
非嫡出子にも相続権があります。
婚姻関係のない男女の間に生まれた子を「非嫡出子」といいます。
今回は、そんな非嫡出子の相続でお悩みの方に向けて、
- 非嫡出子とは?
- 非嫡出子の相続分
- 非嫡出子の相続で大切な認知について
- 非嫡出子が相続の手続きをするとき知っておきたい3つのポイント
についてご紹介します。
ポイントを押さえて非嫡出子の相続権について知識を身につけましょう。
法定相続人に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
目次
1、非嫡出子の相続について知る前に|非嫡出子とは?用語のおさらい
まずは「非嫡出子」の正確な意味についておさらいです。
「非嫡出子」を語るには「嫡出子」から。
以下、ご説明していきます!
(1)嫡出子とは
嫡出子とは「婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子ども」のことです。
以下、スタンダードなケースからこんな場合は?というケースまで解説します。
①入籍前に妊娠して、入籍後200日以上経過後に出産
民法は、妻が婚姻中に懐胎(妊娠)した子を夫の子と推定します(民法772条1項)。
そして、婚姻成立から200日以降に生まれた子どもは、婚姻中に懐胎(妊娠)したものと推定します(同条2項)。
したがって、婚姻成立から200日以上経過した後に生まれた子は夫の子であると推定されますので、「婚姻関係の夫婦から生まれた子ども」である、すなわち嫡出子であると推定されます。
<ここがポイント!>
仮に夫の子どもじゃなくても嫡出子です。
もし、夫がそのことに気づき、「俺の子じゃない!」と声をあげたい場合は、「嫡出否認の訴え」を行う必要があります。
嫡出否認の訴えは、調停前置主義が採用されていますので、まずは嫡出否認の調停を申し立てなければなりません。
嫡出否認について審判を受ける合意が成立して合意に相当する審判を得るか、訴訟において嫡出否認を認める判決が出て確定すると、子は非嫡出子として扱われることになります。
②婚姻期間中に妊娠して、離婚の日から300日以内に出産
離婚の日から300日以内に生まれた子についても婚姻中に懐胎したと推定されるため、夫の子であると推定されます(民法772条)。
したがって、離婚の日から300日以内に生まれた子どもも「婚姻関係の夫婦から生まれた子ども」であり、嫡出子であると推定されます。
<ここがポイント!>
妊娠期間は約300日であることから、離婚の日から300日以内に出産したということは、妊娠したのは婚姻期間中であると推認されます。
そのため、離婚の日から300日以内に生まれた子供は前婚の関係において生まれた子として元夫の嫡出子であると推定されます。
③婚姻期間中に妊娠して婚姻期間中に出産したが、夫の海外赴任や服役、事実上の離婚などにより夫の子どもである可能性がない
妻が夫によって妊娠することが客観的に不可能な事情がある場合には、嫡出推定の前提を欠くということから、このような子を「推定の及ばない子」と言います。
<ここがポイント!>
もし、夫が自分の子どもでないことに気づき、「俺の子じゃない!」と声をあげたい場合は、「親子関係不存在確認の訴え」を行う必要があります。
親子関係不存在確認の訴えも、調停前置主義が採用されているため、まずは親子関係不存在確認の調停を申し立てます。
親子関係不存在に関する合意が成立して家庭裁判所によって合意に相当する審判を得るか、訴訟において認容判決を得て確定すると、親子関係が存在しないことが確定します。
④婚姻期間中に妊娠して婚姻期間中に出産したが、その後離婚した
その後に離婚したとしても、子どもが婚姻関係にある男女の間に生まれたという事実は変わりませんので、子どもは嫡出子です。
⑤離婚後300日以上経過した後に元夫の子どもを出産した
離婚成立の日から300日経過した後に生まれた子どもは、婚姻期間中に懐胎したものとは推定されず、したがって元夫の子とは推定されませんので、非嫡出子です。
⑥事実婚の夫の子どもを妊娠し、事実婚のまま出産した
「婚姻関係の夫婦から生まれた子ども」ではなく、嫡出子ではありません。
⑦彼氏の子どもを妊娠し、そのまま結婚せずシングルマザーとして出産した
「婚姻関係の夫婦から生まれた子ども」ではなく、嫡出子ではありません
⑧彼氏の子どもを妊娠して入籍前に出産、その後結婚した
「婚姻関係の夫婦から生まれた子ども」ではなく、嫡出子ではありません。
ただし、「準正」によって嫡出子の身分を取得する場合があります。
準正については、下記(3)で説明します。
(2)非嫡出子とは
非嫡出子とは、父と母の間に法律上の婚姻関係がない子です。
父から認知を受けると、父の氏を名乗ることができ、父を親権者にすることもできるようになります。
また、子は父に養育費を請求できるようになるほか、父の第1順位の相続人となります。
(3)知っておくべき!「準正」
上記(1)の⑧のケースでは、準正によって、子どもは嫡出子の身分を取得します。
準正とは、嫡出でない子が父母の婚姻と認知によって嫡出子の身分を取得することで、2つの方法があります。
1つは、父が認知した後に父母が婚姻をする場合で、その子は父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得します。
もう1つは、父母が婚姻した後に父が認知する場合で、その子は認知の時から嫡出子の身分を取得します。
2、非嫡出子に相続権はあるの?
非嫡出子にも相続権はあります。
(1)2013年まで、民法の規定は非嫡出子の相続分は嫡出子の半分
長らく日本の民法においては、非嫡出子の相続分は嫡出子の半分でした。
理由は、正当に婚姻してできた子どもが多く相続できるのは当たり前だという考えがあったからです。
突然同居もしてこなかった赤の他人に被相続人の財産を相続させるのは、あまりにも相続人にとって理不尽だという考えです。
この点について、最高裁は、(旧)民法900条4号ただし書のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の半分とする部分は、憲法14条に反して違憲であると判断しました。
これを受けて、民法が改正され、法定相続分を定めた民法のうち、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の半分と定めた部分は削除され、嫡出子と非嫡出子の相続分は同じになりました。
3、重要!「認知」がなければ相続権はゼロ
(1)相続には認知が必要
非嫡出子と嫡出子はその相続分は同等になりましたが、非嫡出子は男性の「認知」がなければ父子関係が存在しませんので、そもそも相続権が発生しません。
「認知」は法律上のお父さんとする、という意味では有名ですが、次の認知の2つの効果はぜひ覚えておいてください。
認知の重要な効果は、「父による養育費の支払い義務の発生」と「子どもの相続権の発生」です。
(2)認知をすれば嫡出子になるの?
先に説明した「準正」は認知と婚姻によって非嫡出子が嫡出子の身分を得るというものでした。
一方で、婚姻はせずに認知のみを行う場合には、非嫡出子が嫡出子の身分を得ることはありません。
(3)死後でも認知してもらえる!
認知には、遺言により認知する「遺言認知」というものがあります。
遺言によって認知されていれば、認知の効力は遺言者が死亡した時から生じ、被相続人(亡くなった方)の子として相続人になります。
さらに、父であると考えている人が既に亡くなっている場合も、その死後に、子は父に対して認知の訴えを提起することができます。この認知の訴えは、家庭裁判所で行います。
ただし、死後に行う認知の訴えは、死後3年以内に行わなければなりません。この期限に注意してください。
4、認知を受けた非嫡出子が相続するとき知っておくべき4つのこと
(1)相続人として遺産分割協議に参加できる
被相続人が遺言をのこしていない場合や、遺言書に記載されている以外に財産がある場合には、遺産分割のために相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
これは、相続人全員が参加していることが必要で、1人でも欠けると無効になり、やり直さなければならなくなります。
自分が知らない間に遺産分割協議がなされて相続手続きが進められている場合には、遺産分割協議のやり直しを求めることができますし、他の相続人によって既に費消されているものがあれば不当利得返還請求権を行うことも可能です。
(2)遺留分侵害額請求ができる
被相続人が自分以外の特定の相続人にすべての遺産を相続させる遺言をのこしていた場合などは、遺留分侵害額請求ができることがあります。
「遺留分」とは、相続の際に、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障された取り分のことであり、被相続人の遺言によっても奪うことができないものです。
被相続人の遺言や生前贈与、死因贈与によって自らの遺留分が侵害された場合には、遺留分侵害額請求を行うことができます。
非嫡出子には被相続人の子として遺留分があります。子の遺留分は、法定相続分の2分の1です。
(2)生計を共にしていた場合には遺族年金を受け取れる可能性
亡くなった方と生計を共にしており、18歳を迎える年の年度末を経過していない場合には、遺族年金を受け取ることができます。
亡くなった父から毎月養育費を受け取り、それをもとに生活していたという場合には、「生計を共にしていた」と評価されて、遺族年金を受け取れる場合もあります。
お近くの年金事務所へお問い合わせください。
(3)相続放棄を迫られたら
非摘出子の場合、正妻など他の相続人から相続放棄を迫られるかもしれません。
しかし、相続放棄をする義務はなく、既にご説明してきたとおり、遺産分割協議に参加して相続することができます。
このような場合は弁護士に相談しましょう。一人で対応するには精神的に限界があります。
弁護士が味方になりますので、まずはご相談ください。無料相談をしている事務所もありますので、まずは連絡してみましょう。
(4)相続税が発生する可能性あり
相続をした場合には、相続税が課されますので、その申告もする必要があります。
ただし、遺産総額(不動産や株式、預貯金などすべての合計額)が「3000万円+600万円×法定相続人の人数」以下である場合には、相続税は発生せず、申告も不要です。
事前に対策をしたい場合はこちらをご覧ください。
5、相続でお困りの際は弁護士へご相談を
相続問題は法律も難しく、また人間関係も深くかかわるため、問題が複雑化し、長期化しやすい傾向にあります。
そのためご自分で対処しようとすると非常に大きな負担になってしまいます。
相続でお困りの場合には、ご自分一人で解決しようとせず、ぜひ一度弁護士に相談することをおすすめします。
非嫡出子の相続に関する悩みも、納得できる解決へと導いてもらえることでしょう。
まとめ
非嫡出子の相続分は嫡出子と同等です。
両親が結婚しているかどうかに違いはあっても、父の相続の際には、同じだけの相続分があるのです。
ただし、非嫡出子が父を相続するのは、認知された場合だけです。認知されていない非嫡出子に相続権はありません。
そして、前妻の子どもは非嫡出子ではなく嫡出子です。
両親が離婚しても相続権がなくなるわけではありませんのでご注意ください。
非嫡出子にも相続権はあります。
権利を侵害されないよう相続問題を解決していきましょう。
そのためにも、信頼できる弁護士に相続問題を依頼し、納得できる相続をしましょう。
それが被相続人の願いでもあるはずです。