アスペルガーの配偶者との離婚を考慮する際、結婚生活の継続の難しさや離婚後の問題、話し合いの難航など、多くの要因を総合的に検討する必要があります。
この記事では、アスペルガーの配偶者との関係が離婚を考えるほど困難な理由、離婚を進める上での注意点、そしてアスペルガーを理由に離婚が可能かどうかについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
目次
1、そもそもアスペルガーとは
アスペルガーの配偶者と離婚してよかったと思えるかどうかを知る前に、まずは「アスペルガー」について整理しましょう。
- アスペルガーの特徴
- アスペルガーの配偶者と結婚生活を続けることが難しい理由
について解説します。
(1)アスペルガーの特徴
アスペルガーは、広い意味で自閉症スペクトラム障害(ASD)のひとつで、高機能自閉症、高機能広汎性発達障害とほぼ同義とされることもあります。
興味や行動の極端な偏りがあったり、コミュニケーションや対人関係にうまく対応できなかったりする等の傾向があります。
(2)アスペルガーの配偶者と結婚生活を続けることが難しい理由
なぜ、アスペルガーの配偶者との結婚生活は継続が難しいのでしょうか。
その理由を順番に見ていきましょう。
①話がコロコロ変わるから
アスペルガーの人は、話がコロコロ変わることが多いです。
ただ、これは本人に悪気があるわけではないケースがほとんどです。
アスペルガーの人は、頭の中に思い浮かんだことや興味の対象が移り変わると、我慢できずに口にしてしまう傾向にあります。そのため、まだ話の途中であるにもかかわらず、突然話を遮られてしまったり全く違う話題に移られたりしてしまうことがあるのです。
結果として、「この人とは会話が成立しない」という虚しさを感じやすくなります。
②親戚付き合いができないから(法事等を含む)
アスペルガーの人は、法事等の親戚付き合いや行事があっても、自分が行きたくないと感じたら親戚付き合いに参加しない人も多い傾向にあります。
アスペルガーの人の配偶者は、親戚から「なぜあなたの夫は法事に来ないの?」などと責められて、悲しい思いをすることもあるでしょう。
③空気を読むことができないから
アスペルガーの人は、いわゆる「空気を読む」ということがなかなかできません。
大人になれば、仕事であっても日常生活であっても、空気を読んで控えるべき言動がありますが、アスペルガーの人はそれができないのです。
そのため、自分が思った通りの行動や発言をしてしまい、周りの人を困惑させたり傷つけてしまったりすることもあります。
③言われたことを言葉通りに受け取ってしまうから
アスペルガーの人は空気や行間、言葉の裏側に潜んでいる思いなどを読むのが非常に苦手で、言葉通りに受け取ってしまう傾向があります。
察してほしいことを察してくれなかったり、全てを細かく説明しなければならなかったりすることは、ストレスに感じられるでしょう。
④目の前のことしか見えない・長期的視点を持てないから
人生には、長期的視点を持った方が良い場面がありますよね。お金の使い方や健康管理などは、その代表的な例です。目の前の快楽だけを求めてお金を使ったり、好きなものを好きなだけ食べていたりすると、未来の自分が後悔することになりかねません。
アスペルガーの人は、このような長期的視点を持つことを苦手とする人が多く、目の前のことしか見られない傾向にあります。
⑤自分の意見が正しいと思い込んでいるから
アスペルガーの人は自分の意見が正しいと思い込んでいる側面があるので、夫婦で意見が分かれた際、自分が譲るという判断をすることができません。
正しいのはあくまでも自分であり、自分と異なる意見は間違っているというのがアスペルガーの人の頭の中なのです。
このように、常に自分が正しいと主張されてしまっては、夫婦で話し合うことや歩み寄ることが難しくなってしまうでしょう。
⑥相手に合わせることができない、思いやりに欠けるから
自分の意見が正しいと思っているアスペルガーの人は、相手に合わせたり相手を思いやったりすることがなかなかできません。むしろ、相手が自分に合わせるべきだと思い込んでいる一面さえあります。
夫婦は、お互いに思いやることができないと結婚生活を続けていくことがただでさえ難しいでしょう。思いやりに欠けるパートナーの行動が重なり、離婚を考えるのも無理はありません。
⑦感情や行動のコントロールが苦手だから
アスペルガーの人は、自分の感情の変化やどのような行動をとるかをコントロールすることが苦手な傾向にあります。そのため、一度怒りやイライラの感情がわくとその感情をコントロールできず、パートナーに感情をぶつけてしまうことがあります。
⑧自分の決めたルールを崩すことに極度の抵抗感があるから
アスペルガーの人は行動に柔軟性を持たせることが苦手なので、自分の決めたルール通りに動きたい傾向があります。予期せぬ事態が発生し、自分のルールとは違う行動を取らなければいけなくなったとき、露骨に不機嫌になる等の一面があります。
2、アスペルガーを理由に離婚できる?
以上のように、アスペルガーの人と結婚生活を続けることはかなりの根気が必要となります。
アスペルガーの人との結婚生活に限界を感じ離婚を考える際、アスペルガーを理由に離婚することはできるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
(1)離婚の種類
離婚には、次の3種類があります。
①協議離婚
1つ目は協議離婚です。
協議離婚は夫婦の話し合いにより離婚を成立させるものなので、双方が納得し離婚届を提出できれば離婚成立となります。
②調停離婚
離婚について話し合いではまとまらなかった場合、調停手続きに進むことになります。
日本では調停前置主義が採用されているので、裁判の前に調停をはさむことになっています。
法律で定められた離婚事由がなかったとしても、調停員をまじえた話し合いを進め離婚の話がまとまれば離婚成立となるのです。
③裁判離婚
調停でも離婚の話がまとまらなかった場合、裁判に進むことになります。
裁判離婚の場合は協議離婚や調停離婚とは異なり、法律で定められた離婚事由が存在しなければ離婚が成立しません。
多くのケースで問題になるのは、「婚姻を継続しがたい重大な事由」の該当性です。
(2)「婚姻を継続しがたい重大な事由」の該当性
アスペルガーというだけでは、通常は「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当しません。
結婚生活の継続が不可能に近いと思えるほどアスペルガーの配偶者に悩まされていても、アスペルガーというだけでは同事由には該当しないのが現実です。
アスペルガーの配偶者と裁判離婚で離婚するには、アスペルガー以外の事情を組み合わせ総合考慮したうえで「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当することを主張していく必要があります。
3、アスペルガーの配偶者と離婚で意識する3つのポイント
アスペルガーの配偶者と離婚しようと考えている人は、離婚してよかったと自分で納得するために以下の3点を確認していきましょう。
(1)離婚するのはベストな選択なのかをよく考える
まず、離婚するのがベストな選択なのかをよく考えましょう。
相手がアスペルガーであったとしても、結婚生活を続ける方が幸せを感じられる人もいます。離婚するのがベストな選択かは人によって異なりますので、周りの人の意見よりも自分はどう思っているのかをじっくり考えていきましょう。
(2)工夫しながらの共同生活はできないかを考える
相手がアスペルガーだと、結婚生活を続けていく上でストレスを感じる部分があるでしょう。
ですが、一度は結婚した結婚相手ですから、いきなり離婚を考えるのではなく工夫しながらの共同生活を考えてみるのも1つの選択肢です。
離婚してよかったと自分で納得するためには、離婚の決断を急がないことも大切ですので、日々の生活の中で工夫できる点を探していきましょう。
(3)離婚後も問題が発生する可能性を考える
アスペルガーの配偶者と離婚すれば全て解決するかというと、そういうわけではありません。
無事に離婚したと思えば、相手が離婚を受け入れてくれなかったり、新しい家に押しかけてきて「戻ってきて欲しい」と言ってきたりするケースもあります。
また、離婚の際に子供の養育費を取り決めたとしても、養育費を支払ってくれず生活に困窮する可能性もあります。
アスペルガーの配偶者と離婚する場合、離婚後も問題が発生する可能性を考えてから離婚の決断を下しましょう。
4、アスペルガーの配偶者と離婚を考えるときの注意点
アスペルガーの配偶者と離婚の話を進める際は、以下の点に注意しましょう。
(1)話がコロコロ変わるので話し合いが進まない
アスペルガーの人と離婚の話を真剣に進めたいと思っても、アスペルガーの人は相手のペースに合わせて話を進めることができません。
すぐに別の話題に切り替えたり、言っていることがコロコロ変わったりするなど、なかなか話し合いが進まない可能性があります。
(2)自分の希望が通らないと暴言や暴力に発展することがある
アスペルガーの人は、自分の感情や行動をうまくコントロールできないことがあるので、離婚の話を受け入れることができない可能性があります。
自分の希望が通らずに離婚の話が進んでしまうと、暴言や暴力に発展することがあるので注意が必要です。
(3)アスペルガーのみでは離婚理由にならない可能性が高い
上述のとおり、配偶者がアスペルガーというだけでは離婚理由にならない可能性が高いです。
相手が離婚に納得してくれず裁判離婚に進む可能性がある場合は、アスペルガー以外の離婚事由がないと、離婚を成立させることは難しいでしょう。
(4)別居を視野に入れるべき場合がある
アスペルガーというだけでは離婚理由にならない場合、別居も視野に入れた方が良いケースがあります。
アスペルガーだけでは離婚事由にならなくても、何年も夫婦で別居していれば、その別居期間が離婚事由に考慮され離婚が成立する場合があります。
(5)離婚時に取り決めた約束を守ってもらえないことがある
通常、離婚する際は財産分与や養育費などの金銭面や、子供の面会交流などについて取り決めを行います。
取り決めたことについては、約束どおり守ってもらえるかというと、残念ながらこの取り決めを守ってもらえないケースが少なくありません。
特に、アスペルガーの人の場合、自分の希望に沿わないことについては全く関心を示さないこともあります。
離婚時に取り決めた約束を守ってもらえない可能性については、離婚前から覚悟しておく必要があります。
(6)離婚を受け入れてくれない可能性がある
形式上離婚が成立したとしても、アスペルガーの人の場合、離婚したという現実を受け入れてくれない可能性があります。
離婚が成立したにもかかわらず、「早く帰ってきて」等と言ってくることもあるでしょう。
5、アスペルガーの配偶者との離婚は弁護士に相談を
アスペルガーの配偶者との離婚を考えている人は、相手に離婚の話を切り出す前に、弁護士に相談をするようにしましょう。
弁護士に依頼をすることで、以下のようなメリットがあります。
(1)弁護士が間に入ることで話し合いが進みやすい
夫婦だけで話を進めようと思っても、お互い感情的になって話がなかなか進まないケースは少なくありません。
弁護士という第三者が間に入ることで、夫婦双方とも冷静になり話し合いが進みやすいというメリットがあります。
(2)配偶者と顔を合わせずに離婚の手続きを進められる
弁護士に依頼をすれば、弁護士があなたの代理人として離婚の話や裁判を進めてくれます。
アスペルガーの配偶者と顔を合わせずに、離婚の手続きを進めることができるでしょう。
配偶者と顔を合わせると思っただけで気分が憂鬱になってしまう人も、弁護士に依頼しておけば安心です。
(3)調停や裁判手続きを弁護士主導で行ってもらえる
調停や裁判手続きの準備を1人で行うのは、かなり負担が大きいことです。
準備しなければならない書類も多いですし、調停や裁判の方針決めは裁判手続に慣れている弁護士主導で行ってもらった方が安心でしょう。
まとめ
アスペルガーの人との結婚生活は、一筋縄ではいかないことが多いでしょう。
相手のことを愛していても、結婚生活を継続するには相当な忍耐が必要です。
後悔せず「離婚してよかった」と納得できるように、離婚すべきかじっくり考え弁護士を含めた第三者にも相談をするようにしましょう。