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業務委託でも残業代は請求できる?判断基準など詳しく解説

業務委託でも残業代は請求できる?判断基準など詳しく解説

業務委託契約の場合、残業代を請求できないと思い込んではいませんか?

この記事では、

  • 業務委託契約でも残業代を請求できるのはいかなる場合か
  • 業務委託で残業代を請求するには何を行えばよいのか
  • 業務委託で残業代を請求する際に困ったらどこに相談すればよいのか

などの点について分かりやすく解説します。

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1、業務委託で残業代請求できる?残業代を請求できるのは「労働者」

そもそも残業代を請求できる法的根拠はどこにあるのでしょうか?
残業代(割増賃金)を請求できる法的根拠は、労働基準法第37条第項にあります。

したがって、残業代(割増賃金)を請求するには労働基準法の適用を受ける「労働者」であることが必要です。

2、業務委託契約を結ぶと「労働者」ではない?

では、何をもって「労働者」であるか否かが決まるのでしょうか?

この点を判断するには、会社と働き手が締結している契約の内容を考慮する必要があります。
会社と働き手との間の契約のパターンには、代表的なものとして業務委託契約と雇用契約(労働契約)があります。

(1)業務委託契約は対等な契約

業務委託契約を厳密に定義づけることはできませんが、一方が特定の業務を行い、その業務に対して相手方が報酬を支払うことを内容とする契約となっていれば、業務委託と考えてよいでしょう。
業務委託契約は、基本的には,委託者と受託者は対等な関係にあることを前提としています。

(2)「使用従属」の関係があれば雇用契約(労働契約)

他方で、雇用契約については民法第623条に明確に規定されています。

(雇用)

第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

(民法第623条)

また、この規定からさらに一歩踏み込んだ労働契約法第6条では、以下のとおり規定されています。

(労働契約の成立)

第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

(労働契約法第6条)

つまり、雇用契約(労働契約)は、会社と労働者との間に「使用従属」の関係があることがポイントとなります。

(3)業務委託契約でも実質的に雇用契約(労働契約)の可能性がある

法律上、業務委託契約と取り扱われるか、雇用契約(労働契約)と取り扱われるかは、契約関係の実質から判断されます。

つまり、契約の名目が業務委託契約であっても、契約の内容や働き方の実態などから使用従属の関係が認められる場合には、その契約は雇用契約(労働契約)であると判断されます。

この場合には、契約の名目が業務委託契約であっても残業代を請求できる可能性があります。

3、雇用契約(労働契約)か否かは何を基準(ポイント)に判断?

では、雇用契約(労働契約)であるかどうか、つまり「労働者」か否かを判断するための基準(ポイント)はどこにあるのでしょうか?

一般的には、使用従属の関係(「使用従属性の要件」)が認められれば、「労働者」ということになりますが、使用従属の関係にあるかどうかについては、様々な要素を総合的に勘案して判断されることになります。

以下では、ポイントとなる考慮要素を、具体例も用いながら解説します。

(1)使用従属性の要件に関する考慮要素

①仕事の依頼・業務従事に対して拒否できるかどうか

働き手に仕事の依頼を拒否する自由がある場合は、使用従属の関係を否定されやすくなり、逆に、原則拒否できない場合は使用従属の関係があると認められやすくなります。

②業務遂行上の指揮監督の程度が強いかどうか

働き手の側に業務の裁量が広く認められる場合は使用従属の関係を否定されやすくなり、会社の決めた具体的なルールに従う必要がある場合や、会社の命令により通常予定されている業務以外の業務に従事しなければならない場合など、指揮監督関係がある場合は使用従属の関係があると認められやすくなります。

③勤務する時間や場所を指定・管理されるかどうか

勤務時間や勤務場所が決められておらず、これらを自由に決められる場合は使用従属の関係を否定されやすくなり、決められている場合は使用従属の関係があると認められやすくなります。

④労働を他の者が代行できるかどうか

業務遂行が委託者本人の能力に委ねられているなど業務を代行できない(再委託してはならない)場合は使用従属の関係を認められやすくなり、代行できる場合は使用従属の関係が否定されやすくなります。

⑤何に対して給料(報酬)が支払われるか

業務遂行期間が決められておらず、業務遂行の「成果」に対して給料(報酬)が支払われる場合は使用従属の関係を否定されやすくなり、欠勤に対して報酬が控除されたり、残業に対して手当てが支給されたりするなど、業務遂行時間に対して支払われると判断される場合には使用従属の関係があると認められやすくなります。

(2)関連するその他の考慮要素

⑥業務で使用する機械・器具の費用を負担するのは誰か

業務で使用するパソコン、プリンターなど機械・器具の購入費、維持費を自身で負担している場合は事業者としての性格が強いため、労働者性が否定されやすく、逆にこれらを会社が負担する場合は労働者性が認められやすくなります。

⑦その他

就業規則・服務規律がない、又はその適用がない場合や、福利厚生が適用されないような場合は労働者性を否定する要素になり、逆にこれらの適用がある場合は労働者性が認められやすくなります。

4、業務委託で残業代を請求できるのはどんなとき?

契約の名目は業務委託契約でも、実質的に雇用契約(労働契約)であると判断された場合、つまりあなたが「労働者」だった場合、労働基準法上残業代を請求できることがあります。

では、いかなる場合に残業代を請求できるのでしょうか。

(1)所定労働時間を超えて労働したとき

「所定労働時間」とは、会社側が就業規則や雇用契約(労働契約)において(下記の法律上定められた労働時間(法定労働時間)の範囲内で)定めた労働時間のことをいいます。

たとえば、就業規則や雇用契約(労働契約)において「1日あたりの労働時間は7時間」と定められていた場合の「7時間」が所定労働時間です。
そして、所定労働時間以上法定労働時間以内の残業のことを「法内残業」といいます。
法内残業に対しては、通常の賃金と同じ水準の賃金が支払われます。
たとえば、上記の例では1時間の法内残業が認められるため、1時間分の賃金が支払われることになります。

(2)法定労働時間を超えて労働したとき

他方で、「法定労働時間」とは労働基準法で定められた労働時間の上限です。
すなわち、労働基準法第32条第1項では「(休憩時間を除き)1週間について40時間」、同条第2項では「(休憩時間を除き)1日について8時間」が労働時間の上限、すなわち法定労働時間と定められています。
そして、1週間につき40時間、1日につき8時間を超えた時間分労働したことを「(法定)時間外労働」といいます。

時間外労働については、割増賃金を請求することができます。

割増賃金は、

「1時間当たりの賃金」×「割増率」×「残業時間」

という計算式で計算しますが、時間外労働の割増賃金の「割増率」は原則「1.25」です。

(3)休日に労働したとき

「休日」には2つの意味があります。

1つは、労働基準法上、会社が労働者に対して、毎週少なくとも1回は与えなければならない休日のことで、これを「法定休日」といいます。

もう1つは、法定休日ではないものの、就業規則や雇用契約(労働契約)によって定められた休日のことで、これを「法定外休日」といいます。
どの休日が法定休日で、どの休日が法定外休日かは通常は就業規則等で定められています。

法定休日に労働した場合、「割増率」を「1.35」として残業代を請求することができます。
他方、法定外休日に労働した場合、「割増率=1.35」は適用されません。
法定外休日での労働は、それが時間外労働となっている場合には,「割増率」を「1.25」とする割増賃金を請求することができます。

(4)深夜に労働したとき

「深夜」とは午後10時から翌日午前5時までの時間帯のことをいいます(労働基準法第37条第4項)。

この時間帯に労働することを「深夜労働」といい、深夜労働を行った場合も割増賃金を請求できます(就業規則等により,深夜の割増賃金を含めて所定の賃金が定められていることが明らかな場合を除く)。

深夜労働した場合の割増賃金の「割増率」は「1.25」です。

なお、時間外労働と深夜労働の両方に該当する場合は、「1.5」が「割増率」となります。

休日労働と深夜労働の両方に該当する場合の「割増率」は「1.6」となります。

5、業務委託で残業代を請求するためにはどんな証拠が必要? 

残業代を請求するには、残業代算定の基礎となる証拠を会社側に示す必要があります。
また、もし労働審判や裁判で残業代について争うことになった場合にも、労働者の側で証拠により残業代について証明する必要があります。

残業代請求を行う上でポイントとなるのは、前記「4」でもご紹介した計算式の項目である「1時間当たりの賃金」と「残業時間」です。

すなわち、残業代を請求するためには「1時間当たりの賃金」と「残業時間」を裏付ける証拠を集める必要があります。

(1)1時間当たりの賃金を証明するための証拠

1時間当たりの賃金は

①「1か月当たりの賃金」÷②「1か月当たりの平均所定労働時間」

で求めることができます。
なお、「賃金」には基本給だけでなく、各種手当も含めることができます。

ただし、通勤手当や家族手当など、一定のものについては除外しなければなりません(労働基準法第37条第5項、労働基準法施行規則第21条)

「賃金」を裏付けるための証拠としては

  • 就業規則
  • 雇用契約書(労働契約書)
  • 給与明細書
  • 振込先口座の通帳

などがあります。

「1か月当たりの平均所定労働時間」は、以下の計算式により計算します。

所定労働日数(1年の総日数-1年の所定休日数)×1日の所定労働時間÷12

所定労働日数、所定労働時間については、就業規則などに記載があります。

(2)残業時間を裏付けるための証拠

「残業時間」を裏付ける代表的な証拠として、タイムカードがあります。

タイムカードがない場合は

  • 業務日報
  • パソコンの起動終了時刻のログ情報
  • タコメーター記録
  • 警備員に出退勤時刻を届け出た警備記録
  • 出入口に設置された防犯ビデオ映像
  • メールの送受信記録(※宛先、メールの内容等も重要)
  • 出退勤日時の日記・メモ(時間は分単位で記載し、できれば時計を写真に撮るか、第三者に時間の横に印鑑を押してもらうなどして日記、メモの裏付けを取ることが重要です)

などが考えられます。

(3)証拠がない、足りない場合は?

手元に証拠がない、足りないという場合は、会社側に証拠の開示を求めることが考えられます。
会社側に証拠があるのに開示に応じない場合は、裁判所に対して証拠保全の申立てをして、裁判所に証拠を確保してもらうことも検討しなければなりません。

もっとも、証拠保全を申し立てる場合、目的としている証拠を会社が保有している蓋然性があり、かつ、証拠を保全する必要性が認められることを疎明しなければなりません。これらの要件を満たしているとの認定がされることについてのハードルは比較的高いため、可能な限り自力で証拠を収集できるように努めましょう。

会社側から証拠の開示を受けられない場合には、残業時間を立証しうる証拠(たとえば同僚の証言など)を再度探す、会社側と粘り強く交渉することなどによって、引き続き残業代を請求する道を探る必要があります。

6、業務委託の残業代請求に困った場合の相談先

証拠は自ら収集できるとしても、いざ会社に残業代を請求しようとなると、どう切り出していいのか分からない、そもそも何から始めてよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか?

そこで、以下では、残業代請求に困った場合の相談先を紹介します。

(1)労働局、労働基準監督署

労働局、労働基準監督署は厚生労働省管轄下の機関です。

労働局は各都道府県に1つ、労働基準監督署は各都道府県の地区ごとに複数設けられています。
労働局等への相談の結果、会社側の違法行為が疑われる場合には、会社側に助言・指導が行われます。
その結果、会社から労働者に対し残業代が支払われることもあります。
もっとも、労働局・労働基準監督署はあくまで中立の機関であるため、相談者に代わって会社に残業代を請求してくれるわけではありません。

(2)労働条件相談ほっとライン

労働条件相談ほっとラインは厚生労働省の委託事業です。匿名で電話相談できるため、誰でも気軽に相談できるのが特徴です。

しかし、会社に対する助言、指導、調査などの働きかけを行ってくれるわけではありません。

(3)総合労働相談コーナー

総合労働相談コーナーは、労働局や労働基準監督署内に設けられた労働相談コーナーです。

相談内容によって、会社側に助言、指導を行ってもらい、それでも解決しない場合は会社と労働者との話し合いによる解決を促す「あっせん制度」に移行できます。
手続きの利用は無料で、会社と労働者との間に弁護士などの専門家が入り、裁判に比べ比較的スピーディーに手続きが進行するのが特徴です。

(4)弁護士

弁護士は労働関係の法律に精通しており、労働者の代理人として残業代の請求のサポートをしてくれます。

また、労働審判や裁判などの法的な手続きをとる必要が生じたとしても、弁護士に依頼をしておけば安心です。

まとめ

業務委託でも残業代を請求できるのは、労働基準法の適用を受ける「労働者」である場合です。
また、「労働者」であるか否かは、契約内容や働き方などから個別に判断されます。

ベリーベスト法律事務所では、労働案件も多数取り扱っています。
ご自身が労働者に当たるかどうかわからないという方は一度ベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。

また、会社に残業代を請求するには証拠の確保が必要です。どのような証拠を揃えたらよいかわからないという方も、ぜひお気軽にご相談ください。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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