
多額の借金を抱えて返済に行き詰まってしまったときには、「自己破産したい」と考える方も多いと思います。
とはいえ、自己破産の申立てはほとんどの人にとっては初めての経験になるため、いざ「自己破産したい」と思っても、わからないことや不安なことも多く尻込みしてしまうケースもあるのではないかと思われます。
そこで今回は、
- 借金を解決するために「自己破産したい」と考えている人に知っておいてもらいたい4つのポイント
について解説していきます。ご参考になれば幸いです。
目次
1、自己破産したい人が知っておくべき自己破産するための条件
まずは、自己破産したい人が必ず知っておくべき「どのような場合に自己破産できるのか」ということについて確認しておきましょう。
(1)自己破産できる借金はどれくらい?
借金を解決するために自己破産したいと考えている人には、「借金がいくら位なら自己破産できるのだろう」という疑問を持っている人も多いと思います。
この点について、自己破産についてのルールを定めている破産法は、「支払不能」という状態にある場合に自己破産できると定めています(破産法15条1項)。
支払不能の状態は、「いま抱えている借金を完済できない」ということが「客観的にみて明らかな状況」にあることを意味しています。
借金を完済できるかできないかということは、それぞれの債務者が抱える状況によって異なります。
無収入の状態が続くような人であれば、100万円の借金でも完済不能な場合も多いといえますし、これとは逆に月収100万円の人であれば、2000万円くらいの借金があっても完済不能とはいえない場合の方が多いといえるからです。
また、無収入の人であっても、不動産のような価値の高い財産を持っているのであれば、多少の借金があっても支払不能とはいえないでしょう。
以上のように、自己破産できるかどうか(支払不能にあるかどうか)ということは、それぞれの収入などをベースに決められることになるので「借金が○○万円以上」でなければいけないというような基準はありません。
(2)自己破産で解決できない5つの支払い
自己破産は、借金だけでなく滞納してしまった家賃やスマホ・携帯の利用料金など、さまざまな金銭の支払い義務をまとめて解決することができます。
しかし、次の支払いについては自己破産をしても解決することができません。
- 滞納している税金や罰金・社会保険料(国民健康保険料・年金保険料)や下水道料金
- 悪意で他人に加えた不法行為に基づく損害賠償の支払い
- 婚姻費用の支払い
- 養育費の支払い
- 未払いの給料
特に、自己破産したいと思うような状況に追い込まれてしまったケースでは、国民健康保険料・年金保険料・養育費の支払いにも未払い・滞納があることも多いでしょう。
税金や社会保険料を長期間滞納してしまった場合には、行政によって財産を差し押さえられる可能性がありますが、行政による差押えは自己破産をしても解除されることはありません。
2、自己破産手続の基本的な流れ
自己破産した場合の手続の流れや重要な場面についても確認しておきましょう。
自己破産手続は、「申立て→開始決定→財産の換価(売却)・債権者への配当→免責手続」という順に進められていきます。
(1)自己破産の申立てから破産手続開始決定まで
自己破産の申立ては、自己破産をする人が居住する地域を管轄する地方裁判所(地方裁判所支部)で行います。
自己破産を申し立てる際には、所定の事項を記載した申立書のほかにも以下の書類などを取得・作成し提出する必要があります。
- 住民票の写し(本籍地の記載が省略されていないもの)
- 債権者一覧表
- 自己破産前1ヶ月間の収入および支出を記載した書面
- 収入の額を明らかにできる書面(給料明細書など)
- 財産目録
- 陳述書(陳述書)
自己破産が申し立てられると、裁判所は自己破産を認める(手続を開始させる)かどうかを判断するための面接の期日(破産審尋)を行うことがあります。
そして、破産を認める場合には、破産手続開始決定を出します。
自己破産の申立てから破産手続開始決定までには、一般的に1ヶ月程度の期間がかかります(東京地方裁判所では弁護士に自己破産を依頼した場合であれば、最短で申立て日当日に破産手続開始決定を出してもらえる場合があります)。
(2)破産手続の2つの進め方
開始が決まった自己破産は、大きく分けて破産管財人を選任して財産などの調査・売却・債権者への配当が行われる管財事件となる場合と、破産管財人を選任せずに手続開始と同時に終了させる同時廃止となる場合とに分けることができます。
このうち、自己破産の原則的な進め方は管財事件となります。
この場合には、破産管財人によって債務者(破産者)の財産が管理・処分され債権者への配当に充てられることになります。
しかし、個人の自己破産では、破産者の財産では破産手続の費用(破産管財人報酬)を支弁できない場合も多く、その場合には通常通りに手続を行ったとしても債権者の利益とならない(赤字になってしまう)ことから、手続を開始と同時に終了させる同時廃止となります。
(3)換価・配当と破産手続の終了
自己破産手続は、借金の免除だけではなく、債権者への公平な配当(返済)を実施することも重要な目的としています。
債権者への配当は、破産者の財産を売却して得られた金銭を債権額の種類・金額に応じた額で配分することで行われます。
破産手続は、債権者への配当が終了したことをもって終了するのが原則となります。
(4)免責手続
以上で解説したように、破産手続は債務者の財産を売却し債権者への配当を行うための手続といえます。
しかし、配当を行ったとしても借金を完済することはできません。
財産を処分して完済できるのであれば支払不能とはいえないからです。
法人の破産であれば、破産によって清算されるのにあわせて負債も消滅してしまうのですが、個人の自己破産ではそのような処理をすることができません。
そこで、個人の自己破産の場合には、破産手続(債権者への配当後)に残った負債を処理するための手続として「免責手続」が行われることになります。
3、自己破産のメリット2つ
多くの人にとって自己破産はあまりよいイメージの手続ではないと思います。
そのため「自己破産をすると財産を失う」、「自己破産をするとクレジットカードが解約になってしまう」といったデメリットの方が気になってしまうことも多いといえます。
しかし、自己破産には、借金返済ができなくなってしまった人にとっては、デメリットよりも遙かに大きい次のようなメリットもあります。
(1)破産手続開始により返済は完全にストップ
自己破産で借金を解決することのメリットの1つめは、自己破産をすれば、手続の終了を待たずに手続が始まった時点で債権者からの一切の取立て行為が禁止されることです。
自己破産の手続が開始された場合には、すべての債権者に公平な配当を実施するために、個別の債権者による取立て・差押えといった行為を認めるわけにはいかないからです。
そのため、すでに債権者から預貯金などの差押えを受けている場合でも、自己破産が開始された場合には、その差押えは停止されます。
また、自己破産において差押えの対象となる財産も破産手続開始のときの財産に限られることになっているので、自己破産後に得た給料などの収入はすべて自由に使うことができます。
(2)免責許可による返済免除
自己破産後に裁判所から免責を認められた場合には、自己破産開始の時点で抱えていた負債(上で紹介した非免責債権を除く)の残債務については法律上の返済義務が完全に消滅します。
他の債務整理では、債務の一部の分割返済が必須となることを考えれば、この点は自己破産最大のメリットともいえます。
なお、免責を受けた債務は、法律上の返済義務がなくなるというだけで、債務それ自体がなくなるわけではありませんので、債務者が「自分の自由意思」で返済を行うことは問題がありません。
したがって、家族や親類からの借金、重要な取引先への支払いなどは、自己破産後に得た収入から行っても差し支えありませんので、自己破産を選択した方が、他の債務整理の場合よりも大事な人にかける迷惑が小さくなるというケースもあり得ます。
4、自分だけで自己破産の手続をするのは可能か?
自己破産をしたいと考える場面では、「弁護士に依頼した方がよいのはわかっているけれど、費用を支払えない」ために自分で手続を行いたいと考えてしまうことも多いと思われます。
たしかに、法律上は、債務者本人が自力で手続を行うことも認められていますし、専門書籍やインターネットの情報などを参考に、自分で申立てをすることも不可能ではないといえます。
(1)自分で自己破産を申し立てるためにすべきこと
自己破産を本人申立てで行う際には、次のような作業を自分だけで行う必要があります。
- 負債を正確に調査し債権者一覧表を作成する
- 保有財産を正確に調査し財産目録を作成する
- そのほか申立てに必要な書類を収入・作成する
また、本人申立てで自己破産を行った場合には、破産審尋などの期日についても自分自身で対応(出席)しなければなりません。
裁判所の期日は、平日の日中に行われるので、それに対応するためには仕事を休む必要も生じます。
(2)本人申立てのデメリット
自己破産を本人申立てすることは、費用を節約できるかもしれないという点ではメリットがあるようにみえますが、次のようなデメリットが生じる点にも注意する必要があります。
- 申立てに不備が生じるリスクが高い
- 管財事件となる可能性がかなり高くなる
- 予納金が高額になってしまう場合がある
- 手続にかかる期間が長くなる可能性が高くなる
申立て書類などに不備があれば自己破産の申立てが棄却されてしまう可能性が高くなるだけでなく、自己破産手続が開始された場合にも管財事件となってしまう可能性も高くなるといえます。
本人申立てのケースは、弁護士による申立てのケースよりも、破産管財人を選任した上で負債や財産などについてより正確な調査を行わせる必要性が生じてしまう場合が多いからです。
破産管財人が選任されれば、その報酬も債務者が負担することになりますが、本人申立ての場合には弁護士申立てのケースよりも破産管財人の業務負担が重くなるため報酬額も高くなってしまいます(50万円が目安)。
その意味では、「費用を安く自己破産したい」ということを目的に本人申立てをすることは、あまりメリットがない(破産管財人報酬が高くなることで相殺されてしまう)といえます。
(3)自己破産を弁護士に依頼するメリット
以上のように、自己破産を本人申立てで行うことは、不可能ではないのですが、簡単なことでもありません。
むしろ、自己破産の本人申立ては、管財事件として取り扱われてしまうと費用面・手続面での負担が増えてしまうデメリットの方が高いといえます。
さらには、自己破産の申立てを弁護士に依頼すれば、自己破産手続の開始の時点ではなく、弁護士に依頼をした直後から債権者への返済をストップさせることが可能となるだけでなく、申し立てた自己破産事件を同時廃止にしてもらえる可能性も高くなるといえます。
まとめ
自己破産したいと考えるような状況は、すでに何件もの借金を抱えて返済も完全に行き詰まっているという場合も多いと思われます。
このような状況がさらに続けば、借金もさらに深刻になることで、ヤミ金被害や危険な取引と関わってしまうリスクも高くなってしまうといえます。
また、自己破産の本人申立ては、実際には費用の節約にもならない場合もあり、あまりメリットがない場合の方が多いでしょう。
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