自分の勤めている会社がブラック企業かもしれない。
ブラック企業について相談したい。しかしどこに相談すればよいのだろう…。と悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
この記事では、
- 「ブラック企業」で働いている人はどこに相談すべきか
- ブラック企業たる証拠の収集方法はどうすべきか
について、説明していきます。
ご参考になれば幸いです。
労働問題について解決したいと考えている方は以下の関連記事もご覧ください。
1、ブラック企業について相談したい!まずは「ブラック企業」かどうかをチェック
まず、あなたが働いている会社が「ブラック企業」だと感じた場合、本当に「ブラック企業」なのか判断する必要があります。
そもそも「ブラック企業」とは、どのような企業を指すのでしょうか?
厚生労働省は、以下のような事例の企業を「ブラック企業」と考えているようです(厳密な定義はしていません)。
〔違反・問題等の主な事例〕
- 長時間労働等により精神障害を発症したとする労災請求があった事業場で、その後も、月80 時間を超える時間外労働が認められた事例
- 社員の7割に及ぶ係長職以上の者を管理監督者として取り扱い、割増賃金を支払っていなかった事例
- 営業成績等により、基本給を減額していた事例
- 月100時間を超える時間外労働が行われていたにもかかわらず、健康確保措置が講じられていなかった事例
- 無料電話相談を契機とする監督指導時に、36 協定で定めた上限時間を超え、月100 時間を超える時間外労働が行われていた事例
- 労働時間が適正に把握できておらず、また、算入すべき手当を算入せずに割増賃金の単価を低く設定していた事例
- 賃金が、約1年にわたる長期間支払われていなかったことについて指導したが、是正されない事例
これらの事例に加えて、パワーハラスメントによって若者を使い捨てにしている企業も「ブラック企業」と考えているようです。
要するに、「ブラック企業」とは、長時間労働を強いる企業、適正・適法な賃金を支給しない企業、若者に対するパワーハラスメントが横行している企業等と考えられます。
ご自身の会社について、長時間労働を行っている場合、休日も出勤して働いている場合、残業代や休日出勤の賃金が払われていない場合、上司によるパワーハラスメントがあると感じた場合などは、そのままではご自身が疲弊しきってしまうので、何か対策をするべきです。
そのためには、お一人、もしくは会社内で考えるだけでなく、適切な第三者に相談すべきです。
2、「ブラック企業」の相談先は?
ご自身の会社が「ブラック企業」だと感じた場合、ご自身のご希望によって、相談先を変えることになるでしょう。
以下、ご自身のご希望ごとに、相談先を紹介します。
(1)企業体質を改善させたい場合
長時間労働や休日出勤を強いる企業の体質が改善ご希望の場合、まずは会社の人事部等の内部通報や、労働基準監督署に対する相談が代表的な手段となります。
人事部等の内部通報と、労働組合や労働基準監督署に対する相談のメリットやデメリット等を説明していきます。
①内部通報
会社に人事部等の労働条件の担当部署がある場合は、内部通報をして企業体質の改善を申し出ると良いでしょう。
メール送信や直接訪問するなどして、体質改善の話、要望などを伝えていきましょう。
第三者が介入しないので、会社との関係が比較的悪化しにくいといえますが、改善に向けて誠実な対応をしてもらえるかは、会社次第です。
②労働組合に対する相談
労働組合がある場合には、有力な相談先といえます。
労働組合があなたの話を聞いてくれ、団体交渉の申入れをしてくれれば、企業体質の改善に向けて対等な話合いの場を持てます。
正当理由のない団体交渉の拒否は違法ですから(労働組合法7条2号)、会社は基本的には交渉自体には応じるので、話合いの場を持つことができるでしょう。
しかし、労働組合の能力やモチベーションは組合次第のところがあり、また、労働組合が経営者側とつながっている場合もあるので、あなたのご希望が叶えられなかったり、あなたと会社の関係が悪化したりするリスクもないとはいえません。
③労働基準監督署に対する相談
労働基準監督署(労基署)は、労働基準法及びその関連法規の規制の実効を確保するための行政監督機関であり、厚生労働省の所轄部署です。
そこで、労働基準監督署に対する相談も、会社の体質改善として有力です。
単純な相談は「総合労働相談コーナー」で受け付けており、また、労働基準法違反の疑いがあると判断された場合は、労働基準監督署が本格的に動くことになります。
労働基準監督署は労働基準監督官を指揮監督しており(労働基準法99条3項)、また、労働基準監督官は、事業場等に立ち入り、会社の帳簿や書類の提出を要求し、使用者や労働者に尋問する権限を有しています(同101条)。
労働基準法違反の罪については、逮捕、逮捕に伴う捜索・差押え、検証等を行うことができます(同102条)。
このほか、労働基準法を施行するために必要な場合には、使用者や労働者に対して必要事項の報告や出頭を求めることができます(同104条2項)。
労働基準監督署は、このような権限を持っているので、会社としても労働基準監督署を無視できません。
しかし、労働基準監督署に相談し、労働基準監督署が実際に動くことで、あなたと会社の関係が悪化するリスクもあります。
(2)残業代・未払い賃金や慰謝料請求を請求したい場合
残業代・未払い賃金の請求や、上司のパワーハラスメントで被った被害の慰謝料請求をご希望の場合、専門家である法律事務所を頼るのが一番です。
残業代や賃金の未払い、各種ハラスメントは明確な違法行為です。
そのような被害を受けていて、証拠があるならば、法律事務所を訪ねることでその補償を受けられる可能性は十分あります。
3、相談する場合は証拠を集めておく
特に労働基準監督署や法律事務所に相談する場合、「ブラック企業」であると示す証拠の存在が重要です。
「ブラック企業」であると示す証拠があれば、あなたのご希望が叶えられる可能性が格段に高くなります。
そこで、以下、「ブラック企業」の特徴に応じて、どのようにして証拠を収集していけばいいのか紹介していきます。
(1)拘束時間が長い場合
労働時間は原則として1日8時間、1週40時間を超えてはいけませんが(労働基準法32条、例外的に労使協定(労働基準法36条本文、いわゆる「36協定」)の締結・届出がされた場合等は、適法に時間外・休日労働をさせることができます。
日常的な業務の必要に応じて行われる残業は、この36協定によるものです。
もっとも、1か月の残業は原則として45時間を限度としなければならず(労働基準法36条4項、「時間外労働の限度に関する基準」〔平10.12.28労告154号〕)、それを超える場合には特別条項付協定を締結・届出する必要があります(〔前掲平10.12.28労告154号3条但書・4条2項〕)。
厚生労働省は、月平均の残業時間が80時間を超える場合には、身体・精神への過重負荷と残業との関係性が強いと考えています。
また、月平均の80時間の残業時間は「過労死ライン」とも呼ばれ、それを超えた場合には過労死の危険性が高まるとも考えられています。
そこで、出勤管理表やタイムカード表等、勤務時間を証明できるものについては、ご自身で事前に写真を撮ったり、毎日、規則的に勤務期間を記載した日記をつけたりして、証拠化してみてください。
(2)適切・適法な賃金が支払われない場合
最低賃金法は、使用者は労働者に対して最低賃金額以上の賃金を支払う義務があると規定しています(同法4条1項)。
最低賃金額を下回る賃金額はその部分につき無効となり、無効となった部分は最低賃金額に修正されます(同法4条2項)。
最低賃金には、都道府県別ごとの地域別最低賃金(同法9条以下)と、特定の産業ごとの特定最低賃金(15条以下)があります。
令和元年度の都道府県別の最低賃金改定状況については、厚生労働省のサイトで検索できます。
全国平均額は、1時間あたり約901円となっています。
最低賃金を下回るかどうかの判断の対象となる賃金は毎月支払われる通常の労働時間に対する賃金なので(同法4条3項)、一時金や残業代は含まれません。
ご自身の1か月の通常の労働時間で支給される賃金を割って、それが都道府県別の最低賃金額を下回る場合には、明確な違法行為です。
そこで、就業規則等、通常の労働時間が分かる資料を写真で撮ったり、コピーしたりすることに加えて、給与明細や給与の振込口座の通帳のコピーを取って、証拠化してみてください。
(3)ハラスメントが横行している場合
職場で上司や同僚などからパワハラ、セクハラやマタハラなどの各種ハラスメントが横行していると感じた場合、その証拠を集めることをお勧めします。
各種ハラスメントが確認できるメールやLINEを画像保存したり、ハラスメントがあった際のやり取りをボイスレコーダーや携帯電話の録音機能を利用して音声データに残したり、受けたハラスメントに関する日記を残したりすることで、証拠化してみてください。
(4)辞められない場合
退職願・退職届を提出したにもかかわらず、会社が事実上辞めさせてくれない場合もあるでしょう。
使用者による労働契約の一方的な解約である解雇は、労働基準法、労働契約法等の規制を受けます。
一方、労働者による一方的な解約である辞職は、原則として自由であり、使用者の承諾を要しないと解されています。
これは、労働者の職業選択の自由を定めた憲法28条や、奴隷的拘束を禁じた憲法18条の帰結でもあります。
期間の定めのない労働契約の場合(いわゆる「正社員」の場合)には、辞職にあたって使用者の承諾も正当な理由も必要なく、自由に辞職できますが、原則として2週間前の予告が必要です(民法627条)。
そこで、辞職の意思表示の到達後、2週間経過後に労働契約が終了することになります。
期間の定めのある労働契約の場合(いわゆる「契約社員」の場合)には、「やむを得ない事由」がある場合にのみ直ちに解約できます(民法628条前段)。
ただし、「やむを得ない事由」を故意・過失により生じさせた当事者は、他方当事者に対し、解約により生じた損害を賠償する責任を負う可能性があります(民法628条後段)。
そこで、何が「やむを得ない事由」に当たるかが問題になりますが、憲法22条や憲法18条の帰結として辞職が自由なことに鑑みて、実務上緩やかに考えられています。
もっとも、その判断には専門的な知見が必要なので、ご自身の事情が「やむを得ない事由」に当たるかどうか心配な場合には、法律事務所に相談されると良いでしょう。
そこで、退職を拒否された場合には、それを証拠化しておくことをお勧めします。
具体的には、
- 退職届・退職届を内容証明郵便で会社に郵送したり、それらを写真で撮っておく
- 実際に拒否された現場のやり取りをボイスレコーダーや携帯電話の録音機能を利用して音声データに残す
- 退職拒否に関する日記を残す
などによって証拠化してみてください。
(5)不当解雇された場合
使用者から解雇を言い渡された場合、使用者が考える解雇理由を特定する必要があります。
労働者の求めがあった場合、使用者は退職事由を記載した証明書を交付すべきとされ、解雇の場合には解雇理由も記載しなければなりません(労働基準法22条1項)。
また、労働者は、解雇前であっても、解雇予告を受けていれば証明書の交付を請求できます(労働基準法22条2項)。
この解雇理由は、「就業規則の当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係」を具体的に記載しなければなりません(99.1.29基発45号)。
そして、解雇の通告は少なくとも30日前にしなければなりません(労働基準法20条1項)。
30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(同条2項)。
そこで、解雇理由を特定し今後の対応を検討するためにも、その証拠を収集しておくべきです。
具体的には、
- 退職事由の証明書や解雇理由証明書の交付を求める
- 使用者との面談の際のやり取りをボイスレコーダーや携帯電話の録音機能を利用して音声データに残す
- 日記にそのやり取りを残す
などして証拠化しておきましょう。
まとめ
この記事では、
- 「ブラック企業」とはどのような企業なのか?
- 「ブラック企業」について相談する相談先
- 相談する際の証拠の集め方
について説明しました。
ブラック企業で働き続けても不満が残り続けるのは確かなことです。
ぜひ、あなたが何をしたいのか明確にして相談先を選び、転職も含めて一番幸せになれそうな手段を見つけて、行動して下さい。