「子どもの養育費をきちんと払ってもらえるか不安……。養育費保証サービスって、どんなサービスなの?」
離婚時に夫婦間で養育費を取り決めていても、その後に養育費が不払いとなるケースは多々あります。
そんなときでも養育費を受け取ることが可能となるのが、養育費保証サービスです。
養育費保証サービスとは、民間の保証会社が養育費支払人の連帯保証人となり、養育費が未払いとなった場合にその立て替えと督促を行ってくれるサービスのことです。
令和2年6月にZOZO創業者の前澤友作氏が事業参入したことでも話題になりました。
不払いが起こりがちな養育費を確実に受け取れるという大きなメリットがあるサービスですが、その反面でデメリットや法的な問題点も指摘されているので、利用する際には注意が必要です。
そこで今回は、
- 養育費保証サービスの仕組み
- 養育費保証サービスの利用方法
- 養育費保証サービスのデメリットや法的な注意点
などについて、弁護士が解説していきます。
離婚後に子どもを育てていくためには、養育費を毎月きちんと受け取ることが重要です。
この記事が、養育費の受け取りに不安を抱えている方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、養育費保証サービスとは
養育費保証サービスとは、離婚後の養育費の支払いが滞ってしまった場合に、保証会社が受取人に対して養育費を代わりに支払ってくれる民間のサービスです。
日本では、平成30年頃に始まったばかりの新しいサービスですので、具体的な内容を正しく知っている人はまだ多くないようです。
そこでまずは、養育費保証サービスとはどのようなサービスなのかを詳しくご説明します。
(1)養育費の不払いに悩むひとり親を支援する制度
養育費の不払いはいまの日本では大きな社会問題のひとつであるといえます。
たとえば、厚生労働省の平成28年国民生活基礎調査によると、ひとり親世帯の貧困率は50.8%で、母子世帯において離婚した父親から現在も養育費を受け取っている割合は、24.3%となっています。
つまり、養育費を十分に受け取れていないことが、ひとり親世帯の貧困の要因のひとつであると考えることもできるわけです。
そこで、養育費の不払いに悩むひとり親を支援したいと考えた民間企業が立ち上げたのが、養育費保証サービスです。
もっとも、養育費不払い問題という社会問題を解消するには、公的な制度の導入が臨まれます。
そこで国も、令和2年6月に「不払い養育費の確保のための支援に関するタスクフォース」を設置し、法務省と厚生労働省が連携して養育費不払い問題の解消に向けて取り組みを始めました。
また、令和2年1月、法務大臣の下に「養育費勉強会」が設置され、地方自治体や諸外国における養育費履行確保に向けた先進的取組について、自治体・研究者等からのヒアリングを実施しています。
地方自治体においても養育費不払い問題は重要な関心事となっており、ひとり親を支援するために具体的な取り組みを行う自治体が増えてきています。
いまのところ一部の自治体だけですが、養育費保証サービスを利用する際の保証料について補助金を支給するところもあります。
自治体による補助金制度が導入されたこともあってか、養育費保証サービスの事業に参入する企業も増えてきています。
(2)養育費保証サービスの基本的な仕組み
養育費保証サービスの仕組みを簡単にいうと、養育費の支払いが滞った場合に、保証会社が支払人に代わって養育費を立て替え払いし、その立替金については保証会社から支払人へ督促し、回収するということになります。
法律的には、次のように2つの契約を締結します。
- 受取人と保証会社との間で「保証契約」
- 支払人と保証会社との間で「保証委託契約」
受取人と保証会社との間では、「支払人が養育費を支払わない場合に所定の金額を支払います」という保証契約を結びます。
ただ、支払人に無断でこのような契約をすると、保証会社が立替金を支払人から回収できないというリスクが高くなります。
そこで、保証会社が養育費の支払い義務を保証することについて支払人の了解を取り、併せて立て替え払いをした場合にはその金額を償還してもらうことを約束するために、支払人と保証会社との間で保障委託契約を結びます。
借金をする場合に例えていえば、次のように考えると分かりやすいでしょう。
- 受取人=貸主
- 支払人=借主
- 保証会社=保証人
このように、養育費保証サービスは受取人と保証会社だけの契約で利用できるわけではなく、支払人も契約に参加しなければならないというところに大きな特徴があります。
(4)サービスの運営主体は民間企業のみ
このように養育費の不払いに悩むひとり親を支援するための仕組みは、本来は国または地方自治体による公的な制度によることが望ましいといえます。
しかし、いまのところ国・自治体では制度導入の検討段階であり、実際にサービスを運営しているのは民間企業のみとなっています。
(5)自治体が保証料を補助してくれるところもある
自治体の取り組みとしては、養育費の受取人が民間の養育費保証サービスを利用する際に負担する保証料について、補助金を支給するという形でひとり親への支援を行っているところがあります。
保証料の補助を行っている自治体としては、一例ですが以下のところがあります。
- 宮城県仙台市
- 東京都港区
- 東京都府中市
- 神奈川県川崎市
- 静岡県浜松市
- 愛知県大府市
- 大阪府大阪市
- 兵庫県明石市
- 兵庫県神戸市
- 福岡県福岡市
他にも続々と保証料の補助を行う自治体が増えつつありますが、全国的に見るとまだごく一部の自治体にとどまっています。
お住まいの自治体で補助を行っているかどうかは、役所の「子育て支援課」や「子ども家庭課」などの担当部署にお問い合わせの上、確認なさってください。
2、養育費保証サービスを利用する前にやるべき3つのこと
養育費保証サービスを利用するためには、事前に以下の3つのことを行っておく必要があります。
養育費が不払いになったときに急に保証会社に連絡しても立て替え払いしてくれるわけではありませんので、事前の準備が重要です。
(1)養育費について取り決める
まず第一に、受取人と支払人との間で、養育費について取り決めていなければなりません。
毎月いくらの養育費を支払うのかということを具体的に取り決めておく必要があります。
金額が決まっていなければ、保証会社も保証のしようがありません。養育費保証サービスは、何も取り決めがないのに相当額の養育費を支払ってくれるというものではないことにご注意ください。
(2)サービスの利用について相手方の同意を得る
前記「1」(2)でご説明したように、養育費保証サービスを利用するには支払人も契約に参加することが必要です。
そのため、支払人がサービスの利用に合意していることが大前提となります。
養育費保証サービスに申し込む前に、支払人に対してサービスを利用したいことや、支払人も保障委託契約を結ばなければならないことなどを説明して、同意を得ておきましょう。
(3)保証料を誰が負担するかを決めておく
養育費保証サービスを利用すると、保証料がかかります。
保証料の金額は保証会社や保証内容によっても異なりますが、おおよその相場は以下のとおりです。
- 初回保証料:養育費の1か月分の金額
- 毎月の保証料:1,000円程度
- 更新保証料:1年ごとに養育費の1か月分の金額の30%~50%程度
一般的には受取人が保証会社へ保証料を支払うことになりますが、そのお金を支払人と受取人のどちらが負担するのかも事前に決めておくべきです。
できれば、保証料の金額を養育費に上乗せして取り決めておくのが理想的ですが、そうすると支払人の同意が得られにくくなり、養育費に関する交渉も難しくなる可能性があります。
お住まいの自治体で保証料の補助を行っている場合は、補助を申請するようにしましょう。
3、養育費保証サービスの利用方法
次に、実際に養育費保証サービスを利用する際の手順をご説明します。
(1)必要書類を準備する
サービスに申し込むために必要な書類は、次の2つです。
- 養育費を取り決めた書面
- 本人確認書類
養育費を取り決めた書面とは、離婚協議書や合意書の他、家庭裁判所の調停調書・審判書・判決書などで、養育費の支払い義務と金額が明記されている書面のことです。
離婚協議書や合意書は、公正証書にしていなくても構いません。もちろん、公正証書にしている場合は公正証書で申し込みができます。
本人確認書類としては、運転免許証やパスポートなど一般的なもので構いません。
(2)申し込み後、審査結果を待つ
必要書類を準備したら、保証会社へ申し込みをします。
多くの保証会社では、ホームページ上でWeb申し込みができるようになっています。
申し込みの際に、支払人の勤務先や勤続年数、収入なども入力しなければならないことが多いので、事前にこれらの情報を確認しておきましょう。
申し込みが完了すると、保証会社において審査が行われます。審査は受取人ではなく、支払人について行われます。
養育費保証サービスは支払人による養育費の支払いを保証するものだからです。
この審査には通常、数日かかるようです。審査が終了すると、保証会社から通知があります。
(3)契約締結
審査が通ったら、契約締結手続きに移ります。
保証会社の指示に従って契約書を提出し、口座の手続きも行います。
(4)初回保証料の支払い
契約が完了したら、初回保証料を支払うことになります。
保証会社が初回保証料の入金を確認した時点で保証開始となるのが一般的です。
4、養育費保証サービスに申し込む前に知っておくべきデメリット5つ
養育費の受取人にとっては大きなメリットがある養育費保証サービスですが、その反面でデメリットもあります。
ここでは養育費保証サービスのデメリットを5つご紹介しますので、申し込み前にしっかり確認しておきましょう。
(1)相手方に利用を強制することはできない
養育費保証サービスは民間のサービスに過ぎないので、その利用を養育費の支払人(離婚した配偶者)に強制することはできません。
養育費保証サービスの利用には手数料の負担も発生しますから、こちらが希望していても相手方がそれを拒否してしまう可能性も決して低くないといえます。
また、裁判などで養育費保証サービスの利用を相手に強制することもできません。そのような権利は法律で認められていないからです。
したがって、養育費保証サービスを利用するには元配偶者とよく話し合って同意を得る必要があります。
(2)相手方の事情によっては審査に通らないこともある
養育費保証サービスを利用する際には、先ほどご説明したように、支払人が保証会社による審査を受けなければなりません。
支払人の収入や家計状況、勤務先などによっては、審査に通らない場合もあります。
その場合、養育費保証を受けたくても受けることはできません。
(3)保証料が高額な保証会社もある
養育費保証サービスは、公的なサービスではなく民間の営利事業です。
そのため、養育費保証サービスを利用する際には、保証料の負担を避けることはできません。
保証料の相場は前記「2」(3)でご紹介しましたが、その金額はあくまでも目安に過ぎず、実際には保証会社によって高低があります。
注意が必要なのは、養育費保証サービスはまだ新しい事業ですので、市場が熟しているとはいえず、保証料の適正額を判断しにくいということです。
そのため、業者選びを間違えると不当に高額な保証料を請求されるおそれもあります。
上記の相場も、もしかしたら適正額より高額であるのかもしれません。
今後、養育費保証サービスがさらに普及すると、保証料の相場も下がってくる可能性があり得ます。
養育費保証サービスを申し込む際には、できる限り多くの保証会社のホームページで保証料を確認し、妥当と思える金額の保証会社を利用するようにしましょう。
(4)契約の途中で解除されることもある
養育費保証サービスは期限の決められた契約であることが一般的です。
したがって、養育費保証サービスを利用していても、子が成人するまでの養育費を完全に保証してもらえるというわけではありません。
たとえば、保証料は支払えなくなると、保証契約は解除されてしまいます。
毎月の保証料はかかっても1,000円程度のところが多いですが、更新月にはある程度の金額が必要ですので、支払いが厳しい場合もあるでしょう。
また、保証額にも上限があるのが一般的であり、保証会社による立替金が一定額に達すると、やはり強制解約となる場合が多いようです。
その意味では、養育費の支払人が病気などで失職してしまったような場合のリスクに対する保証としては限界があるといえます。
また、契約によって個別の「免責事由」が設定される場合も多いと思われますので、サービスを利用する際には契約条項にも十分注意すべきでしょう。
(5)契約前の滞納分は立て替えてもらえない
ここまでの解説をお読みいただければお分かりかと思いますが、養育費保証サービスでは契約後の養育費のみしか保証されません。
契約前の滞納分を立て替えて支払ってもらうことはできないのです。
なかには、「養育費が不払いになったら、養育費保証サービスに頼めば安心」と考えていた方もいらっしゃると思いますが、この考え方は誤りということになります。
養育費保証サービスは、将来の不払いに備える保険のようなものと考える必要があります。
5、養育費保証サービスは本当に合法?
養育費保証サービスは民間の新しいサービスですので、現在の法律では十分に対応しきれない部分もあるのが実情で、今後新しい法的な問題が発生する可能性もあります。
日本弁護士連合会でも令和2年7月17日に「養育費保証サービスに関する注意喚起について」という文書を発表し、養育費保証サービスの法的な問題点等について指摘しています。
養育費保証サービスの内容が違法であると判断されても、利用者が罪に問われるようなことはありませんが、保証会社は事業から撤退する可能性があります。
せっかく契約しても、その保証会社が途中で事業を取りやめるおそれもないとはいえませんので、利用する際には注意が必要です。
少し難しい問題ですが、次の2点の問題は利用前に知っておいていただきたいと思います。
(1)保証会社の元夫(元妻)に対する取り立てが違法となるケース
業務(営業行為)として、他人の権利を譲り受けて回収する行為は、法令によって特別に認められた場合(サービサーの場合)を除いては、弁護士(および認定司法書士)以外の者が行うことはできません(弁護士法第73条)。
養育費保証サービスは、保証契約(に基づく求償権の行使)の形式を取っていますが、ケースによっては、上記のルールに抵触する可能性がないとはいえません。
たとえば、すでに未払いとなっている養育費までも保証の対象にするようなケースや、養育費の受取人と保証会社のみで契約が交わされているようなケースは、弁護士法第73条に違反すると判断される可能性があります。
(2)保証会社が交渉・文書作成を代行することが違法となるケース
現存する養育費保証サービスのほとんどは、保証契約に先立って養育費について支払人・受取人間の合意があることを前提としています。
しかし、今後は、養育費に関する相手方との交渉や、書面の作成などを請け負う業者が現れる可能性があります。
離婚協議の最中にある利用者にとってはこのようなサービスとワンセットになっている方が利便性も高いともいえるからです。
しかし、離婚に関する協議を業として行うことが認められるのは弁護士のみです。
したがって、このようなサービスは、いわゆる非弁行為として弁護士法第72条に違反する可能性がかなり高いといえます。
保証会社としては、顧問弁護士や提携弁護士を介してこのようなサービスを提供することが考えられますが、その場合には保証料がさらに高額化すると考えられます。
(3)利用するなら定評のある大手の保証会社を選ぼう
以上でご説明したように、現状において養育費保証サービスには違法のリスクがつきまとうといわざるを得ません。
保証会社も合法性には十分に配慮して事業を行っていますが、なかには零細な企業だと法的検討が十分でないところもあるかもしれません。
弁護士法等に抵触する業者と契約すると、途中で業者が違法性を指摘されて事業を取りやめて、それまでに支払った保証料が無駄になってしまうおそれがあります。
そのため、現時点で養育費保証サービスを利用するなら、定評のある大手の保証会社を選ぶのが無難でしょう。
具体的には、「養育費保証サービス」というワードでネット検索をして、上位にヒットするような業者は比較的安全と考えられます。
6、養育費保証サービスの利用をお考えなら弁護士に相談を
現時点では養育費保証サービスには問題点も潜んでいますので、養育費の支払いについて不安がある場合は、まずは弁護士に相談してみるのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、養育費保証サービス以外の方法で養育費を確保することも期待できます。
実際に不払いが発生した場合には、弁護士が「強制執行」を申し立てて支払人の給料や預金口座を差し押さえて、養育費を回収してくれます。
ただし、強制執行を申し立てるためには「債務名義」という、強制力のある書面を取得している必要があります。
債務名義に該当する書面には、家庭裁判所の調停調書・審判書・判決書・和解調書の他、公正証書もあります。
公正証書は調停や裁判をしなくても作成できますが、少し複雑な作成ルールがあります。
調停や裁判を行うにも、裁判所で複雑な手続きを行わなければなりません。
弁護士が付いていれば、これらの複雑な手続きを全面的にサポートしてくれます。
また、養育費の不払いは、支払人と受取人との間で離婚条項が適切に定められていなかったことが原因となっている場合も少なくありません。
離婚当事者同士のみの話し合いは感情的になってしまい、養育費の額を適切に決めることができていないことも珍しくないからです。
養育費についての交渉を弁護士に依頼すれば、それぞれのケースであらゆる状況を検討した上で、支払人と受取人の双方が納得できる公平な金額を提案することも可能です。
交渉は弁護士が依頼人に代わって行いますので、依頼人は相手方と顔を泡焦る必要もありません。
養育費について不安なことや、わからないことがある場合には、1人で悩みを抱えずに弁護士事務所の無料相談を利用してみましょう。
まとめ
養育費は子供を充実した環境の中で育てていくために欠かせないものです。
養育費保証サービスを利用する、しないにかかわらず、しっかりと養育費を受け取るためには、相手方としっかり話し合った上で、公平な取り決めをすることが重要なポイントとなります。
相手との話し合い・交渉がうまくいかない場合や、不安なことがある人も諦めずに、子供の将来のためにも弁護士の力を借りてみてはいかがでしょうか。