駐輪場に数時間ほど停めていただけの自転車が放置自転車として撤去されるという事態が都市部を中心に全国各地で頻発しています。
ここに存在する法的な課題について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、駐輪場に停めたのに撤去されるのは自分勝手な不届き者の仕業
このような事態は、収容台数を超える需要のある駐輪場で起こります。駐輪しようとしたら、満車状態で駐輪できなかった人が、すでに駐輪してある自転車を駐輪場から移動させて自分の自転車を駐輪してしまうのです。
こうして放置された(とみなされた)自転車は、自治体によって、放置自転車の保管場所に移されます。自転車の持ち主が自転車の返還を受けるためには、移動保管費用を負担しなければなりません。金額は自治体によって異なりますが、概ね1,500円〜3,000円に設定されているようです。西日本新聞で福岡市の事例が報道されると、SNS上では、他人の自転車を移動させて自分の自転車を停めた人や自治体の制度に対する批判が相次ぎました。
2、移動保管費用の支払いは拒める?
駐輪場に適切に停めたことを主張して、移動保管費用の支払いを拒むことはできるのでしょうか?
移動保管費用については、市区町村の条例で定められています。
報道された福岡市では、「福岡市自転車の放置防止に関する条例」に「市長は、放置禁止区域内において自転車が放置され、かつ、当該放置の場所の周辺に当該自転車の利用者等がいないと認めるときは、当該自転車を移動し、保管することができる」(10条2項)と定められています。
「放置」について、盗難自転車が乗り捨てされた事例に「所有者等以外の第三者が窃取して乗り捨てたものであったとしても、上記状態(注:条例上の「放置」にあたる状態)にある以上は…「放置」に該当するというべきである」と判断した裁判例が存在します(東京地方裁判所平成18年11月10日判決)
条文および裁判例からすると、市が自転車を移動させるにあたり、「誰が」自転車を放置禁止区域に放置したかということは重要ではありません。重要なことは,次の2つの項目となります。
- 放置禁止区域内に自転車が放置されていること
- 周辺に利用者等がいないと認められること
そして、「市長は、第10条第2項又は第11条第2項の規定により、自転車を移動し、保管した場合は、当該自転車の移動及び保管に要した費用を当該自転車の利用者等から徴収することができる」(13条1項)と定められているので、費用を徴収されるのは、「自転車の利用者等」になります。この条例でいう「利用者等」とは、「利用者及び所有者」(2条5号)のことです。
自分の自転車を停めるために移動させた人から直接徴収することを市に求めることも考えられなくはないですが、移動させた人を撤去された自転車の「利用者」といえるかについては疑問が残りますし、そのような主張をしたところで、市は移動させた人を知らないので徴収のしようがありません。
また、自転車を受け取りにきた所有者が徴収対象であることに変わりはないので、このような主張をしても市の徴収を免れることは難しいでしょう。
3、「自転車を勝手に移動させた人」は見つけられる?
もっとも、このように正当な理由なく他人の自転車を駐輪場から移動させる行為は不法行為(民法709条)に当たる可能性があります。行為者に対しては、市に支払った費用や自転車の受け取りに要した交通費などを請求することができます。
とはいえ現実的に行為者を特定することは難しく、行為者がわからなければ請求のしようがありません。手掛かりになるものを強いて挙げるとすれば、移動させた人の自転車です。
そこからわかる情報(例えば、各種の情報シールの内容)を保存し、弁護士へ相談することも考えられます。しかし、自分が停めていた場所にあったからといって、勝手に移動させた人の自転車であるとは限りません。空振りに終わることも十分考えられてしまうところです。
事後的な対処としては、よい方策はなさそうです。あらかじめケーブルやチェーン状の鍵を用意して、柵などの工作物に自転車を括り付けることによって容易に移動できなくするという事前の対策に尽きてしまいます……。
自転車に限った話ではありませんが、物、特に人に迷惑をかけるおそれのある物(危険な物や大きい物)の所有には一定の責任が生じます。勝手に移動させる人が最も非難されるべきことはいうまでもありません。
しかし、勝手に移動させられた結果、通行の妨げになるなどして、関係のない人の迷惑とならないように、所有者が多少なりとも責任を求められてしまうということなのでしょう。
4、自治体も設備投資で対策を講じている
福岡市ではこのような状況を受け、数千万円の予算を投じ、停めた人でなければ移動できないよう鍵式の駐輪場への移行を進めているとのことです。
また、たとえば監視カメラの設置や警察の協力を仰ぐことで、行為者を見つけ出すことはできるようになるかもしれません。コストをかけることで解決できる領域かもしれませんが、そこには時間もかかるはず。
横行する不法行為に対し、法的な抑止力を行使できないという状況には大きな問題があります。今回取り上げられた福岡市の事例に限らず、泣き寝入りを余儀なくされている被害者が各地にいるのです。
自治体の早急な対応や法律の整備を願うことはもちろん、このような心ない行為がなくなることを願います。