
飲食店で別のお客と喧嘩をしてしまい、おしぼりを投げつけたら「暴行罪だ!訴える!」と言われてしまった。当たらなかったのに・・・。
このように、相手にダメージが生じてない場合や、また痛みを感じるわけではない行為であっても、「暴行罪」と言われてしまうことがあります。
今回は、
- 何をしたら暴行罪?
- 暴行罪で逮捕されるケース、されないケース
に加え、
- 暴行罪での逮捕を回避するための方法
などについて解説してまいります。この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。
警察に逮捕について知りたい方は以下の記事をご覧ください。
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目次
1、何をしたら暴行罪が成立するのか
暴行罪を知るためには、暴行罪が規定されている刑法208条から確認しましょう。
刑法208条
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
つまり、暴行罪が成立するためには、「暴行」に該当することが必要になります。
(1)「暴行」の具体例
暴行罪の「暴行」とは、「人の身体に対する不法な有形力の行使」をいいます。
- 殴る
- 蹴る
- 叩く
- 押す
- 投げ飛ばす
などの直接人の身体に触れる行為が典型です。
しかし、
- 着衣を引っ張る
- 胸ぐらをつかむ
- 馬乗りになる
- 毛髪を切断する
- 室内で太鼓を連打する
- 狭い部屋で日本刀を振り回す
- 石を投げつけたものの的中しなかった
また最近では、
- あおり運転
など、直接人の身体に触れない行為であっても「暴行」に当たることがあります。
このように「暴行」は、典型的な場合だけ成立するものではないことに要注意です。
(2)暴行罪と傷害罪との違い
規定からもわかるとおり、暴行罪は、暴行を加えた結果、人を怪我させなかった場合に問われる罪です。
暴行を加えた結果、人に怪我をさせた場合は傷害罪(刑法204条)に問われます。
傷害罪の場合、人に怪我をさせている以上「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と暴行罪より罰則が重たくなっています。
関連記事(3)酔っていた場合の暴行も罪になる?
暴行罪が問題になる場面では、お酒に酔っていて、というケースも散見されます。
「お酒に酔っていて記憶がない」という状態は、本人の意識が飛んでしまっているわけですから、一般的に「責任能力」が問題になります。
刑事裁判においては、被告人を処罰するためには「責任能力」が必要となります。
「責任能力」とは、刑事事件において、刑事責任を追及するために必要となる能力を言い、自分の行為について、物事の善悪の判断ができ、その判断に従って自分の行動を制御できる能力をいいます。
お酒に酔っている場合、本人の意識が飛んでしまっているわけですから、そのような判断ができず、「責任能力」はない(無罪)という場合が考えられます。
ただ、お酒に酔っているからといっていつでも無罪、というのでは、被害にあった方はたまったものではありません。お酒を隠れ蓑にして暴行されたのではたまりませんよね。
ですから、
- 暴行に至るまでの経緯
- 暴行態様
- 暴行時の言動
- 暴行後の経緯
- 飲酒状況(種類、量、時間、食事の有無等)
などが詳細に検討され、責任能力の有無について判断されることになります。
2、暴行罪が成立していたら逮捕される?
暴行罪が成立する場合、身柄を拘束されて捜査されるか、身柄を拘束されないまま捜査されるかの2つの場合があります。
逮捕には刑事訴訟法で規定されている「逮捕要件」があり、罪を犯したからといって必ずされるものではありません。
(1)逮捕の要件
逮捕されるための条件として、
- 逮捕理由があること
- 逮捕の必要性があること
の2つがあります。
暴行が事実なら逮捕理由はありますが、「逮捕の必要性」は常にあるわけではありません。
(2)逮捕の必要性とは
逮捕理由があるだけでは、逮捕をすることはできません。
逮捕は、身柄拘束という、基本的には人権侵害にあたる行為となります。
日本では「無罪推定」で刑事手続は進められますから、逮捕理由とともに、逮捕する必要性もなければなりません。
身柄拘束をする理由は、
- 逃亡したり証拠を隠すおそれがあること
です。
無罪推定ですので、「これ以上犯罪を犯させないため」ではありません。そのような目的は刑事訴訟法には規定されておらず、逮捕理由とすることはできないのです。
そのため、被疑者がこのようなこと、つまり逃亡や証拠隠滅をしないことが客観的に裏付けられる場合は、逮捕の必要性が欠けるとして逮捕することは違法になります。
(3)逮捕の必要性が欠けるとは具体的にはどういう場合?
では、逮捕の必要性が欠け、逮捕されないケースとは具体的にどういう場合でしょうか?
それは、
- 住所が確定している
- 親族等が身柄引受人としてしっかり存在している
- 証拠がすでに揃っている(事件が複雑でない)
- 犯行を認めていて反省している、初犯等で犯罪慣れがない
- 共犯者がいない
等の場合を意味します。
暴行罪であれば、
- 暴行を認めている
- 普段はまじめに仕事をしている
- 親族との同居で定住している住まいがある
- 暴行相手が同居者ではない
- 単独で行った初犯
というようなケースであれば、逮捕されず、在宅事件となる可能性は高いでしょう。
3、暴行罪で逮捕された場合の流れ
暴行罪で逮捕された場合の流れは以下のとおりです。
(1)逮捕後の流れ
逮捕された後は通常、警察の留置施設内に収容されます。
その後、警察官の弁解録取を受け、検察官に身柄を送るか釈放するか判断されます。
ここで釈放されない場合は、逮捕から48時間以内に事件と身柄を検察官に対し送検されます。
送検後は、検察官の弁解録取を受け、検察官が送致を受けたときから24時間以内に、引き続き身柄を拘束するか判断されます。
この24時間以内に検察官は、引き続き身柄を拘束するか(勾留請求をするか)釈放するかを判断します。
釈放されない場合は、検察官に勾留請求されたことになります。
勾留請求されると、今度は裁判官の勾留質問を受けます。
これを受けて勾留か否か判断されます。
裁判官からの勾留決定が出た場合、はじめ10日間の身柄拘束されることになりますが、決定に対する不服申し立てが認められれば10日を待たずして釈放されることもあります。
刑事手続の流れの詳しくは、こちらのページをご覧ください。
関連記事(2)暴行罪の刑罰
2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。
4、暴行罪での逮捕を未然に回避することはできる?
(1)捜査機関に事件を発覚させない
逮捕を回避するためには、まずは捜査機関に事件が発覚するのを避けること。
捜査機関に事件が発覚するきっかけで多いのが、捜査機関への「被害届の提出」です。
したがって、被害者が未だ捜査機関に被害届を提出していない場合は、被害者に被害届の提出を思いとどまっていただくことで逮捕を回避することができることがあります。
被害者に被害届の提出を思いとどまっていただくには、金銭的弁償をする代わりとして、捜査機関に被害届を提出しないことを約束していただくのです。
(2)捜査機関への働きかけ
すでに被害届が提出されている場合でも諦める必要はありません。
捜査機関が動き出す前に、被害者と交渉中であること(被害者が応じていること)を伝えるだけでも逮捕の歯止めとなります。
また、逮捕の必要性に欠けることを積極的に伝えていくことも有益です。
その場合には、逮捕の必要性に欠けることを説明する証拠を示すことが有効です。
5、暴行罪での逮捕、送検、起訴の回避を高めるたった1つの方法とは?
逮捕を回避するには、「被害者と交渉して示談を成立させること」が有効手段ですが、送検、起訴を回避する場合も同じです。
ここで、交渉は、加害者、被害者の当事者同士で行うこともできます。
しかし、被害者によってはそもそも交渉のテーブルについてくれない場合もあります。また、ついてくれたとしても感情的になってお互い納得のいく条件を合意することは難しいでしょう。
刑事事件では、なによりもスピードが命ですから、冷静・迅速に交渉をする必要があり、当事者同士では難しい場合があるのです。
これを解決するのが「弁護士への依頼」です。
刑事事件に詳しい弁護士であれば、被害者との交渉については専門家。被害感情に寄り添いながら、導いてくれるはずです。
当事者同士では交渉のテーブルにすらついてくれない被害者でも、弁護士が介入することで交渉のテーブルについてくれる場合も珍しくはありません。
また、学校や職場を欠席・欠勤することからの不利益を回避したり、暴行行為の情状の訴えにより早期釈放や不起訴(起訴猶予)を目指し、捜査の違法性を追求して無罪を主張するなど、被疑者の求める利益を獲得するため、戦略的に戦っていきます。
逮捕により不当に人生が狂わされないよう、弁護士に依頼することを強くお勧めします。
関連記事6、暴行罪でのトラブルは早めに弁護士へ相談を
刑事事件はスピードが勝負です。暴行罪で、もし今もめているのであれば、逮捕前であってもお早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
逮捕の瞬間は、捜査機関の都合で突然やってきます。また、起訴か不起訴かの刑事処分を決める検察官も、いつまでも待ってくれるわけではありません。
逮捕の回避、また不起訴処分の獲得をしたい場合は、先手をうって早めに弁護士に相談し、弁護活動を行ってもらいましょう。
まとめ
以上、暴行罪について解説しました。
暴行罪は、犯罪の中でも比較的軽微な犯罪として軽く見られがちです。
しかし、これまで解説してきたように、逮捕され、裁判で有罪となれば懲役刑、実刑を下される可能性もあります。
少しでもそうしたリスクを下げたい方は、少しでも早めに弁護士にご相談ください。