親子関係不存在確認の訴えをしたいー。
息子・娘が、実は自分の子供ではないのではないか。
そんな疑念が生じてしまったとき思いついたのが、「親子関係不存在確認の訴え」ではないでしょうか。
親子関係というのは、法律上、切ることができません。たとえ離婚をして子どもが相手の戸籍に入ったとしても、実子である以上相続関係は継続していきます。
そのような法律上の親子関係をも解消したい場合、その手段として用意されているのが「親子関係不存在確認の訴え」です。
今回は、
- 親子関係不存在確認の訴えとは?
- 似て非なる「嫡出否認」
- 実際の手続きの流れ
などについて、それぞれ詳しく解説していきます。
お子さまとの親子関係の解消を考えるみなさんにとって、この記事が今のモヤモヤとした気持ちを整理するためのお役に立てば幸いです。
目次
1、親子関係不存在確認の訴えについて知る前に|親子関係不存在確認とは?
(1)主に父子関係で活用される
親子関係の不存在を確認するー。
このような場面は、主に父子関係において生じます。
母子関係は分娩の事実で関係が明白である一方、父子関係はそうはいきません。
「本当に俺の子なのか?」などというドラマの場面を思い出していただければわかると思います。
もっとも、法律上、父子に限定されているということではありません。
代理出産など卵子提供者と分娩者が異なる場合や、分娩後の遺棄により分娩関係が明確でない場合などにおいて、母子においてもこの確認がなされる場面もあるでしょう。
(2)親子関係がないことを確認する場面とは〜その1
親子関係がないことを確認する場面は、「親子関係がある」家庭であるということです。
「親子関係がある」とは、次の3つです。
①婚姻中に妊娠して出産した-嫡出推定
婚姻中に妊娠して出産した場合は、当該夫婦の実子(嫡出子)と推定されます。
ちなみに、婚姻中に妊娠したかどうかは以下の要件で推定されることになっています。
- 婚姻から200日経過後に出生したこと
→ 婚姻継続している夫婦に対する推定です
- 婚姻の解消等から300日以内に出生したこと
→ 婚姻解消(離婚)している夫婦に対する推定です
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
引用:民法
②婚姻前に妊娠して婚姻中に出産した-推定されない嫡出子
「婚姻中に出産した」ということに着目し、この場合も夫婦の実子(嫡出子)と扱われます。
ただ、婚姻前に妊娠していますので、①の場合より男性にとっては父である確証は低い状態です。
このため、嫡出子としての推定はされないけれど嫡出子として扱う、という扱いになります。
③婚姻外で妊娠し婚姻外で出産、それを認知した
この場合も親子関係は認められます。
認知による親子関係は、もともと「意思」により成立した親子関係です。
そのため、認知の親子関係においては「親子関係不存在を確認したい」という場面は少ないでしょう。
(3)親子関係がないことを確認する場面とは〜その2
親子関係があるのだけれど、本当はないということを確認したい。
そのような場面の多くは、(2)の①か②です。
(2)①においては、婚姻中の妊娠で婚姻中の出産ではあるが、妻は違う男と不倫をしたことがわかっているという場面です。
(2)②においては、婚姻前に妻が違う男と付き合っていた、浮気をした、というような場面でしょう。
「嫡出子」についてはこちらの記事をご覧ください。
2、嫡出推定の場合に親子関係不存在の確認をするときは「嫡出否認」
「1」(2)①の場合を「嫡出推定」と呼びます。
嫡出推定のケースにおいて親子関係の不存在を確認する場合、その方法は「嫡出否認」(民法第777条)です。
第七百七十七条 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。
引用:民法
この条文からわかるように、嫡出否認をする場合、夫は、出生を知った時から1年以内に行動を起こさなければなりません。そして「夫」のみが申立人になれます。
なぜこんな短い期間なのか。
それは、子どもの身分を早期に安定されるという、子どもの保護を図る趣旨があるからです。
3、推定されない嫡出子の場合に親子関係不存在の確認をするときは「親子関係不存在確認の訴え」
「1」(2)②の場合を「推定されない嫡出子」と呼びます。
推定されない嫡出子のケースにおいて親子関係の不存在を確認する場合、その方法は「親子関係不存在確認の訴え」(家事事件における人事訴訟)です。
4、親子関係不存在確認の訴えと嫡出否認の違い
親子関係不存在確認の訴えと嫡出否認には、訴えを起こすことが可能な条件や申立人になることができる人、申立期限に次のような違いがあります。
| 親子関係不存在確認の訴え | 嫡出否認 |
条件 | 嫡出子と推定されない子供であること | 嫡出子と推定される子供であること |
申立人 | 誰でも可能 | 法律上の父親のみ |
申立期限 | なし | 子供が生まれたことを知ってから1年以内 |
特に、嫡出否認には「子供が生まれたことを知ってから1年以内」という申立期限が定められており、1年が経過すると法律上の父子関係が確定するため、注意しましょう。
5、婚姻中に妊娠して出産したケースだけど「1年」なんて超えているという場合
実際問題、婚姻中に妊娠し出産したのだけれど、民法第777条の「1年」なんて超えてしまっている、そんなケースが多いのではないでしょうか。
婚姻中に妊娠したからといって、相手が夫であるとは限らないのです。
そこで、客観的に「相手が夫であると言い切れない」ケースを「嫡出推定が及ばない」として、これも「推定されない嫡出子」と同様、親子関係不存在確認の訴えができるとされています。
(1)相手が夫であると言い切れないケースとは
婚姻中であっても、相手が夫であると言い切れないケースとはどのようなケースでしょうか。
それは、「夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情」があるケースです(最高裁判所平成26年7月17日第一小法廷判決・民集68巻6号547頁)。
具体的には次のような事情です。
- 事実上の離婚状態にあった
- 仕事などの事情で遠隔地に居住していた(行ったり来たりの関係にない)
(2)相手が夫でないと言い切れるケース-DNA鑑定
相手が夫であると言い切れないケースで足りるのであれば、相手が夫でないと言い切れるケースでは当然親子関係不存在確認の訴えが許されそうです。
相手が夫でないと言い切れるケースとは、DNA鑑定での高い確率で親子関係が否定されているケースでしょう。
DNA鑑定で親子関係が否定されている場合、親子関係不存在確認の訴えはできるのでしょうか。
実は、判例では、DNA鑑定の結果だけでは親子関係不存在確認の訴えはできないとされています(最高裁判所平成26年7月17日第一小法廷判決・民集68巻6号547頁)。
6、調停手続きの流れと必要な準備、知識
親子関係不存在確認の訴えは、まず調停という形で家庭裁判所に申し立てます(家事事件手続法第257条第1項「調停前置主義」)。
最初のステップである調停を申し立てるために必要な費用や、提出書類、一般的な流れをまとめてご紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。
(1)調停の申立ができる人
親子関係不存在確認の訴えは、法律上の父親・実の父親などの直接的な関係者に限らず、誰でも申し立てることができます。
たとえば莫大な財産を残して亡くなった男性の子供に、実の子ではない疑惑がある場合、相続をめぐる利害関係者が調停を申し立てることも可能です。
(2)申立先
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または調停を行う当事者同士がお互いに合意した家庭裁判所に申し立てを行います。
(3)費用
申し立てに必要な費用は次の通りです。
- 収入印紙1、200円分
- 各家庭裁判所が定める金額の郵便切手
- DNA鑑定など血縁関係を科学的に証明するための費用
(4)必要書類
実際に申し立てを行う際には、以下の申立書を家庭裁判所に提出します。
引用:裁判所
このほか、次のような添付書類を求められることもありますので、必要に応じて用意しましょう。
- 子の戸籍謄本
- 子との親子関係がないと考えられる親の戸籍謄本
- 利害関係者からの申し立ての場合、利害関係を証明する書類
(5)調停
すべての準備が整うと第1回目の調停が開かれ、調停委員を間に挟んで話し合いを行います。
1回ではまだ話し合いが不十分な場合、2回・3回と日を改めて調停を継続するケースもあります。
親子関係不存在確認の調停の場合、両者の合意だけでは結論を出すことができず、血縁関係の有無を証明する科学的な根拠が必要です。
この調査結果と両者の合意がすべて揃って、はじめて調停成立となり、裁判所はすみやかにそのとおりの審判を出します。
身分関係にかかわることであり、最終的には家庭裁判所が判断する必要があるためです。
(6)訴訟
調停が不成立となった場合は、次のステップとなる裁判に進んで決着をつけます。
親子関係不存在確認の訴訟では、子供が嫡出子として推定されない、あるいは推定が及ばないことの証明が重要なポイントになりますので、どのような立証を行うのかじっくり戦略を練りましょう。
7、親子関係不存在確認の訴えで守らなければならないものとは
親子関係不存在確認の訴えは、嫡出否認と異なり、夫以外の誰でも「確認の利益」があれば誰でも申し立てをすることができます。
実際、夫以外であっても、夫の相続における夫の相続人、子どもからの訴えもなされています。
申し立てをする側は、何らかの利益(メリット)を目的として申し立てるのですが、親子の関係がないことを確認するというこの制度は大変重い意味を持つことを理解し、その上で活用されることをお勧めします。
(1)子の利益
裁判では、「子の利益」を第一に考えます。
たとえば、相続の場面において、弟(妹)は本当の子どもじゃないと、兄(姉)が、両親と弟(妹)との親子関係不存在確認の訴えを提起することは可能です。
ただ、この場面において、たとえば両親がすでに他界している場合では、もし親子関係がないことが確認されたとすれば、弟(妹)は、もう誰かの子どもでいるという立場を失うことになります。
そのような状況下における弟(妹)の精神的苦痛や経済的不利益を、裁判では第一に考えるのです。
(2)子から訴えた場合も同様
子の利益を第一に考えられているのであれば、子から親子関係不存在確認を求めるケースでは権利を放棄する自由があるとして、そこまで保護しなくても大丈夫そうです。
しかし、原則的にはそうではありません。
子が訴えている状況などから、裁判ではやはり子の利益を第一に考えられています。
8、一人で悩まず、親子関係不存在確認の訴えに関する悩みは弁護士に相談してみよう
ここまで見てきたことからも分かるように、親子関係不存在確認の訴えで父子関係の解消を目指すためには、法律の専門的な知識が色々と必要になります。
一方、精神面でも「今まで我が子と信じて疑ったこともなかった息子・娘が実は他人の子供だった」という事実は、自分の人生を揺るがす大きなショックを受ける出来事でしょう。
子供の実の父親や妻に対して何かしらの制裁を加えたくなる気持ちが湧き上がる一方で、これまで家族として共に過ごしてきた時間を振り返ると、子供との法的関係を失うことに、どうしようもない寂しさを感じてしまう方も少なくないかと思います。
親子関係不存在の問題に直面する多くの場合は、親子関係自体ではなく、夫婦関係に問題が生じています。
この先自分が一体どうするべきなのか、悩んでもなかなか結論が出ないときには、弁護士に相談するのもひとつの方法です。実際に親子関係不存在確認の訴えを起こすにせよ、別の解決策を探るにせよ、弁護士は法的な観点からみなさんにとって最も適切なアドバイスを行ってくれます。
夫婦関係、また親子関係の問題で悩んだときには、弁護士に相談して実務面でも精神面でも有力なサポートを得ましょう。
まとめ
親子関係不存在確認の訴えは、法律的な親子関係を解消するために用意されている手段の1つです。
同じ親子関係の解消でも、子供が嫡出子として推定される場合は嫡出否認の手続きになり、嫡出否認には子供の出生を知ってから1年以内という申立期限がありますので、注意しましょう。
一方、親子関係不存在確認の訴えには特にそのような期限はなく、何かしらの利害関係者であれば誰でも申し立てが可能なところも特徴のひとつです。
様々な制度要件をご説明しましたが、一番大切なのは、これからの家族関係をどうしていきたいかです。
家族問題に強い弁護士にぜひ相談し、心の整理をしてみてください。
どうぞ一人で悩まず、共に考えていけたらと思います。