禁錮とは、犯罪者を刑務所に収監する一種の刑罰です。
この記事では、禁錮の概要、懲役との違い、執行猶予の可能性について詳しく解説します。
1、禁錮とは
まずは、禁錮とはどのような刑罰なのかを解説します。
(1)刑務作業のない身体拘束刑
禁錮は自由刑のひとつで、身体を拘束される刑罰です。刑務所に収監されるものとイメージするとわかりやすいでしょう。
禁錮で特徴的なのは、後述する刑務作業が強制されない点です。禁錮で刑務所に入れられても、刑務作業にあたる義務はありません。
ひとことで言えば、ただ刑務所内に閉じ込められるだけの刑罰ともいえます。
(2)禁錮は最長で何年?
禁錮には、有期と無期の刑期が存在します。
有期の場合は、20年までとされています。ただし、複数の犯罪で裁かれる場合には最長30年になる可能性があります。
禁錮の最長は、無期です。ただし「無期禁錮」が規定されているのは、内乱罪など限られた犯罪のみであり、実際に刑事裁判で無期の禁錮が言渡されることはほとんどありません。
(3)拘留との違い
禁錮と同じ自由刑として「拘留」という刑罰も存在します。
刑務作業が科されない点では、禁錮と拘留は同様です。
禁錮と拘留の違いは、期間の長さにあります。禁錮は1月以上であるのに対して、拘留は30日未満です。期間が短い拘留の方が、禁錮よりも軽い刑罰とされています。
2、禁錮と懲役との違い
ニュースなどで刑罰としてよく耳にするのは「懲役」でしょう。禁錮と懲役にはどのような違いがあるのでしょうか。
(1)懲役とは
懲役も禁錮と同じ自由刑の一種ですが、懲役では刑務作業が強制される点が特徴です。
刑務作業とは、刑務所において科される労働のことをいいます。
具体的には、
- 生産作業(木工・金属加工など)
- 社会貢献作業
- 職業訓練
- 自営作業(炊事・洗濯など)
といった作業があります。
禁錮では刑務作業が強制されず、この点が懲役との大きな違いです。
(2)禁錮と懲役はどちらが重い?
法律上は、刑務作業を科される懲役の方が、禁錮よりも重い刑罰だと規定されています。
ただし、
- 無期禁錮と有期懲役では、無期禁錮の方が重い
- 有期禁錮の上限が有期懲役の上限の2倍を超えるときは、有期禁錮の方が重い
という例外もあります。
(3)禁錮と懲役を一本化した「拘禁刑」とは
禁錮と懲役は従来区別されてきましたが、現在では両者を一本化した「拘禁刑」が導入されることが決まっています。
禁錮では刑務作業は強制されていないものの、多くの受刑者が自ら希望して「請願作業」として刑務作業を行っているのが実態です。そのため、禁錮と懲役を区別する意義が薄れてしまいました。
他方で懲役においては、刑務作業に時間をとられてしまい、受刑者の更生教育にあてる時間を十分に確保できないとの問題が指摘されています。
こうした背景から、禁錮・懲役という区分にとらわれず、受刑者の特性に応じて必要な処遇をすべきとの考えが生じました。
その結果、両者を一本化して「拘禁刑」を創設すべきとの結論に至り、2022年6月13日に拘禁刑を創設する改正刑法が成立して、2025年には施行される見込みとなっています。
3、禁錮の受刑生活はきつい?
もし禁錮の判決を受け収監されることになったら、どのような生活が待っているのでしょうか?
(1)禁錮の受刑生活の模様
禁錮の実刑判決が下されると、基本的には刑務所で生活しなければなりません。
刑務所では規則正しい生活を送りますが、禁錮の場合には刑務作業が科されないため、日中は時間的余裕があります。
とはいえ、運動の時間を除いて自由に動き回れず、部屋の中で過ごさなければなりません。
しかも監視されていて勝手にくつろげるわけではなく、やることがないというのが実情のようです。
(2)多くの禁錮刑受刑者は自ら刑務作業に従事している
禁錮であっても自ら希望して請願作業として刑務作業に従事することは可能です。
実際には、禁錮で収監されている受刑者のうち8割程度が自ら希望して刑務作業を行っています。
「部屋の中で何もできない方が、刑務作業よりも苦痛だ」と感じる人が多いのがその理由です。
禁錮で刑務所に入っても自ら希望して刑務作業をしている受刑者が多いため、事実上禁錮と懲役とは大差がないともいえるでしょう。
結論として、禁錮の受刑生活は懲役の場合とほぼ同様にきついといっても間違いではありません。
4、禁錮はどのような犯罪に適用される?
では、禁錮はどんな犯罪で科される可能性があるのでしょうか?
禁錮が定められている犯罪の種類や適用されやすいケースを解説します。
(1)禁錮が定められている主な犯罪
法律上、禁錮を科せられる可能性がある主な犯罪は以下のとおりです。
罪名 | 条文 | 法定刑 |
内乱(首謀者) | 刑法77条1項1号 | 死刑、無期禁錮 |
公務執行妨害 | 刑法95条1項 | 3年以下の懲役・禁錮、50万円以下の罰金 |
自殺関与・同意殺人 | 刑法202条 | 6月以上7年以下の懲役・禁錮 |
業務上過失致死傷等 | 刑法211条 | 5年以下の懲役・禁錮、100万円以下の罰金 |
名誉毀損 | 刑法230条1項 | 3年以下の懲役・禁錮、50万円以下の罰金 |
過失運転致死傷 | 自動車運転処罰法5条 | 7年以下の懲役・禁錮、100万円以下の罰金 |
他にも、公職選挙法、政治資金規制法といった政治関係の犯罪などで禁錮が定められています。
(2)禁錮が適用されやすいケース
一般的に、政治犯や過失犯で禁錮が定められているケースが多いです。
もともと禁錮は「道徳的に非難されるべきではない動機に基づく犯罪については、通常の犯罪者とは異なった処遇をすべきである」との考えから存在しているため、政治犯では禁錮しか定められていない場合もあります。
交通事故などの過失犯についても「不注意で罪を犯してしまったに過ぎない人の刑罰は軽くすべき」との配慮から禁錮が規定されています。
もっとも、上の表を見るとわかるように、禁錮が定められていても、懲役や罰金といった他の刑罰も選択可能な犯罪が多いです。
刑務所での身体拘束が妥当と考えられるものの、懲役を科すほどではない場合に禁錮が選択されます。
また、そもそも刑務所に入れるほどではないと判断される場合には、罰金が科せられます。
(3)懲役が適用されやすいケース
懲役は、多くの犯罪で適用されます。
殺人、傷害、窃盗、強盗、詐欺、放火などの犯罪では懲役が規定される一方で禁錮が規定されていませんので、禁錮になる可能性はありません。
これらの犯罪は、道徳的により強く非難されるべきであると考えられているためです。
特に懲役が科されやすいのは犯行が重大であるケースです。
禁錮や罰金が併せて規定されている犯罪でも、より重く処罰すべきと判断されると懲役が選択されます。
交通事故で過失運転致死傷罪に該当するケースでも、脇見運転などで過失の程度が大きく、死亡事故などの重大な結果が生じた場合には禁錮ではなく懲役が選択される可能性があります。
5、禁錮にも執行猶予は付く?
ここまでお読みになって「禁錮だと必ず刑務所に入る」とお考えになったかもしれません。
しかし、実際には「執行猶予」が付けば、刑務所に入らずにすみます。
執行猶予の意味や付きやすいケースについて解説します。
(1)禁錮3年以下なら付く可能性がある
3年以下の禁錮であれば、執行猶予が付く可能性があります。
執行猶予とは、有罪判決を受けてもただちに刑が執行されず、その後、罪を犯さないまま一定期間を経過すれば刑の言渡しの効力が失われるとする制度です。
たとえば「禁錮3年、執行猶予5年」の判決であれば、執行猶予期間の5年を何事もなく過ごせば、禁錮3年の効力は消滅し、刑務所に収監されずにすみます。
ただし、執行猶予が付く可能性があるのは、宣告される刑期が3年以下のケースに限られます。
重大な罪を犯して「禁錮5年」といった重い判決が下される場合には、執行猶予はつきません。
また、「猶予期間は一時的に免れるだけで、期間が経過した後に刑を受けなければならない」と思っている方もいますが、正しい理解ではありません。
執行猶予は、期間中に新たに罪を犯すなどしなければ刑の執行そのものを免れるという制度です。
ただし、執行猶予期間中に新たな罪を犯すと、原則として執行猶予の言渡しが取り消され、実際に禁錮を受けなければなりません。
その場合には新たな犯罪に対する刑罰も併せて受けることになりますので、相当長期間、刑務所に収容される可能性もあることに注意が必要です。
(2)執行猶予が付きやすいケース
執行猶予を付けるか否かを判断するのは裁判官です。
裁判官は様々な要素を総合的に判断して、刑務所に入れずに更生を図るべきかを判断しています。
たとえば
- 犯罪の重大性
- 被害者の処罰感情
- 示談の有無
- 身元引受人の有無
- 反省の態度
などが判断材料になります。
したがって、
- 被害が軽い
- 被害者との示談がすんでいる
- 身元引受人がいる
- 十分反省している
といったケースでは執行猶予が付きやすいといえます。
(3)執行猶予の可能性を高める方法
執行猶予の可能性を高めるには、上に挙げた要素を少しでも多く満たして、裁判官に「すぐに刑務所に入れる必要はない」と思わせることが重要です。
起きてしまった被害そのものを後から変更することは不可能ですが、以下の方法で執行猶予の可能性を高めることは可能です。
- 被害者との示談交渉を進めて許しを得る
- 親族などの身元引受人を確保して、社会で再スタートを切れる環境にあることを示す
- 反省の態度を法廷で示す
- 弁護士会や慈善団体に贖罪寄付をする
6、罪に問われて刑事事件になりそうなときは弁護士に相談を
刑事事件では、事件発生後すぐに弁護士に相談してください。
特に被害者のいる犯罪の場合には、示談が重要となります。示談を加害者やそのご家族が自力で進めるのは困難です。交渉のプロである弁護士にお任せください。
事件後すぐに依頼すれば、不起訴処分を獲得し、そもそも裁判にならずにすむ可能性も上がります。
もし裁判になったとしても、実刑を執行猶予にする、懲役や禁錮ではなく罰金にするといった形で言渡される処分を軽くすることが、早い社会復帰につながります。
自分に有利な事情を、弁護士を通じて適切に主張しましょう。
少しでも軽い処分になるようにするには、刑事事件に強い弁護士に相談して、早くから活動してもらうことが重要です。
まとめ
本記事では、禁錮について、意味や懲役との違い、受刑生活などについて解説してきました。
禁錮は懲役よりは軽い刑罰とされますが、刑務所に収監されるため非常に重い処罰といえます。
刑務所に収監されれば、今後の人生に大きな影響が出ることは間違いありません。
早く社会復帰して新たなスタートを切るためにも、事件を起こしてしまったらすぐに弁護士にご相談ください。