アスベストによる健康被害を確かめるための6つのポイント

アスベスト,健康被害

アスベストによる健康被害が疑われるものの、どのように対処すればよいかわからない……。

このような悩みを抱えている方もいらっしゃると思います。

また、親族がアスベストによる健康被害で亡くなったが、遺族から賠償請求ができるのかわからずに悩んでいるという方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、

  • アスベストによる健康被害の具体例と受診機関
  • 石綿健康被害救済制度

以上について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
他にも、石綿健康被害救済制度以外の補償制度についても紹介します。
この記事が、アスベストの健康被害で悩んでいる方々の参考になれば幸いです。

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1、アスベストは健康被害を引き起こす

アスベストは健康被害を引き起こす

(1)アスベストとは

アスベストとは、石綿(いしわた、せきめん)とも呼ばれ、天然の繊維状ケイ酸塩鉱物のことを指します。
アスベストの繊維は極めて細かく、所定の措置を行わなければ人が吸入してしまう恐れがあります。
以前はビルなどの建築物の工事において、保温、断熱、耐火、防音等の目的でアスベストを吹き付ける作業が行われていました。
しかし、アスベストの吹付作業は、昭和50年に原則として禁止されました。
その後も、アスベストは以下のようなものに使用されていましたが、現在日本では新たな製品の製造・使用が禁止されています(平成18年9月1日以降全面禁止)。

  • スレート材
  • ブレーキライニング
  • ブレーキパッド
  • 防音材
  • 断熱材
  • 保温剤

アスベストは、目の前に存在しているだけでは問題にはなりません。
問題となるのは、飛散したアスベストを吸い込むことです。
そのため、労働安全衛生法、大気汚染防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などで、アスベストの飛散防止が規定されています。

(2)アスベストが健康被害を引き起こすメカニズム

アスベストで健康被害が発生するメカニズムについて、説明します。
アスベストの繊維は、石綿肺(じん肺)、中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚などの原因となります。
アスベストによる健康被害は、アスベストを吸ってから長期間経過後に発症します。
例えば、中皮腫は約40年~50年、肺がんは約30年~40年という長い潜伏期間の後に発病することが多いです。
仕事でアスベストを現在扱っている方やかつて扱っていた方の作業方法にもよりますが、アスベストを吸入する機会がある(あった)以上、定期的に健康診断を受けるべきでしょう。
現在仕事でアスベストを扱っている労働者の健康診断については、事業主に実施義務が課せられています(石綿障害予防規則40条)。

2、アスベストによる健康被害の具体例と受診機関

アスベストによる健康被害の具体例と受診機関

それでは、アスベストが引き起こす健康被害の症状とは、どのようなものでしょうか。
具体的な症状や診断方法について、説明します。

(1)アスベストが原因となる疾病

①石綿(アスベスト)肺

石綿(アスベスト)肺とは、肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一種です。
肺が線維化するものとしては、アスベストをはじめとする鉱物などの粉じんや薬品などの原因が考えられます。
アスベストにばく露したことによって起きた肺線維症を、特に「石綿肺」と呼びます。
仕事によって、アスベストの粉じんを10年以上吸い込んでいた労働者は、石綿肺を発症しやすいといわれており、注意が必要です。
潜伏期間は15年~20年程度で、アスベストにばく露しなくなった後でも、徐々に症状は進行して呼吸機能が低下していきます。
初期症状としては、活動時の息切れ、咳、痰です。
悪化すれば、日常生活を送るのも難しくなり、在宅酸素療法が必要となります。
また、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気胸、続発性気管支炎などを合併することがあります。
石綿肺になると、胸部エックス線において、肺の下部に線状影を主とする不整形陰影が認められるようになります。
アスベスト肺の診断には、胸部高分解能CT検査が可能な医療機関を受診しましょう。

②肺がん(原発性肺がん)

原発性肺がんとは、肺や気管支そのものががん化したもので、気管支や肺胞を覆う上皮に発生します。
中皮腫とは違い、石綿だけでなく喫煙などによっても発症します。
肺がんの症状は、咳、痰、血痰などが多くみられるのが一般的です。
アスベストに晒されたことが原因である肺がんの診断には、次のような医学的な所見が参考にされます。

  • 比較的高濃度のアスベストにばく露していた作業歴
  • じん肺法で定められた肺線維化所見
  • 広範囲な胸膜プラーク
  • 肺内の石綿小体

③中皮腫

中皮腫は、次のような箇所にできる悪性の腫瘍です。

  • 肺を取り囲む胸膜
  • 肝臓や胃の臓器を囲む胸膜
  • 心臓・大血管の起始部を覆う心膜
  • 精巣鞘膜(しょうまく)

胸膜中皮腫では、息切れや胸痛が多くみられます。
症状がない場合であっても、胸部エックス線検査で胸水貯留が発見されることもあります。
腹膜中皮腫でみられる症状は、腹痛や腹部膨満感、腹水貯留などです。
中皮腫は、次のような診断を行える医療機関を受診しましょう。

  • 胸部エックス線、胸・腹部CTなどの画像検査
  • 胸水や腹水の穿刺による細胞診断
  • 胸腔鏡などによる病理組織診断

病理組織診断は必須ですが、必ずしも簡単ではありません。
組織や細胞構成成分に対する特異的な抗体を標識抗体により認識し、対応する抗原の局在や組織構成成分を解析する手法などにより、他の症状との鑑別が必要となります。

④びまん性胸膜肥厚

びまん性胸膜肥厚とは、臓側胸膜(肺と胸壁の内側を覆っている膜)の慢性線維性胸膜炎の状態です。
通常は壁側胸膜(胸壁を覆う膜)にも病変が及んで、臓側胸膜と壁側胸膜の両方に癒着していることが多い疾病です。
びまん性胸膜肥厚は、アスベスト以外の多くの原因によっても生じる可能性があります。
症状としては、呼吸困難、反復性の胸痛や呼吸器感染等がみられます。
診断方法としては、主に胸部単純エックス線検査です。
側胸部のびまん性の肥厚像の広がりを確認します。
頭尾方向に、片側の場合には胸部単純エックス線写真で側胸壁の半分以上、両側の場合には側胸壁の1/4以上の広がりがあるか否かがひとつの基準となります。
胸部CT検査は、びまん性胸膜肥厚の診断のために欠かせません。

(2)アスベストの健康被害は専門医療機関で受診を

アスベストによる健康被害は、アスベストを吸引してから30年~50年という長い期間を経てから発症する疾病が多い傾向にあります。
アスベストを吸い込んだ可能性に心当たりがあり、すでに症状がある方や健康被害の心配がある方は、石綿健康診断やじん肺健康診断などを実施している専門医療機関へ相談するのも一つの方法です。
さらに、過去にアスベストを吸入した人は、喫煙により肺がんを発症するリスクが増大するので注意してください。禁煙を心がけることも大切です。

3、アスベストの健康被害を受けたら石綿健康被害救済制度を利用しよう

アスベストの健康被害を受けたら石綿健康被害救済制度を利用しよう

(1)石綿健康被害救済制度とは

石綿健康被害救済制度は、「石綿による健康被害の救済に関する法律」(石綿健康被害救済法)に基づき制定された制度です。

アスベストによる健康被害の特殊性に鑑み、アスベストによる健康被害を受けた方及びその遺族の方で、労災補償等の対象とならない方に対し、医療費等を支給するための措置を講じることにより、アスベストによる健康被害の迅速な救済を図ることを目的としています。

救済給付を受けるための要件は、以下のとおりです。

①日本国内でアスベストを吸入することにより次の疾病(指定疾病)を発症したこと

  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
  • 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚

②①の疾病を発症しており次のいずれかに該当する人

  • 現在療養している方
  • 法律の施行日及び改正政令施行日(中皮腫・肺がんの場合は平成18年3月27日。著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚の場合には平成22年7月1日)前にこれらの疾病に起因して死亡された方のご遺族
  • 法律の施行日及び改正政令施行日(同上)の施行後に認定の申請をしないで上記の疾病が原因で死亡された方のご遺族

(2)石綿健康被害救済制度で受け取れる給付金

石綿健康被害救済制度で受け取れる給付金の内容は、以下のとおりです。

①医療費

指定疾病に関する医療費の自己負担分を受け取れます。

②療養手当

1か月あたり10万3870円を治療に伴う医療費以外の費用負担に対する給付として受け取れます。

③葬祭料

指定疾病が原因でお亡くなりになった認定患者の葬祭に伴う費用負担に対して、19万9000円が支給されます。

④救済給付調整金

被認定者が指定疾病が原因でお亡くなりになるまでに給付を受けた医療費と療養手当の合計が特別遺族弔慰金の金額に満たない場合に、その差額分が被認定者のご遺族に支給されます。

⑤特別遺族弔慰金

法施行または改正政令施行前に指定疾病が原因で死亡した者のご遺族や、法施行または改正政令施行以後に指定疾病が原因で死亡した者のご遺族に対して支給されます。

金額は、280万円です。

⑥特別葬祭料

次に該当する人の葬祭に伴う費用負担に対して、19万9000円が支給されます。

  • 法施行または改正政令施行前に指定疾病が原因で死亡した者
  • 法施行または改正政令施行以後に指定疾病が原因で死亡した者

⑦特別遺族給付金

特別遺族給付金とは、労災補償を受けず死亡した労働者のご遺族に対する救済措置です。

支給対象となるのは、アスベストを原因とした疾病で亡くなった労働者(特別加入者を含む)のご遺族で、時効により労災保険法に基づく遺族補償給付の支給を受ける権利がなくなった方です上記のご遺族には、特別遺族年金(遺族1人の場合年額240万円)又は特別遺族一時金が支給されます。

特別遺族給付金については、最寄りの都道府県労働局、労働基準監督署にお問い合わせください。

4、アスベストの健康被害における救済制度以外の補償制度

アスベストの健康被害における救済制度以外の補償制度

(1)労災保険

①アスベスト関連疾患で「労災保険」の対象となるケース

労災保険制度は、仕事が原因で負傷したり病気になったりした労働者や、その家族に対して保険給付を行う制度です。
労働基準監督署長から、業務災害として認定を受ければ給付を受けることができます。
アスベストによる健康被害については、労働者が「業務上の事由」でアスベストを吸入して、それが原因で疾病になったり、死亡したりした場合が該当します。
対象となるのは、現在雇用されている労働者や過去に雇用されていた方です。
業務上アスベストにさらされたことにより、石綿肺・肺がん・中皮腫などのアスベストと関連する疾病にかかり療養した場合などに、労災保険給付の対象となります。

②「労災保険」と「石綿健康被害救済制度」の関係

労災保険の支給対象者は、労働者や労災保険の特別加入者、労働者の遺族です。
特別加入者とは、労働者でない人でも労災保険に任意で加入することによって労災保険の適用を受けられる制度です。
「労働者でない人」とは、個人事業主や一人親方などが該当します。
次に、石綿健康被害救済制度の支給対象者は、労災保険等の対象とならない石綿健康被害者やその家族です。
石綿健康被害救済制度は、次のような場合に該当する方を救済する制度です。

  • 労災給付の対象者であっても長期間経過後に発症した人
  • 健康被害との因果関係を立証できず労災給付以前に被災労働者が亡くなった人
  • 時効により労災給付を受けられなくなった人

健康被害救済制度では、アスベストを扱う仕事をしていたかどうかは問われません。

(2)国家賠償

補償制度そのものではありませんが,アスベストによる健康被害を被った方は、国に対して賠償請求ができる可能性があります。
アスベストの健康被害に対する国家賠償請求訴訟として有名な事案が、「大阪泉南アスベスト訴訟」です。

大阪泉南地区のアスベスト工場の元労働者及び家族並びに工場近隣の近隣住民らが、アスベストによる健康被害を被った原因は、国が適切な規制権限を行使しなかったことであるとして提訴しました。
この訴訟で、最高裁は、昭和33年5月26日から同46年4月28日までの間、国が規制権限を行使して石綿工場に局所排気装置の設置を義務付けなかったことは、国家賠償法の適用上違法であると判断しました(平成26年10月9日判決)。

5、石綿健康被害救済制度(または労災)とあわせて国家賠償も請求しよう

石綿健康被害救済制度(または労災)とあわせて国家賠償も請求しよう

上記の最高裁判決に照らして、石綿(アスベスト)工場の元労働者やそのご遺族の方が国に対して訴訟を提起し、一定の要件を満たす場合には、国は訴訟中に和解手続きを進め損害賠償金が支払われます。

和解の要件は以下のとおりです。

  • 昭和33年5月26日から同46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべきアスベスト工場内において、アスベスト粉じんにばく露する作業に従事したこと
  • ①の結果、アスベストによる一定の健康被害(石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚など)を被ったこと
  • 提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること

労災保険や石綿健康被害救済制度による給付を受けている方であっても、①の期間内に労働者としてアスベストの粉じんにばく露される作業に従事していた方は対象です。

和解により、国が支払ってくれる賠償金(慰謝料)の額は以下のとおりです。

  • 管理2(合併症なし):550万円
  • 管理2(合併症あり):700万円
  • 管理3(合併症なし):800万円
  • 管理3(合併症あり):950万円
  • 管理4、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚:1150万円
  • 石綿肺(管理2、3で合併症なし)による死亡:1200万円
  • 石綿肺(管理2、3で合併症あり又は管理4)肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚による死亡:1300万円

上記基準は、「泉南アスベスト第2陣訴訟」で示された疾患の種類等に応じた損害の算定の基礎となる金額に、国が責任を負うべき2分の1をかけた金額です。

遅延損害金や弁護士費用は、上記基準に含まれていません。

6、アスベストで損害賠償請求をする場合には弁護士に依頼するのがベスト

アスベストで損害賠償請求をする場合には弁護士に依頼するのがベスト

アスベストの健康被害で困っている方は、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士に相談することのメリットは、具体的に次のようなものが挙げられます。

(1)適切な手続選択についてアドバイスをもらうことができる

本記事で説明したように、アスベストによる健康被害に対しては、救済手続が用意されています。
そして、その中には、択一的にしか請求できない手続きもあれば、併用して請求できる手続きもあります。
また、それぞれの手続きには要件がありますので、どの手続きをとればいいのかご自身で判断することは難しいでしょう。

弁護士に相談することで、ご自身がどの手続きの対象となるのか、選択すべき手続きはどれなのかということについても、わかりやすく説明を受けることができるでしょう。
初回の無料相談などを利用して、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

(2)必要書類や書類の作成についてサポートを受けることができる

弁護士に依頼することで、必要書類の収集や書類作成について適切なサポートを受けられます。

ご自身が選択した手続によって、必要書類は異なりますが、どのような書類を集めればよいのかについても、弁護士のアドバイスを受けることができるでしょう。

(3)訴訟や和解交渉などの手続を一任できる

裁判を提起した場合や相手方との交渉が必要となった場合には、弁護士に任せることができます。
訴状や書面の作成は弁護士が行い、裁判所に出廷するのも基本的には弁護士です。
ご本人やご家族の方に、裁判所へ出廷してもらう必要がないことも多くあります。
弁護士は、本人の代理人として利益が最大化するように尽力してくれますので、交渉業務も安心して任せられるでしょう。

まとめ

今回は、アスベストの健康被害と救済制度・補償について解説しました。
アスベストの健康被害について不安を感じている方は、まずは弁護士に相談してみましょう。
アスベストによる健康被害の事件に精通した弁護士に相談すれば、手続選択から必要書類の指南まで適切なサポートを受けることができるでしょう。
まずは無料相談などを利用して弁護士に相談することが解決への第一歩となると思います。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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