生前贈与とはどのような制度でしょうか。
相続税対策としてもっともポピュラーな生前贈与です。
ただ、生前贈与は、方法を間違えてしまうと多額の贈与税が発生してしまうことがあります。
ここでは、
- 生前贈与の基本的な知識
- 生前贈与をする際に発生する贈与税
- 贈与税のかからない生前贈与
など、上手な生前贈与を行うために知っておくべきポイントや対応について、資産承継に精通したベリーベスト法律事務所の弁護士が紹介いたします。
この記事が、生前贈与を活用して節税しつつ、大切な資産を大切な方へ残すためにお役に立てば幸いです。
※本記事は2017年10月16日に公開したものを2020年6月12日に加筆修正しました。
相続税の対策について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
1、生前贈与とは〜生前贈与のメリット
生前贈与とは、財産の所有者が生きているうちに財産を譲ることを言います。
大きく分けて、次の2つの目的でなされることが一般的です。
- 相続税の軽減
- 財産の分配を自らコントロール
(1)相続税の軽減
一つ目の目的は「相続税の軽減」です。
相続税は、亡くなったときの財産の額を基礎として計算するものです。
つまり、財産があればあるほど、相続人は相続税を支払うことになります。
ですから、生きているうちに財産を贈与しておくことで相続時の財産を減らせば、相続人が負担する相続税を減らすことができるわけです。
ただし、後述しますが、相続税は減らせても、贈与をすれば基本的に贈与税が発生します。
よって、生前贈与をする場合、贈与税のなるべくかからない贈与をしなければ、その意味は半減してしまうでしょう。
本記事では、この点どのように対策をしていくか、解説していきます。
(2)財産の分配を自らコントロール
相続は、放っておけば、民法に基づいて、金額的に法定相続人に公平に行き渡ります。
つまり、被相続人との親族関係に従い、法律で決められた割合を受け取ります。
しかし、自分の財産をどのように分配するか、自分で決めたい方も多いものです。
また、株式や不動産など物理的に分けることが難しいものについては、これはこの人に、と指定したい財産もあるでしょう。
この場合に便利なのが生前贈与です。
生前贈与をすれば、自分が望む相手に財産を贈与することができるからです。
ご存知の通り、これは、遺言によっても実現できます。
しかし、遺言によって財産を譲り渡すことを「遺贈」と言いますが、遺贈では、必ず「遺留分」の問題が発生します。
これに対し、生前贈与の場合、基本的に遺留分を気にする必要はありません。
ただし、亡くなる前1年以内に行った生前贈与や、遺留分権利者を害することを知ってなされた生前贈与は、やはり遺留分権者からの侵害額請求の対象になることから注意が必要です(詳細は後述します)。
生前贈与のメリットを最大限にするためには、この点にも注意して生前贈与をしていく必要があります。
2、生前贈与で注意すべきこと
生前贈与で注意すべきことは、ここまででも軽く触れたように、
- 贈与税
- 遺留分
この2点に尽きます。
以下、詳しくみていきましょう。
(1)贈与税
①贈与税の基本
贈与税は、財産を受けた人が支払います。
財産を贈与しようというのに、税金の負担を負わせてしまうのは忍びないと思う方は少なくありません。
特に、不動産など現金以外を贈与すれば、贈与を受けた人が身銭を切って贈与税を支払うことになってしまいます。
この点、贈与税の「非課税制度」(後述します)がありますから、上手に使っていきましょう。
そうすれば、相手に負担をかけない贈与を実現させることができます。
贈与税の税率についてはこちらをご覧ください。
②贈与するものによっては注意点がある
ⅰ)現金
- したつもり贈与
贈与は、贈る側の「贈る」という意思と、もらう側の「受け取る」という意思が合致して始めて成立する契約です。
例えば、親が子のために、勝手に子供の名義の口座を作ってお金を振り込んでいたような場合、子の側の「もらう」という意思が存在しないとして、税務署から、贈与契約が成立していないと解釈されてしまうことがあります。
そうすると、相続時に被相続人の財産として相続税が課税されてしまうのです。
このような場合を、「したつもり贈与」とか、「名義預金」などと呼びます。
税務署から贈与を否認されないためには、贈与契約書を作成しておくことや、子供名義の口座のカードや通帳を親や贈与した者が管理しておくことのないようにしてください。
- 手渡しでの脱税は違法
生前贈与を行おうとする方の中には、現金で手渡してしまえば発覚しないだろうと考え、贈与税の申告をしない人もおられるようです。
このような行為が、贈与税の脱税行為として違法であることは言うまでもありませんが、昔は、確かに、形に残らない金銭の授受であれば贈与自体が発覚しないということもあり得たと思います。
しかしながら、2018年からは、原則新規で開設する銀行口座にマイナンバーが適用されており、2021年以降は、既存の銀行口座にもマイナンバーが適用されることが予定されています。
既に、所得税の源泉徴収等の場面ではマイナンバーの適用が開始されており、収入自体を国家(税務署)に把握されやすくなっている中で、銀行口座等にもマイナンバーが適用されると、金銭の預入や引き出し状況まで国家(税務署)に把握されてしまうことになるでしょう。
そのため口座間の送金でなく、手渡しの贈与であっても、贈与する側が現金を口座から引き出したことや、贈与された側が口座に入金したこと等から税務署に発覚する可能性が高くなったといえます。
贈与税の申告をせずに現金を贈与したことが後で発覚すれば、本来の贈与税に加えて追徴課税も免れられないことを考えると、現金を手渡しする方法で生前贈与しながらこれを申告しないというのはリスクの高い行為といえるでしょう。
現金による生前贈与について、詳しくはこちらのページをご覧ください。
ⅱ)住宅や土地などの不動産
不動産は、その評価額が高額になることが多いため、贈与する場合は贈与税対策をすべきです。
その場合、後述する非課税制度を利用することになると思いますが、暦年贈与で行う場合は注意が必要です。
不動産を暦年贈与する場合、例えば、評価額2000万円の土地を19分の1(評価額は約105万円)ずつ毎年贈与することになります。
しかし、不動産の持分を暦年贈与していくことは、最初から土地全部を贈与するつもりがあり、単にそれを分けて行っただけと解釈される可能性もあります。
そうなれば、最初の年に、「19年間に渡って毎年その土地の19分の1ずつの給付を受ける権利」を贈与した、と判断されてしまう可能性があります。
さらに、不動産の生前贈与においては、贈与を受けた側に不動産取得税(不動産の評価額の1.5%)が発生します。
相続の場合では不動産取得税は発生しないので、この点にも注意が必要です。
ⅲ)生命保険
生命保険の生前贈与とは、保険料相当額を受取人たる相続人に生前贈与することを言います。
相続人が保険契約の契約者になりますので、受け取った生命保険金は相続人の固有財産であり、相続税の対象になることはありません。
暦年贈与の範囲内で保険料相当額を贈与すれば、贈与税もかからずにまとまったお金を残すことが可能となります。
なお、もう1つ生命保険を使ってまとまったお金を残す方法として、被相続人が保険契約者となり保険料を負担し続け、受取人を相続人とすることもできます(この方法には「(生前)贈与」の概念はありません)。
この場合は基本的に相続税の対象となりますが、法定相続人の人数×500万円分までの控除があります。
そのため、生命保険金額をこの範囲に留めれば、贈与税はもちろん、相続税もかかることはありません。
詳しくは、こちらのページをご覧ください。
④生前贈与にかかる税金の申告方法と申告時期
生前贈与にかかる贈与税は、贈与を受けた者が、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までに申告して納税しなければならないとされています。
贈与税の申告は、申告書を税務署に提出する方法(実際に提出する方法とe-TAXを利用してWEB上で提出する方法があります。)によって行い、提出先は、贈与を受けた者の住所を管轄する税務署になります。
(2)遺留分
遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に認められている最低限の遺産取得分を指します。
相続は、日本の家族制度上、一般的に家計を共にしていると考えられる者が家族の死後に経済的に困ることがないように設けられた制度です。
そのため、生前贈与や遺言によって、残された家族の生活が危ぶまれることがないよう、一定の相続人に「遺留分」という被相続人の意思では侵害することができない取り分が確保されています。
上でも軽く触れましたが、生前贈与は、何も亡くなる直前にするものだけを意味するわけではありません。
生きている間に行う贈与は、全て「生前贈与」ということができます。
生前の行為について遺留分を気にすることはナンセンスですから(生きている間に自己の財産をどのように処分しようが本人の自由です)、基本的に生前贈与では遺留分は考える必要はありません。
ただ、
- 相続開始(死亡時)から1年以内に行う生前贈与
- 遺留分権利者を害することを知ってなされた生前贈与
- 相続開始前10年以内の相続人に対する特別受益
は、遺留分侵害額請求の対象となります。
この点注意が必要です。
詳しくはこちらのページをご確認ください。
3、贈与税が非課税の贈与がある
前述の通り、贈与税には非課税制度があります。
つまり、贈与税のかからない贈与方法があるということです。
どのような贈与方法が非課税となるのでしょうか。
以下、みて行きましょう。
(1)暦年課税による110万円の基礎控除
贈与税は、1年間に受けた贈与額から110万円を引いた額に対して発生するので、年間110万円までの贈与には贈与税が発生しません。
このような贈与税の計算方法を暦年課税といいます。
贈与税は、贈与される側が支払うものですから、1年間に110万円までを複数人に贈与することで、1年間に110万円以上の相続財産を減らすことができます。
もし子どもが3人いるなら、3人に対して1年間に110万円ずつ贈与すれば、110万円×3=330万円を減らすことができるというわけです。
暦年贈与で注意すべきは、例えば、10年間に渡って110万円ずつ合計1100万円を贈与した場合です。
この場合、始めから1100万円を贈与するつもりがあり、それを単に10回に分けて支払っただけである、と解釈されてしまうと、最初の年に定期金に関する権利(10年間にわたり毎年110万円ずつの給付を受ける権利)を贈与されたと判断され、贈与税が課税されてしまうのです。
このような解釈をされないためには、贈与契約書を毎年きちんと作成しておくことや、年によって贈与する金額や時期を変える等、あくまで1年毎に贈与するかどうかを判断していることが必要です。
詳しくはこちらをご覧ください。
(2)相続時精算課税による2500万円の特別控除枠
相続時精算課税とは、60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
110万円の基礎控除との対比で特別控除とよばれています。
贈与税の申告時に暦年課税の方法をとらずに、相続時精算課税の方法をとることで、1年間に110万円以上の贈与を受けても贈与税を発生させないことが可能になります。
相続時精算課税を選択した場合、累計で2500万円までの贈与については、贈与の時点で贈与税を支払う必要はなく、相続時に(生前贈与で受け取ったものも含めて)相続したものとして計算された相続税のみを納めればよいとされています。
この制度は、まとまった額の金銭や土地等を生前贈与させたいなど、暦年課税制度の非課税枠では足りない場合に利用されます。
しかし、結局相続税は支払わなければなりませんから、基本的には相続税対策にはなりません。
税の支払いを先送りしていると考えるとわかりやすいでしょう。
メリットがあるのは、今後価値が上がる見込みの財産(不動産など)を贈与するときです。
相続時精算課税では、贈与時での財産評価のもと相続税が計算されます。
そのため、贈与時の財産評価で税金額が決まることはメリットなわけです。
また、収益物件では、その収益がこれ以上相続財産に加算されていくことはなくなりますから、いち早く手放すことにより相続税対策になる面もあります。
なお、いったん相続時精算課税の方法による贈与を選択した場合、その後に暦年課税に変更することはできなくなることに注意が必要です。
詳しくは、こちらをご覧ください。
(3)夫婦間贈与の特例による2000万円の配偶者控除枠
婚姻期間が20年以上の夫婦間において、居住上の不動産や、居住用の不動産を購入するための金銭を贈与する場合、基礎控除の110万円以外に、2000万円の控除(配偶者控除)を利用することができます。
この配偶者控除を受けるためには、贈与を受けた側が、贈与を受けた年の翌年の3月31日までに、その不動産に現実に居住し始めており、その後も引き続き居住する見込みがあることが必要です。
なお、この制度を利用した贈与は、同じ配偶者からは一生に一度しか受けることができません。
(4)祖父母等からの結婚・子育て資金に関する贈与税非課税措置
20歳以上50歳未満の者が直系尊属(父母や祖父母等)から贈与を受ける場合、結婚資金、出産資金、子育て資金として一括贈与されたものについては、1,000万円(結婚資金については300万円まで)までは贈与税が発生しないという制度を利用することができます。
この制度を利用する場合、単に現金を贈与するのではなく、結婚資金、出産資金、子育て資金として金融機関等で管理できる状態に置き、実際に結婚資金等に使用した場合、結婚資金等に充てたことを証明する資料(領収書等)をとっておき、金融機関等に提出しなければなりません。
なお、この制度は、2021年3月31日までに行われる贈与を対象とした期間限定措置とされています。
(5)祖父母等からの教育資金に関する贈与税非課税措置
30歳未満の者が直系尊属(父母や祖父母等)から贈与を受ける場合、教育資金として贈与されたものについては、1,500万円までは贈与税が発生しないという制度を利用することができます。
この場合も、結婚、子育て資金の贈与に関する非課税措置と同様、単に現金を贈与するのではなく、金融機関等で管理できる状態に置いた上で、実際に教育資金として使用したことを証明する資料をとっておき、金融機関等に提出しなければなりません。
なお、この制度は、2021年3月31日までの期間限定措置とされています。
(6)祖父母等からの住宅取得資金に関する贈与税非課税措置
祖父母や父母等の直系尊属から、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭を贈与された場合、非課課税限度額までの金額について、贈与税が発生しないという制度が利用できます。
非課税限度額は、購入した家屋が省エネ住宅かどうか、また、贈与を受けた側が住宅を購入した契約の時期によって変わります(下記参照)。
住宅用家屋の取得等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
平成28年1月1日〜令和2年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
令和2年4月1日〜令和3年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
令和3年4月1日〜令和3年12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
なお、この制度は、2021年12月31日までの期間限定措置とされています。
詳しくは、こちらをご覧ください。
4、相続開始前3年以内の生前贈与には注意
生前贈与を行う大きな目的の一つは、相続時の相続財産を減らすことで相続人の相続税の負担を減らすことができるという点にあります。
しかし、相続開始前(被相続人の死亡前)3年以内の生前贈与については、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となってしまいます。
とはいえ、次の制度により、この点について気をつけるべき生前贈与は、主に孫以外への暦年贈与(110万円までの贈与)に関してとなります。
(1)贈与税額控除
相続税を算出した後、贈与時に支払った贈与税額を相続税額から差し引く「贈与税額控除」という仕組みがあります。
よって、相続税と贈与税の二重課税にはなりませんから、贈与税を支払う贈与については特に問題はありません。
(2)贈与税非課税特例の場合は相続税の課税対象にはしない
上記で説明した「4」(2)〜(6)の特例で贈与をした場合は、相続税の課税対象にはしません。
(3)孫への生前贈与は相続税の課税対象にはしない
孫への生前贈与は、仮に亡くなる前3年以内のものであっても、例外的に相続税の対象とはなりません。
5、生前贈与の流れ
生前贈与を行いたい場合は、以下のような流れで行います(ここでは不動産の生前贈与の場合を例にとります)。
(1)誰に何を贈与するのかを決める
まずは、生前贈与を行うことによる節税効果や相続へ与える影響等について検討し、誰に、何を贈与するかを決めます。
(2)贈与契約書を作成する
贈与者(贈与する者)と受贈者(贈与される者)との間で贈与契約書を作成します。
(3)不動産等名義変更が必要な場合は名義変更手続きをする
贈与した財産が、不動産や株式など、名義変更が必要な財産である場合は、名義変更の手続きをします。
不動産であれば、所有権移転登記(名義変更)が必要です(登録免許税が発生します)。
(4)財産の引き渡し
贈与する財産を受贈者に引き渡します。
(5)税申告および納税
受贈者は、税の申告をし、納税をします。
贈与税については、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの申告です。
不動産の場合は、不動産取得税もかかりますので注意してください。
納税期限も早く、不動産を取得してから30日以内となります。
なお、贈与税非課税の特例を使う場合も同様です。特例を使う旨、申告書に記載することになります。
生前贈与の手続きの流れについて詳しくは、こちらをご覧ください。
6、生前贈与に関する相談先
以上のとおり、生前贈与は、相続税を軽減する目的や、自分の望む相手に財産を譲るといった目的で行われます。
ただ、税法に関する知識や民法の相続に関する知識を誤って理解していると、思わぬ形で税金がかかったり、遺留分等の問題で受贈者と相続人の間で後々にトラブルが起こったりする可能性があります。
本記事で概要はお伝えしましたが、大切なのは、どのように生前贈与をすれば一番無駄が少ないのかを細かく計算することと、また大前提として生前贈与以外の相続税を軽減させる方法も検討することです。
財産項目が少ない場合など、ご自身で計算が可能な場合もありますが、多額であったり複数の財産項目である場合は、税金の専門家である税理士に相談することが大切です。
そして、相続そのものにおける問題点については、法律の専門家である弁護士のアドバイスを受けながら行うことが重要です。
そのため、税理士と連携している法律事務所へご相談されることをお勧めいたします。
まとめ
生前贈与には常に贈与税の問題がつきまといます。
そのため、方法を誤ってしまうと、贈与を受けた側に思わぬ贈与税の負担が発生してしまうことがあります。
しかし、相続によって相続人間に争いが生じることや、相続人が相続税の負担に苦しんだりすることを事前に防止するために、生前贈与は有効な手段の一つです。
何より、誰にどれだけ財産を譲るかという点に、財産の所有者の意思をしっかりと反映させることができるというのが生前贈与のメリットです。
せっかく自らが築いた財産ですから、誰に引き継いでもらうかについてはできる限り自らの意思を反映させられるよう、贈与税の点に十分注意しながら、上手に生前贈与を行うことをおすすめします。