「名誉毀損で慰謝料を請求されたが払えそうにない」とお悩みでしょうか?
相手の名誉を傷つける言動をすると、名誉毀損罪という犯罪が成立するだけでなく、民事上の慰謝料支払い義務も発生します。
軽い気持ちでしたSNSでの書き込みであっても、逮捕される可能性がある上に、被害者から慰謝料を請求されることもあります。ただし、適正な金額の慰謝料を支払えば、刑事責任を回避できる可能性を高めることができます。
そこで今回は、
- 名誉毀損罪で慰謝料が発生する理由
- 名誉毀損罪における慰謝料の相場
- 名誉毀損罪で慰謝料を支払えないときの対処法
などについて解説しています。
この記事が、名誉毀損をしてしまい、被害者から慰謝料請求などの法的手段をとられる可能性のある方のための手助けとなれますと幸いです。
名誉毀損については以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、慰謝料請求で悩む前に…そもそも名誉毀損罪とは?
名誉毀損罪とは、公の場において、事実を示して人の名誉を傷つけると成立する犯罪です。
たとえば
- 職場で「部長には愛人がいる」と大勢の前で発言する
- SNS上で「○○さんは会社の金を着服している」と書き込む
といった行為に成立する可能性があります。
(1)名誉毀損罪が成立する要件
名誉毀損罪は①「公然と」②「事実を摘示し、」③「人の名誉を毀損」すると成立する犯罪です(刑法230条1項)。
以下、それぞれの要件について解説します。
①「公然」
「公然」とは、不特定または多数の人が知り得る状態をいいます。
反対にいえば、特定かつ少数の人に対して伝えても「公然」の要件は満たされません。
ただし、伝えた相手が記者であるなど、結局不特定多数の人に広まると想定されるケースでは「公然」の要件を満たします。(前田雅英ほか編(2020年)『条解刑法第4版』弘文堂.696頁参照)。
②「事実を摘示」
「事実を摘示」とは、人の社会的評価を低下させる事実を告げることをいいます。
たとえば、不倫の事実や犯罪歴を広めるのが典型的です。
「無能」「給料泥棒」などと罵る言葉は、客観的事実ではなく個人的評価に過ぎないため、「事実を摘示」には該当しません。
ただし、軽蔑的な評価を示す行為は侮辱罪に問われる可能性があります。
注意していただきたいのが、「事実」は真実か虚偽かを問わない点です。
真実を伝えたとしても、相手の社会的評価が下がるのであれば名誉毀損罪に問われる可能性があります。
また、すでに一般的に広く知られている事項であっても「事実」にあたります。
伝える方法に制限はなく、口頭はもちろん、文書の配布やネット上の書き込みでも「事実を摘示」に該当します。
③「名誉を毀損」
「名誉を毀損」とは、「人」の社会的評価を害する危険を生じさせることです。
実際に社会的評価が低下していなくても、その危険があれば該当します。「人」には個人だけではなく、法人も含まれます。
ただし、本人の自己評価が傷つけられたに過ぎず、社会的評価が下がっていないケースは該当しません。
(2)処罰されないケース
上記の成立要件を満たしても、例外的に処罰されないケースがあります。
それは、摘示した事実が①「公共の利害に関する事項」にあたり、②「公益を図る目的」が認められ、③「真実であると証明」できた場合です(刑法230条の2)。
これらの要件について、詳しく解説します。
①「公共の利害に関する事項」にあたる
「公共の利害に関する事項」とは、多数の一般人の利害に関係する事実をいいます。政治家のスキャンダルがわかりやすい例です。
異性関係などプライベートな事項であっても、その人物の社会的影響力によっては認められるケースもあります。
②「公益を図る目的」が認められる
公共の利益を増進させる動機・目的があったことが必要です。個人的な制裁や、読者の好奇心を満足させるといった動機でなされたケースでは否定されます。
主な動機・目的が公益を図ることであれば、他の動機が存在しても構いません。
③「真実であると証明」できた
摘示した事実が真実であることを、加害者側で証明できなければなりません。
もっとも、真実であると証明できなかった場合でも、確実な資料・根拠に基づき、勘違いをしたことに相当の理由が認められれば処罰を免れる可能性があります。
(3)名誉毀損罪の刑罰
軽い気持ちでやったとしても、名誉毀損はれっきとした犯罪であり、「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」の刑罰が科されます。罰金以外に懲役・禁錮が規定されており、軽い犯罪とはいえません。
2、名誉毀損罪で慰謝料を支払わなければならない理由
名誉毀損罪にあたる行為をすると、慰謝料の支払い義務が生じます。慰謝料が発生する理由や、支払わなかった場合に予想される結果などについて解説します。
(1)慰謝料とは
慰謝料とは、精神的な苦痛に対する賠償金です。
他人の名誉を傷つける行為は、民法上の不法行為に該当します。
不法行為においては、財産的な損害以外も賠償の対象となります。
したがって、名誉毀損行為をした場合には、精神的な苦痛に対する慰謝料を賠償しなければならないという民事上の責任が発生します。
(2)刑事事件で慰謝料を支払う意味
慰謝料は、加害者と被害者との間で民事上の責任として発生します。これに対して刑罰は国が加害者に科すものであり、被害者が科すものではありません。慰謝料と刑罰は、本来は別の問題です。
しかし、加害者が被害者に対して慰謝料を支払えば、告訴の取り下げが期待できます。名誉毀損罪は親告罪にあたり、被害者等の告訴がなければ刑事裁判にはできません。
したがって、慰謝料の支払いと引き替えに告訴を取り下げてもらえれば、処罰されず前科も付かないというメリットがあります。
(3)慰謝料を支払わないとどうなる?
慰謝料を支払わないと告訴の取り下げは期待できず、刑事裁判にかけられる可能性が高まります。
また、被害者への賠償をしていないことが刑事裁判においてマイナスにとられ、刑罰が重くなる可能性も否めません。
重い刑罰を受けないためには、慰謝料の支払いが非常に重要といえます。
3、名誉毀損罪で慰謝料はいくら支払えばよい?
「慰謝料の支払いが重要である」と聞けば、「いくら支払えばよいのか」と疑問が生じることでしょう。
結論としては、明確な基準はなくケースバイケースです。以下の説明はひとつの目安としてお考えください。
より詳しくご自身の場合の見込み金額を知りたければ、弁護士に相談するのがよいでしょう。
(1)民事上の慰謝料相場
刑事事件の告訴を取り下げてもらうために支払う金額に基準はなく、最終的には相手が許してくれるかの問題です。とはいえ、民事上の慰謝料相場は目安にはなります。
具体的な相場は、一般人同士の場合には10~100万円程度といえますが、数百万円に及ぶケースもあります。増減の要素を次に説明するので参考にしてください。
(2)慰謝料の増額につながる要素
増額につながる要素としては、以下が挙げられます。
- 被害者の職業
被害者が、芸能人などイメージが重要な職業に就いている場合には増額になりやすいです。
- 行為の中身
行為を何度も繰り返したり、内容が悪質であったりすると増額につながります。
- 被害者の不利益の大きさ
被害者が大きな経済的不利益を受けたり、自殺に至ったりすれば増額する方向に働きます。
(3)慰謝料の減額につながる要素
反対に、減額につながるのは以下の要素です。
- 内容の真実性
摘示した事実が真実である場合には、虚偽の場合に比べると減額につながります。
- 事後の対応
行為後にすぐに訂正して謝罪すれば、減額につながる可能性があります。
- 被害者側の過失
被害者側にも落ち度があれば減額されやすいです。
4、名誉毀損の慰謝料請求権に時効はある?
名誉毀損の慰謝料請求権は、時間が経過すれば時効が成立します。
ネット上の書き込みでは、長期間が経過した時点で訴えられるケースが少なくありません。
請求を受けた時点で時効期間が経過している可能性もあります。
(1)民事上の時効期間は3年
民事上の慰謝料請求権の時効期間は3年です。
期間は「損害および加害者を知った時」からカウントします。
ネット上の場合、被害者が書き込みの存在を知らなかったり、加害者を特定するのに時間がかかったりするケースがよくあります。
書き込みから3年が経過していても、時効が成立していない可能性があるので注意してください。
なお、その場合でも行為から20年を経過した場合には、慰謝料請求権は消滅します。
(2)告訴期間は6ヶ月
刑事上の告訴期間は6ヶ月です。期間は「犯人を知った日」からカウントします。
6ヶ月を経過すると被害者が告訴できなくなるため、加害者が名誉毀損罪で刑事上処罰される可能性はなくなります。
民事上の時効期間と同様に、ネット上の書き込みでは、すぐに告訴期間のカウントが始まらない可能性があるので注意してください。
(3)公訴時効期間は3年
公訴時効期間は3年です。期間は「犯罪行為が終わった時」からカウントします。
公訴時効期間が経過すると検察官が起訴できなくなるので、名誉毀損罪で刑罰を受ける可能性がなくなります。
ネットの書き込みについても、3年が経過すれば刑事処分を受けないことになります。ただし、3年が経過しても民事上の請求権が残っていて慰謝料を請求される可能性はあります。
5、名誉毀損罪で慰謝料を支払えないときの対処法
手元の金銭が足りず、被害者に慰謝料を支払えないケースもあるでしょう。そこで、名誉毀損の慰謝料を支払えないときの対処法をご紹介します。
(1)真摯に謝罪する
まずは、被害者に真摯に謝罪してください。名誉毀損の場合、被害者が表面上慰謝料を求めていても、実際には感情面の問題が大きいケースもあります。
自分の過ちを認めて誠実な態度で謝罪をすれば、慰謝料を支払わずに許してもらえる可能性はあるでしょう。慰謝料をゼロにしてもらえないとしても、被害者の感情に配慮して反省の姿勢を示すことは重要です。
(2)金額の交渉をする
被害者が求めている金額から減額してもらえないか交渉してみるのも有効でしょう。
被害者が当初請求している金額は、相場から見て高すぎるケースも多いです。
実際に裁判になれば請求金額よりも低くなる可能性があります。
加えて弁護士に裁判を依頼すれば費用がかかるため、被害者にも交渉に応じるメリットがあります。
一度、自分の資力に応じて減額の交渉をしてみることもひとつの方法です。
(3)分割払いの示談案を提示する
一括での支払いが難しければ、分割払いを申し入れることもひとつの方法です。
総額に納得ができれば、分割払いでも構わないと考える被害者も存在します。
ただし、無理な計画を組んで支払いが滞れば、再びトラブルになってしまいます。くれぐれも無理のない範囲での提示をするようにしてください。
6、名誉毀損罪の慰謝料問題で弁護士に相談するメリット
名誉毀損で慰謝料を請求されたら、弁護士にご相談ください。弁護士に依頼すると以下のメリットがあります。
(1)示談交渉を代行してもらえる
弁護士に依頼すると、示談交渉を自分の代わりにしてもらえます。
名誉毀損をした加害者本人が交渉の場に出ると、被害者も感情的になってしまい、話がまとまりづらくなりがちです。慣れていない方にとっては、交渉そのものが大きなストレスになります。弁護士が入って冷静に話し合えば、ご自身の負担を減らしつつ示談成立の可能性を高められます。
(2)慰謝料の減額が期待できる
弁護士に交渉を任せれば慰謝料の減額も期待できます。
被害者からの請求額は、相場から見て高すぎるケースが多いです。加害者も立場が弱いため、被害者からの高額な慰謝料で合意してしまうことが多いです。弁護士は裁判例などから導かれる相場を前提に交渉するので、不当に高額な慰謝料を支払わずにすむ可能性が高くなります。妥当な落としどころで交渉をまとめるためには、弁護士への依頼が有効です。
(3)後の紛争を防止できる
弁護士が交渉することにより、合意した内容を書面にすることができます。
慣れていない方が示談交渉をすると、合意をしてもその内容を書面にせず、書面にしていても争いが残る内容になっていることが多いです。そのため、後から慰謝料の支払いを巡って争いが生じることがあります。弁護士が交渉を行えば、合意した内容を争いが生じない内容で書面にしますので、慰謝料の支払いに関して根本的な解決が期待できます。
(4)不起訴処分の可能性が高まる
刑事事件において不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。
交渉がうまく進み「慰謝料の支払いと引き替えに告訴を取り下げる」との内容でまとまれば、起訴に告訴が必要な名誉毀損罪では不起訴処分となります。
弁護士に依頼すれば、民事上の慰謝料請求と刑事処分という、名誉毀損における2つの問題を同時に解決することも期待できるのです。
名誉毀損の慰謝料に関するQ&A
Q1.名誉毀損罪とは?
公の場において、事実を示して人の名誉を傷つけると成立する犯罪です。
たとえば
- 職場で「部長には愛人がいる」と大勢の前で発言する
- SNS上で「○○さんは会社の金を着服している」と書き込む
といった行為に成立する可能性があります。
Q2.慰謝料を支払わないとどうなる?
慰謝料を支払わないと告訴の取り下げは期待できず、刑事裁判にかけられる可能性が高まります。
また、被害者への賠償をしていないことが刑事裁判においてマイナスにとられ、刑罰が重くなる可能性も否めません。
重い刑罰を受けないためには、慰謝料の支払いが非常に重要といえます。
Q3.名誉毀損の慰謝料請求権に時効はある?
名誉毀損の慰謝料請求権は、時間が経過すれば時効が成立します。
ネット上の書き込みでは、長期間が経過した時点で訴えられるケースが少なくありません。
請求を受けた時点で時効期間が経過している可能性もあります。
まとめ
名誉毀損の慰謝料に関連して、名誉毀損罪の成立要件、慰謝料を支払う理由や相場、払えない場合の対処法などを解説してきました。
軽い気持ちであっても、名誉毀損行為をすれば民事上も刑事上も大きなペナルティがあります。問題が深刻化する前に、お早めに弁護士にご相談ください。