「監護権」を手に入れて、子供と一緒に暮らしたくありませんか?
「妻には子育てを任せられない」
「何より自分が子供と離れたくない」
そんな思いから、離婚時に親権の獲得を目指す男性は案外多いものです。
しかし、現実にはどうしても離婚後の親権は母親の方が認められやすく、何か手立てはないかと調べているうちに、「監護権」というキーワードが目に付き気になっている方も少なくないでしょう。
そこでこのページでは、
- 監護権とはどのような権利なのか
- 親権と監護権を分けた場合のメリット・デメリット
- 親権者・監護権者の決め方
- 親権・監護権が獲得できない場合の対処法
について、詳しく解説していきます。
この記事が、今まさに妻と離婚の話を進めているみなさんにとって、子供と離れ離れになるのを避けるための今後の行動に、良い影響を与えられたら幸いです。
また、そもそも父親が親権を取るのが難しいのは一体なぜなのか、その理由と打開策についてもこちらの関連記事でご紹介しています。ぜひあわせて参考にしてください。
目次
1、監護権とは何か|親権との違い
それでは早速、監護権の概要から押さえていきましょう。
(1)監護権
監護権(かんごけん)とは、民法第820条に定められている子供に関する権利のひとつで、具体的には子供と生活を共にし、その子供の世話や教育を行う権利・義務のことを指します。
(監護及び教育の権利義務)
第820条
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
引用:民法
(2)親権との違い
先ほどの説明をふまえて「それって親権とどう違うの?」と疑問に思われた方も多いかもしれませんが、監護権は、親権を構成する大きな2本の柱のうちのひとつで、親権の中に含まれる権利です。
普段私たちが「親権」と一括りにしているものの中には、厳密に言うとまず「財産管理権」と「身上監護権」の2つがあり、後者の「身上監護権」のほうがここでお話している監護権にあたります。
親権に含まれる個別の権利についてはまた後ほど詳しくご紹介しますので、そちらを参照してください。
(3)監護権と親権について誤解しやすいこと
親権の中に属している監護権ですが、法律上は親権と監護権を分けて考えることもでき、たとえば親権を母親に、監護権を父親に与えることも可能です。
このようなケースでは、実際に子供を引き取り一緒に暮らしていくのは監護権を有する父親のほうになります。
親権と監護権を分けたのに、その意味を理解していなかった母親が「親権を取った=子供と暮らせる」と誤解し、離婚が成立してから勘違いに気付いて焦る…というパターンも珍しくはないので、気を付けておく必要があるでしょう。
2、監護権とは違う~親権者に与えられる具体的な権利
ここからは、先ほども少しお話した親権の具体的な中身について、掘り下げてチェックしていきます。
(1)財産管理権
親権の2本柱のうちのひとつが財産管理権で、子供の財産を管理する権利のほか、子供が契約や訴訟といった法律行為を行う必要があるときに、その行為に同意する権利も含まれます。
法律行為とは、よくある例でいうとアルバイトなどの労働契約で、未成年の場合はこの財産管理権を有した親権者による同意がなければ契約を結ぶことができません。
(2)身上監護権(監護権)
2本柱のもう片方が、今回テーマとなっている監護権です。
監護権の中にはさらに4つの権利があり、それぞれ次のような特徴があります。
①居所指定権
子供の世話・教育のために、子供の居所(=住む家)を指定する権利です。
②懲戒権
子供のしつけを行い、子供が悪いことを行ったときには必要に応じて叱ったり懲戒を加えたりする権利です。
③職業許可権
子供が何らかの職業に就くことを許可する権利です。
子供の成長に害が及ぶ・利益にならないと判断される場合、就業を制限することができます。
④身分行為の代理権
子供が婚姻・離婚・養子縁組などの身分行為を行う際、それに同意し代理で手続きを行う権利です。
よくある例で言うと、未成年の結婚には必ず親(=監護権者)の同意が必要になります。
3、監護権と親権を分離するメリットデメリット
それでは、親権の中から監護権を分離するメリット・デメリットにはそれぞれどのようなものがあるのでしょうか。詳しく解説していきます。
(1)メリット
夫婦が離婚するにあたって、その子供の親権をどちらが持つかは大きな問題のひとつです。
双方譲らず、いつまで経っても話が平行線のままでは、離婚自体の成立もどんどん後延ばしになってしまいます。
そんなときに親権と監護権を分けて持つというのはひとつの落としどころとなり、子供の側から見ても両方の親とのつながりを感じやすくなるため、気持ちの上で安心するケースが多いでしょう。
(2)デメリット
普段子供と一緒に生活することになる監護権者からすれば、子供の財産や法律行為に関する手続きを行うたびに、親権(財産管理権)を持つほうの親に連絡を取り、同意を得る必要があるところが大きなデメリットとなります。
たとえば子供がトラブルに巻き込まれて訴訟を起こす・子供の財産を売却するといったケースでは親権者の同意が欠かせないため、手間が増えて面倒に感じてしまうこともあるでしょう。
4、監護権のもととなる監護者と親権者の判断基準
親権者と監護者は基本的に夫婦間の話し合いで決定しますが、話がまとまらず調停や裁判へ発展した際には、それぞれ以下の事情が考慮されます。
(1)親の事情
どちらの親が親権者・監護者にふさわしいか、判断するための最大のポイントは「子供の利益・幸福の実現」です。
そのため、親側の事情としては以下の項目の度合いが主な基準となるでしょう。
- これまでの子供との関わり方
- 子供に対する愛情
- 親自身の健康状態・精神状態
- 経済力
- 家事などの生活能力
- 住宅環境
- 子育てを手伝ってくれる人がいるか
- 再婚の可能性
(2)子の事情
親権者・監護者の決定には、子供自身の希望も考慮されます。
ただ、その度合いは子供の年齢によって少しずつ異なりますので、具体的には以下を参考にしてください。
- 0~10歳:子供の意思に関わらず母親が親権者・監護者として認められやすい
- 10~15歳:子供の意思をある程度尊重
- 15歳以上:調停・裁判では必ず子供の意思を確認する必要があり、その希望を尊重する
5、監護権のもととなる監護権者・親権者を決める方法|具体的な手続き
ここからは、親権者・監護権者を実際に決定するための流れについても見ていきましょう。
(1)協議|夫婦での話し合い
離婚届には子供の親権者を記載する欄があり、夫婦に子供がいる場合はこの欄が埋まっていなければ届を受理してもらうことができません。
一方、監護権のほうは離婚届に個別の欄が設けられているわけではなく、役所に届け出る必要もないため、親権と監護権を分ける場合にはまず離婚協議書を作成し、その内容を離婚協議書に残しておくのが原則です。
親権・監護権を分離するかどうかも含めて、まずは夫婦で話し合いましょう。
(2)調停
話し合いで親権者が決まらなかったときには、家庭裁判所に申し立てを行い、離婚調停の中で改めて協議を重ねていきます。
調停の期間や回数についてはケースバイケースですが、子供の親権が絡んでくる場合には家庭裁判所による実態調査なども行われるため、一般的に長引く傾向があるでしょう。
(3)訴訟
調停が不成立に終わったときには、最後の手段として離婚裁判を行います。
この裁判で下される判決によって、どちらが親権者となるかの決着がつきます。
6、監護権や親権は変更できる
離婚時に決めた親権者・監護者は、家庭裁判所に「親権者変更調停」を申し立てることで変更することも可能です。
ただし、調停前にあらかじめ当事者間で親権者を変更することに合意していたとしても、それだけで家庭裁判所が変更を認めてくれるわけではなく、子供にとって本当に有益となる判断を下すため、必ず家庭裁判所調査官による家庭訪問や父母・子供との面会が行われます。
こういった調査の結果、以下のようなケースに該当する場合は申し立ての希望通りに親権者変更が認められることもありますが、基本的に家庭裁判所は一度決定した親権者を簡単に変更すべきではないという考えに基づき判断を行うため、変更が認められないケースも実際には多いでしょう。
【親権者の変更が認められやすいケース】
- 親権者がギャンブルや恋愛にのめり込み、子供の世話を放棄している
- 親権者が子供を虐待している
- 親権者が死亡した
詳しくはこちらの記事でも解説していますので、あわせて参考にしてください。
7、監護権があるのに監護を怠ると刑事罰となることも!
監護権は、子供の親にとってその子供と日々の暮らしを共にできる権利であり、同時に義務でもあります。
そのため、監護権を有する者が子供の世話や教育を怠り、結果として子供の生命や安全が危険にさらされた場合は、刑法に定められた「保護責任者遺棄罪」で処罰されることがあるのです。
離婚後に子供の監護権を得るということは、それだけ重い責任を自分1人で背負っていくことであると言い換えることもできます。
その覚悟が本当に自分にあるのかどうか、親権・監護権の獲得を目指す前に改めて考えておきましょう。
8、監護権が獲得できない場合は面会交流の検討を!
どうしても監護権の獲得が難しそうな場合には、普段子供と離れて暮らしているほうの親が定期的に子供と会い、交流する機会を設ける「面会交流」の希望を主張するのもひとつの方法です。
これは子供の健全な成長にとって、両方の親と良好な関係を築いていくことが望ましいという考えから認められている権利で、面会交流が子供に有益である限りは、監護権者による拒否もできないようになっています。
離婚時に感情のもつれがあると、監護権者がもう一方の親に対して「なるべく子供とは会わせたくない」という気持ちを抱くこともありますが、話し合いで面会交流の頻度や時間・宿泊の有無などの条件がまとまらないときには、家庭裁判所に申し立てて調停で内容を調整していくことも可能です。
一般的には月に1回ペースで面会交流を行うケースが多く、子供との関係が良好な場合は宿泊を伴うことも珍しくありません。
これらを参考に、ぜひみなさんも定期的な面会交流を検討してみてください。
9、監護権や親権について話がまとまらないときは
ここまでご紹介してきた内容はもちろん、それ以外でも離婚時の親権・監護権について相手と話の折り合いがつかないときには、弁護士に相談を行うのがおすすめです。
弁護士=裁判というイメージがある人も多いかもしれませんが、夫婦間の話し合いの段階で1度相談しておくことで、どのように話を進めるのがベストなのか、豊富な解決事例に基づいたアドバイスを受けることができます。
よくある落としどころや交渉のコツなども押さえることができ、スムーズな問題解決を目指すことができますので、なるべく早く・有利な条件で離婚を成立させたいというみなさんは、ぜひ弁護士のところに足を運んでみましょう。
また、その際は以下の関連記事でご紹介している離婚に強い弁護士と出会うためのポイントにもあらかじめ目を通しておくと安心です。
監護権のQ&A
Q1.監護権の意味は?
監護権(かんごけん)とは、民法第820条に定められている子供に関する権利のひとつで、具体的には子供と生活を共にし、その子供の世話や教育を行う権利・義務のことを指します。
Q2.監護権と親権を分離するメリットデメリットは?
メリット
夫婦が離婚するにあたって、その子供の親権をどちらが持つかは大きな問題のひとつです。
双方譲らず、いつまで経っても話が平行線のままでは、離婚自体の成立もどんどん後延ばしになってしまいます。
そんなときに親権と監護権を分けて持つというのはひとつの落としどころとなり、子供の側から見ても両方の親とのつながりを感じやすくなるため、気持ちの上で安心するケースが多いでしょう。
デメリット
普段子供と一緒に生活することになる監護権者からすれば、子供の財産や法律行為に関する手続きを行うたびに、親権(財産管理権)を持つほうの親に連絡を取り、同意を得る必要があるところが大きなデメリットとなります。
たとえば子供がトラブルに巻き込まれて訴訟を起こす・子供の財産を売却するといったケースでは親権者の同意が欠かせないため、手間が増えて面倒に感じてしまうこともあるでしょう。
Q3.監護権や親権は変更できるの?
離婚時に決めた親権者・監護者は、家庭裁判所に「親権者変更調停」を申し立てることで変更することも可能です。
ただし、調停前にあらかじめ当事者間で親権者を変更することに合意していたとしても、それだけで家庭裁判所が変更を認めてくれるわけではなく、子供にとって本当に有益となる判断を下すため、必ず家庭裁判所調査官による家庭訪問や父母・子供との面会が行われます。
まとめ
通常はセットで考えられている親権と監護権ですが、事情がある場合にはこれらを分けることもでき、離婚後に子供と生活を共にするのは監護権を有するほうの親になります。
そのため、どうしても子供と一緒に暮らしたいという場合には、親権の中でも特に監護権の獲得が必須です。
ただ、親権・監護権に関する話し合いが決裂して調停や裁判へと発展した場合、子供にとって不安定な状況が長引く原因にもなってしまうので注意してください。
自分自身の希望はもちろん大切ですが、何より一番は子供本人が安心して暮らしていけることであるという基本をふまえた上で、子供の親権・監護権について今一度よく話し合ってみましょう。