預貯金を相続では、一定の手続きが必要です。
以前は、相続開始と同時に相続分を自由に引き落としができるとされていました。
しかし、2021年1月の現在では、預貯金については、遺産分割協議を経てからそれぞれの相続人には帰属することになっています。
それによって、引き落としにも制限がかかるようになりました。預貯金を相続するためには、解約・名義変更といった手続きを経る必要があるのです。
そこで今回は、
- 預貯金の相続手続き
について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説していきます。お役に立てば幸いです。
銀行の相続に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
目次
1、預貯金は相続手続き(遺産分割協議)の対象となる
相続が発生する場合のほとんどのケースでは、故人の預貯金の処理をしていると思います。
そのため、「預貯金は自分たちで勝手に処分することができる」と思い込んでいる人もいるかもしれません。
かつては、故人の預貯金は現金と同様の取扱いとなっていたために、相続開始と同時にそれぞれの相続人がその相続分に応じた権利を受け継ぐ(相続開始と同時に相続分の範囲の現金は処分できる)と考えられていました。
しかし、上記のルールは近年の最高裁判決によって変更され、預貯金は遺産分割協議を経てからないとそれぞれの相続人には帰属しないことになっています。
・平成28年12月19日最高裁判所大法廷判決(裁判所ウェブサイト)
2、被相続人の口座は死亡により凍結される
被相続人(亡くなられた方)の財産は、相続人全員が共同して管理する財産となり、相続人の各自が勝手に処分することは許されなくなります。
そのため、銀行は預金口座の名義人が亡くなったことを認知すると、その銀行口座を凍結します。
銀行としては、名義人が亡くなった場合に、その口座を誰が相続するかを独自に判断することはできません。
口座がそのままの状態になっていれば、二重払いや相続とは無関係の人への払い戻しなどが生じ、トラブルに巻き込まれる可能性が高まりますので、まずは口座を凍結するという訳です。
被相続人名義の預貯金口座の凍結を解除し、口座の解約(払い戻し)や相続人への名義変更を行うためには、遺産分割協議などの相続手続きを行ったことを証明できる書類を提出する必要があります。
3、預貯金を相続する流れ・対応方法
相続開始から預貯金の名義変更までの手続きの大まかな流れを示すと次のようになります。
・被相続人の死亡(相続の開始)
↓
・相続財産の調査(不動産であれば価値の算定など)
↓
・遺産分割協議(任意での協議・家庭裁判所の調停・審判)
↓
・銀行での手続
(1)被相続人名義の預貯金を探索する
故人名義の銀行口座のすべてを把握していない場合、故人が保有していた銀行口座を探索する必要があります。
取引銀行がわかるのであれば、それぞれの銀行で故人名義の預貯金口座の残高証明書を発行してもらいます。
同じ銀行であれば、他の支店に保有している口座についても一括調査してもらうことができます。
なお、取引銀行がわからないというときに、銀行を特定する便利な方法はありません。
そのため、故人が取引していた可能性のある銀行をひとつひとつ確認して回るほか、口座を見つける方法はありません。
(2)預貯金の調査に必要な書類
故人名義の口座の残高証明書を発行してもらうためには、それぞれの銀行で発行している依頼書(申請書)のほかに次の書類が必要となります。
- 被相続人の死亡診断書、もしくは除籍謄本
- 請求者が相続人であることを証明する書類(戸籍謄本など)
- 請求者の印鑑証明書
(3)預貯金の相続手続きに必要な書類
故人名義の預貯金を相続(口座の名義変更、解約・払い戻し)するためには、相続手続きによって必要となる書類が異なります。
①遺言書がある場合
- 遺言書
- 検認調書または検認済証明書(自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合)
- 被相続人の戸籍謄本(死亡が確認できるもの)
- 預金を相続する人の印鑑証明書(遺言執行者がいる場合は遺言執行者の印鑑証明書)
※遺言執行者がいる場合には家庭裁判所の選任審判書謄本も必要
②遺産分割協議を行って遺産分割協議書を作成した場合
- 遺産分割協議書(法定相続人全員の署名・捺印があるもの)
- 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
③遺産分割協議を行ったが遺産分割協議書がない場合
- 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
※銀行によりさらに書類の提出を求められる場合があります
④家庭裁判所の手続き(調停・審判)で遺産分割の内容を決めた場合
- 家庭裁判所の調停調書謄本または審判書謄本(審判の場合には確定証明書も必要)
- 預金を相続する人の印鑑証明書
4、書類を何度も用意するのが面倒な場合|法定相続情報証明制度
預貯金を相続するための手続きは、銀行ごとに行う必要があります。
そのため、膨大な戸籍の束をその都度収集し、銀行に提出しなければなりません。
このような手間を解消したいときには、平成29年5月29日から運用のはじまった「法定相続情報証明制度」を利用すると便利です。
この法定相続情報証明制度は、法務局(登記所)に戸除籍謄本や相続関係を一覧にした図を提出すると、これらの資料に登記官の認証文を付与してもらうことができます。
この法定相続情報証明書は、ほとんどの金融機関で通用するものです。
そのため、預貯金の相続に限らず相続にかかる様々な場面のたびに、たくさんの戸籍を取り寄せなければならない負担を大幅に軽減することができます。
なお、法定相続情報証明制度の利用は無料です。
詳しくは、下記法務局のウェブサイトを参照してください。
・「法定相続情報証明制度」について(法務局ウェブサイト)
5、相続人の預貯金から払い戻しを受けたい場合
被相続人の収入に頼って生活をしていた相続人(配偶者)などがいたとき
- 被相続人の預貯金を切り崩さなければ今後の生活に支障が出る
- 被相続人の葬儀代・入院費用などの支払いを被相続人の預貯金からしたい
というケースがあると思われます。
このような場合には、一定の手続きを経ることで、相続人全員の同意がなくても故人の預貯金を仮払いしてもらえるようになりました(相続法改正による新しい制度)。
・ご存知ですか?遺産分割前の相続預金の払い戻し制度(全銀協ウェブサイト:PDFファイル)
(1)銀行窓口での直接払い戻し
銀行での直接手続きは、「すぐにお金が必要」という場合にとても便利です。
ただし、銀行窓口での直接払い戻しの場合には、仮払いを受けられる金額が下記のように制限される点に注意する必要があります。
- 相続開始時の預貯金の額☓1/3☓払い戻しを受ける相続人の法定相続分
- 上記の金額が150万円を超える場合には150万円まで
たとえば、相続人が配偶者と子2人で、相続開始時の預金額が900万円であった場合
配偶者は、900☓1/3☓1/2=150万円
子は、900☓1/3☓1/2☓1/2=75万円
が上限となります。
銀行窓口での仮払いを求めるときには、下記の書類が必要となります。
- 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 仮払いを受ける人の印鑑証明書
(2)家庭裁判所での手続き
上記の上限額よりも多い金額の仮払いを受けたい場合には、家庭裁判所の手続きが必要となります。
家庭裁判所の許可があれば、法定相続分に該当する全額の仮払いを受けることができます。
しかし、次の点に注意する必要があります。
- 仮払いを受けなければ生活費の工面に支障を来すなどの預貯金の仮払いを認める必要性を裁判所に認めてもらわなければならない
- 預貯金の仮払いが他の相続人の利益を害しないことを裁判所が認めなければならない
- 仮払いの額と異なる相続分が決まった場合には、余剰分を返金する必要がある
(3)遺産分割が終わる前に預貯金を取り崩すことの注意点
遺産分割の対象となる財産は、遺産分割協議が終わるまで一切手を付けないのが原則です。
抜け駆け的に一部の相続人だけが、遺産を処分してしまえば、不要な相続争いの原因となります。
また、相続人が相続財産を処分してしまったことで、相続放棄・限定承認ができなくなることもあります。
「預貯金を取り崩してしまったために、多額の負債を相続しなければならなくなった」ということのないように、預貯金の払い戻しを受ける前には相続財産の調査をしっかり行いましょう。
まとめ
いまの法制度の下では、預貯金の相続にもかなり面倒な手続きが必要となります。
特に、役所や銀行での手続きは平日の日中に行う必要があるため、相続人の負担感が大きい場合も少なくありません。
何カ所も手続きをするのが大変というときには、弁護士等の専門家に手続きの代理を依頼することも可能です。
また、遺産分割が終了する前の預貯金の取り崩しは、相続人にとっての大きなデメリットが生じることも考えられます。
少しでも不安があるときには専門家のアドバイスを受けておくとよいでしょう。
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ベリーベストでも無料相談を行っていますので、今回の記事を読んで興味を持たれた方は是非お気軽にお問い合わせ下さい。