遺産の独り占めを他の相続人にされてしまったら、どのように対処すべきなのだろうか……。
資産家の親を持った方がすべて幸せだとは限りません。なぜなら、「誰がどれだけの遺産を相続するか?」で相続人同士が揉める可能性が高いからです。
特に、相続人のなかに強欲な人間やお金に困っている人がいると、「どうにかして遺産を独り占めできないか」と悪だくみを画策するおそれがあります。
そこで、この記事では、遺産の独り占めをテーマに次の内容について解説してきます。
- 遺産の独り占めが起きやすい6つのパターン
- 遺産の独り占めの予防法
- 遺産の独り占めが起きてしまった場合の対処法
遺産相続の揉め事を起こしたくない方やすでに起きている方は、ぜひこの記事で紹介する情報を活用し、問題解決を図ってください。
遺産相続のトラブルについて、知りたい方は以下の記事をご覧ください。
目次
1、遺産の独り占めが起きやすいケースとは
遺産の独り占めには「起きやすいケース」があります。これを知っていれば、独り占めされてしまう確率を大幅に低くできますので、ぜひ参考にしてください。
(1)被相続人と同居等で距離が近い
遺産の独り占めをもくろんでいる相続人が被相続人と同居していると、被相続人の財産がどのくらいあるかが把握しやすくなります。
その相続人に理性があれば大丈夫ですが、お金に困っていて、しかも理性の弱い人だと、「なんとかして親父の財産を俺のものにしたい…」などと良からぬ考えが浮かびがちです。
そのため、「勝手に親のタンス預金に手をつける」「親の口座のお金を自分の口座に移す」「不動産の権利証を持ち出して自分名義に所有権移転登記をしてしまう」といった遺産の独り占めが起きやすくなります。
(2)独り占めできるような内容の遺言を書かせる
相続人である子供が複数いる場合に、そのうちの1人が悪知恵を働かせて親を説得し、自分が遺産を独り占めできるような遺言を書かせてしまうことがあります。
そういったケースの多くは、親が認知症を患っていて、正常な判断ができなくなっているケースです。
(3)介護などの世話をした(する)と主張する
寝たきりの親と同居して介護をしていた子供が、他の相続人(多くは他の兄弟姉妹)に対して、「お母さんの世話をしたのは私。だから遺産はすべて私がもらうのが筋。あんたたちはちっとも手伝いをしなかったのに、遺産だけもらおうなんて虫が良すぎるわ!」などと主張する場合があります。
他の兄弟姉妹たちも、親の世話を任せきっていた手前、反論できずに遺産の独り占めを許してしまうことがよくあるのです。
(4)他の相続人はみな自分が相続することに同意していると主張する
たとえばこんなケースをイメージしてください。
「被相続人が父親、相続人が長男(兄)、次男(弟)、長女(妹)で、次男と長女は長男とは年齢が離れていて長男に頭が上がらない」
こういったケースでは、長男が弟や妹に対して「お前たちの財産は俺が管理してやるから心配するな」などと言いくるめて、自分が遺産を独り占めできるような内容の遺産分割協議書を勝手に用意し、半強制的にハンコを押させるといったこともあります。
(5)名ばかり長男
地域によっては、長男を将来の一家の家長とみなし、「親の遺産は長男が相続するのが自然だ」などと古い考え方に囚われている例もいまだにあります。
その長男に一家を支える能力がない「名ばかり長男」だとしも、ただ長男だというだけで遺産を「家督」として集中させるのが当然だと考えるわけです。
こういった古い因習が残っている地域だと、長男による遺産の独り占めが起こりやすくなります。
(6)成年後見人になる
認知症や知的障害などが原因で正常な判断能力が十分ではない人(成年被後見人)については、権利や財産を保護するため、家庭裁判所に申立てをし、財産管理などを行う成年後見人をつけることができます。
この成年後見人には、成年被後見人の権利や財産を包括的に管理する権限があるため、遺産の独り占めを狙って悪用されるケースが起きています。
成年後見人には、家庭裁判所に対して収支状況を定期的に報告する義務があります。そのため、成年後見人になったからといって、成年被後見人の財産を好き放題できるわけではありません。
しかしながら、実際には成年後見人による横領などの不正行為が多発しており、社会問題化しています。
2、被相続人の生前において遺産の独り占めを未然に防ぐ方法
この見出しでは、「1」であげたケースごとに、遺産の独り占めを防ぐ方法を解説します。
(1)「被相続人と同居等で距離が近い」の予防策
この場合、遺産の独り占めを画策している相続人が、被相続人の財産に容易にアクセスできないようにすることが効果的です。そこで、他の相続人が積極的に被相続人の自宅を訪問し、良好なコミュニケーションを形成するようにしましょう。
「他の相続人が目を光らせている」と意識させることで、被相続人の財産隠しや私的流用に対する心理的なハードルを上げることができます。
(2)「独り占めできるような内容の遺言を書かせる」の予防策
不当な遺言を書かせること自体に対する予防策ではありませんが、遺留分侵害額請求権を行使すれば、特定の相続人に遺産を独り占めさせることは防げます
法律が相続人に与えた最低限の取り分(遺留分)を侵害された相続人が、遺産の独り占めをした相続人に対して、「私の取り分を返せ!」と請求できる権利を遺留分侵害額請求権と言います。
(3)「介護などの世話をした(する)と主張する」の予防策
このケースは対応が難しいかもしれません。なぜかというと、親の介護の負担は相当なものであり、それを一手に引き受けていた相続人が遺産を多めにもらいたいと考えるのは自然なことだからです。
もちろん、だからといってすべての遺産を独占する理由にはなりませんので、「あなたの言いたいことはわかるけど、遺産の独り占めは行き過ぎ。少しは私にももらえる権利がある」などと交渉しましょう。
また可能であれば、親の介護を一人だけに任せず、暇を見つけて自分も協力するようにすれば、いざ相続が起きたときにも「私が何から何まで介護していたのだから、遺産も全部私がもらう!」といった主張は防ぐことができます。
(4)「他の相続人はみな自分が相続することに同意していると主張する」の予防策
このケースが起きる原因は、一人の相続人の地位が強すぎるために、他の相続人に発言権がないことでしょう。そうであれば、相続人同士の話し合いで解決することは難しいでしょう。
そこで、頼りにしたいのが弁護士です。相続の専門家である弁護士を代理人に立て、独り占めを狙っている相続人に対して、「あなたが遺産を独り占めできる権利は、法律上認められない」ということを主張すれば、遺産分割協議の場に引きずり出すことが可能です。
相続人だけで遺産分割協議を進めると、遺産の独り占めを防げないおそれがありますから、弁護士を仲介役に立てましょう。
(5)「名ばかり長男」の予防策
名ばかり長男が遺産を独り占めできる法的な権利は、もちろんありません。
ただ、問題はそのことを他の相続人が主張しても、名ばかり長男は聞く耳を持たないということでしょう。長男を家長と考えるような地域では、いかにできの悪い長男でも、当人に財産や権利を承継させ、一族の代替わりを継続していくことが重要とされます。
そのため、「法的には認められない」というもっともな主張も、内輪の人間が唱えたところで効果は期待できないのです。
そこで、必要なのが弁護士です。弁護士は依頼人の権利を守るために行動します。また法的に認められない慣習にとらわれることもありません。
名ばかり長男やその取り巻き連中がいかに強い態度で迫ってきたとしても、「あなたが遺産を独り占めできる権利はない。独り占めをしようとすれば訴訟になり、あなたは確実に敗訴しますが、それでもいいのですか?」と説得することができるでしょう。
(6)「成年後見人になる」の予防策
成年後見人による財産の横領などの不正行為を防ぐためには、後見監督人をつける方法が考えられます。後見監督人には、成年後見人が不正を働かないように監視する権限があるからです。
後見監督人は、成年後見人が本人を代理して行なった財産行為(売買契約など)について、独自に調査をしたり、成年後見人に報告を求めたりできます。
また、「成年後見人の経営する会社の商品を、本人のために購入する」といった場合のように、本人と成年後見人の利益が相反する場合は、成年後見人が不当に利益を得ないように、後見監督人が本人の代理人となって成年後見人と契約などを行います。
ただし、後見監督人を選任するかどうかは家庭裁判所の裁量次第です。
そこで、遺産の独り占めを防ぎたい場合には、「親族(=将来の相続人)同士の仲が良くないこと」や、「成年後見人と特定の親族が癒着していて、遺産を横領するリスクがあること」などを家庭裁判所に説明する必要があります。
この申立ては法律の知識がないと難しいので、弁護士に依頼しましょう。
(7)「銀行預金」「不動産」「有価証券」の独り占め予防策は?
遺産の中でも特に資産価値の高い「銀行預金」「不動産」「株」について、独り占めの予防策を簡単に紹介します。
①銀行預金
被相続人が死亡後、すみやかに銀行に死亡の事実を通知しましょう。口座が凍結され、特定の相続人が勝手に預金を引き出せなくなります。
②不動産
被相続人名義の不動産がある場合は、権利証(登記済証、登記識別情報)や実印を確保しておきましょう。権利証や実印がなければ、勝手に所有権移転登記をすることを防げるからです。
もし権利証や実印が見当たらない場合は、独り占めを画策する相続人がすでに確保している可能性があります。
そのような場合は、法務局に「不正登記防止申出」をしましょう。申出から3ヶ月以内に登記の申請があると、その事実を法務局が知らせてくれるので、不正な所有権移転登記を防ぐことができます。
③株式
被相続人が生前に株取引をしていた場合は、資産状況を把握するため証券会社へすみやかに問い合わせてください。
相続人が株式を利用するためには名義書換の手続きが必要です。名義書換には相続人全員の印鑑証明書が必要ですので、株を独り占めすることは簡単ではありません。
ただ、印鑑証明書や実印の陰影を偽造し、不正に名義書換をしてしまうケースも絶対に起きないとは言えません。被相続人の株取引の内容や資産状況を把握しておけば、勝手に名義書換され、使い込みが起きた場合に横領の証拠として使えます。
3、被相続人の死後、起きてしまった遺産の独り占めにどう対処するか?
ここまで遺産の独り占めを未然に防ぐ予防法を解説してきました。
では、その予防法が運悪く奏功せず、遺産の独り占めが起きてしまった場合は、どう対処すれば良いのでしょうか?
(1)不当利得返還請求が基本
被相続人の現金や預金などを使い込まれた場合は、共同相続人が法定相続分に応じて取得できるはずの持分を侵害されたことになります。
したがって、遺産の独り占めや使い込みをした相続人に対して、不当利得返還請求訴訟を提起し、侵害された持分の返還を求めるのが王道の対処法です。
(2)不動産を勝手に処分された場合の対処法は?
相続人は長男Aと次男Bの二人としましょう。遺産の中に土地があり、その土地を相続人の一人A(残りの相続人はB)が勝手に自分名義にしてしまい、その後第三者Xに売却してしまったとします。
この場合、Xは、Bの持分に相当する所有権を取得できません。AがXに売却した土地所有権のうち、Aの法定相続分(この場合は2分の1)を超える持分にはそもそもAに所有権がないからです。
この場合、相続人Bは自分の持分について所有権登記をしていませんが、Xに対しては登記がなくても自分の権利を主張できますし、Xはその主張に反論できません。
ただし、Xからさらに第三者Yが登場して、XからBの持分を含む土地を買い受けていたとしたら、Yが善意の第三者(Xに権利がないという事実を知らなかった)であり、かつ所有権登記を具備していれば、YはBに優先します(土地全体の所有権を主張できる)。このような関係を法律では「対抗関係」と呼びますが、対抗関係の勝負は「登記を具備したほうが勝つ」とされているからです。
もちろん、Bとしてはそのままでは大損ですので、問題の発端であるAに対して、自分の持分に相当する売却代金を返還するよう不当利得返還訴訟を提起することになります。
4、遺産の独り占めは犯罪にもなりうる
ここまでの説明を見た方の中には、「ふんふん、これなら上手く立ち回れば俺でも遺産の独り占めができるかもしれない……」などと良からぬ妄想を抱いてしまう方もいるかもしれません。
しかし、言うまでもないことですが、遺産の独り占めは、本来ほかの相続人が取得すべき相続財産や権利を勝手に奪い取る行為です。
悪質な場合は、不法行為はもちろん、詐欺や横領、文書偽造などの犯罪が成立する可能性もあるので、絶対にやってはいけません。
5、遺産の独り占めを予防・解決したいなら弁護士へ相談を
遺産の独り占めを防ぐには相続の専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。
(1)遺産相続の揉め事は放置すると家族の崩壊にもつながる!
相続では数百万から数千万、時には数億円単位の大きな財産が移動します。一人の相続人が、そんな巨額な遺産を独り占めしてしまえば、他の相続人との関係は完全に破綻し、家族関係は崩壊するでしょう。
そうなる前に、相続の専門家である弁護士の助言を得て、慎重に手続きを進めていきましょう。
(2)独り占めが起きてしまった後は、弁護士なしでは戦えない!
もし遺産の独り占めが起きたら、相続人同士の関係は事実上の絶縁状態になるでしょう。お互い顔を見るのも嫌という状態ですので、当然ながら、話し合いの席を設けて、冷静に解決策を模索することなど不可能です。
こういった状況でこそ活躍できるのが弁護士です。もし、独り占めをした相手に対して不当利得返還訴訟を提起するなら、代理人弁護士を立てて、手続きを一任するのが賢明です。本人訴訟では、法律の知識不足・裁判実務の経験不足による間違いが頻発し、訴訟がうまくいかない可能性が高いからです。
まとめ
遺産の独り占めは、たとえ相続人同士の仲が良くても起きる可能性があります。
特に、年老いた親が資産家で、預金や株、不動産がたくさんあることがわかっているような場合は、噂を聞きつけた無関係の第三者が相続人を誘い込み、悪知恵を授けることもあるかもしれません。
親が資産家なら、相続が始まる前から弁護士に相談し、独り占めの予防策、事後の対策を検討しておくこともおすすめです。