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企業側から内定取り消しできる場合と注意点を弁護士が解説

2021年12月14日
企業側から内定取り消しできる場合と注意点を弁護士が解説

目次

企業がいったん採用の内定を出した応募者に対して、本採用前に内定を取り消したい場合もあるでしょう。

  • 「会社の業績が急激に悪化した」
  • 「思ったよりも内定辞退者が少なく、すべての内定者を採用できない」
  • 「内定者の素行に問題が見つかった」

他にも様々な事情で内定を取り消したいケースがあると思います。

しかし、いったん内定を出した以上、その内定を企業側から自由に取り消すことはできません。
一方的に内定を取り消すと、内定者から訴えられるなど様々な不利益を受けてしまうおそれがあります。

万が一、内定を取り消す場合には厳しい条件をクリアした上で、適切な手順を踏む必要があります。

そこで今回は、

  • 企業側からの内定取り消しが認められる場合とは
  • 企業側から内定取り消しを行うときの手順とは
  • 企業側から内定取り消しを行う場合のリスクとは

といった問題を中心に、企業側からの内定取り消しについて解説していきます。

やむを得ず内定取り消しを行わなければならない企業の人事担当者等のご参考になれば幸いです。

1、企業側からの内定取り消しは許されない?

企業側からの内定取り消しは許されない?

まず前提として、企業側から自由に内定を取り消すことは許されないということを覚えておきましょう。

ここでは、内定者からの辞退は自由なのに、企業側からは原則として内定を取り消せないのはなぜなのかについてご説明します。

(1)そもそも内定とは

内定とは、一般的には雇用契約の締結を約束することと考えられていることが多いようです。
そのため、本採用前であれば内定の取り消しは可能と考えている人もいるかもしれません。

しかし、このような理解は法律的には正しくありません。法律的には、企業が採用内定通知を出した時点で、雇用契約が成立しています。

ただ、通常の雇用契約と異なるのは、応募者がまだ在学中であることが通常であるため、雇用の開始を大学卒業後とするというように「始期」が定められていることです。

このような雇用契約のことを「始期付労働契約」と呼びます。実際の雇用の開始は応募者の大学卒業後であっても、契約自体は内定の時点で成立していることに注意が必要です。

(2)内定取り消しは原則として解雇と同じ

内定の時点で雇用契約が成立している以上は、企業側から内定を取り消すことは労働者を解雇するのと同じことです。

企業は、労働者を自由に解雇することはできません。就業規則等に定めた解雇事由に該当するか、整理解雇の厳格な要件を満たす場合でなければ、解雇することは許されないのです。そのため、企業側から自由に内定を取り消すことは認められないことになります。

(3)内定者からの辞退は自由

一方で、内定者側から内定を辞退することは基本的に自由に認められます。なぜなら、期間の定めのない雇用契約については、いつでも解約することが民法で認められているからです。

第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

引用元:民法

民法上は、内定者からも企業からも自由に解約申し入れが認められていますが、企業側からの解約申し入れは労働契約法によって厳しく制限されています。そのため、内定者からの辞退は自由なのに、企業側からの内定取り消しは原則として認めらないということになります。

ただし、企業側からの内定取り消しも一切認められないわけではありません。以下で、取り消しが認められるケースについて、内定者側の事情による場合と企業側の事情による場合とに分けてご説明します。

2、内定者側の事情により内定取り消しが認められるケース

内定者側の事情により内定取り消しが認められるケース

内定は「始期付労働契約」の締結であるということを前記「1(1)」でご説明しました。

判例ではそれに加えて、本採用までの間の「解約権」を留保した労働契約であると判断されています。
解約権といっても企業側からの自由な解約を認めるわけではなく、企業と応募者とが合意した内定取消事由に該当する場合は、その取消事由が相当なものである限り、解約が認められるというものです。相当と認められる内定取消事由としては、以下のようなものがあります。

(1)大学等を卒業できなかった場合

内定者が在学している大学等を卒業できず、雇用契約の始期に約束どおりに入社できない場合は、企業側からの内定取り消しが認められます。

(2)健康上の問題が発覚した場合

内定者について予定している業務の遂行に重大な支障が生じるような健康上の問題が発覚した場合も、企業側から内定を取り消すことが許されます。

ただし、健康上の問題の程度については慎重に判断する必要があります。内定者に持病があることが見つかっても、業務の遂行に差し支えのないような場合は、内定取り消しは認められません。

(3)履歴書等の内容に虚偽の記載があった場合

内定者が企業へ提出した履歴書等の内容に虚偽の記載があった場合も、企業側からの内定取り消しが認められる可能性があります。

虚偽の記載の内容や程度が重大であり、実際にはその内定者が労働者として不適格であることが判明した場合は、内定取り消しが認められます。

それに対して、虚偽記載の内容や程度が軽微な場合は、内定取り消しまでは認められない可能性が高いので注意が必要です。

(4)刑事事件で逮捕された場合

本採用前に内定者が刑事事件を起こして逮捕された場合も、企業側からの内定取り消しが認められる可能性が高いです。

この場合、事件や刑事処分の内容・程度によっては内定取り消しが違法となる可能性もあり得ます。

しかし、判例では、内定者が大阪市公安条例等違反の現行犯として逮捕されたケースで、起訴猶予となって刑罰は受けなかったケースでも内定の取り消しは適法であると判断されています。

(5)その他、合意した内定取り消し事由に該当した場合

企業からの内定通知や応募者がサインする内定承諾書には、いくつかの内定取り消し事由が記載されているのが一般的です。

通常、上記(1)~(4)の各事由は記載されているはずです。

他にも、内定通知や内定承諾書に記載されている内定取り消し事由に該当した場合は、その事由が不合理なものでない限り、企業側からの内定取り消しが認められます。

3、企業側の事情により内定取り消しが認められるケース

企業側の事情により内定取り消しが認められるケース

企業側の事情により内定取り消しが認められるケースとしては、経営状況の悪化や事業規模の縮小等によって人員を削減する必要性がある場合や、人員を増やす余裕がない場合が考えられます。

ただし、このような場合でも以下のような厳しい要件を満たしてはじめて、企業側からの内定取り消しが認められます。

(1)整理解雇の要件を満たすことが必要

経営の悪化や事業規模の縮小を理由に内定取り消しを行うことは、すでに就業している労働者を解雇する場合と同様に、整理解雇に該当します。

そのため、整理解雇の要件を満たす場合でなければ、企業側からの内定取り消しは認められません。

会社の経営上、解雇の必要性があるとはいえ、何ら問題のない労働者を解雇するには、次にご説明するとおり、厳しい要件を満たす必要があります。

(2)整理解雇の4要件とは

整理解雇は、次の4つの要件をすべて満たす場合に認められます。

  • 人員を削減する必要性があること
  • 解雇を避けて経営を維持するための努力を尽くしたこと
  • 解雇の対象者の人選について合理性があること
  • 解雇対象者や組合と誠実かつ十分に協議するなど相当な手続を踏んでいること

したがって、経営上の問題で内定取り消しを行う必要性がどんなに高くても、企業側が一方的に内定を取り消すことは整理解雇の要件を満たさないため、違法となります。

内定取り消しを行う前に他の手段で経費削減の努力を尽くしたり、内定者に対して相応の補償を申し入れて十分に協議を行うなどして相当な手続を踏んだ上でなければ、企業側からの内定取り消しは認められないのです。

なお、整理解雇の要件についてさらに詳しくは「「整理解雇」実施の手順4つのポイント」をご参照ください。

[nlink url=”https://best-legal.jp/understanding-procedure-22597″]

4、内定取り消しが問題となった判例

内定取り消しが問題となった判例

内定取り消しについて、実際に裁判でどのように判断されているのかは気になるところでしょう。

ここでは、内定取り消しが問題となった判例をいくつかご紹介します。

(1)内定取り消しが無効とされた事例

内定取り消しが無効とされた判例としては、「大日本印刷事件」(最高裁判所昭和54年7月20日判決)と呼ばれる事例が有名です。

この事例では、企業が、ある大学卒業予定の応募者に対して、当初から「暗い」という印象を持ち、労働者として不適格であると思いつつも、その印象を打ち消す材料が出るかもしれないと考えて採用内定を出しました。

しかしながら、その後になって不適格性を打ち消す材料が見つからなかったとして企業が内定を取り消したため、内定者から訴訟を起こしました。

裁判所は、採用内定を出した時点で「解約権留保付労働契約」が成立したと判断した上で、内定取消事由は内定当時に知ることができず、知ることが期待できないような事実であって、それを理由として内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できるものに限られると述べました。

この見地から本件の内定取り消しについては、取消事由が内定当時に企業側が認識していた事情であることなどから、社会通念上相当なものとはいえず、解約権の濫用に当たるとして無効であるとの判決を言い渡しました。

この判例から、企業の一存で内定を取り消すことは許されないということがおわかりいただけるでしょう。

(2)内定取り消しが有効とされた事例

一方で、内定取り消しが有効とされた判例としては、「電電公社近畿電通局事件」(最高裁昭和55年5月30日判決)と呼ばれる事例が有名です。

この事例では、ある学生が内定を受けた後に反戦デモを先導し、大阪市公安条例等違反の現行犯として逮捕されたことにより、企業は内定を取り消しました。

内定者は内定取り消しの無効を主張して訴訟を起こしましたが、裁判所は、内定者がこのような違法行為をしたことを理由に内定を取り消すことは解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当と認められるとして、内定取り消しは有効と判断しました。

たしかに、内定者が刑事事件を起こすことは内定前に企業が知ることはできない事情なので、この事例での内定取り消しは相当といえるでしょう。

しかし、実際には無罪や誤認逮捕といったケースもあり得るので、内定者が刑事事件で逮捕されたケースすべてで内定取り消しが有効になるとは限らないことにご注意ください。

(3)内定そのものが認められなかった事例

少し視点が異なりますが、ある企業で不採用となった応募者が訴訟を起こしたものの、そもそも内定そのものが認められなかった判例として、「ケン・コーポレーション事件」(東京地方裁判所平成23年11月16日判決)と呼ばれる事例があります。

この事例では、内々定を受けた応募者の最終面接で企業側が「入社日は平成22年8月23日に決定しよう」と発言したものの、実際にはその後に企業がその応募者の内々定を取り消し、不採用としました。

裁判所は、上記の発言のみでは内定に至ったとは認められないとして、この応募者を不採用とした企業の行為に違法性はないと判断しました。

このように、いつ内定が成立したかが問題となる場合もあります。
そのため、企業としては内定取り消しを考える際に、そもそも内定が成立しているかどうかを確認することも大切でしょう。

5、内定取り消しの正しい手順

内定取り消しの正しい手順

企業側からの内定取り消しが認められる場合でも、適正な手続を守って行わなければ違法となってしまいます。

内定取り消しを行う際は、以下の手順を守りましょう。

(1)30日以上前に予告を行う

内定取り消しは、すでに就業している労働者を解雇することと基本的に同じです。
したがって、労働基準法に定められた「解雇予告」を行う必要があります。
なお、内定取り消しの場合には、解雇予告は適用されないという見解も有力ですが、少なくとも厚生労働省は、解雇予告が必要という見解ですので、厚生労働省の見解に準じた扱いをした方がよいでしょう。

(解雇の予告)

第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

引用元:労働基準法

したがって、原則として入社予定日の30日以上前に内定者に対して、内定取り消しを予告しなければなりません。予告期間が30日に満たない場合は、不足した日数分の平均賃金を支払う必要があります。

ただし、内定者が大学等を卒業できなかったような場合には、予告する必要はないといえます。

(2)内定者に対して十分な事情の説明を行う

いったん成立した内定を取り消す場合には、内定者に対して十分な事情の説明を行い、話し合うことが大切です。

このことは、経営上の理由等企業側の事情によって内定取り消しを行う場合には前記「2(2)」でご説明したとおり、必須の条件となります。

内定者側の事情によって内定取り消しを行う場合でも、一方的に内定を取り消すと内定者から取り消しの無効を主張され、訴訟を起こされるおそれがあります。

そのため、まずは内定者に事情を説明して理解を求め、できる限り話し合うことによって合意が得られるように交渉しましょう。

(3)内定者の就職先の確保を支援する

旧労働省が平成5年6月24日付けで発した通達(労働省発職第134号)で、事業主が内定取り消しを行う場合には、対象となった学生や生徒の就職先を確保するよう最大限の努力を行わなければならないとされています。

この義務は努力義務に過ぎず、違反したからといってただちに違法になるとは限りません。

しかし、内定者の就職先の確保について何ら配慮することなく一方的に内定取り消しを行うと、手続が相当でないとして違法となる可能性があるのでご注意ください。

(4)場合によっては金銭的補償を提示する

上記の通達には、内定取り消しを受けた学生・生徒からの補償等の要求には誠意をもって対応しなければならないという努力義務も記載されています。

したがって、何らの補償もなく一方的に内定取り消しを行った場合には、やはり手続が相当でないとして違法となる可能性があります。

補償すべき金額は取り消し事由や内定者が他社へ就職できる見込みなどによって異なりますが、大まかな目安としては、入社後に予定していた給料の6か月分~が一つの基準となるでしょう。

6、内定取り消しを行う際に企業が注意すべきこと

内定取り消しを行う際に企業が注意すべきこと

内定取り消しは、内定者の生活やキャリア等に重大な支障をおよぼすおそれがあるため、できる限り回避することが望ましいものです。そのため、内定取り消しを行った場合には、企業側にも次のような不利益がおよぶ可能性があります。

やむを得ず内定取り消しを行う際には、以下の点に注意して、慎重に手続を進めるようにしましょう。

(1)内定者から訴訟を起こされる可能性がある

不当な内定取り消しは不当解雇と同じことなので、内定者から訴訟を起こされる可能性があります。

訴訟の結果、内定の取り消しが無効となれば、企業はその内定者を雇用しなければなりません。
どちらかが雇用関係を望まない場合には、改めて退職条件について話し合う必要があります。

また、未払い賃金(内定取り消しがなければ得られたはずの利益)や慰謝料等の金銭的な請求も併せて行われる場合があります。

(2)内定を取り消した企業名が公表されることがある

内定取り消しを行った企業に対するペナルティとして、厚生労働省のホームページでその企業名を公表するという制度が設けられています(職業安定法施行規則第17条の4)。

ただ、正当な内定取り消しもあることから、企業名が公表されるのは以下の事由に該当した場合に限られます。

  • 2年連続で内定取り消しを行った場合
  • 同一年度内に10名以上の内定を取り消した場合
  • 事業活動の縮小を余儀なくされていると明らかには認められない場合
  • 内定取り消しの理由を対象者に十分に説明しなかった場合
  • 内定を取り消した学生・生徒の就職先の確保を支援しなかった場合

7、内定取り消しで困ったときは弁護士へ相談を

内定取り消しで困ったときは弁護士へ相談を

ここまで、企業側からの内定取り消しがどのような場合に認められるのか、内定取り消しを行う際にはどのような手順を踏めばよいのか等についてご説明してきました。

しかし、企業活動の現場においては、様々な事情で内定取り消しを行う必要性に迫られることがあるでしょうし、内定取り消しが適法かどうかの判断に迷うことも多いでしょう。

不当な内定取り消しを行うと前記「5」でご紹介したような不利益を受けてしまいますし、適法な内定取り消しではあっても、内定者の合意が得られていなければ訴訟に巻き込まれてしまうおそれがあります。

内定取り消しで困ったときは、労働問題に詳しい弁護士に相談するのが得策です。弁護士に相談すれば、具体的な場面において内定取り消しが適法かどうかについて、的確なアドバイスを受けることができます。内定者との話し合いが円滑に進まない場合には、弁護士が専門的な見地から話し合いを代行することもできますし、万が一、訴訟を起こされた場合にも弁護士が対応します。
内定取り消しに関する不安をすべて弁護士に委ねることで、企業は本来の事業活動に専念することができるでしょう。

まとめ

企業側からの内定取り消しは自由には認められないとはいえ、現実には内定取り消しを行わざるを得ない場合もあろうかと思います。その際は、無用のトラブルを招かないよう、本記事をご参考に適切な対応をなされることをおすすめいたします。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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