
婚外子とは、婚姻関係(法律婚)にない男女間に生まれた子供のことをいいます。法律上は、「非嫡出子」と呼ばれます。法律婚ではない事実婚でも、その間にできた子どもは婚外子(非嫡出子(ひちゃくしゅつし))となります。
実は、2013年まで、婚外子の法律上の相続分は嫡出子(ちゃくしゅつし。婚姻関係にある男女間に生まれた子供)の半分とされていました(旧民法第900条4号ただし書前半部分)。
もっとも、この法律は最高裁大法廷にて違憲と判断されたため(2013年9月4日 婚外子相続差別訴訟)、同民法の規定は改正され(2013年12月11日施行)、2023年4月現在では婚外子と嫡出子の相続分は同じです(ただ「認知」を要します))。
しかし、その名残もあるのか、婚外子だとなにか法律上の不利益があるのではと気になる方も多いでしょう。
そこで今回は、
- 婚外子における法的立場
- 婚外子を嫡出子と法的立場を同じにして幸せに育てていく方法
について、多くの男女問題に関わってきたベリーベスト法律事務所の弁護士監修の上で解説していきます。ご参考になれば幸いです。
目次
1、婚外子(非嫡出子)とは
婚外子とは、婚姻関係にない男女間に生まれた子供のことをいいます。
法律上、婚姻関係にある男女(夫婦)間の子供を嫡出子と呼ぶのに対し「非嫡出子」と呼ばれますが、「非嫡出」という言葉にマイナスイメージがあるため、最近では婚外子と呼ぶことが多くなりました。
2、婚外子の法的立場
婚外子は法律上どのような立場になるのでしょうか。
本項で詳しくみていきましょう。
(1)婚外子は戸籍にどのように記載されるか
まず、婚外子は戸籍にどのように記載されるのかみていきます。
①母親の戸籍に入る
生まれて出生届を提出すると、婚姻をしていれば、夫婦の戸籍に「長男」「次女」のような形で記載されます。婚姻をしていない場合、出産(分娩)した母親の戸籍に入り、基本的には父親の欄は空欄です。
②父親が認知すると父親の名前が記載される
ここで、父親がその子どもを「認知」すると、父親欄に認知をした父親の名前が記載されます。また父親の戸籍にも認知をした旨の記載がなされます。
婚外子は、2004年10月以前は、嫡出子が、戸籍に「長男」「長女」などと記載されるのに対し、「男」「女」と表記されていました。しかし、2004年11月1日以降は、嫡出子と同じように表記されるようになりました。
認知について詳しくは以下の関連記事をご覧ください。
(2)婚外子の相続権は認知で確保
日本では、結婚は「法律婚」が基本とされています。法律婚とはいわゆる籍を入れる婚姻です。
法律婚で子どもができた場合、子は自動的に、親その他血族の相続権を獲得します。婚外子は、母親の籍に入っていますので、自動的に母親およびその血族に関する相続権は獲得します。
しかし、婚外子が父親の財産についての相続権を獲得するには一定の手続きをしなければなりません。それが、「認知」です。
つまり、婚外子は、認知をしなければ相続権がない状態です。
父親の資産の相続権を確保させる場合は、忘れずに認知手続きを行ってください。
もっとも、認知は父親を無視して勝手に手続きを進められるわけではありません。
- 父親の連絡先がわからない
- 父親が自ら認知する状況にない
等、さまざまなご事情がある場合、なにもせず諦めてしまうことも非常に多いのが実情です。
しかし、認知は父親の義務でもあるのです。母親であるあなたが求めるのであれば、実の父親である限り法律で強制的に認知をさせることが可能です。
ご事情がある場合はぜひ弁護士に無料相談してみてください。
(3)婚外子の生活費は父親に請求可能
相続は、父親が他界したときの話であり、あなたのお子さんが小さいのなら、まだまだ遠い話ではないでしょうか。
今子育てにかかっている費用、つまりお子さんの生活費は、父親に請求ができることをご存知ですか。
「養育費」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、婚外子でもこの養育費を父親に請求することが可能なのです。
もっとも、先ほどの「認知」が同様に必要になります。
つまり、認知があれば、
- 養育費
- 相続分
の2つを嫡出子同様に請求することが可能なわけです。
3、婚外子の認知
(1)認知の効果
認知により、認知した父親との間で父子関係が生じます。父子関係(親子関係)が生じることで、民法上様々な権利や義務が生じます。
①相互扶養関係
親子関係が生じることで、互いに扶養をする義務が生じます。一般的に子供が未成年の間は親が子供を扶養する義務を負いますが、親が年老いたときは、子供が親の扶養義務を負うことになります。
②相続権
親子関係が生じることで、互いに相続権が生じます。通常は子が親の財産を相続する場合が多いといえますが、親より先に子が亡くなった場合で、子に子供がいないときは親が相続人となります。
➂親権
婚外子は、出生と同時に母親が親権者となります。しかし、父親が認知をすると、その後、父親に親権者を変更することや、父親から母親に親権者の変更を求めることができるようになります(ただ、親権者の変更は、常に認められるわけではありません)。
④戸籍への記載
前記のとおり、認知をすることで、子の父親欄に父親の氏名が記載され、父親の戸籍には、認知をした旨が記載されます。
⑤面会交流
親子関係が生じることで、子と父親が面会交流する権利が生じます。面会交流権は、近年、親の権利ではなく、子が親と会う権利と考えられるようになってきています。
(2)認知方法
父親が子を認知する方法には、以下の3つの方法があります。
①任意認知
任意認知は、父親が自らの意思で認知届を提出することです。子がまだ胎児の段階でも認知届を提出することが可能ですが、母親の承諾が必要となります。任意に認知をするのに期限はありませんが、子が成人してから認知をする場合は、子の承諾が必要になります。
②裁判認知(強制認知)
裁判認知は、父親が任意に認知をしない場合に、子供から認知の請求をして、裁判所がこれを認めた場合です。
認知を請求する場合は、まず家庭裁判所において調停を行います。ただ、調停は相手方の同意がない限り成立しません。家庭裁判所での調停が成立しなかった場合は、子は、認知の裁判を起こすことができ、裁判所がDNA鑑定等を行って親子関係の有無を判断し、認知請求を認めるかどうかを判断します。
なお、強制認知の請求は、父親が亡くなった後でも可能ですが、父親が亡くなった後3年を経過すると請求できなくなります。
詳しくは「強制認知とは?元彼が認知してくれない場合に知っておくべきこと」をご参照ください。
③遺言認知
遺言認知は、父親が遺言で認知をする方法です。生前は周囲などとの関係もあって、子供の存在を隠していたけれども、自分の死後、財産は相続させたいような場合等に利用されます。
遺言書の中で、認知する子を特定し、「認知する」旨を記載する方法によって行うことができます。
(3)認知の撤回
いったん認知届を提出して認知を行った場合は、それを撤回することができないのが原則ですが、最高裁判所は、平成26年に、血縁関係がないのに出された認知届は無効であると判断しました。これにより、実際に血縁関係が無い場合は、認知届の無効を主張することで、認知を撤回することも可能となりました。
4、未婚の母が婚外子を幸せに育てるコツ
未婚の母が、婚外子のわが子を幸せに育てていくコツはなんでしょうか。
その答えはたった1つ。愛情をかけて育てることです。
子供がまっすぐ育つために必要なただ1つのものは、親の愛情です。これは、どんな状況でも本来与えることができるのです。どうか忘れないでください。
ただ、コツとして覚えておいていただきたいのは、周囲に協力を求めることをいとわないことです。
家族だけではありません。自治体でも、ひとり親のサポートは行っています。
ひとり親で育てることは、子育ての手が足りなくなることは当然です。そのため、いろいろなところに頼り、一人で子育てをしないこと。
あなたも自立し、そして子供もいつか自立させなければなりません。
それでこそ、最強の母子になっていくのです。
そのためにも、父親からの生活費の確保、相続権の確保は必ず行いましょう。
事情があって躊躇される場合は、ぜひ一度弁護士の無料相談だけ門をたたいてみてください。
5、父親が日本人、母親が外国人の場合の婚外子は日本国籍を取得できるか
我が国の国籍法上、子が出生により日本国籍を取得するのは次の3つの場合とされています。
- 出生の時に父又は母が日本国民であるとき
- 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき
- 日本で生まれ、父母がともに不明のとき、又は無国籍のとき
そして、父親が日本人、母親が外国人の場合に、父親が子供を生後に認知しても、「出生時」には父親がいなかったことから、子は日本国籍を取得しないと考えられ、例外的に、父親と母親が婚姻したときに限り、日本国民として国籍を取得できるとされていました。
しかし、最高裁判所は、2008年6月4日、出生数に占める非嫡出子の割合が増加していることや、家族生活や親子関係の実態も変化し多様化してきていること等を指摘し、当時の国籍法が違憲である旨の判決を行いました。
その後、国籍法は改正され、父親と母親が婚姻していなくとも、日本人である父親が認知をしたときは、届出をすることで日本国籍を取得することができるようになりました。
6、フランス等の外国の婚外子事情
日本は、諸学国に比べて、婚外子の割合が非常に少ないと言われています。特に儒教圏であるアジアは、欧米に比べて婚外子の割合が少ないと言われていますが、そのアジアの中でも日本は婚外子の割合が最も少ないと言われているのです。
例えば、フランス等では、婚外子の割合が全出生者の半分以上になっていることが有名です。フランスに限らず、スウェーデンやデンマークなども婚外子の割合が高い国として知られています。
欧米で婚外子割合が高い要因としては、結婚に伴う法的保護や社会的信用が結婚していなくとも与えられているという側面や、若者が未婚で子供を産んでも、国や社会による一定の保護により何とか育てることができるという側面が指摘されています。
現在の日本では、出生率の低さが問題視されています。
この突破口の1つと考えられているのが、事実婚や未婚状態を例外として扱わず、当たり前の家族形態として制度をもっと整えていくこととも言われています。
7、有名人の婚外子
最後に、芸能人や有名人のなかにも、婚外子をお持ちの方は多くいらっしゃいます。一部ご紹介いたします。
(1)穐田誉輝さん(菊川怜さんの夫)
東大卒のキャスターとして才色兼備で知られる菊川玲さんの夫である穐田誉輝さん。穐田誉輝は、「カカクコム」や「クックパッド」の社長を歴任された後、複数の会社の取締役会長などを務められていることでもよく知られていています。
2017年4月に菊川怜さんとの結婚が発表されましたが(当時は一般男性とされていました)、穐田誉輝さんは、2012年に、2人の内縁の女性との間に、同時期に子供をもうけていたことを週刊文春が報じました。また、穐田誉輝さんには上記以外の女性との間にももう一人婚外子がいるとも報じられています。
報道が真実かどうか、また菊川玲さんが結婚した時にその事実を知っていたかどうか等は明らかにされておりません。
(2)舛添要一さん
政治学者で、元厚生労働大臣、元東京都知事という肩書を持つ舛添要一さん。彼は、3度結婚しており、2人の愛人との間に設けた3人の子と合わせて5人の子供がいると言われています。そんな舛添要一さんですが、愛人の子に対して支払っていた養育費を一方的に減額する通知を弁護士を通して送ったとして、話題になったこともありました。
(3)市川海老蔵さん
妻の小林麻央さんが癌で闘病生活を送られていたことでも注目されていた市川海老蔵さんですが、2003年に、モデルの日置明子さんとの間に婚外子がいることが発覚し、ご本人も養育費を支払っていることを会見で述べられています。
(4)石原慎太郎さん
元東京都知事でベストセラー作家でもある石原慎太郎さん。そのお子さんといえば、政治家として活躍されている石原伸晃さん、石原宏高さんのほか、タレント・気象予報士等として活躍されている石原良純さん、画家の石原延啓さん等、みなさんおなじみの方々だと思います。ただ、石原慎太郎さんには、この4人のお子さん以外に婚外子がいるようです。
このお子さんは、石原慎太郎さんと銀座のホステスさんとの間に生まれた子供と言われており、石原慎太郎さんが東京都知事選挙に出馬する前の1994年頃に写真週刊誌等で噂になりました。結局、石原慎太郎さんが認知をして、騒動は収まったと言われています。
(5)福永兵蔵さん(フクナガ創業者)
ロンドンのリプトン社の紅茶を日本に持ち込んだ人物として、「京都の紅茶王」とも呼ばれる株式会社フクナガ創業者の福永兵蔵さん。彼は、一代で京都屈指の資産家に上り詰めましたが、2度の結婚で5人の子供をもうけたほか、複数の愛人との間にも子供がいたと言われています。
2005年に福永兵蔵さんが101歳で大往生を遂げた後、会社を継いだ長男らと婚外子との間で、10年近くに及び、遺産相続に関する法廷闘争が繰り広げられたことが週刊誌等でも報道されました。
(6)田中角栄さん
元総理で死してもなおその名を轟かせる、日本のドン「田中角栄」。田中角栄さんは、生前、2人の愛人を囲っていたことが知られています。1人は元神楽坂芸者の辻和子さんで、もう1人は越山会の女王と評された佐藤昭子さんです。
田中角栄さんには、この2人の愛人との間に複数の婚外子がいたようですが、最も有名な方といえば、一時、国会議員として選挙へ出る出ないで取り沙汰された田中京さんでしょう。田中京さんは辻和子さんの子で、銀座や神楽坂等でバーを営んだり、執筆活動等をされているようです。
まとめ
戸籍法の改正や、相続分に関する民法の改正などにより、婚外子(非嫡出子)と嫡出子との差はほとんどなくなりつつあります。とはいえ、我が国においては、まだまだ婚外子の方が圧倒的に少ないというのも現実です。
ただ、多種多様な生き方が次第に広まりつつある中、結婚という選択肢を取ることなく子供を出産して育てるという女性が増えてきていることも事実です。今後も社会全体の考え方の変化とともに、婚外子に対する評価ももっと変わっていくかもしれません。
とはいえ、嫡出子の方が保護されている場面はまだまだ少なくないといえますから、婚外子として子供を育てていくには、婚外子を取り巻く環境や法律等を十分考慮することが大切と言えるでしょう。
また、併せて「嫡出子とは?嫡出子・非嫡出子について知っておくべき8のこと」も是非ご参照ください。