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実家の生前贈与を考えるときの4つの重要ポイント

家 名義変更 生前贈与

様々な事情でご実家の生前贈与をお考えの方も多いでしょう。

相続まで待たずに生前贈与するというのは、どうしてもこの人に確実に贈与しておきたい、確実に贈与を受けておきたい、相続時に大きな負担とならないようにしたいというような事情があると思われます。
そのために、金銭面や手続面で思いがけず大きな負担が生じたり、将来の相続の際に紛争が生ずることは避けたいところです。

今回は、

  • 実家の生前贈与に必要な手続き
  • 実家の生前贈与に要する贈与税その他の税金や費用など
  • 将来の相続の際に考慮しておくべき問題

などについて弁護士がわかりやすく解説いたします。
本稿では、わかりやすいように生前贈与を受ける方(受贈者)の目線で記載していますが、贈与者の立場でも、参考にしていただけると思います。

この記事がご実家の円滑な生前贈与のためにお役に立つことを願っています。

土地の生前贈与についてはこちらをご覧ください

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1、実家の生前贈与の名義変更の方法

実家の生前贈与の名義変更の方法

まず、実家の生前贈与・名義変更に必要な手続きを確認しておきましょう。

なお、税金については、次項でご説明します。

(1)自分が生前贈与を受ける場合

①贈与契約書の作成

贈与は、贈与する人(贈与者)と贈与される人(受贈者)との契約です。

贈与契約は、書面を作成せず、口頭であっても成立します。しかしながら、口頭の場合には、実際に引き渡しが行われるまでは撤回できてしまいます。
また、贈与契約書を作成することにより、贈与契約をした、しないの水掛け論を防ぐことができます。
さらに、贈与契約書は、所有権移転登記を行う際にも使えますので、スムーズに登記を行えます。

親子間の贈与でも、贈与契約書は作成しておきましょう。その際には、土地の登記内容について法務局で「登記事項証明書」を取得して、契約書に正確に記述します。

②登記手続き

生前贈与において登記手続きに必要な書類は概ね次の通りです。

  • 司法書士への委任状

自分で登記手続きをするのは手間も時間もかかるので大変です。そのため司法書士に登記手続きを委任する方が大半です。
司法書士に依頼すれば以下の必要な書類なども整えるなど対応してもらえます。
必要書類の概要は次の通りです。

  • 贈与契約書
  • 従前の登記済権利証又は登記識別情報通知書
  • 固定資産評価証明書
  • 印鑑証明書及び実印
  • 本人確認書類(運転免許証など)
  • 住民票の写し(現住所が現状の登記簿の記載と異なる場合)

(2)第三者に生前贈与の手続きをしてもらう場合

現在の所有者が遠方に住んでいたり、入院中といったこともあるでしょう。認知症などを患って判断能力が不十分ということもあり得ます。そのようなときにどうすればよいでしょうか。

①しっかりとした代理人を立てる(弁護士や司法書士が望ましい)

現在の所有者の判断能力に特段の問題がないように見えても、特に高齢である場合には、将来の相続争いを避けるために、慎重に進めましょう。
現在の所有者(将来の被相続人)の現在の判断能力に問題がないように見えても、将来、他の相続人が「配偶者や長男などが、父親がボケ始めたのを利用して、父親をだまして生前贈与させた」など言い始めて、紛争が生じかねません。

生前贈与について適切な契約書を作成し、医師などとも連携しながら慎重に進めるために、専門家である弁護士にご相談されることをおすすめします。

②所有者が認知症など患っている場合は、自宅の処分には慎重な対応が必要

所有者の判断能力が認知症などにより疑わしいことがある場合、その状況に応じて成年後見人や、保佐人、補助人などを立てて手続を進めることが考えられます。

後見というのは、認知症、知的障害、精神障害などによって、「判断能力が欠けているのが通常の状態」の方について、家庭裁判所の審判を経て、本人を援助する成年後見人を選任する制度です。

成年後見人は、後見開始の審判を受けた本人に代わって契約を結んだり、本人の契約を取り消したりすることができます。

ただし、精神上の障害を負っている被後見人にとって、居住環境が変われば、その心身や生活に重大な影響が生じる懸念があるため、被後見人の居住用不動産を処分するには、必ず家庭裁判所の事前の許可が必要です。
この許可を得ることは非常に難しいため、後見制度を利用しての生前贈与は基本的には困難です。

判断能力がある程度残っている方については、「保佐人」「補助人」という制度があります。
家庭裁判所の審判を受けて、本人の自己決定権を守りつつ、一定の範囲の行為について保佐人、補助人に代理権や同意権が与えられます。

この場合も、生活の本拠である自宅を贈与するというのは、重大な問題であり、弁護士などのサポートを受けて医師などにも相談しながら対応すべきでしょう。

2、実家の生前贈与を受ける場合は税金に注意!

実家の生前贈与を受ける場合は税金に注意!

実家の生前贈与を受けるには税金その他様々な費用がかかります。概要は次の通りです。

(1)贈与税

①贈与税の概要

贈与税は贈与者と受贈者の関係で2つの税率の定めがあります。

直系尊属から20歳以上の子や孫への贈与の場合は特例税率を用います。

それ以外の場合は一般税率になります。
例えば、20歳未満の子や孫への贈与、義理の親から子や孫への贈与などです。

【特例贈与財産用】(特例税率)

【一般贈与財産用】(一般税率)

基礎控除後の

課税価格

控除額

基礎控除後の

課税価格

控除額

200万円以下

10%

200万円以下

10%

300万円以下

15%

10万円

400万円以下

15%

10万円

400万円以下

20%

25万円

600万円以下

20%

30万円

600万円以下

30%

65万円

1,000万円以下

30%

90万円

1,000万円以下

40%

125万円

1,500万円以下

40%

190万円

1,500万円以下

45%

175万円

3,000万円以下

45%

265万円

3,000万円以下

50%

250万円

4,500万円以下

50%

415万円

3,000万円超

55%

400万円

4,500万円超

55%

640万円

参考:国税庁No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

②贈与税の計算例

贈与税の課税価格が4,000万円のケースを考えてみましょう。

〇父親から20歳以上の息子さんに贈与した場合(特例税率適用)

4,000万円×50%-415万円=1,585万円

〇義父から20歳以上のお婿さんに贈与した場合(一般税率適用)

4,000万円×55%-400万円=1,800万円

③贈与税の特例その1「暦年贈与」

贈与税については、様々な特例があります。

まず、受贈者1人について年間110万円までは基礎控除として贈与税がかかりません。これを利用し、毎年110万円の範囲で自宅の持分の贈与を受けるのも一つの選択肢です。

しかし、毎年ちゃんとした贈与契約を結び、手続を進める必要があります。仮に、例えば、「10年間で1,100万円を贈与する契約(定期贈与契約)」とみられてしまうと、契約した年に1,100万円の贈与があったと扱われ、多額の贈与税を払うことになりかねません。

④贈与税の特例その2「相続時精算課税制度」

60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に財産を贈与した場合には、合計2,500万円まで贈与税が非課税になり、その分を相続税で精算することができます。

一般には相続税の方が贈与税よりも非課税枠や税率などが有利ですので、自宅などの高額な物件なら相続時精算課税制度の活用は、ぜひ考えるべきでしょう。
なお、相続時精算課税制度を用いると、同一人物からはその後、暦年贈与は受けられません。

⑤贈与税の特例その3「配偶者控除」(おしどり贈与)

婚姻期間20年以上の夫婦の間での居住用不動産の贈与については、基礎控除110万円に加えて最高2,000万円まで合計2,110万円までが非課税となります。

贈与年の翌年3月15日までに、当該居住用不動産に受贈者が現に住み、その後も引き続き住む見込みなどの要件があります(なお、居住用不動産取得資金についても、この制度を用いることができます)。

(2)贈与を受けるときに贈与税以外にかかる税金費用など

①名義変更登記及び登録免許税(国税)

名義変更時には司法書士に依頼するのが通常でしょう。その報酬を考える必要があります。

また、登録免許税として登記手続き時に、固定資産税評価額×2%を納付します。

なお、登録免許税は、相続の場合は税率0.4%で、各種の免税措置もあります。

参考:国税庁No.7191 登録免許税の税額表

②不動産取得税(地方税)

贈与で不動産を取得した場合の地方税です。

東京都の場合は、固定資産税評価額×3%となっています。

ただし、2024年3月31日までの宅地等(宅地及び宅地評価された土地)の取得については、土地の課税標準額は価格の1/2となるなどの特例があります。

参考:東京都主税局「不動産取得税

(3)贈与を受けてからの税金や費用など

贈与を受けてから後も、不動産を保有している限り次のような税金や費用がかかります。

①固定資産税・都市計画税(地方税)

  • 固定資産税=課税標準額× 税率1.4%
  • 都市計画税=課税標準額× 税率0.3%

ただし、住宅用地で住宅1戸につき200m2までの部分は課税標準額を減額する措置があります。
固定資産税課税標準額は6分の1、都市計画税課税標準額は3分の1などとされます。

これ以外にも様々な軽減措置等があります。

実家の生前贈与といっても、その中に不動産の貸付けや地上権の設定などの部分があれば所得税や個人住民税の負担が生じます。
不動産貸付業や駐車場業などを事業として行っている場合には、地方税としての個人事業税などがかかります。

3、実家の生前贈与を受けると相続割合が減る可能性あり

実家の生前贈与を受けると相続割合が減る可能性あり

生前贈与を受けた場合には、相続時にも特別の注意が必要です

生前贈与されたもののうち「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与をうけた」ものについては、特別受益として「持ち戻し」されます(民法903条1項)。
特別受益の持ち戻しとは、 特別受益の金額が相続財産に含まれているとみなしたうえで、法定相続分や遺留分を計算することを意味します。

この持ち戻しは、被相続人が「しない」という意思表示を行っていた場合にはなされないところ(同条2項)、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地を生前贈与した場合には、被相続人が持ち戻しをしないという意思表示を行ったと推定されます(同条3項)ので、原則として特別受益として持ち戻すことはありません。

また、生前贈与は遺留分(法定相続人に最低限保障されている相続分)の算定の際にも重要です。
遺留分の算定を行う際の遺留分額の計算においては、相続開始前1年(法定相続人に対する生前贈与であれば相続開始前10年)の贈与のみが考慮されます。

4、実家の生前贈与を受ける際は専門家へ相談を

実家の生前贈与を受ける際は専門家へ相談を

以上ご説明したのは、ご実家の生前贈与についてのごく基本的な内容です。

例えば、相続争いを避けるため、配偶者や長男に実家を生前贈与しておく場合、本文中でも触れましたが、贈与者の判断能力に疑問が出てくれば、逆に相続争いの種になりかねません。

また、親御さんがいずれ老人ホームに入ることを想定して実家を息子さんに贈与しておき、いざ入居時には息子さんに実家を売却してもらって入居資金を作る、といったことを考える方もおられるでしょう。
ご自分の判断能力に問題が出てくれば、実家の売却に支障が生じかねないからです。

ご実家が個人事業主として事業の場でもあった場合には、税金の問題のほか、そもそもの事業承継のあり方についても考慮が必要です。
このような諸般の事情を考えるならば、早め早めにご家族で将来のことを話し合った上、弁護士や税理士、司法書士などの専門家に事前にご相談されることをおすすめします。

まとめ

 ご実家の生前贈与をお考えになるのは、特別な事情がある場合と思われます。一般には生前贈与よりも相続の方が、基礎控除額も税率も圧倒的に有利だからです。その特別な事情に応じて、生前贈与のみでなく、様々な選択肢を検討する必要があります。

そもそも、ご実家は大切な生活の場所です。しかも高額な財産です。将来の相続も見据えて様々な選択肢の一つとして、ご実家の生前贈与をお考えになるべきです。
本当のニーズをしっかり見据えて、それにふさわしい解決策を専門家のアドバイスを踏まえて検討されるべきです。

 本稿がその一助となれば幸いです。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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