の利益を得る目的

通報により、公序良俗に反する金品を得る目的です。

②他人に不正の損害を加える目的

通報により、勤務先や他の従業員を中傷して、信用を失墜させるような目的です。

③公序良俗・信義則違反の目的

上記以外にも、およそ公序良俗、信義誠実の原則に違反する目的の通報は、公益通報者保護法による保護対象とはなりません。

(3)事業主等が主体となる犯罪行為及び法令違反行為の通報であることが必要

社会的に有益な通報は職場での問題に限りませんが、公益通報者保護法での保護を受ける通報は、その労働者の職場での問題でなくてはなりません。

①労務提供先の犯罪行為及び法令違反行為

労務提供先には、まず、労働者を雇用している事業主が含まれます。事業主とは、雇主である企業(法人)、個人事業主です。

また、派遣労働者の派遣先や請負先(ある企業が、他の企業の仕事を請負い、自社の労働者を請負業務に従事させる場合の発注企業)も労務提供先に含まれます。

②役員、従業員等の犯罪行為及び法令違反行為

役員、従業員等の犯罪行為及び法令違反行為については、その企業等の業務に従事する過程での行為に関する通報でなくてはなりません。

つまり、役員や従業員が個人として、業務に関係ない私生活において犯罪行為及び法令違反行為に関与する場合は、それを通報することは公益通報者保護法の保護対象ではありません。

(4)「通報対象事実」の通報であることが必要

保護される通報は、「通報対象事実」に関するものでなくてはなりません。通報対象事実とは、次のものです。

①通報対象法律に違反する犯罪行為

通報対象事実は、まず犯罪行為を対象とします。

犯罪行為といっても、すべての犯罪行為ではなく、公益通報者保護法の「別表」に掲げる法律(これを「通報対象法律」といいます。)に違反する犯罪行為に限定されます。

同別表は、刑法、食品衛生法、金融商品取引法、農林物資の規格化等に関する法律、大気染防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、個人情報の保護に関する法律の7種類を定めると共に、それ以外にも政令で定める法律を対象とできるとしています。

これを受けて、「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」において、462本(平成29年9月15日現在)の法律が適用対象として指定されています。

この法律の一覧表は、消費者庁のサイトで閲覧・ダウンロードできます。

②直ちに犯罪行為でなくとも、最終的に刑罰につながる法令違反行為

また、適用対象法律に違反する行為が、それ自体は直接に犯罪行為とされていない場合でも、違反の是正を勧告されたり、処分を受けたりしたにもかかわらず、これに従わなかった結果、勧告や処分に従わないことが犯罪行為を構成するときは、当初の起点となった違反行為は、通報対象事実となります。

(5)三種類の定められた通報先に対する通報であることが必要

公益通報者保護法による保護を受ける条件として、通報先は、次の3種類のうちのいずれかである必要があります。

①内部通報(企業内部)

労務提供先(雇用主である企業、個人事業主、派遣労働先、請負先を含みます。)又は、労務提供先があらかじめ定めた者に対する通報です。
労務提供先への通報は、企業や団体の代表者だけでなく、通報対象事実について権限のある管理職や上司等への通報も含みます。
労務提供先があらかじめ定めた者とは、社内外を問わず、弁護士、労働組合、グループ企業内に設置した共通の相談所等を想定しています。

②行政機関通報(権限ある行政機関)

通報対象事実について処分や勧告等をする権限がある行政機関に対する通報です。
処分とは命令や取消し等の公権力の行使、つまり強制力ある措置です。
勧告等とは処分以外の助言や指導等の措置を言います。
どの行政機関に権限があるかは、各種法令の規定によります。
権限ある行政機関に対する通報でないと保護対象とはなりません。

しかし、通報者が誤って権限のない行政機関に通報をしたときは、通報を受けた行政機関側は、どこの行政機関が権限を有するのかを、通報者に教えてあげなくてはならないとされています。

③外部通報

労務提供先及び権限ある行政機関以外で保護を受けることができる通報先は、通報対象事実の発生又は被害拡大を防止するために必要と認められる通報先です。

まず、消費者団体、事業者団体、報道機関がこれに当たります。

次に、通報対象事実の被害者又は被害を受ける危険がある者です。例えば、有害物質を含んだ食品が販売されている場合の購入者が該当します。被害者への通報も被害の発生や拡大を防止できるからです。

ただし、当該労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除きます。

(6)通報先別に異なる保護要件が要求される

公益通報者保護法は、上記の3種類の通報先毎に、異なった条件を定めています。

内部通報、行政機関通報、外部通報の順に、保護される要件は厳しくなっています。

万一、事実と異なる通報が外部に公表されると、それが虚偽であっても、企業は深刻な風評被害を受けます。

そこで、順次、要件を厳しくすることで、第一次的には、内部通報することを促し、まず内部での自浄作用による是正を期待しているのです。

①内部に通報するときの保護される要件

通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合であれば保護されます。

②権限ある行政機関に通報するときの保護される要件

通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信じるに足りる相当な理由が必要です。

相当な理由とは、単なる憶測や伝聞ではなく、通報内容を裏付ける内部資料等がある場合や関係者による信用性の高い供述がある場合を指します。

必ず100%事実と証明できる証拠まで要求されるわけではありません。

③外部に通報するときの保護される要件

外部通報の場合は、先の行政機関への通報で要求される「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信じるに足りる相当な理由」だけでなく、これに加えて、次の5つの要件(通報の相当性)のどれか一つが必要となります。

  1. 他の通報先への通報では、報復等の不利益な取扱いを受ける危険があると信じるに足りる相当な理由があるとき。
  2. 内部通報では、証拠隠滅等がされると信じるに足りる相当な理由があるとき。
  3. 労務提供先から、他の通報先へ通報をしないよう正当な理由なく要求されたとき。
  4. 書面(メールを含む)での内部通報から、20日を過ぎても労務提供先が通報を放置(調査を行わない)しているとき。
  5. 個人の生命身体への危害又はその急迫した危険があると信じるに足りる相当な理由があるとき。

(7)各通報先への通報方法

①通報の方式

内部通報、行政通報、外部通報のいずれに対しても、公益通報者保護法は、通報の方式を限定していません。
したがって、書面が必須というわけではありませんし、匿名であっても構いません。

また、電子メールであろうと、手紙であろうと、対面しての口頭であろうと、録音テープや録音データファイルの送付であろうと、ビデオテープや動画データファイルの送付であろうと、通報の方式、媒体の違いで、保護されるか否かが変わることはありません。

ただし、後述しますが、ネット上に書き込みや動画等を公開し、不特定又は多数人に伝搬する結果となった場合、そのように不特定又は多数人に伝えることが必要であったのか否かの問題及び名誉毀損の成否の問題が生じます。

②通報先

内部通報の場合、企業側が、コンプライアンス相談室等の部署を設けている場合や外部の弁護士を相談先に指定している場合は、そこが窓口になります。

行政通報の場合は、所管する監督官庁が相談先ですが、仮に間違えて監督権限のない行政機関に通報した場合でも、通報を受けた行政機関は、正しい通報先を教示しなくてはならないと定められていますので、それに従えば大丈夫です。

外部通報の場合は、報道機関及び被害者側以外の第三者への通報は、「通報対象事実の発生又は被害拡大を防止するために必要と認められる」通報先か否かの判断が微妙になります。

仮に訴訟となった場合、この要件の充足は、通報者側が立証責任を負担しますので、リスクを避けるためには、報道機関及び被害者以外への通報は避ける方が無難です。

また、インターネットのSNSや動画投稿サイトでの発表は、通報先が、公衆となるので、「通報対象事実の発生又は被害拡大を防止するために必要と認められる」通報先に該当すると判断される場合は少ないでしょう。そればかりか、ネット上の書き込みや動画投稿の場合、不特定かつ多数人に対する伝達として、名誉毀損罪の要件を満たします。

公益通報者保護法による保護の内容は、解雇等不利益取扱いの禁止であり、名誉毀損の成否は、また別問題です。名誉毀損が成立する場合、損害賠償責任だけでなく、刑事責任を追及される危険性もあります。したがって、ネット上での公表は、お勧めできません。

③通報の順番

内部通報、行政通報、外部通報は、この順に、通報しなくてはならないわけではありません。

ネット上の解説の中には、必ず内部通報から始めて、行政通報、最後に外部通報の順番で通報しないと保護されないと、記載されているケースがありますが、そのような条件は、公益通報者保護法には記載されていません。

公益通報者保護法は、できるだけ内部通報を促すために、内部通報で保護される要件を緩やかにし、外部通報が保護される要件を厳しくしていますが、内部通報を実際に行うと不利益を被る危険がある場合に外部通報を保護しているのです。

また、行政通報や外部通報が保護される要件の中に、内部通報を行ったことは含まれていません。

3、要件を満たした公益通報者に与えられる保護の内容

公益通報者保護法の要求する要件をすべて満たした公益通報者に対しては、以下の各保護が与えられます。

(1)解雇は無効

まず、通報を理由とした解雇は禁止され、解雇しても無効です。

(2)一切の不利益取扱いが禁止

解雇に限らず、減給、降格、懲戒処分等、種類を問わず、通報を理由とした一切の不利益な取扱いが禁止され、一切の不利益な取扱いが無効となります。

(3)派遣契約解除は無効

通報者が派遣労働者の場合、通報を理由として、派遣元との派遣労働契約を解除することは禁止され、解除しても無効です。

また、派遣先は、派遣元に対し、派遣労働者の交代を求める等の不利益な取扱いを行うことを禁止されます。

(4)公務員の場合

国家公務員、地方公務員、自衛隊員等が公益通報者である場合は、これに対する免職や不利益取扱いの是非は、国家公務員法、地方公務員法、自衛隊法等の各種法律に従うことになります。

しかし、これら各種法律の適用にあたっても、公益通報を行ったことをもって、免職やその他の不利益取扱いがなされてはならないとされています。

4、要件を満たしていない通報者でも保護される場合

以上のとおり、公益通報者保護法の保護を受けるには、厳格な要件を満たさなくてはなりません。

しかし、この要件を満たさないと一切の保護を受けられなくなるというわけではありません。

そもそも、犯罪行為及び法令違反行為に対する正当な通報に対して、報復を加えること自体が許されるべきではなく、公益通報者保護法をまたずして、不利益な取扱いは禁止されるべきですし、また、同法制定前から禁止されてきました。

同法が制定された後も、同法の適用の有無にかかわらず、保護を受けることができる場合があります。

(1)解雇権濫用

客観的に合理的な理由がなく、社会的に相当でない解雇は、解雇権濫用として違法・無効です。
これは古くから労働法の法理として認められてきたもので、その後、労働契約法に明文化されました。
正当な通報者を解雇することが解雇権の濫用にあたることは明らかです。

(2)懲戒権濫用

解雇権濫用と同様に、懲戒処分も客観的な合理性、社会的な相当性が求められ、これを欠く懲戒は、懲戒権の濫用として無効です。
正当な通報者を減給処分にする等が、懲戒権の濫用にあたることも明らかです。

(3)不当労働行為

例えば、会社側が労働組合内の役員人事に秘密裏に介入していたことを通報する等、労働組合活動にかかわる場合は、この通報に対し、会社が報復的に不利益取扱いをすることは、憲法が保障する労働者の団結権を侵害するものとして、不当労働行為にあたり、公益通報者保護法を待つまでもなく、違法・無効となります。

5、事業者・行政機関がとるべき対応

公益通報者保護法は、公益通報を受けた際に事業主や行政機関がとるべき措置を定めています。

(1)事業者がとるべき措置

書面による公益通報をされた事業者は、是正に必要な措置をとったときはその旨を、通報対象事実がないときはその旨を、通報者に対し、遅滞なく通知するよう努めなくてはなりません。

ただし、努力義務に過ぎず、違反しても罰則等はありません。

(2)行政機関がとるべき措置

公益通報をされた行政機関は、必要な調査を行い、通報対象事実があると認めるときは、法令に基づく措置その他の適当な措置をとらなければなりません。

通報が、権限を有しない行政機関に対してされたときは、その行政機関は、通報者に対し、どこが権限を有する行政機関か教示しなければなりません。

6、実例と消費者庁の取り組み

(1)裁判の事例

①オリンパス配転無効事件

精密機器メーカーの社員が、その上司が、取引先の営業秘密を握る技術者の引き抜きを画策していることを知り、企業倫理に違反するとして、社内のコンプライアンス(法令順守)通報窓口に通報したところ、窓口担当者から通報内容がその上司に伝わり、以後、3回にもわたって配置転換され、社員が配置転換の無効の確認と会社と上司に対する損害賠償請求を求めた事件です。

一審は、社員の訴えを認めませんでしたが、二審の東京高裁は、通報に対する反感を原因とする不合理な配置転換と認め、社員を逆転勝訴させ、最高裁は、会社側の上告を棄却し(平成24年6月28日最高裁決定)、社員の勝訴が確定しました。

②骨髄移植推進財団事件

骨髄移植の仲介、推進を目的とする財団において、事務局運営を統括する総務部長の地位にある職員が、ある常務理事のパワハラ、セクハラ的な言動により、職員が体調を崩したり、退職を検討したりする事態が生じており、是正が必要であるとの報告書を、理事長に提出しました。

これに対し、財団側は、その職員に対して、総務部長の任を解き、降格させる人事を行いました。

職員はこれに抗議したところ、財団側は、パワハラ、セクハラの事実はないとし、最終的に職員を懲戒解雇しました。

しかし、職員は提訴し、東京地裁は、この懲戒解雇を無効としました(東京地裁平成21年6月12日・労判991号64頁)。

(2)指摘されている問題点

公益通報者保護法は、2006(平成18)年4月から施行されていますが、厚生労働省は、2013(平成25)年6月、公益通報者保護制度に関する実態調査報告書を公表しました(http://www.caa.go.jp/planning/koueki/chosa-kenkyu/files/130625zentai_2.pdf)。

同報告書によると、公益通報者保護法を受けて、内部通報制度を整備している企業は、従業員3000人超の大企業では95%超ですが、101人から300人までの企業では40%、50人以下は10%に過ぎないこと、業種別では、金融業、保険業では95・1%が導入済みですが、他業種では50%を切る業種も少なくないとされています。

未導入の企業からは、そもそもどのような制度かわからないとか、導入の仕方がわからない等の回答も寄せられ、公益通報者保護制度の周知が、未だ不十分とわかります。

通報窓口に通報ないし相談したとアンケートに回答した者(有効回答3000人のうちの42人)のうち、半数弱の者が何らかの不利益を受けたと回答しており、公益通報者保護法の制定後も、報復的な取扱いが存在することを示しています。

さらに、内部通報制度を導入した企業でも、8割近くが、年間の通報件数は5件以下で、半数近くの企業では年間通報件数が0件だと報告されています。

通報制度が形骸化しており、機能不全に陥っている危険があると指摘されています。

(3)民間事業者向ガイドライン、行政機関向ガイドラインの発表

消費者庁は、平成28年及び同29年に、公益通報者保護法に関する次の3種類のガイドラインを発表しました。

民間向けの「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」は、事業者のコンプライアンス経営を促進するために、内部通報制度の実効性の向上にむけて、事業者が取り組むことが推奨される事項を具体化明確化したものです。

そこには、通報にかかる秘密保持の徹底や、経営幹部からも独立性を有する通報ルートの整備等が推奨されています。

他方、行政機関向けの「公益通報者保護法を踏まえた国の行政機関の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報)」及び「公益通報者保護法を踏まえた国の行政機関の通報対応に関するガイドライン(外部の労働者等からの通報)」は、通報の放置、不適切な調査、通報にかかる秘密の漏洩等、行政機関において頻発してきた事態を防止するために、秘密保持、個人情報の漏洩防止を徹底すること、通報を受ける担当者への十分な教育、研修の実施等がうたわれています。

7、公益通報者保護制度について弁護士に相談するべきケース

  • 上司の犯罪行為を知ってしまった。会社には通報窓口があるが、通報して上司から仕返しされないか不安。
  • 会社ぐるみの違法行為を知ってしまった。監督官庁に通報したら、解雇されないか不安。
  • 派遣先企業の違法行為を知ってしまった。派遣元に相談しても大丈夫か。派遣契約を打ち切られてしまわないか不安。

このようなケースでは、まず外部の法律専門家に相談するべきです。

公益通報者保護法は、犯罪行為及び法令違反行為を通報する者を守る制度ですが、これまで説明したとおり、同法によって保護される通報には厳格な条件が定められています。

また、同法の施行後も、内部通報に対する報復的な行為がなされる社会的な土壌は十分に改善されているとは言い難く、たとえ勤務先に通報窓口が整備されていたとしても、安心して通報できるとは言えません。

特に、職場内部の犯罪行為及び法令違反行為を通報するということは、今までの上司、同僚から、一転して敵視される可能性がある行為です。

これを考えると、職場の関係者に相談する前に、外部の専門家である弁護士に相談するべきです。

弁護士には、相談内容に対する守秘義務があり、これに違反すれば犯罪として刑事罰を受けますので、安心して相談できます。

8、公益通報者保護制度は何のためにあるのか

(1)法令遵守(コンプライアンス)は、企業を守るためのもの

コンプライアンスを徹底することができず、法令違反の発覚によって、企業価値を損ね、最悪、企業破綻に至るケースも珍しくなくなりました。

(2)公益通報は、企業と社会の健全な発展に資する行為

目先の利益に心を奪われて、犯罪行為及び法令違反行為を隠蔽するよりも、徹底的に膿を出すことが、企業の発展、存続に資することです。

(3)内部通報は、裏切りではない

内部通報者を裏切り者扱いする社会土壌こそ、無くさなくてはなりません。

(4)法律の目的は、通報する者と通報される会社の両方を守ること

公益通報者保護法は、通報するあなたを保護する一方で、企業に犯罪行為及び法令違反行為を正す機会を与えて、その利益を守るのです。

まとめ

この文章を読んでおられる方は、通報しようかどうか悩んでおられる方ではないでしょうか。
真剣にお考えになるのは、当然のことです。人間関係が絡む微妙な問題であり、将来を左右しかねない人生の重大事です。

しかし、通報を後ろめたい行為と思うべきではありません。むしろ社会のために必要な意義あることなのです。

制度の概要はおわかりいただけたと思います。これを頭に入れていただき、まず、弁護士に相談してから慎重に行動するべきです。

この一文が一歩を踏み出す手助けになれば幸いです。

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