「鑑別所」と「少年院」の違いをご存じですか?
この記事では、
- 鑑別所の役割
- 少年院との違い
- 具体的な活動に加え鑑別所への収容を避ける方法
などについてわかりやすく解説します。
目次
1、鑑別所とは
鑑別所とは、冒頭でもご説明したように、非行を犯した少年(未成年者)を収容し、少年審判に備えて処分を決めるために必要な調査を行う施設のことです。
なお、ここでいう「少年」とは、20歳に満たない者のことをいいます(少年法2条1項)。
一般的なイメージとして、鑑別所も刑務所や少年院と同じようなところだと思われるかもしれませんが、それは誤解です。
鑑別所は収容されている少年に対して刑罰を与えるところでも教育を施すところでもなく、少年が非行に至った原因や更生の可能性などの調査を行う場所なのです。
以下、さらに詳しくご説明します。
(1)鑑別所の役割
鑑別所の最も重要な役割は、少年審判で適切な処分を決めるために必要な調査を行うことです。調査した結果は「鑑別結果通知書」という書類にまとめられ、家庭裁判所へ提出されます。
具体的にどのような調査が行われるのかについては、後ほど「4、鑑別所ではどんな調査が行われるの?」で詳しくご説明します。
また、鑑別所は少年審判の前に少年を収容する施設ですので、少年の逃亡や証拠隠滅などを防止し、確実に少年審判が開かれるように、少年の身柄を保護する役割も担っています。
さらに、鑑別所では矯正教育が行われるわけではないものの、少年の健全な育成への配慮として、生活態度への助言や指導、希望する少年に対しては学習等の機会の提供もしています。
鑑別を行う専門のスタッフが少年との面接において反省を求めることもありますし、日課として課される日記や作文においても、今までの反省や、今後どのように自分を改めるべきかを書くように指導しています。
(2)鑑別所被収容者の主な非行
どのような罪を犯すと鑑別所に収容されるのかは気になるところでしょう。
少年矯正統計表・少年鑑別所年報によれば、2019年において鑑別所に収容された少年の非行事実として多いのは、男女別に以下のようになっています。多い順にご紹介します。
【男子に多い非行事実】
- 窃盗
- 傷害
- 詐欺
- 道路交通法違反
- 恐喝
- 強制わいせつ・同致死傷
- 暴行
- ぐ犯(保護者の正当な監督に服しない、正当な理由なく家庭に寄り付かない、いかがわしい場所に出入りするなどの一定の事由(ぐ犯事由)があり、少年の性格や環境から見て将来罪を犯すおそれ(ぐ犯性)がある場合)
【女子に多い非行事実】
- 窃盗
- 傷害
- ぐ犯
- 詐欺
- 恐喝
- 覚せい剤取締法違反
- 道路交通法違反
- 暴行
窃盗には万引き、傷害・暴行には喧嘩など、比較的軽微な事案も相当数含まれていると考えられます。
また、ぐ犯という言葉は聞き慣れない言葉かもしれませんが、少年事件ではよく登場する言葉です。
保護者の正当な監督に服しない、正当な理由なく家庭に寄り付かない、犯罪性のある人と交際する、いかがわしい場所に出入りするなどの一定の事由(①ぐ犯事由)があり、少年の性格や環境から見て将来罪を犯すおそれ(②ぐ犯性)がある場合に、ぐ犯少年となります(少年法3条1項3号)。
つまり罪を犯しておらず成人であれば処罰の対象とならない場合でも、少年の場合には「ぐ犯少年」として鑑別所に収容され、少年審判を受けることもあるのです。
(3)少年院との違い
鑑別所と少年院はまったく別の施設であり、それぞれ異なる役割を担っています。
少年院は、少年審判の結果、矯正教育が必要であると判断された少年を収容する施設です。
矯正教育とは、非行を犯した少年の犯罪的傾向を矯正し、健全な心身を培わせ、社会生活に適応するのに必要な知識および能力を習得させることを目的として行われる教育のことです(少年院法23条1項)。
それに対して、鑑別所は少年審判の前に、少年を鑑別しその鑑別結果をまとめ、裁判所が適切に審判を行うための材料を提供するところです。矯正教育を主目的とする少年院とは異なります。
2、鑑別所に入所するタイミングは手続き上2回
次に、非行を犯した少年が、どのような流れで鑑別所に収容されるのかをみていきましょう。
(1)少年の刑事手続の流れ
まず、少年の刑事手続の全体的な流れをご説明します。通常の場合、以下の流れで手続が進められます。
1.逮捕
2.検察官に送致(逮捕から48時間以内)
3.勾留請求(検察官に送致されてから24時間以内。ただし、成人の場合と異なり、「やむを得ない場合」でなければ勾留請求できません(少年法43条3項))
4.勾留決定(勾留請求の日から原則10日間)(さらに勾留延長請求・同決定があると最大10日間の延長)(勾留請求同様、「やむを得ない場合」でなければできません(少年法48条1項))
5.家庭裁判所に送致
6.観護措置決定(収容観護として、少年鑑別所に送致する措置が通常)
7.少年審判
以上のうち、「4.勾留」までは成人の場合と同じです。異なるのは「5.家庭裁判所に送致」以降です。
少年事件の場合、検察官は捜査を終え犯罪の嫌疑があると判断したら起訴・不起訴を決めるのではなく、すべての事件を家庭裁判所に送致することとされています(少年法41条、42条)。
事件の送致を受けた家庭裁判所は、少年の身体を拘束する必要がある場合や少年の心身の鑑別を行う必要がある場合には、観護措置として、少年を少年鑑別所に送致する措置をとることがあります。
この措置が出ると、少年は鑑別所に収容されることになります。観護措置については、この後、詳しくご説明します。
その後、少年審判が行われ、次のいずれかの処遇が決められます。
- 保護処分(少年院送致、保護観察など)
- 刑事手続として検察官送致(刑事処分相当など)
- 児童福祉手続として児童相談所長送致
- 不処分
(2)鑑別所①〜勾留に代わる観護措置
上記では通常の流れをご紹介しましたが、例外的な流れとして、「3.勾留請求」の段階で検察官が勾留請求をせず、「勾留に代わる観護措置」を裁判所に請求することもあります(少年法43条1項)。
勾留の場合は被疑者の身柄を警察署の留置場または拘置所に拘束して取り調べなどの捜査を行いますが、勾留に代わる観護措置の決定が出た場合、対象少年は鑑別所に収容され、必要に応じて取り調べなどの捜査を受けることになります。
滞在期間は、勾留の場合は最大20日ですが、勾留に代わる観護措置の場合は10日に限られます。
もっとも、その後に検察官が事件を家庭裁判所に送致し、改めて通常の観護措置決定が出されることになります。
少年法上は勾留に代わる観護措置の方が原則とされていますが、実際には少年の身柄を拘束して取り調べる大半のケースで勾留が行われており、勾留に代わる観護措置が行われるケースは多くありません。
(3)鑑別所②〜観護措置
観護措置とは、少年事件の送致を受けた家庭裁判所が調査、審判を行うために少年の心情の安定を図りながら、少年の身体を保護してその安全を図る措置です。在宅観護(在宅のまま家庭裁判所調査官の観護に付すること)と、収容観護(少年鑑別所に送致すること)の2種類があります。実務上は、後者の収容観護が行われるケースが多いことから、観護措置というと収容観護を指すのが通常です。
家庭裁判所では、担当の裁判官が対象少年と面接を行い、「審判を行うため必要がある」と判断した場合に、観護措置決定を出します。
観護措置による収容期間は、少年法上は「2週間を超えることができない」とされており、「特に継続の必要があるときは、…更新されます」。
実務上はほとんどの事件で更新されており、観護措置による収容期間は、通常4週間として運用されています。
ただし、少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがある一定の場合には「特別更新」が認められており、その場合には最長8週間まで観護措置により鑑別所に収容されることもあります。
3、鑑別所ではどんな生活なの?
鑑別所は刑務所や少年院とは異なりますので、刑務作業などをさせられることはありません。
では、実際のところ、鑑別所に収容された少年はどのような生活を送るのでしょうか。
(1)1日のスケジュール
鑑別所での1日は、例えば以下のようなスケジュールで過ごすことになります。
- 7時 起床・洗面
- 7時30分 朝食・点呼
- 9時 運動
- 10時 面接や心理検査など
- 12時 昼食
- 13時 講話や学習支援など
- 14時30分 面会
- 15時30分 診察・入浴
- 17時 夕食・点呼
- 18時 日記記入・自由時間
- 21時 就寝
以上はあくまでも一例であり、日によって行うことは異なります。しかし、起床・就寝や食事の時刻は一定で、規則正しい生活をする必要があります。
それ以外の点では比較的自由に過ごすことができます。運動の時間もありますし、学校に通っている少年であれば、普段使っている教科書で勉強することもできます。幅広いジャンルの図書がそろっているので、読書もできます。
(2)私語について
刑務所や少年院では、入所者に規律を守らせるために、職員は非常に厳しい態度で接します。刑務所では刑務作業中の私語は厳禁ですし、少年院では終日、私語が禁止されています。
それに対して、鑑別所は少年審判に向けて調査を行うところであり、入所者はまだ処分を受けたわけではありませんので、そこまで職員が厳しい態度で接するわけではありません。
基本的に職員は、所内の規律を乱さない範囲で優しく接してくれます。
また、行動制限も厳しいものではなく、前記のように比較的自由に過ごすことができます。
ただし、所内の規律を守る必要上、自由行動の時間は守る必要があります。携帯電話などで外部と自由に通信することはできません。飲酒や喫煙が禁止されているのは当然です。
(3)面会はできるの?
鑑別所に収容されている少年とは、面会も認められています。
ただし、面会できるのは、弁護士などの付添人のほか、基本的に三親等内の親族(両親・兄弟姉妹・祖父母・叔父・叔母など)学校の先生や勤務先の上司などに限られています。
友人や交際している相手などは、警察署では面会できていたとしても、鑑別所では原則面会できません。
面会時間は鑑別所により異なりますが、だいたい平日の午前8時30分から12時までと午後1時から5時分までのうち、1日15分~20分程度に限られることが多いです。
また、面会中は、仕切りはありませんが、鑑別所の職員が立ち会います。面会の際の会話内容に制限は基本的にありませんが、不穏な内容の場合は注意を受け、指示に従わなければ面会を中止されることもあります。
4、鑑別所ではどんな調査が行われるの?
鑑別所で行われる「鑑別」とは医学、心理学、教育学、社会学などの専門的知識や技術に基づき、少年について、その非行等に影響を及ぼした資質上及び環境上問題となる事情(事件に至った背景)を明らかにした上、その事情の改善に寄与するため(今後の更生のため)、適切な指針を示すことです。
鑑別をするために、様々な調査を少年に対して行います。
具体的には、以下のとおりです。
(1)面接調査
鑑別技官や家庭裁判所調査官といった専門の担当者が、少年との面接を複数回行います。
面接の際には、
- 少年の生まれ育った環境から家族構成
- 最近の生活状況
- 学校や職場での状況や交友関係
- 事件を起こした原因や動機
- 事件についてどう思っているか
- 今後はどのような生活を考えているのか
などが聞かれます。
要するに、事件に至った背景や今後の更生のために必要なことを、あらゆる側面から聞かれることになります。
(2)心理検査
心理検査では、IQテストの他、性格や心理状況を明らかにするための様々な検査が行われます。
筆記検査もあれば、一定の作業を行わせる検査、鑑別技官との面談を通して行う検査もあります。
原則として、複数の入所者に対して同時に集団方式の検査が行われますが、必要に応じて個別に心理検査が行われることもあります。
(3)身体検査・健康診断
身体的に異常がないか、発育状況に問題がないかも調べられます。
(4)精神医学的検査・診察
精神的な問題を抱えている少年に対しては、必要に応じて精神科の医師による検査や診察によって精神医学的な調査も行われます。
(5)行動観察
鑑別所内での日常生活における行動や生活態度も観察され、調査結果に反映されます。
作文や絵画の作成などを通じて意図的に行動を観察する調査もあります。
(6)外部資料の収集
警察や検察の捜査記録や、少年が通院していた病院があれば診療録(カルテ)などを鑑別所が収集し、それらの資料も調査対象となります。
また、学校や職場、家族などに対しても聴き取り調査を行い、調査資料とされることがあります。
(7)判定会議
以上の調査で明らかとなった情報は、少年鑑別所長や鑑別担当者等で構成される「判定会議」で報告されます。
判定会議では調査結果に基づいて、少年が非行に至った原因や、再び非行に至る危険性、更生のために必要なことなどが審議されます。
その結果は最終的に「鑑別結果通知書」という書類にまとめられます。
鑑別結果通知書には、少年について鑑別所が相当と考える処遇方針等(少年院送致が相当かどうかなど)も記載されます。
この鑑別結果通知書が家庭裁判所に提出され、鑑別は終了します。
5、少年事件を起こしても鑑別所に入らないケース
ここまでは、事件を起こした少年が鑑別所に収容されるケースを念頭に置いてご説明してきましたが、必ずしも鑑別所に収容されるわけではありません。
少年事件を起こしても鑑別所に収容されないまま少年審判を受けるケースもあります。
ここでは、(1)鑑別所に収容されないのはどのようなケースかをご説明した上で、(2)観護措置決定が出てしまった場合に鑑別所行きを回避するためにはどうすればよいのかについても解説します。
(1)家庭裁判所による観護措置の決定がない
捜査段階で少年が勾留されていても、送致を受けた家庭裁判所が観護措置決定を行わず、そのために鑑別所に収容されないケースもあります。
観護措置決定が行われるのは、少年審判を行うために必要があるときに限られており、具体的には以下の①~④の要件を満たすときとされています。
- ①審判条件があること
- ②少年が非行を犯したと疑うに足りる相当の理由があること
- ③少年審判を行なう蓋然性があること
- ④観護措置の必要性が認められること
このうち、「④観護措置の必要性が認められること」という要件は、以下のいずれかの事由があるときに認められます。
- 身体を確保する必要があること(逃亡・証拠隠滅のおそれ、住所不定などの場合)
- 緊急に少年の保護が必要であること(自殺や自傷、家族から虐待を受けるおそれがある場合、不良集団等の影響で非行性が急速に進行する恐れがある場合など)
- 少年を収容して心身鑑別を行う必要があること(継続的な行動観察や社会と切り離して鑑別を行う必要性がある場合など)
以上の①~④の要件が認められない場合は、捜査段階で少年が勾留されていても、家庭裁判所が観護措置決定を行うことはできません。
もっとも、少年が勾留されているケースでは、家庭裁判所が以上の①~④の要件が認められると判断し、観護措置決定を行う場合が多いと思われます。
なお、少年事件全体のうち、観護措置決定が行われる割合は1割程度です。それは、全体的にみると軽微な事件や初犯の少年が多いことが理由であると考えられます。
(2)家庭裁判所による観護措置の決定取り消し
家庭裁判所による観護措置決定が出てしまった場合には、次の不服申し立てをすることによって、鑑別所からの釈放を求めることができます。
- 異議申立
- 観護措置取消申立
異議申立とは、観護措置の要件を満たしていないのに家庭裁判所が誤って観護措置決定を出したと主張することです。この申立をすると、最初に決定をした裁判官ではなく、他の裁判官が合議体で再度判断をします。
観護措置取消申立とは、観護措置決定は適法であるものの、その後の事情や調査の進捗などによって観護措置の必要がなくなった場合に、観護措置の取り消しを求めることをいいます。
もっとも、これらの不服申し立てが認められて少年が鑑別所から釈放されるケースは少ないのが実情です。
そのため、鑑別所行きを避けるためには、早期に適切な対処を行い、観護措置決定そのものを回避することが重要です。
6、鑑別所へは行きたくない!早期釈放を目指すなら弁護士へ相談を
誰しも、我が子が鑑別所に収容されることは避けたいと考えるでしょう。
万が一、鑑別所に収容されると、長期間学校や仕事を休まなければなりませんし、退学や退職に追い込まれるおそれもあります。そのため、できることなら身柄拘束は避けたいところです。
そのためには、弁護士に依頼することが有効です。
何らかの事件を起こしてしまっても、弁護士が早期に付添人として、示談交渉を含めた付添人活動を進めることによって、逮捕・勾留や観護措置などを避けることも可能になります。
観護措置決定が出てしまった場合も、上記の不服申し立てを付添人である弁護士が行えば、釈放される可能性も高まります。
早い段階で弁護士を味方につけて、可能な限りこれまでの生活の中で更生を目指しましょう。
まとめ
鑑別所は、刑務所や少年院のような厳しいところではありません。詳しい調査を行ってもらうことは、少年の更生に役立つことでもあります。しかし、一定期間、身柄を拘束されてしまうと、様々な不都合が生じてしまうことも事実でしょう。
もし、お子さんが逮捕されたり、鑑別所行きが心配なときには、できる限り早期に弁護士に相談された方が良いでしょう。