
残業したくないと思いつつ、定時内に仕事が終わらないために残業をしている方は多いことでしょう。日本の会社では、残業でこなさなければならない仕事があるわけではないのに、何となく残業させられることも少なくないようです。
残業代がしっかりと出るならまだしも、残業代がきちんと支払われない「サービス残業」をさせられているケースもあります。
そもそも「残業は労働者の義務なのか」「残業を命じられた時に、拒否することはできるのか」といったことは、誰しも一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
そこで今回は、
- 残業したくない場合、残業拒否は法的に許されるのか
- 残業したくない場合、残業をしないためにはどうすればいいのか
- 残業したくないのにサービス残業を求められたときの対処法とは
といった問題について解説していきます。
ご参考になれば幸いです。
目次
1、残業したくない人は疑問!皆なぜ残業するの?
まず、残業している人が残業する理由を見ていきましょう。
(1)残業をしなければ仕事が終わらない
多くの方は好き好んで残業しているわけではなく、会社から求められて仕方なく残業をしています。
人手不足の職場や繁忙期などは労働者一人あたりの仕事の量が多くなるため、どうしても残業せざるを得ない場合があるでしょう。予定外の仕事が急に発生したり、発注先から短すぎる納期を指定されたりした場合なども、残業で対応せざるを得ません。
会議などに時間を要して、自分の仕事が定時内に終わらないという方も多いようです。
また、残業するのが当たり前という社風のために残業を断りにくいという方も少なくありません。
(2)自分の能力が低いと思い込んでいる
自分の仕事の能力が低いために、残業しなければ仕事が終わらないと思っている方もいらっしゃいます。
ただ、実際には能力が低いわけではなく、仕事量が多すぎる、仕事内容が自分に合わない部署に配属されているという可能性があります。
本当に能力が不足している場合はスキルアップの努力も必要ですが、残業が発生するのは会社のシステムや体制など他に原因がある可能性も十分にあります。
必ずしも残業するのが当然だと考える必要はありません。
(3)残業代目当て
残業代を稼ぐ目的で、進んで残業するという方も少なくないようです。なかには、ある程度の残業がなければ生活が成り立たないという方もいらっしゃるでしょう。
無駄な残業や「カラ残業」ではなく、業務上必要と認められる限度で残業をしているのであれば、残業代目当てで残業をするのは悪いことではありません。
しかし、長時間の労働は、心身に悪影響を生じさせる危険性があります。また、働き方改革による残業規制が既に実施されています。今後は残業を前提にした生活設計は厳しくなっていくかもしれません。
2、残業したくない人は知っておくべき「残業」の法的位置付け
それでは、残業は義務なのか、拒否することはできないのかといった問題について、解説していきます。
(1)会社に残業の命令権ってあるの?
基本的には労働基準法で定められた労働時間の上限を超えて労働させることはできませんが、一定の場合には使用者に残業の命令権が認められます。
会社が残業を命令できるのは、災害等により臨時に必要がある場合の他、次の2つの要件を満たした場合です。
- 36(サブロク)協定が締結され、労働基準監督署へ届け出られていること
- 労働契約上、残業義務が定められていること
使用者が労働者に労働基準法の定める労働時間の上限を超えて時間外労働をさせるためには、労働組合または労働者の過半数を代表する者と書面で協定を結び、その書面を行政官庁に届け出なければなりません。
この協定のことを通称「36協定」といいます。
さらに、就業規則や雇用契約書などに労働者の残業義務が規定されており、そのことが労働者に周知されていることも必要です。
以上の要件を満たせば、会社が労働者に残業を命令することは可能です。
(2)残業命令に従わないと法的にどうなるの?
上記の要件を満たしている場合には、協定で定められた残業時間の限度内であれば、基本的には労働者は残業命令を断ることはできません。
残業命令を拒否した場合の解雇や減給、戒告などの懲戒処分が就業規則や雇用契約書で定められていれば、該当する懲戒処分を受ける可能性があります。
もっとも、いかなる場合も残業命令を拒否できないわけではありません。以下では、残業命令を拒否できる場合について、説明します。
(3)法律上、残業命令を拒否できるケースってどんなケース?
前記(1)の要件を満たしているときでも、労働者に「正当な理由」がある場合には残業命令を拒否することが許されます。
正当な理由とは、例えば以下のような場合が考えられます。
- 体調が悪いとき
- 家族の介護や育児が必要なとき
- 妊娠しているとき
- 出産してから1年が経過していないとき
使用者は、労働者が健康で安全に働けるように職場環境を保持すべき「安全配慮義務」を負っています(労働基準法第5条、労働安全衛生法第3条第1項)。
体調が悪く就業が困難な状態にある労働者に残業を強要することは、安全配慮義務違反として違法になります。
育児や介護をしている労働者については、当該労働者から請求があれば会社は法律で定められた上限時間を超えて残業をさせてはならないという原則が育児介護休業法で定められています(育児介護休業法第17条第1項、同第18条第1項)。
妊産婦については、請求があれば使用者は残業など時間外労働を命令できないことが労働基準法で定められています(労働基準法第66条第2項)。
また、残業代が出ないことが明らかにされている場合も、残業命令を拒否することができます。
使用者は、労働者に残業をさせた場合は所定の割増賃金、つまり残業代を支払う法的義務があります(労働基準法第37条1項)。
したがって、会社が残業代を支払わないのであれば、労働者が残業をする義務はないのです。
(4)固定給にみなし残業代が入っている場合は拒否できないの?
みなし残業代とは、一定の残業時間に相当する残業代をあらかじめ給料の中に組み込んでおくという方法によって支払われる残業代のことです。
みなし残業代の制度は、上記(1)の要件を満たすことに加え、何時間分の残業代としていくら支給されるのかが就業規則や雇用契約書などで明確に規定されていなければ有効ではありません。
このような規定がなければ、みなし残業代として支払われた部分も含めて基本給として取り扱われる可能性があります。したがって、このような場合は、別途残業代が支払われないのであれば残業を拒否することが可能です。
就業規則や雇用契約書に明確な規定があり、みなし残業代が支払われている場合は、正当な理由がなければ残業を拒否することはできません。
ただし、みなし残業代に対応する時間を超える残業をした場合には、追加で残業代を請求することができ、これが支払われない場合には残業を拒否できることは通常の場合と同様です。
関連記事(5)残業をしないことでハラスメントを受けたらどうすればいいの?
前記(1)で説明した要件を満たしていないのに残業を強制された場合は、労働基準法第36条に違反することになります。
また、形式的には要件を満たしていても、残業を拒否する正当な理由があるのに残業を強制された場合には、残業命令が不法行為(民法第709条)となる可能性があります。
このような場合に残業を拒否したことで上司等から嫌がらせを受けたり、解雇や減給、配置換えなどの不利益を受けたりすれば、同様に不法行為に該当することがあります。
これらの場合は、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
3、残業したくない人必見!残業しないための3つの対策
残業したくない方は、残業命令を拒否する理由を考えるのもいいですが、さらに根本的な対策を考えることも大切です。
具体的には、以下のような対策が考えられます。
(1)転職
残業が多い職種や、仕事量と従業員数の均衡がとれていない会社にお勤めの場合は、残業命令を断ることにも限度があります。
そのような場合、転職を考えるのもよいでしょう。
残業が少ない職種や会社もたくさんあります。一般的には派遣社員や契約社員は残業をあまりしなくてすみますし、工場などは残業があっても労働時間が明確に決められています。
ただし、派遣社員や契約社員でも残業が多い職種もありますし、工場でも残業の多い会社や職場はあります。
転職しても必ずしも残業を免れられるとは限らないので、転職先は慎重に選びましょう。
(2)職場の風土を変える
日本には、不必要な残業をする風土を持つ会社がまだまだたくさんあります。長時間の会議を頻繁に行うことで残業が発生し、残業することを前提に業務スケジュールを組んでいる職場も多いことでしょう。
そのような場合は、職場の風土を変えることを考えてみましょう。
一人ですぐに変えるのが無理でも、職場の他の人たちも残業したくないと考えている可能性は高いです。周りの人たちを巻き込みながら、徐々に職場の風土を変えていくとよいでしょう。
あるいは、政府が働き方改革を推奨している昨今、フレックスタイム制や変形労働時間制などの柔軟な働き方の導入を要望してみるのも一つの方法です。
(3)悪質なサービス残業に対しては法的手続きも検討する
残業代が出ない会社の場合は、残業代を支払ってもらうか、残業をなくしてもらうことを要望すべきです。
前記「3(3)」でご説明したとおり、会社は残業した労働者へ残業代を支払う法的義務を負っています。残業代を支払わないと、労働基準法違反となります。
要望しても聞き入れてもらえない場合は、法的手続きも検討しましょう。
具体的には、これまで行ってきたサービス残業について、残業代の支払いを請求することです。
場合によっては、残業代の支払いに加えて、
- 安全配慮義務違反(労働契約法第5条、民法第415条)
- 不法行為責任(民法第709条)
に基づいて慰謝料を請求できる可能性もあります。
4、残業代請求をするなら弁護士に相談を
残業代を請求する具体的な方法としては、会社との話し合いのほか、労働審判や訴訟と言った法的手続きもあります。
いずれにしても、会社に対して残業代を請求するためには、残業をした証拠や残業代の計算根拠を明らかにするための証拠を確保しなければなりません。タイムカードや就業規則などで証明できる場合はよいですが、明確な証拠を入手しにくい場合もあるでしょう。
そんなときは、弁護士に相談するのがおすすめです。証拠の集め方や残業代の計算方法、請求の仕方などについてアドバイスを受けることができます。
弁護士に依頼すれば、残業代の計算や会社との話し合い、労働審判や訴訟等の法的手続きも代行してもらうことができます。
残業代の請求には時効がありますので、残業代が出なくてお困りの場合は、お早めに弁護士に相談してみましょう。
関連記事まとめ
最近は残業したくないという方が増えています。
会社が正当な手続きを踏んで残業命令をしている場合には、正当な理由なく拒否することはできません。
しかし、法的によく見ると、会社からの残業命令が違法なケースも少なくありません。ご自分の会社の残業が違法ではないかと感じたら、お気軽に弁護士に相談してみましょう。