無過失責任(むかしつせきにん)とは、相手に与えた損害に故意や過失がない場合でも、その損害賠償責任を負うことをいいます。日本では原則的に「過失責任主義」が採用されていますが、「無過失責任」とするケースも例外的に規定されています。
交通事故においても「無過失責任」という言葉を聞く方も多いと思います。
交通事故は例外に当たる「無過失責任」なのでしょうか?
今回は、
- 交通事故で耳にする「無過失責任」とは?
- 交通事故での責任を回避する方法
について、解説していきます。ご参考になれば幸いです。
交通事故での過失割合でもめてしまうパターンと対処法については以下の関連記事で詳細に解説しています。ぜひご参考ください。
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1、無過失責任とは―交通事故における定義
交通事故で適用される民事法は次の2つです。
- 民法
- 自動車損害賠償保障法(いわゆる自賠法)
これらの法律で「無過失責任」が規定されているのでしょうか?以下、説明していきます。
(1) 民法では
交通事故は、民法では不法行為(民法第709条)にあたります。
民法の不法行為は、「故意または過失により」他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した場合は損害賠償の責任を負うことになっています。
このように、民法では故意または過失がなければならないため、「過失責任」となっています。
さらに、不法行為者に「故意や過失」があったことを証明するのは、損害賠償を請求する方(原告)です。
考えていただくとお分かりになると思いますが、相手に故意や過失があったことを証明することは、なかなか簡単ではありません。
このことから、民法だけを見ると「無過失責任」とは程遠い過失責任が貫かれています。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用元:民法709条
(2) 自賠法では
一方、自賠法第3条では、運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償しなければならないとされています。
民法709条の中にはあった、”故意又は過失によって”という文言がありません。
つまり、自賠法では、原告側が立証すべきは主に「運行によって生命等を害されました」ということであって、「故意または過失」については必要ないのです。
もちろん、日本は「過失責任主義」とっていますので、どんな場合でも賠償しなければならないというわけではありません。
同法同条にはただし書があり、運行供用者側が自分は悪くなかった、過失はなかったと証明すれば、賠償はしなくて良い、と規定されています。
ここで重要なのが、「立証責任」が誰にあるか、です。
民法では上記の通り、原告に立証責任がありました。
しかし、自賠法では、原告は、被告の故意や過失を立証する必要はありません。
賠償したくないのであれば、被告が自らの故意や過失がなかったことを立証しなければならないわけです。
自分に故意や過失がなかったことを立証するのも大変です。
「きちんと運転をしていた」という主張だけではもちろん不十分。
本当にきちんと運転をしていた「証拠」がなければ立証にはならないのです。
(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
(3) 自賠法第3条は無過失責任なのか?
このように、自賠法の責任を阻却するためには、運転者(被告)自身が故意や過失がなかったことを証明しなければなりませんが、これはやはり生易しいことではありません。
この意味で、無過失責任に「近い」と言われています。
交通事故においての「無過失責任」とは、噛み砕くと、以上の意味を表しているのです。
2、交通事故での責任を問われた際の対策
交通事故での賠償責任を回避するためには、次の3つについて証明することです(自賠第3条但書)。
- 自分や運転手が自動車の運行を健全に行っていた(交通ルールを遵守していた)
- 相手方や第三者に故意や過失があった
- 運転する自動車に故障や欠陥が一切なかった
ここではその3つについて、それぞれ詳しく見ていきます。
(1)一切の注意を怠らなかったことを証明する
例えば自分が車を運転していて、対向車と正面衝突をしたとします。
それにより相手の運転手が死亡し、その事故原因が、明らかに相手がセンターラインをはみ出していたことだったとしても、自分の無過失を証明できない限り、損害賠償責任を問われる可能性があります。
こういったケースでは、例えば
- 自分の車は車線内にいた
- 法定速度を守っていた
などを目撃者の証言や刑事記録などで証明することが必要です。
(2)相手方に故意・過失があったことを証明する
例えば、相手方に
- 赤信号を直進してきた
- 赤信号を横断してきた
- 速度を超過していた
など、明らかな故意・過失行為があったことを証明することです。
これらについても、目撃者の証言があったり、道路に残ったタイヤ痕などがあったりするとより効果的でしょう。
(3)自動車に欠陥や障害がなかったことを証明する
自身の運転していた車に構造上の欠陥がないことを証明する、また、法定点検を受けたことで整備が行き届いていたことを証明することです。
ドライブレコーダーを車に設置し、事故の証拠を映像として残しておくということも、これらを最大限証明するために、とても有効な手段です。こちらもぜひ覚えておいてください。
3、交通事故での無過失責任に納得がいかないケース
交通事故において、相手に損害を与えた場合は、無過失責任に近い責任を負うことはわかりました。
ただ、交通事故では、互いの過失割合が10:0になるケースはほとんどなく、お互いに一定の過失が認定されるのが一般的です。
つまり、被害者である方にも一定の過失が認定されてしまうわけです。
しかし、被害者と思われる方にも過失が認められたとしても、損害賠償額においては過失相殺で過失が大きい方が賠償することに収まるケースがほとんどです。
そのため、被害者に一定の過失が認定されることまでは、受容できるケースが多いかもしれません。
しかし、過失割合が小さい方(たいてい被害者の方)が賠償しなければならないという理不尽なケースも発生してしまうことがあるのです。
例えば、車同士の事故で、相手の車が車線をはみ出して突っ込んで来た、などのケースで、突っ込まれた側は、いわゆる「もらい事故」となります。
もらい事故で突っ込んだ側が突っ込まれた側より大きな損害を負った場合を考えてみましょう。
【例】
突っ込まれた側(A)の損害 | 車の故障 100万円 |
突っ込んだ側(B)の損害 | 高級車の故障 1000万円 運転者の負傷 500万円 |
もらい事故では突っ込まれた側の過失割合は0(ゼロ)とされるはずです。
しかし、もし争われた場合は、突っ込まれた側が「過失はなかった」と立証しなければならないのです。
この立証がうまくいかず、もし過失割合が、突っ込まれた側(A)に10%、突っ込んだ側(B)に90% と判定された場合、賠償額はどうなるでしょうか。
AがBに対して請求できる額は、100万円×90%=90万円 です。
一方、BがAに対して請求できる額は 1、500万円×10%=150万円 です。
とすると、結局、AはBに賠償請求できないばかりか、BがAに対して、150万円−90万円=60万円 請求できてしまう、ということになるのです。
被害者であると思っていた自分(A)だけが相手(B)に60万円もの損害賠償をするとき、無過失責任に近い規定であることに大きな違和感が残るでしょう。
4、困った時は弁護士にご相談を
「2」のようなケースにならないまでも、自分で思う過失割合にならず、賠償額に不満を持つことは少なくありません。
ましてや、過失などないと思うにもかかわらず多額の賠償請求をされた場合、「3」の証明をしていくことになりますが、自分だけで対応するには限界があります。
交通事故におけるトラブルでお困りの際は、ぜひ弁護士にご相談ください。
交通事故の対応に経験を積んだ弁護士なら、きっとあなたの助けになるはずです。
まとめ
今回は、交通事故における無過失責任とはどういう意味かを解説しました。
ご説明してきた通り、交通事故では無過失責任に近い扱いがなされるため、特に車を運転する際は、自分だけが気をつけていればよいというわけではなく、相手の動きにも注意して運転をすることが大切です。
交通事故を起こし、相手を死亡させたり負傷させたりしてしまったとしたら、仮にそれが明らかな相手の不注意によるものだったとしても、あなたに責任を問われる可能性が高いのです。
どの程度の過失を認定されるのかは、とても微妙な問題です。
一般的には基準に沿って過失認定がなされますが、無過失なのに過失が認められて相殺額に納得がいかない場合などはぜひ弁護士にご相談ください。