
相続放棄の費用は、自分で手続きする場合と専門家に依頼して手続きしてもらう場合で異なります。
亡くなった方(被相続人)に借金があるので借金を相続したくないといった理由で相続放棄を検討される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
その場合、相続放棄をするのにどの程度費用がかかるのか、という点が気になる点だと思います。
今回は、相続放棄を検討されている方のために、
- 相続放棄を自分で行う場合と専門家に依頼した場合の費用
- 専門家に依頼するメリット
- 専門家に依頼する際の費用以外のデメリット
などについてご説明します。
ベリーベスト法律事務所の弁護士がお伝えする内容なので、きっとご参考いただけるはずです。
今回の内容が相続放棄でお悩みの方のご参考になれば幸いです。
相続放棄について知りたい方は、以下の記事について知りたい方は以下の記事をご覧ください。
目次
1、相続放棄に必要な費用|自分で手続きを行う場合
自分で相続放棄を行うために必要な費用は、
- 必要な書類を集めるのにかかる費用
- 裁判所に納める費用
とがあります。
以下、それぞれについて詳しく説明していきます。
(1)必要な書類を集めるのにかかる費用
必要な書類を集めるのにかかる費用は、主に、
- 戸籍謄本
- 住民票
を取得する費用です。
①戸籍謄本を取得する費用
相続放棄の手続きには、
- 相続放棄を行う方の戸籍謄本
- 亡くなった方(被相続人)の死亡の記載がある戸籍謄本及び亡くなった方の住民票(除票)
が必要になります。
ちなみに、亡くなった方の尊属(両親や祖父母等)や兄弟姉妹が相続放棄を行う場合には、亡くなった方が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本が必要になります。
戸籍謄本の交付を役所に請求すると、
1通あたり450~750円程度
の費用がかかります。
②住民票を取得する費用
また、亡くなった方の住民票の交付を役所に請求すると、
300円程度
の費用がかかります。
(2)裁判所に納める費用
次に、相続放棄を行うために裁判所に納める費用としては、
- 800円の収入印紙
- 500程度の郵便切手(裁判所によって多少金額が異なります)
が必要になります。
このように、相続放棄を自分で行うのに必要な費用は、必要な書類を取得するための費用と裁判所に納める費用の合計で約2、000~5、000円程度となります。
2、相続放棄を自分で行うときの手続き
次は、自分で行う際の相続放棄の手続きについて説明していきます。
(1)相続放棄は家庭裁判所で行う必要がある
相続放棄は、亡くなった方が最後に住んでいた(住民票をおいていた)住所を管轄する家庭裁判所で手続きを行う必要があります。
相続人が遠方に住んでいる場合も、必ず、亡くなった方の最後の住所を管轄する家庭裁判所で手続きを行わなければなりません。
(2)相続放棄を家庭裁判所で行う場合の必要書類
家庭裁判所において相続放棄を行う際には、次の書類が必要になります。
- 相続放棄申述書
- 相続放棄をする方の戸籍謄本
- 亡くなった方の死亡の記載のある戸籍謄本
- (亡くなった方の尊属(両親や祖父母)や兄弟姉妹が相続する場合は、亡くなった方(被相続人)が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本)
- 亡くなった方の住民票の除票(亡くなった時の住民票)
- 収入印紙 800円分
- 郵便切手 500円分程度
(3)相続放棄を家庭裁判所で行うときの手続きの流れ
家庭裁判所で相続放棄を行う場合は、戸籍や住民票等の必要書類をすべて取得した上で、相続放棄申述書を作成し、家庭裁判所に提出する必要があります。
相続放棄申述書を家庭裁判所に提出すると家庭裁判所から、
- 相続を放棄することが間違いなく本人の意思によるものかどうかという点の確認
- 相続を放棄する理由
- 相続の開始を知った日
等について、質問や照会が行われる場合があります。
そして、家庭裁判所が、相続放棄を行う条件を満たしていると判断した場合は、相続放棄が受理され、家庭裁判所から、相続放棄申述受理通知書が郵送されます。
3、相続放棄を自分で行うときの注意点
次は、相続放棄の手続きを自分で行う際の注意点について説明していきます。
(1)相続放棄は家庭裁判所で行わないと効力が生じない
相続放棄は、必ず家庭裁判所で手続きを行う必要があります。
他の相続人との間で、自分は何も相続しないという内容の遺産分割協議を行えば、相続を放棄したことになると勘違いされている方もおられますが、このような内容の遺産分割協議を行っても、借金に関しては法定相続分の割合に従って相続してしまう可能性があります。
相続放棄は、亡くなった方が負っていた借金を相続したくない、という理由で行われることが多いのですが、遺産を何も相続しなかったのだから借金も相続しないはず、というのは間違いで、亡くなった方の借金を相続しないという効果を法律的に生じさせるためには、家庭裁判所で相続放棄の手続きを行うことが必要なのです。
(2)相続放棄は撤回することができない
相続放棄の手続きを家庭裁判所で行い、家庭裁判所がこれを受理した場合は、原則としてこれを撤回することはできません。
ですから、財産がないと思って相続放棄をしたのに、後から財産があることが判明したのでやはり相続放棄を撤回したい(遺産を相続したい)と思っても、原則として撤回することができないので注意が必要です。
なお、相続放棄を行った時点の相続人の認識に錯誤(事実と異なる認識があったこと)があり、錯誤を生じたことについてその相続人に重過失(大きな不注意)がなかったということが認められた場合は、例外的に相続放棄の無効を主張することができますが、その主張が認められる場面というのは限られているといえます。
なお、誰かに騙されたり、強迫されたりしたことによって相続放棄の手続きを行ってしまった場合は、後から撤回する(取り消す)ことが可能です。
(3)相続放棄には期限がある
相続放棄を行いたい場合は、「相続の開始を知った時」から3か月以内に、家庭裁判所で手続きを行う必要があります。
この「相続の開始を知った時」というのは、通常は亡くなった方(被相続人)が死亡した時ということになります。
遠方に住んでいたり、疎遠だったりした等の理由で、被相続人が死亡したことをすぐに知らなかった場合は、被相続人が死亡したという事実を知った時ということになります。
なお、第1順位の相続人が全員相続放棄をしたことによって相続人となった第2順位の相続人(例えば、被相続人の子が全員相続放棄をしたことによって相続人となった被相続人の両親等)については、先順位の相続人が相続放棄をしたことを知った時が、「相続の開始を知った時」ということになります。
(4)相続放棄の期限は延長することができる
前述のように、相続放棄は、相続の開始を知った時から3か月以内に手続きを行う必要があります。
しかし、相続放棄をするかどうか判断するためには、亡くなった方にどのくらいの財産があるか、また、どのくらいの借金があるかということを調査する必要があります。
この調査を3か月以内に行うことが困難である場合は、相続放棄を行うための期限を延長してもらうことができます。
この期限の延長を希望する場合は、家庭裁判所に相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てを行い、これを認めてもらう必要があります。
家庭裁判所は相続財産が存在する場所や相続財産の複雑性、相続人の数、相続人が海外等遠方に居住しているかどうか等の事情を考慮して、期限を延長するかどうかと、延長を認める場合はその期間について決定をします。
なお、この相続放棄の期間(熟慮期間といいます)の延長は相続人毎に個別に認められるものですから、相続人のうちの一人が期間の延長を認められたとしても、他の相続人の熟慮期間には影響しないという点には注意が必要です。
つまり、相続人が複数いる場合には、熟慮期間の延長は相続人毎に行う必要があるということになるのです。
(5)相続放棄を行うかどうかを決定するポイント
前述のとおり、いったん相続放棄の手続きを行い、家庭裁判所にこれが受理されると原則として撤回することができません。
ですから、相続放棄を行うかどうかは慎重に判断する必要があります。
そのためには、亡くなった方にどの程度の財産があるか、また、借金があるかどうか、あるとすればどの程度借金があるのか、ということをきちんと調査する必要があります。
特に金融業者の中には、債務者(お金を借りていた人)が亡くなったことを知った場合、相続人が相続放棄を行うことができる3か月の期間はあえて通知をせず、3か月が経過した後に(相続人が相続放棄できなくなった後に)なってはじめて借金の返済の督促等を行うような業者もあるので、注意が必要です。
※このような金融業者が相手の場合、例外的に相続放棄が認められるケースもありますから、お困りの方は速やかに弁護士に相談されることをお勧めします。
(6)相続放棄を行った後の注意点
家庭裁判所で相続放棄の手続きが受理された後も注意すべき点があります。
それは次順位の相続人に対する対応です。
先順位の相続人が全員相続放棄をすると、次順位の相続人が相続するかどうかの判断を迫られます。
例えば、お父様の相続についてあなたが相続放棄をしたとします。
あなたに兄弟がいない場合や、いたとしてもその兄弟が全て相続放棄をした場合、お父様のご両親(あなたの祖父母)またはお父様のご兄弟が相続をするかどうかを判断することになります。
あなたが相続放棄をしたことを、次順位の相続人に告げる義務は法律上ありませんが、知らせておいたほうが、後々のトラブルを避けられる場合が多いといえるでしょう。
4、相続放棄を専門家に依頼したときの費用の相場
相続放棄の手続きを専門家に依頼したい場合は、司法書士や弁護士に依頼することが考えられます。
(1)司法書士に相続放棄を依頼した場合
まずは司法書士に依頼した場合についてです。
①依頼できる内容
司法書士に依頼をする場合、依頼できる範囲は、相続放棄を行うために必要な戸籍謄本等の収集及び裁判所に提出する書類の作成ということになります。
ただ、相続放棄を行うことが決まっている場合は良いのですが、相続放棄をすべきかどうかの法律相談や他の相続人との間で相続に関して何らかの交渉を行うことは司法書士には認められていないので注意が必要です。
②依頼した場合の費用の相場
司法書士に相続放棄の書類の作成を依頼した場合の費用の相場は、3万円から5万円程度です。
(2)弁護士に相続放棄を依頼した場合
次は弁護士に依頼した場合についてです。
①依頼できる内容
後ほどお伝えする通り、弁護士費用の相場は司法書士に比べるとやや高い傾向にあります。
ただ司法書士と異なり、相続放棄を行うかどうかの相談や他の相続人との間の交渉等、相続に伴う様々な問題について相談を行うことができるというメリットがあります。
②依頼した場合の費用の相場
相続放棄の手続きを弁護士に依頼した場合の費用の相場は3万円から10万円程度です。
5、相続放棄を専門家に依頼するメリットとデメリット
次は専門家にお願いすべきか否かの判断の参考となるよう、メリットとデメリットについて説明していきます。
(1)相続放棄を専門家に依頼するメリット
相続放棄の手続きを専門家に依頼するメリットとしては、手続きに必要な書類の取得や、裁判所に提出する書類の作成など、面倒な手続きを全て代わって行ってもらえるという点にあります。
特に、相続放棄には3か月という期限があることから、期限を過ぎてしまわないようにするという意味でも専門家に依頼するメリットがあります。
また、相続放棄を行うかどうかを悩んでいる場合には、専門家、特に弁護士に相談することで、相続放棄を行うべきかどうかのアドバイスをもらえるというメリットがあります。
亡くなった方に借金があり、財産よりも借金が多いと思っていても、例えば、高利の借金であったために返済する必要がないとか、交渉などで借金額を減額できる場合等もあることから、本当に相続放棄を行うのがベストな手段かどうかを、専門家に判断してもらうということは大切です。
(2)相続放棄を専門家に依頼するデメリット
相続放棄の手続きを専門家に依頼するデメリットとしては、費用がかかるという点だけでしょう。
ただ、最近は、相続放棄を依頼した場合にかかる費用等についてホームページ等で明らかにしていることも多いので、予想よりも費用がかかってしまったということは少ないと思われます。
また、相続放棄を専門家に依頼した場合でも、必要な費用は高くても10万円程度であり、それ以下で済む場合も多いことから、自分で手続きを行ってミスしてしまうことが心配な場合は、専門家に依頼した方がよいといえるでしょう。
6、相続放棄の費用や手続きについて相談したいときは?
相続放棄に関する費用な手続きについて相談したいときは、司法書士や弁護士に相談するのがよいでしょう。
司法書士や弁護士に相談したい場合は、市役所等で行っている法律相談や、法テラスで行われている法律相談等を利用する方法があります。
ただ、相続放棄には3か月という期限があることから、インターネット等で直接専門家を探してすぐに相談したいという方もおられると思います。
そのような場合は、ホームページで費用を明確に記載しているかどうかという点や相続放棄の手続についてきちんとホームページ等で案内しているかどうかという点などをチェックしてみるとよいでしょう。
まとめ
相続放棄の手続きは家庭裁判所で行う必要がありますが、通常の裁判等に比べれば、一般の方でも手続きを行うことがそれほど難しくありません。
ただ、相続放棄には期限があることや、いったん放棄をすると原則として撤回できないこと等に注意しなければなりません。
また、そもそも、放棄を行うかどうかを慎重に判断しなければなりませんし、自分が放棄をした際に他の相続人に及ぼす影響等についても考慮する必要があります。
このような点については専門家のアドバイスを受けた方が安心ですし、仮に弁護士に依頼するとしても、相続放棄は、裁判等を依頼する場合に比べると低い弁護士費用で済む場合が多いことから、相続放棄に関する判断を的確に行うためにも、専門家、特に弁護士に相談されるのが良いといえるでしょう。