ADRとは、紛争解決のための制度です。
しかし、ADRは、どんなときに、どうやって使うのか。
紛争解決の手段としてまず思い浮かべるのは裁判かもしれませんが、裁判との違いは何かなど、気になる点がたくさんあるのではないでしょうか。
そこで、この記事では、最近増えているADRという紛争解決手続きについて、
- そもそもADRとはどんな手続きなのか?
- なぜ最近ADRが増えているのか
- ADRで紛争・トラブルを解決することのメリット
- ADRで紛争を解決すると良い紛争の具体例
について解説します。
実は、実際に起きてしまった紛争の多くは、裁判以外の方法で解決されています。
そもそも、裁判は万能な手続きというわけでもありません。裁判で勝ったけど満足できなかったという紛争当事者も少なくないのです。
いま抱えている紛争をできるだけ納得して解決したいと思っている方は、是非参考にしてみてください。
目次
1、ADRとは?~「裁判ではない」紛争の解決手続き
ADRとは、紛争解決のための裁判以外の手続きのことです。Alernative Dispute Resolution のそれぞれの頭文字をとった略語です。直訳すれば「代替的な紛争解決手続き」となりますが、「裁判に代わる」という意味合いで用いられます。
(1)ADRにはどんな種類があるの?
ADRという言葉には、かなりの幅があります。
専門家によっても、それぞれの文脈でADRという言葉の用い方には違いがあります。
①裁判所のADR
ADRという言葉を最も広く捉えれば、「判決」ではない形式で紛争を解決する手続きと把握することができます。
その場合には、裁判所の手続きである「民事調停」、「家事調停」などもADRのひとつということになります。
②行政機関のADR
紛争解決手続きの実施主体が裁判所ではないものをADRであると定義すれば、裁判所以外の行政機関が実施している紛争解決手続きもADRに含まれます。
行政機関が設置している紛争解決手続きとしては、次のような制度などがあります。
- 国民生活センター
- 消費生活センター
- 筆界特定手続き(法務局)
- 労働委員会(国・地方公共団体)
- 建築工事紛争審査会
- 公害等調整委員会
- 原子力損害賠償紛争解決センター
③民間団体のADR
ここ数年、上記①②以外にも、判決でも裁判所でも公的機関でもない民間の組織・団体が紛争解決手続きを設置する動きが拡がっています。
近年では、一般的にADRという言葉を用いるときには、「民間団体が設置している紛争解決機関」を指していることが一般的です。
たとえば、弁護士会・司法書士会・土地家屋調査士会・社会保険労務士会などのいわゆる士業と呼ばれる団体は、それぞれの専門領域を対象とする紛争のADRを設置しています。
また、交通事故や金融商品をめぐる紛争などについても、業界団体などがADRを設置しています(詳しくは、「3」で紹介します)。
(2)最近ADRが増えているのはなぜ?
かつては、民間団体が紛争解決のための手続きを設置することは非常に珍しいことでした。
そのため、法律制度に必ずしも詳しくない一般の人にとっては、「民間団体が紛争解決をしても大丈夫なのだろうか?」と不安に感じる人もいるかもしれません。
①ADRそれ自体は新しい制度ではない
実は、裁判所(や行政機関)以外の民間団体が紛争解決のための手続きを設置することそれ自体は、国際的にみても珍しいことではありません。
たとえば、国の違う商人(企業)同士の取引については、世界的にも古くからADRが活用されてきています。
日本の企業とアメリカの企業との契約でトラブルが発生したときには、日本法とアメリカ法(州法)のいずれを適用するか、日本(アメリカ)で言い渡された判決をそのままアメリカ(日本)で執行できるかといった問題が生じるため、裁判所の手続きで紛争を解決することは、必ずしも適切とはいえない場合が多いからです。
②裁判所の対応にも限界がある
また、アメリカでは、訴訟件数が飛躍的に増加したことにより、裁判所の機能がパンクしてしまい、それをカバーする目的で、ADRの活用が求められています。
日本でも、訴訟件数は増加の傾向にあり、他方で、裁判官の数はさほど増えていませんので、将来的な観点でも、「民間でできることは民間で」という流れは、むしろ望ましいことなのかもしれません。
③ADR法の制定など
近年になって、民間のADRが一気に増えた背景には、「ADR法(裁判外紛争解決手続きの利用の促進に関する法律)」が施行されたことが挙げられます。
ADR法に基づいて「法務大臣の認証」を受けたADR機関には、一定の法的効果が与えられることになっているのです。2019年5月末日現在では、全国に150以上の認証ADR機関があります。
【参考】かいけつサポート(認証ADR機関)のウェブサイト(法務省)
また、最近では、貸金業法、金融商品取引法などの、「いわゆる業法(営業許認可などに直接関係する法律)」において、それぞれの取引領域で生じた紛争を解決するための「指定紛争解決機関」を設置することが求められていることも、民間ADRが増えた大きな要因のひとつとなっています。
つまり、裁判所(や公的機関)以外の民間団体が設置している紛争解決手続きであっても、「法律上の根拠が全くないわけではない」ということです。
2、ADRで紛争を解決するメリットとデメリット
ADRという制度を知っても、裁判と比べて何が優れていて、何が劣っているのかわからないという人がほとんどではないかと思います。
そこで、裁判と比較した場合のADRでトラブルを解決するメリット、デメリットについて確認しておきたいと思います。
(1)ADRでトラブルを解決するメリット
ADRでトラブルを解決するメリットとしては、次の点を挙げることができます。
- それぞれの分野の専門家の知識・経験を活かしてもらえる
- 裁判に比べて費用が安くなることも ・裁判よりも早く紛争が解決することが多い
- 「判決」よりも納得できる解決となる可能性が高い
①それぞれの分野の専門家の知識・経験を活かしてもらえる
ADRを利用するメリットのひとつとしては、それぞれの紛争類型に特化した専門知識を解決に活かしやすくなることが挙げられます。
たとえば、医療トラブル(医療過誤・ミス・事故)をめぐる紛争解決に、医療者の知見を反映させることは、紛争の客観的・公平な解決に役立つことが多いといえます。裁判官は、あくまでも法律の専門家であって、医療の専門家ではないからです。
②裁判に比べて費用が安くなることも
ADRを利用する2つ目のメリットは、裁判で紛争を解決するよりも費用が安くなる場合が多いことが挙げられます。
行政のADRは、利用料は無料か、訴訟申立手数料よりも安い手数料で利用できるものがほとんどです。
民間のADRでは、それなりの利用料金がかかるものもありますが、そのほとんどは、弁護士を代理人につけずに利用されることを前提に手続きが作られています。
弁護士を付けずに紛争を解決できれば、費用はかなり節約できる場合が多いでしょう。
③裁判よりも早く紛争が解決することが多い
3つめのメリットは、訴訟よりも早く紛争が解決する可能性が高いことです。
かつてに比べれば訴訟はかなり早く終わるようになりましたが、それでも一般の人の感覚では決して早いとはいえません。
民事訴訟で紛争を解決しようとすればかなりの時間がかかります。
一般的な事件では、訴訟提起から第一審判決言い渡しまでは1年程度かかるからです。
仮に、控訴審までいけば、さらに半年以上かかるので、提訴前の準備も含めれば2年以上かかることも珍しくありません。
また、専門知識が必要な訴訟は、一般的な訴訟(お金の貸し借りなど)よりも審理期間が長くなる傾向にあります。
他方で、ADRは半年以内の解決を目指しているものがほとんどです。
たとえば、土地境界の争いについては、境界確定訴訟を提起すれば、控訴審までで3年程度はかかるのが相場といわれますが、法務局の筆界特定や、土地家屋調査士会のADRセンターを利用すれば、半年~1年程度で紛争を解決できる可能性があります。
④ADRは非公開の手続きであること
わが国の裁判は、「公開法廷」で開催されるのが大原則です。
民事裁判であっても「口頭弁論期日」、「判決言渡期日」は必ず公開の法廷で開かれる必要があります。
したがって、訴訟を提起すれば、法的なトラブルを抱えていることを他人に知られてしまう可能性があることは否定できません。
確率としてはかなり低いですが、最近では法廷傍聴を趣味としている人や、法廷傍聴会などが催されることも珍しくないので、自分の事件の審理に知り合いが傍聴に来たということが全くないとは言い切れません。
ADR手続きは、完全非公開で行われる手続きがほとんどですから、プライバシーの保護という面では明らかに裁判よりも優れています。
⑤「判決」よりも納得できる解決となる可能性が高い
裁判と比較したときのADRのメリットの4つ目は、紛争の当事者自身が紛争解決にきちんと関与できるので、納得できる解決になりやすいことが挙げられます。
裁判は、「判決」で言い渡された内容によって「紛争を解決したこと」にする仕組みともいえます。
判決による紛争解決では、どうしても「勝つか負けるか」という決着になってしまうので、思うような判決が得られなければ不満が残ってしまう可能性があります。
また、勝訴した場合であっても、「自分の言いたいことを伝えられなかった」、「わたしの思っていた理由とは異なる判決理由が示された」ということで、不満を感じる当事者は少なくありません。
そもそも、裁判手続きでは、紛争の本当の主役である当事者本人がきちんと自分の言い分を述べられる場があまりないのです。
当事者自身の声を届ける場としては、「本人尋問」がありますが、実務において本人尋問は、イエス、ノーで答える一問一答方式で行われるので、当事者本人が自由に意見や思いを述べることは不可能です。
他方で、ADRには、当事者本人が手続きにきちんと関与することを前提としているものが少なくありません。
家族問題・近隣問題のように、「自分の言い分をきちんと相手に伝えたい」という紛争や、医療トラブルのように「なぜそうなったのかをきちんと説明してほしい」という紛争のように、勝ち負けよりも大切な論点がある紛争では、ADRの方がより納得できる結果を得られる可能性が高いといえます。
(2)ADRを利用するデメリット
制度・手続きには、万能なものはありません。
裁判にもデメリットがあるのと同じように、ADRにも裁判よりも劣る点(デメリット)があります。
①相手が話し合いに応じてくれない可能性がある
ADRのほとんどは、当事者間の任意の話し合いをADR機関が仲介する方法で行われます(調停・和解のあっせん)。
そのため、和解ができるかどうかだけではなく、「和解のための話し合いの席につくかどうか」も相手方の自由意思に委ねることになります。
特に、民間型のADRでは、自分はADRで話し合いをしたいと思っていても、相手方にその意思が全くなければ、ADRを利用できない場合があります(行政型のADRは相手方を手続きに応じさせる何かしらの担保措置があるのが一般的です)。
②強制執行できない(執行力がない)
民間型のADRは、そこで決まった和解をすぐに強制執行できない限界があります。
そのため、「和解できても相手が履行してくれないなら意味がない」と不安に感じる人もいるかもしれません。
しかし、民間のADRに執行力がないことは、次の理由から本質的なデメリットではないともいえます。
- 当事者の双方が納得した上でした和解であれば、履行の可能性は低くない
- どうしても執行力(履行確保の担保)が必要なケースでは、執行証書・即決和解といった仕組みを活用することで対応できる
③相手と巧く交渉できない
ADRの多くは、裁判所型・行政型・民間型を問わず、専門家代理人を用いずに紛争解決を図るための仕組みとして位置づけることができます。
たとえば、弁護士や司法書士に依頼する費用がないときに特定調停を利用することを例にするとイメージしやすいでしょう。
本人同士で交渉することについては、「自分1人で上手に交渉できるだろうか」、「相手にうまく言いくるめられないだろうか」と不安に感じる人も多いと思います。
しかし、この点についても、話し合いを仲介してくれる調停員(あっせん人、仲裁人)が、不公平な話し合いにならないように、丁寧に話し合いをリードしてくれるので心配ありません。
どうしても1人では不安という場合には、弁護士に代理人をお願いしてADRを利用することも不可能ではありません。
弁護士は、そもそも交渉のプロなのですから、訴訟以外の場面でも上手に活用すべきともいえます。
3、ADRの利用が勧められる4つのトラブル
上記で解説したADRのメリット・デメリットの理解に基づいて、特にADRで解決することをオススメできる4つのトラブルについて紹介していきます。
(1)近所とのトラブル(相隣関係)
近所の人との間にトラブルを抱えたときには、どうやって解決しようか頭を悩ませることが少なくありません。
対応を間違えれば、近隣関係がさらにこじれ、その他の人も巻き込んだ大きな問題に発展してしまうことも少なくないからです。
特に、「あの人は裁判まで起こしてきた」といったことを言い広められることで、ご近所づきあいが難しくなることもあるかもしれません。
ADRであれば、少なくとも「裁判を起こされた」というような感情的な反発を受けることを回避できる可能性は高いといえるでしょう。
相隣関係を専門に取り扱っているADR機関であれば、事を荒立てずに相手方との話し合いをスタートさせるためのノウハウを蓄積しているところもあるでしょう。
また、近隣関係の基本は、権利や義務ではなく、「お互いが気持ちよく暮らしていくために、どうやってお互い(の価値観)を尊重していくか」にあります。
そうだとすれば、判決のように一方的な結論で解決したことにするよりも、自分たちの創意工夫でより現実的な選択肢を見いだした方が、将来的にも望ましい場合が多いといえるでしょう。
(2)家族問題
相続や離婚といった家族問題も、近隣関係と同様に、「誰かに決められる」よりも「自分たちで答えを見いだしていく」ことが基本といえます。
特に家族の問題は、法律の世界でも、「自分たちの決定」を尊重することになっています。
たとえば、法定相続分は、当事者間でそれとは異なる相続分を定めることが可能ですし、離婚も協議離婚であれば、どんな理由であっても離婚することが認められています。
また、相続や離婚などの紛争は、裁判所を用いる場合でも必ず家庭裁判所の調停を経てからでないと裁判を行えないことになっています(調停前置主義)。
法務大臣の認証を受けたADR機関を利用したときには、調停前置をしたことにもなるので、万が一ADRでの話し合いがうまくいかなかった場合でも家庭裁判所で再度調停する必要はありません。
(3)専門性の高い紛争(医療問題など)
民間ADRには、裁判所では必ずしも的確にケアできない専門的な知識を必要とする紛争を解決するために作られたものも少なくありません。
上でも説明したように、裁判官はあくまでも法律の専門家であって、個別の紛争の背景にある専門的な問題の専門家ではありません(東京地裁のような大規模庁では、専門紛争だけを取り扱う専門部がありますが、地方の裁判所ではそこまで対応しきれていません)。
ADR機関の設置が進んでいる専門紛争としては、次の4つを挙げることができます。
- 医療に関する紛争
- 金融商品に関する紛争
- 土地の境界に関する紛争
- 交通事故の損害賠償をめぐるトラブル
①医療に関する紛争(医療ミス・介護ミスなど)
最近では、医療ミス・トラブルによる死亡事故などの報道を目にすることも少なくありません。
医療者の過失が原因で、ケガ・症状悪化・死亡といった損害が生じたときには、損害賠償を請求することができます。
これらの医療紛争では、被害者本人やその遺族には、「お金よりも真相究明や再発防止を徹底して欲しい」といったニーズがあることも珍しくありません。
以前放映されたテレビドラマ「白い巨塔」でも、医療ミスで夫を残した家族が「真相究明のため」に訴訟を提起したシーンが描かれています。
しかし、実際の裁判は、真相究明の場としては、必ずしも万能ではありません。
法律上の過失を証明することと、医学的な観点として何が原因であったのかを明らかにすることは必ずしも一致しないからです。
また、被害者・遺族の声を届けたいという思いは、裁判では果たせない場合の方が多いといえます。
被害者などの素朴な声は、法的な争点とかみ合わないことがほとんどだからです。
ADRであれば、裁判ではカバーしきれない当事者のニーズにもきちんとスポットをあててより丁寧な話し合いを進めることができます。
対外的な体裁を気にしなくて済むことから、非公開の場であれば医療機関も率直な意見交換などに応じてくれやすいともいえます。
医療紛争については、下記のADRが有名です。
②金融商品に関するトラブル
最近の金融商品には、リスクの高い商品、契約内容が複雑な商品が少なくありません。
実際にも、「そんな話は聞いていない」、「正しく理解しないまま商品を購入してしまった」といったトラブルが少なくないようです。
そこで、平成21年の「金融商品取引法改正」では、金融機関には金融商品を解決するための手続きを設置する義務が定められ、それによって設置されたものが金融ADRです。
金融ADRは、銀行、保険、証券といった業界団体ごとに設定されています。
また、利用は一部機関を除いて無料です。
金融ADRについては、下記のリンクなどを参考にしてください。
- NPO法人証券・金融商品あっせん相談センター
- 指定紛争解決機関一覧(金融庁ウェブサイト)
③土地の境界争い
土地の境界争いは、客観的な位置がわからないというだけでなく、土地の利用や日頃の生活状況といった背後事情が大きな原因となっている場合も少なくありません。
そのため、土地の境界を誰かに判定してもらっただけでは、相互に納得のいく解決とならない場合も少なくありません。
実際にも、境界争いが原因で殺人事件にまで発展したケースや、お隣を相手に裁判を起こしたことで地域から孤立してしまったというケースもあるようです。
また、裁判所にとっても、土地の境界を調査することは簡単な作業ではありません。
場合によっては、戦前の古い地図などを解読しなければ境界の位置を判定できない場合も多いからです。
土地の境界争いについては、境界に関する資料を管理している法務局の行政型ADR(筆界特定手続き)と、境界調査の専門家である土地家屋調査士会が設置している民間型ADRとがあります。
筆界特定手続きでは、民事訴訟よりも短期間で、境界(公法上の境界)の位置についての法務局の見解を示してもらうことができます。
土地家屋調査士会のADRでは、境界の位置だけでなく、背景事情も含めた柔軟な話し合いを行うことができるので、より納得のいく抜本的な解決を図ることが期待できます。
- 筆界特定制度(法務省ウェブサイト)
- 土地家屋調査士会ADRセンター(日本土地家屋調査士会連合会)
④交通事故の示談交渉
交通事故は、私たちの生活の中で最も身近なトラブルのひとつといえます。
交通事故の示談交渉がうまくいかなかった場合にも、訴訟ではなくADRによる解決を選ぶことができます。
交通事故の損害賠償交渉についてのADR機関としては、「交通事故紛争処理センター」が非常に有名です。
交通事故紛争処理センターは、無料で利用でき、損害保険会社はセンターの手続きで下された「和解あっせん」で示された内容に必ず従わなければならないことになっています。
他方で、被害者である利用者は、「和解あっせん」の内容に不満があるときには、別に裁判で損害賠償を求めることもできます。
(4)係争利益の低い紛争
生活上のトラブルの中には、訴訟をしたり弁護士に依頼すると費用倒れになる「金額の小さいトラブル」も少なくありません。
たとえば、自転車の交通事故であったり、敷金返還をめぐるトラブル、親しい人に貸したお金の問題などが例として挙げられるでしょう。
これらの場合にも、中立的な専門家に間に入ってもらうことで、問題の処理を円滑に進められるようになる場合があるでしょう。
司法書士会や行政書士会のADRでは、係争利益の小さいトラブルを取り扱うADRを設置しています。
- 司法書士会調停センター(日本司法書士会連合会ウェブサイト)
- 行政書士会ADRセンター(日本行政書士会連合会ウェブサイト)
4、どんな手続きで解決したらよいかわからないときには弁護士に相談してみましょう
法律の世界においても、自分たちの生活の中で起きた問題は、自分たちで解決するのが大原則です(私的自治の原則)。
法律はあくまでも、当事者だけでは決められないときの解決のあり方を示しているに過ぎないからです。
たとえば、民事訴訟が提起された場合であっても、実際には、ほとんどの事件において、裁判官は「和解による解決」を試みます。
実務の上では、判決は「和解できなかった場合」にやむなく言い渡されるものともいえるのです。
とはいえ、法律に詳しくない人にとっては、「わたしの紛争はどこで解決するのが一番良いのか」ということは、とても難しい問題です。
そんなときには、弁護士に相談することで、紛争の特徴や、自分が解決したいことの違いに応じて、最もふさわしい解決方法を提案してもらうことができます。
また、自分でADRをするのが難しいというときには、弁護士に手続きの代理を依頼することも可能です。
まとめ
トラブルを解決する手続きというと訴訟をすぐに思い浮かべがちですが、実際の紛争のほとんどは、任意の話し合いや泣き寝入りも含めて、訴訟以外の方法で解決されているものの方が圧倒的に多いといえます。
ADRは、「自分たちだけでトラブル解決する」場合と、「裁判所に決めてもらう」場合の中間的な位置づけにある紛争解決制度と理解すればわかりやすいかもしれません。
トラブルを抱えた当事者は、冷静に対応できない場合も少なくありません。
しかし、公平な立場の第三者に間に入ってもらうことで、冷静で建設的な話し合いが実現できる場合も少なくありません。
実際のトラブルの場面でも「本当は相手と直接話がしたい」、「私の言い分を聞いて欲しい」という場合は少なくないと思います。ADRはそういうケースで特に有効な紛争解決手続きということができます。