
相続税は還付請求が可能であること、ご存知でしょうか。
「自分は税理士に依頼して相続税の申告をしたから、間違いなんてないはず」と思われる方も多いかもしれません。
しかし、実際には税理士が行った相続税申告であっても、間違いが生じるケースは決して少なくありませんので注意してください。
すでに納めた相続税の金額が間違えていた(多すぎた)場合、税務署に対して還付請求の手続きを行うことによって、払い過ぎた税金を返してもらうことができます。
この記事では、相続税の還付手続きを検討している方向けに、次のような内容を解説いたします。
- 相続税が還付請求される仕組み
- 税理士でも相続税計算を間違えることがある具体的なケース
- すでに完了した相続税計算が適切だったかどうかを判断するチェックポイント
この記事が、相続税に関する疑問をお持ちの方の参考になればうれしく思います。
相続税に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
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1、相続税の還付請求とは?
相続税の還付請求とは、その名の通り「いったん納税した相続税を、還付してもらう(返してもらう)ための手続き」のことをいいます。
以下では、相続税の還付請求に関する基本的なルールを確認しておきましょう。
(1)払いすぎた相続税の返還のこと
本来支払う必要のない金額の税金を間違って納めてしまった場合には、税務署で手続きをすることで返してもらうことができます。
このような手続きを「還付請求」と呼びます(正式には「更正の請求」いいます)
過去に納税した相続税についても、還付請求を行うことによって正しい税額との差額を還付してもらうことができますから、期限までに必ず手続きを行うようにしましょう。
(2)払いすぎの原因は土地評価の誤り
実際問題として生じることの多い相続税の計算間違いは、土地評価の誤りによるものです。
土地の相続税評価額は、通常は路線価方式(路線価×地積×補正率で求めます)という計算方法で評価しますが、特殊な種類の土地については、相続税法上の特例措置を適用することによって遺産としての評価額を大幅に小さくできる可能性があるのです。
相続税は遺産の評価額に対して課税されますから、こうした特例措置の適用をし忘れることによって評価額が過大となっている場合には、当然ながら相続税の払い過ぎという事態が生じてしまいます。
(具体的にどのような土地がこうした特例措置の対象となるかについては後述しています)
(3)相続税申告期限から5年以内
過去に行った相続税申告の更正の請求は、相続税の申告期限から5年以内に行う必要があります。
相続税の申告期限は「相続の発生を知った日の翌日から起算して10か月以内」ですから、これからさらに5年間が経過する日までに手続きをしなくてはなりません。
例えば、2015年1月10日に同居していた親族が亡くなったという場合、更正の請求の期限は以下のように計算します。
- 相続発生日:2015年1月10日
- 相続税の申告期限:2015年11月10日
- 更正の請求期限:2020年11月10日
請求期限をすぎると、納めすぎた税金は返してもらえなくなってしまいますから注意しておきましょう。
2、税理士に相続税関連を依頼していた場合は?
税理士に申告手続きを依頼した方の場合、「過去に行った相続税の申告に間違いがある」ということ自体、信じられない気持ちがある方もいらっしゃるでしょう。
確かに、税理士は税金計算や申告手続きの専門家ですから、通常は計算間違いをしてしまうということは考えにくいです。
しかし、複雑なケースの相続税の計算は専門家であっても間違いをする可能性はありますし、顧客側との打ち合わせの不足によって本来適用できるはずの税軽減特例の適用漏れなどが生じることは少なくないのが実際のところなのです。
(1)プロに依頼していたから相続税は適正なはず?
税理士が相続税の計算間違いをしやすいケースとして、以下のような状況が考えられます。
- 相続人が多くいて、遺産分割の仕方が複雑になった場合
- 相続税の計算方法が複雑な遺産があった場合
- 相続税の申告期限ぎりぎりで計算を行ったため、税理士と十分な情報共有ができなかった場合
過去に行なった相続税申告について心当たりがある方は、納税額に誤りがないか一度確認してみることをおすすめします。
(2)簡単ではない!土地評価
すでに見たように、遺産に含まれる土地が特殊な形状をしていたり、特殊な事情があったりする場合には、相続税の評価額を大幅に軽減してもらえる可能性があります。
相続税評価額を軽減してもらえる土地の具体例としては、以下のようなものが考えられます。
- 非常に広い土地(広大地)
- ゆがんだ形の土地(不整形地)
- 文化財などが埋蔵している可能性がある土地(埋蔵文化財包蔵地)
- 2本の道路に面しており、片方の接面部分が小さい土地
- 異なる用途で使っている部分があるため区分評価できる土地
- 墓地に隣接している土地
- 踏切や線路などに隣接している土地
- 都市計画上、道路となる予定の土地
- 幅が狭い道路に接している土地
- 高圧線などが通っている土地
- 鳥居や祠といった宗教施設がある土地
- 道路に接している部分がない土地
- がけや傾斜がある土地
- 高低差がある土地
- 登記簿に登録されている面積よりも実際は狭い土地
- 河川に接している土地
- 市街地にある山林を含む土地
相続の対象となった土地が、こうした条件に該当する土地であるか?の判断は、税理士でも難しいことが少なくありません。
特に、相続実務を専門としていない税理士に依頼した場合や、申告期限ぎりぎりになって相続税申告を依頼したような場合には、これらの特例の適用が漏れている可能性があります。
3、申告時に税務署で適正額かチェックされているはず?
ここまで読まれた方の中には、「もし相続税の計算間違いがあるなら、税務署の側がその間違いをチェックして指摘しくれるはずでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、結論から言うとそういったことは期待できないのが実情です。
税務署は、あなたが納めた税金が「少なすぎた場合」には税務調査などによって厳しいチェックをしてきますが、「多すぎた場合」には税務署側が自発的に還付手続きをしてくるということはありません。
納めすぎた税金は、あなたが何らかのアクションを起こさない限りは返してもらえないことを理解しておきましょう。
4、相続税が適正だったかをチェック!4つのチェックポイントをご紹介
過去に納めた相続税の金額が適正だったかに不安がある方は、以下のようなチェックポイントに当てはまるものがないか確認してみてください。
- 自分で相続税を計算して申告した
- 相続税を専門としていない税理士に相談した
- 葬儀の費用など、税理士に伝え忘れた出費があった
- 亡くなった人が借金を残していたことが後からわかった
それぞれのチェック項目について、順番に説明いたします。
(1)自分で相続税を計算して申告した
簡単な遺産相続であれば、法律実務の経験のない人が自力で相続税の計算を行うことも不可能ではありません。
しかし、遺産の金額が大きい場合や複雑な遺産分割がともなう相続税申告では、計算間違いが生じる可能性が極めて高くなるのが実際のところです。
(2)相続税を専門としていない税理士に相談した
医師に外科医、内科医、皮膚科医…とさまざまな専門分野があるように、税理士にもさまざまな専門分野があります。
多くの税理士は中小企業経営者の財務顧問として活動していますが、「相続実務に精通している税理士」というのはそれほど多くないというのが実際のところです。
過去に依頼した税理士が相続税の申告実務にどのぐらい実績がある人だったのか?については再度確認してみる必要があるでしょう。
(3)葬儀の費用など、税理士に伝え忘れた出費があった
葬儀の費用を遺産から支払った場合、その支出は相続税計算上の遺産の評価額から差し引くことができます。
こうした支出について伝え忘れていたものがある場合には、相続税の納税額が過大となっている可能性があります。
(4)亡くなった人が借金を残していたことが後からわかった
亡くなった人が借金を残していた場合、その金額は遺産の金額から差し引くことが可能です。
借金の存在が相続税申告後に分かったような場合には、相続税の計算をし直すことによって還付請求ができる可能性が高いでしょう。
5、相続税還付の請求方法と還付までの期間
以下では、相続税の還付請求を行う際の具体的な手続き方法について解説いたします。
相続税の還付請求手続きが完了し、実際にあなたにお金が返ってくるまでは3~6ヶ月の時間がかかるのが一般的です。
既に見たように、相続税の還付請求は相続税の申告期限から5年以内に行う必要がありますので、おおまかな手続きの流れを理解しておきましょう。
(1)相続税還付の請求方法
相続税の還付請求の手続きは、通常は以下のような流れで行います。
- 税理士との委任契約の締結
- 遺産や遺族の状況、過去に作成した書類の内容について確認
- 管轄となる税務署へ更正の請求
- 税務署側が検討
- 管轄の税務署から更正通知書が送付
- 税務署から還付金の振り込み
それぞれの手続きの内容について順番に見ていきましょう。
①税理士との委任契約の締結
まずは過去の相続税申告が適切であったかどうか、税理士の事務所で相談しましょう。
税理士は相続税申告書の控えを持参すれば、おおよその申告内容がわかりますので、相談時に持参するようにしてください。
過去の相続税申告書の内容から見て、申告内容の誤りが予想される場合には、正式に税理士と委任契約を締結しましょう。
どのような形で費用を支払うことになるかは税理士の事務所によって異なりますから、契約締結前に見積もりを出してもらうと良いでしょう。
②遺産や遺族の状況、過去に作成した書類の内容について確認
過去の申告書の前提となっている遺産や遺族の状況について税理士が確認します。
資料の提出などを求められた場合には応じるようにしましょう。
③管轄となる税務署へ更正の請求
調査の結果、更正の請求によって還付金が生じる可能性がある場合には、これらの事実をもとに税務署に対して更正の請求を行ないます。
④税務署側が検討
更正の請求を受けた税務署は、添付資料などを基に相続税の払い過ぎがあるかどうかの判断を行います。
⑤管轄の税務署から更正通知書が送付
還付すべき税金があることが確定した場合、税務署から「相続税の更正通知書」という書類があなた宛てに届きます。
これは簡単にいえば、「税金の払い過ぎがわかりましたので、あなたにお金を返します」という通知です。
⑥税務署から還付金の振り込み
更正通知書が届いてから約1か月で、「国税還付金振込通知書」というハガキが届きます。
国税還付金振込通知書には、実際にあなたに対して振り込まれる還付金の金額が記載されています。
なお、「還付加算金」という項目がありますが、これは税務署からあなたに対して支払われる利息のようなものです。
(2)還付までの期間は3〜6ヶ月
上で見た相続税還付請求(更正の請求)の手続きが完了し、あなたの銀行口座にお金が返ってくるまでは、通常3~6ヶ月程度の期間が必要となります。
この間、依頼する税理士とは頻繁にやり取りをすることになりますので、税理士との相性を確かめておくことはとても大切なことです。
また、相続税は数年後になってから税務署による税務調査が行われることも少なくありませんから、相続税の税務調査に対応できる税理士を選ぶことも重要といえます。
還付請求を依頼する税理士は慎重に選ぶようにしましょう。
6、相続税還付請求での必要書類は相続税申告書だけ!
税理士に依頼して相続税の還付請求を行う際には、通常は過去に税務署に提出した相続税の申告書控えだけで問題ありません。
相続税の申告書控えには、相続税の計算過程がすべて記載されていますから、そうした情報から間違いが生じていないかを検証していくことになります。
なお、再調査に必要な資料が生じた場合には依頼した税理士からその都度「こういう資料がありませんか」という問い合わせがあると思いますので、対応するようにしてください。
7、相続税の還付請求はベリーベスト法律事務所へご相談を
「相続税については税理士」というイメージがありますが、相続税はそれ以前の「どのように遺産分割を行ったか」が計算の前提となっています。
相続税の負担はどのような遺産分割を行うかによっても大きく変わってきますから、そうした観点から相続税の計算を考える場合には、遺産分割を専門分野とする弁護士に相談することも一つの選択肢です。
ベリーベスト法律事務所は遺産相続に関する法律実務を専門で扱っている上、ベリーベスト法律事務所には専属の税理士もいますので、遺産分割~相続税の計算まで、ワンストップで対応することが可能です。
ぜひご検討ください。
まとめ
今回は、相続税の還付請求ができる具体的なケースと、手続きの進め方について解説いたしました。
本文でも見たように、相続税の計算は非常に複雑になる場合が多く、専門知識を持った税理士であっても計算間違いをしてしまうことが少なからずあります。
相続税の申告は、申告から5年以内であればやり直しが認められます。
過去に行った相続税申告について疑問点をお持ちの方は、あらためて手続きを行なうことも検討してみてください。