追突事故での慰謝料について知っておきたい7つのポイント

追突事故に遭ったら慰謝料はどれくらい請求できるのでしょうか。

交通事故の類型のうち、信号待ちや渋滞などの停車中に後続車に衝突される「追突事故」の類型は、全体の発生数の中でもかなり多くの割合を占めます。

そのため、この追突事故で怪我をしてしまう被害者も多いのですが、追突事故に遭って怪我をしてしまった場合、どのくらいの補償が得られるのかご存じでない方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、追突事故の慰謝料についてご説明します。

もちろん、実際には個々のケースで考慮すべき事情は様々ですが、一般的にどのように計算するものなのかを知っておくことで、どのように解決するのかというイメージをつかむ参考にしていただければ幸いです。

交通事故に遭った際の慰謝料獲得方法については以下の関連記事もご覧ください。

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1.追突事故の慰謝料とは|そもそも交通事故の慰謝料には2つの種類がある?

「慰謝料」とは、交通事故に遭ったことによって被った精神的苦痛を金銭的に償ってもらうものです。

この「慰謝料」には、交通事故に遭ってしまったことにより、入通院をさせられたことに対しての「入通院慰謝料(傷害慰謝料ともいいます)」と、②後遺障害等級が認定された場合に請求できる「後遺障害慰謝料」の2つがあります。

入通院慰謝料は、交通事故で負った怪我の治療のために、入通院をしなければならなかった場合に、この入通院によって被害者が被った精神的な損害を賠償するためのものです。つまり、交通事故被害者は、交通事故による怪我の痛みなどの精神的苦痛を受け、治療期間中には診察・リハビリのための通院を余儀なくされますので、入通院慰謝料は、これらの精神的な損害を慰謝するために払われる慰謝料という訳です。

後遺障害慰謝料は、治療を続けたにもかかわらず、事故から一定期間が経過しても症状が残ってしまい、その症状について後遺障害等級の認定がなされた場合に、その後遺障害が残ってしまったことによる精神的な損害を賠償するためのものです。事故によって、怪我をした部位に痛みやしびれが残ってしまったり、傷跡が残ってしまった場合などに、これらの精神的損害が賠償の対象となります。

2.交通事故の慰謝料に関する3つの基準について

慰謝料は、被害者の方の精神的な損害を賠償するためのものですから、本来、被害者の方一人一人について事情が異なる以上、慰謝料も個別に算定しなければなりません。

しかし、精神的な損害の大きさを個別に算定するのは極めて難しいことですし、同じような被害を受けた人たちの間で慰謝料の金額に大きな差が出てしまうことも公平の観点から望ましいことではありません。そこで、入通院慰謝料についても後遺障害慰謝料についても、交通事故の慰謝料の算定においては、裁判所も保険会社も一定の基準を設けており、この基準に当てはめて計算するのが一般的な運用です。

ただ、ここで用いられる基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準の3つがあり、それぞれの計算方法によって慰謝料は大幅に変わってきますので注意が必要です。

(1)自賠責保険基準

まず、自賠責保険は、人身事故に対する最低限の補償を目的として法律で加入が義務付けられている強制保険ですので、慰謝料の算定方法も法律で定められています。そもそも最低限の補償を目的としていますので、算定基準は低く設定されています。

(2)任意保険基準

次に、任意保険は、最低限の補償である自賠責保険では賄いきれない損害を補償するために加入する保険です。この任意保険の慰謝料基準については、各保険会社の社内基準ですので、一般に公開されているわけではありませんが、自賠責保険基準と裁判所基準の間ぐらいの金額で定められていることが多いといえます。

保険会社の担当者から、被害者の方に対して「当社の基準に照らして計算したところ、この金額となります。」と示談額が提示されることがありますが、これが任意保険基準というものです。これは、単にその保険会社が自社で作った基準に当てはめて計算したというだけですから、裁判所の基準に比べるとかなり低い基準となります。

(3)裁判所基準

裁判所基準については、実際の訴訟の中で示された裁判所の考え方や、交通事故についての過去の裁判例で認められた金額を基に導き出された基準です(弁護士基準とも言われます。)。この裁判所基準は、3つの算定基準の中で一番高い賠償額が算定されます。弁護士が介入して加害者側に請求していく際には、この裁判所基準を用いて損害額を計算することになります。

3.交通事故の慰謝料の計算方法

では、以下では、それぞれの基準に基づく慰謝料の計算方法についてご説明します。

(1)自賠責保険基準

自賠責保険の入通院慰謝料については、治療費や通院交通費なども合わせて120万円の枠の中で支給されることになります。

計算方法は、1日4200円で計算しますが、日数は「実通院日数×2」と「通院期間」のどちらか少ない方を用います。

例えば、事故から治療終了まで3ヶ月間(90日間)かかった場合で、実通院日数が20回だった場合、90日>(20日×2)40日となるため、40日×4200円=168000円が自賠責保険基準の慰謝料となります。ただし、自賠責保険の枠が120万円しかありませんので、これが上限になります。仮に、治療費と通院交通費、休業損害などで100万円かかったとすると、慰謝料は20万円が上限になってしまいます。

自賠責保険の後遺障害慰謝料については、下記の表のように等級に応じて金額が決まっています。

第1級第2級第3級第4級第5級第6級第7級
1100万円958万円829万円712万円599万円498万円409万円
第8級第9級第10級第11級第12級第13級第14級
324万円245万円187万円135万円93万円57万円32万円

※被害者側が直接請求(被害者請求)すると、上記の他に逸失利益分が一緒に支払われます。

(2)任意保険基準

任意保険基準については、公表されていませんので、その算定方法も明らかではありません。保険会社の担当者が、被害者の方に対して最初に提示してくる金額が、この任意保険基準によって算定された慰謝料の金額になります。ただし、任意保険会社の担当者の中には、自賠責保険基準の金額を任意保険基準として提示してくる人もいますので注意が必要です。任意保険会社は、示談終了後に自賠責保険から保険金を回収(求償)しますので、仮に、自賠責保険基準で示談ができたとすると、全額自賠責保険から回収でき、任意保険会社の負担はなくなります。つまり、自賠責保険基準で示談提示してくるということは、任意保険会社は1円も払わないと言っているのと同じことなのです。

(3)裁判所基準

入通院慰謝料の裁判所基準については、裁判所によっていくつか種類があるのですが、多くの場合、以下のような表を用います。

参考1)裁判所基準における入通院慰謝料(以下は、『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』いわゆる「赤い本」による基準。)

ご覧のとおり、表が2つありますが、別表Ⅱは、「他覚的所見(主にMRIやレントゲン・CT等における画像所見)がないむち打ち症等」の場合に使われ、それ以外の場合には原則として別表Ⅰが使われるという運用がなされています。

この表は、まず、入院していた場合にはその入院期間に応じて縦の列を決めます。例えば、入院期間が全くなければいちばん左の列になりますし、入院期間が3か月であれば左から4番目の列となります。そして、通院期間に応じて、その縦の列の中で下の方にマス目をたどっていき、入通院慰謝料額を計算します。つまり、入院なし・通院3か月ならば、一番左の列の3月の行のマス=73万円となります。別表Ⅱの場合、通院日数については、「実通院日数×3」と「通院期間」を比較して短い方を通院日数と考えて算出します。

後遺障害慰謝料についても、裁判所によっていくつかの種類はありますが、多くの場合、以下の基準となります。

参考2)後遺障害等級による後遺障害慰謝料額(上記「赤い本」による基準。)

第1級第2級第3級第4級第5級第6級第7級
2800万円2370万円1990万円1670万円1400万円1180万円1000万円
第8級第9級第10級第11級第12級第13級第14級
830万円690万円550万円420万円290万円180万円110万円

4.追突事故の場合の慰謝料の金額の相場と特徴について

追突事故の場合も、その他の類型の事故と同様に、これまで説明してきた各算定基準で慰謝料が算定されます。ただ、軽微な追突事故の場合、被害者が軽傷で終わることも多いですから、加害者側の保険会社も入通院慰謝料を自賠責基準で算定してくることが多く、かなり少ないという印象を受けるかもしれません。

例えば、追突事故で首のムチウチ(頚椎捻挫等)となって、週に1回程度整形外科に通い、3ヶ月程で治療が終了した場合(実通院日数12回)の入通院慰謝料を計算すると次のようになります。

【自賠責基準】4200円×(通院12回×2)=10万0800円

なお、上記の事案を仮に裁判所基準で計算すると、22万4000円となりますが、裁判所基準で慰謝料を請求するためには、弁護士に依頼するか自分で裁判を起こす必要があります。そのため、弁護士費用特約に加入していて保険会社が負担してくれるような場合でなければ、弁護士費用の方が高くなってしまい、弁護士に依頼するのは現実的ではありません。

比較的ムチウチの症状が重く、頻繁に整形外科にリハビリに通って(週に2~3回)、半年間ほど治療を続けた場合ですと、加害者側の保険会社も自賠責基準ではなく、任意保険会社基準で慰謝料を提示することが多いですが、それでも60万円程度の金額になることが多いです。

また、追突事故の場合、過失は100:0ですから、被害者側に過失がないため、被害者側の保険会社は交渉の窓口になってくれません。そのため、被害者の方は、自ら加害者側保険会社と交渉する必要があります。

5.追突事故の場合の慰謝料の計算事例

では、以上を踏まえ,追突事故の典型的な被害者のケースで、裁判所基準に基づいた損害賠償額のシミュレーションをしてみましょう。

<事案>

首のムチウチ(頚椎捻挫)となり、半年間治療を続けたものの、症状が残ってしまい14級9号の後遺障害等級が認定されたケース

被害者:男性,事故時及び症状固定時38歳,営業職,事故前年収入500万円

事故日時:平成27年8月1日午後6時ころ

事故態様:四輪車同士の事故。被害車両が信号待ちで停止中,後方から脇見運転の加害車両がノーブレーキで追突。

治療状況:頸椎捻挫との診断

平成27年8月1日から平成28年1月31日まで整形外科に通院

(総通院期間184日,通院実日数100日)

症状固定日:平成28年1月31日

休業日数:計30日

事故後の経緯:当初より加害者加入の保険会社が対応。治療費(60万円)、通院交通費(5万円)、休業損害(41万6670円)は全額支払いを受けた。症状固定後,後遺障害等級認定申請を行い,頸椎捻挫後の痛み,しびれ等の症状につき,「局部に神経症状が残存しているもの」として14級9号の認定を受けた

【損害計算】

①治療費 60万円

②通院交通費 5万円

③後遺障害診断書作成料 1万0800円

④休業損害 41万6670円

1日当たり収入1万3889円(事故前3か月の収入合計125万円÷90日)

1万3889円×30日(休業日数)=41万6670円

⑤入通院慰謝料 90万0667円

赤い本・別表Ⅱ参照

総通院期間184日(6か月と4日)

=89万円+(7か月97万円-6か月89万円)×4/30

=90万0667円

⑥逸失利益 108万2375円

基礎収入500万円×0.05(14級の労働能力喪失率)×4.3295(5年間のライプニッツ係数)=108万2375円

⑦後遺障害慰謝料 110万円

⑧総損害額 416万0512円※①~⑦の合計です。

⑨加害者過失割合 100%

⑩既払金 106万6670円

治療費 60万円

通院交通費 5万円

休業損害 41万6670円

⑪最終支払金額 309万3842円

※⑧から⑩を控除した額です。

6.追突事故の慰謝料の金額をアップするポイント

では、追突事故に遭った被害者の方が慰謝料の金額をアップさせるためにはどのようにすればいいのでしょうか。

まず、しっかり通院することです。これまで説明してきたように、入通院慰謝料を算定する際には、通院期間や通院回数が基準になりますので、痛みがあるのに我慢して病院に行かないと、その痛みは慰謝料算定の上で考慮されません。ですから、痛みなどの症状がある場合には、しっかり病院で診てもらい、必要があればリハビリに通うことが重要です。

また、被害者の方が直接加害者側の保険会社と交渉する場合、保険会社の担当者は、自賠責基準や任意保険会社基準で慰謝料を提示してきます。弁護士に依頼すると、弁護士は慰謝料を裁判所基準で算定して請求しますから、交渉の基準が上がり、示談額もアップすることが期待できますので、慰謝料の金額に納得ができない方は弁護士に依頼することをお勧めします。

特に、弁護士費用特約に加入している方は、基本的に弁護士費用の負担がありませんので、保険会社から示談提示を受けたら一度弁護士にご相談されるといいでしょう。

7.追突事故の際によくあるトラブル

(1)事故証明書が物件事故になっている

軽微な追突事故の場合、人身事故ではなく、物件事故(人が死傷していない事故)として処理されていることがあります。

物件事故になったままでも、保険会社が治療費の支払い等をしてくれれば治療や示談に関してはさほど問題ありませんが、医師の診断書を警察に提出すれば、人身事故に切り替えることができますので、可能な限り切り替えることをお勧めします。なお、事故から日数が経過してしまうと切り替えてもらえなくなりますので、早急に提出することが必要です。

また、物件事故から切替えができなかった場合には、「人身事故証明書入手不可能理由書」が必要になりますので、加害者側の保険会社の指示に従って対応することが必要です。もし、治療終了後も後遺症が残った場合、自賠責保険に後遺障害等級認定申請をすることが考えられますが、この際も人身事故証明書入手不可能理由書が必要になります。

(2)ムチウチでは後遺障害等級は取れない?

ムチウチによる痛み・しびれ等の神経症状の場合、目に見えにくく、第三者が明確に症状を見ることができないため、医師から後遺障害等級は取れないと言われることもあるようです。

しかし、いわゆるムチウチの場合でも、画像所見や検査結果、治療状況などから14級9号の「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級が認められるケースは多々あります。

ただ、痛み等の症状が残っていても、通院実績が乏しい場合、等級認定が得られない可能性があります。忙しくて通院できなかったなどの理由があっても、自賠責調査事務所の考え方では「通院する必要がない症状だった」と判断され、等級認定には結び付きにくいということになってしまいます。

そのため、症状が残っている場合には、しっかり治療を受けることが重要になります。

まとめ

今回は、追突事故の慰謝料について説明しましたが、参考になりましたでしょうか。今回、弁護士基準についても説明しましたが、私たち弁護士が実際に加害者側に請求する際には、個々の被害者の方の状況に合わせて様々な修正を加えて慰謝料等を算出することになります。

加害者側保険会社から示談提示を受け、それが妥当かどうか分からないと言ってご相談にいらっしゃる方も多いですが、そのほとんど場合で慰謝料の金額は上がります。提示された慰謝料が妥当な金額なのか気になったら、示談をしてしまう前に一度弁護士に相談することをお勧めします。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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