
育児と仕事の両立。
一言でいいますが、皆さんどうしているのでしょう?
答えはきっとただ1つ。
「子どもと会社に負担や迷惑をかけながらなんとなくやっていたら、子どもが成長していつの間にか楽になっていた。」
多くの人がたどった経験として、これが一番多いのではないかと思います。
しかし、できれば子どもにも会社にも、そして自分にも負担も迷惑もかけたくはないのです。
この記事では、育児と仕事に関する知識をフル活用して望んでいただけるよう、情報を整理していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。
関連記事目次
1、両立のための法的制度は整っているのか
(1)育児と仕事を両立させるための制度は整っているのか
育児と仕事を両立させるために、法律では制度としてさまざまなものが揃っています。
妊娠をしたら、医学的に母体に負担がかかるとされる時期から回復期まで産休や業務制限が制定され、赤ちゃんの成長に必要な時期は育児休業が制度化されています。
仕事に復帰しても、仕事中の授乳時間を確保する制度もありますし、時短勤務制度も確立しています。
子どもが一定の年齢になるまで、家庭との両立ができるよう、転勤や深夜残業なども制限され、子どもがかかりがちな病気の際は、有休とは別に看護休暇も設けられています。
最近では、幼稚園の入園式などに平日でも参加できるよう、育児目的休暇という制度もできました。
(出所:厚生労働省「両立支援のひろば」>「働く方々へのお役立ち情報」
→「妊娠・出産」Q1赤ちゃんができたら?(妊娠がわかった場合))
(2)招きやすい2つの誤解
- 就業規則に記載がないから駄目でしょ?
- パート・有期契約労働者・派遣労働者は関係ないよね
これらは誤解です! 就業規則に記載がなくても適用されます。
また、正社員だけではなく、パート(短時間勤務労働者)、有期契約労働者、派遣労働者などにも原則として適用されます(若干の例外はあります)。
2、両立制度の解説
本項では、具体的な両立制度について、詳しく説明していきます。
(1)妊娠中に仕事を続けるときに使える制度(残業制限・軽易業務への変更など)
①会社に申し出れば利用できる制度
a.妊娠週数に応じた回数の保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保
b.時間外労働、休日労働、深夜業(午後10時~午前5時までの労働)の免除
c.軽易な業務への変更
②主治医の指導があった場合に会社に申し出て利用できる制度
a主治医からの指導事項を守るための休憩時間の延長、勤務時間の短縮、作業の制限、休業等の必要な措置
b.通勤緩和のための措置(時差出勤、勤務時間の短縮、交通経路の変更など)
(2)産前・産後休業
①産前休業
出産予定日の6週間前から(*)、請求すれば休業できます。
請求の期限は特に定められていませんが、早めに会社に相談しましょう。
(*)双子以上の場合は14週間前からです。
②産後休業
産後8週間は原則として働けません。
本人の申し出の有無にかかわらず会社は本人を休ませなければいけません。
なお、6週間経過後に本人が希望し、医師が支障がないと認めた業務なら、働くことができます。
産後8週間又は6週間は、出産日の翌日から数えます。
(3)育児休業
原則として子供が1歳になるまで、従業員が希望する期間休業することができます。
①休業期間の例外
この「1歳になるまで」という期間には、次の例外があります。
a.パパ・ママ育休プラス
両親ともに育児休業をする場合で、一定要件を満たす場合は、子が1歳2か月になるまでの、育児休業することができます。
ただし、休業の期間は親1人につき1年間までです。
b.保育所等に入れない場合など、一定の場合
これらの場合には1歳6か月又は2歳まで、育児休業を延長することができます。
②特に注意すべき点
特に次の点は従業員も会社にもよく理解されていない方が見受けられます。注意してください。
a.就業規則の定めの有無を問わない
就業規則の定めの有無を問わず利用できます。
法律が定めた制度であり、従業員が事業主に申し出れば取得できます。
「当社の就業規則には育児休業の制度はない。」というのは、理由になりません。
b. 従業員の男女を問わない
従業員の男女を問いません。
c.配偶者が専業主婦や専業主夫であっても取得可
配偶者が専業主婦や専業主夫であっても取得できます。
d.有期契約労働者でも取得可
有期契約労働者でも次の2つの要件を満たせば取得できます。
「同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること」
「子が1歳6か月に達する日までに労働契約期間が満了することが明らかでないこと」
ただし、入社1年未満の従業員、1週間の所定労働日数が2日以下の従業員については、制度を利用できないとする労使協定がある場合は取得できません。
(4)復職してから使える制度(短時間勤務・残業や深夜業の制限・看護休暇)
復職してから育児と仕事を両立するために使える制度には次のようなものがあります。
いずれも従業員が申し出れば利用できます。
有期契約労働者でも利用できます。
ただし、制度ごとに若干の相違があります。
*入社1年未満の従業員、1週間の所定労働日数が2日以下の従業員については、制度を利用できないとする労使協定がある場合は利用できません。 パートタイマーの場合、短時間勤務制度は、1日の所定労働時間が6時間以下の方は利用できません。
①短時間勤務制度
1日の所定労働時間を原則として6時間とするように短縮する制度です。
3歳未満の子どもを育てる男女従業員が利用できます。
配偶者が専業主婦(専業主夫)であっても利用できます。利用できる期間は子どもが3歳になるまでの間で従業員の申し出る期間となります。
②残業(所定外労働)の制限
3歳未満の子どもを育てる従業員は、残業(就業規則等で定めた所定労働時間を超える労働)を制限してもらうことができます。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合を除きます。
③深夜業の制限
小学校就学までの子どもを育てる従業員は、深夜(午後10時から午前5時)に労働しないとすることができます。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合を除きます。
④子の看護休暇
小学校就学前の子どもを育てる従業員が利用できます。
小学校就学前の子どもが1人の場合は1年度に5日まで、2人以上の場合は10日まで、子どものための看護休暇を1日又は半日単位(所定労働時間の2分の1)で取ることができます。
3、制度を利用しやすくする仕組み(マタニティ・ハラスメントの禁止)
制度が揃っていても、会社のメンバーの理解が得られなければどうにもできません。
利用しちゃいけないかな、頑張っていますとアピールしないとクビになるかな、などといちいち気にしていては、安心して出産・育児をしていくことはできません。
そのため、この点についても法律によって制度化されています。
(1)禁止行為その1「不利益取扱い」の事例
事業主は、妊娠・出産・育児休業等を理由として従業員に解雇その他の不利益な取扱いをしてはいけません(男女雇用機会均等法第9条3項)
①対象となる事由
大変広範です。母体保護等に関するほぼすべての事由と考えてください。
制度利用の請求などに対する不利益取扱いなども該当します(「請求するならボーナス減らす!」といった類です)。
以下、対象となる事由の例です。
- 妊娠
- 出産
- 健康管理措置
- 産前産後休業
- 軽易業務への転換
- 時間外・休日労働・深夜業の制限
- 育児時間
- 妊娠出産に起因する症状により労務提供困難・労働能率低下等(妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等)
②禁止される「不利益取扱い」
- 解雇
- 有期契約労働者の契約更新拒絶
- 労働契約内容の不利益変更
- 降格
- 減給
- 不当な人事考課
- 不利益な配置転換
など、広範に及びます。
派遣労働者について「派遣先が当該労働者の役務の提供を拒むこと」も該当します。
(2)禁止行為その2「言動によるマタハラ」の事例
「職場において行われる上司・同僚からの言動により、妊娠出産した女性労働者や育児休業等を取得した男女労働者等の就業環境が害されること」です。
この言動によるハラスメントを(2)の「不利益取扱い」と分けて「狭義のハラスメント」と呼ぶこともあります。
様々な言動が該当しうること、上司のみならず同僚の言動も該当しうることに注意してください。
①「制度等の利用への嫌がらせ型」
次のように、広範な内容を含みます。
「嫌みや皮肉を言うなどで、制度を使えないようにしむけること」とお考えください。
- 労働者が制度利用を請求したり、実際に利用することに対して、上司がその労働者に対して解雇その他不利益な取扱いを示唆すること。
- 制度利用の請求や実際の利用を阻害すること。
- 制度等を利用したことにより、嫌がらせなどをすること
【実例】
- 産前休業の取得を上司に相談したところ、「休みを取るならやめてもらう」と言われた。
- 時間外労働の免除について上司に相談したところ「次の査定の際は昇進しないと思え」と言われた。
- 労働者が制度利用について上司に相談したところ、利用しないように言われた。
- 同僚に制度利用を請求したい旨伝えたところ、同僚が繰り返ししつこく「請求するな!(私たちに負担がかかる、迷惑だ!)。」と言われた。
- 上司・同僚が「時間外勤務を制限している人には大事な仕事は任せられない。」とか「自分だけ短時間勤務をして周りに迷惑だ。」等としつこく言って、就業上見過ごせないほどの支障が生じている。
- 男性従業員が育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業を取るのか。ありえない。」と言われて、取得をあきらめざるを得なかった。
マタハラは女性(母親)だけの問題ではありません。
男性(父親)へのハラスメントとして「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)」とも呼ばれます。
(注)パタニティ(Paternity)は英語で“父性”です。男性の父性発揮の権利や機会を、妨げることを、パタニティ・ハラスメントと呼びます。
関連記事②「状態への嫌がらせ型」
女性労働者が妊娠・出産したこと等に関する言動で就業環境が害されるものを言います。
女性労働者が上司に妊娠を報告したところ、上司が「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない。」と言うのが典型的な例です。
上司・同僚が「妊婦はいつ休むかわからないから仕事は任せられない。」とか「妊娠するなら忙しい時期は避けるべきだった。」と繰り返し又は継続的に言って仕事をさせない状況になっている等です。
微妙な事例も、幅広くハラスメントに該当しうることに注意すべきです。
4、大切なのは、あなたの「気持ち」
育児と仕事の両立は、独身で働いている頃とは違う大変さがあります。
周囲に同じようなママがいない職場では、制度の利用に躊躇してしまったり、同じようなママが大勢いる企業でも、あの人は楽々こなしていそうなのに自分がこんなに大変なのはなぜ?要領が悪いの?と自分を責めてしまったり。
思うように育児ができないジレンマも、周囲の協力を得られない悔しい気持ちも、仕事をしながら育児をして、きっと初めてわかったことなのだと思います。
そんなあなたの気づきは、きっとこれから子どもたちが育児をするときになったときに、よりよい環境になっていくために必要なことです。
もし、制度の利用を阻むような企業であれば、弁護士に相談してください。
未来のために、企業体質を改善すべく、ともにたたかいましょう!
まとめ
学校教育も男女の差を問わないようになり、女性が社会で活躍することは当たり前の時代になってきました。
出産した後も、自分の力を試したいと仕事を継続することは、ごく自然な気持ちです。
制度は整っているはずなのに、人間の気持ちが追いつかない。
今はそんな時代ではないでしょうか。
仕事は人を成長させます。
その成長は、子育てにもきっと良い影響を与えます。
あなたの心に従って、楽しく仕事と子育てを両立されることを願っています。