整理解雇通知を会社から渡され、突然のことで焦っていらっしゃる方はいるのではないでしょうか。
そもそも整理解雇とは何でしょうか。受け入れないといけないのでしょうか。
今回は、弁護士の立場から、
- そもそも整理解雇とは何か
- 解雇と言われたら受け入れなければならない?整理解雇できる場合とは?
- 整理解雇ではどのように人選されるのか?
- 整理解雇を言い渡された場合の対処法
について説明していきます。「解雇」を言い渡されてお悩みの方のご参考になれば幸いです。
目次
1、整理解雇とはそもそもなに?他の解雇とは違う?
まずは、そもそも解雇とはどのような状態なのかについて説明した上で、整理解雇とは何かについて説明していきます。
(1)解雇とは?
そもそも解雇とは、使用者(会社)の一方的な意思表示により労働契約を解除することです。
解雇には、懲戒処分としての性質を持つ解雇とそれ以外の普通解雇の大きく分けて二つの種類の解雇があります。
(2)整理解雇とは?
整理解雇とは「会社の経営上必要とされる人員削減のために行う解雇」のこと言い、普通解雇の一つです。
つまり会社の経営が苦しくなってしまった場合、その対策として人を減らす必要性が生じた結果に行われるものですので、あなたに非があるわけではありません。
整理解雇については、裁判例の積み重ねにより、「整理解雇の4要素(4要件)」に着目して、解雇が権利濫用にあたるか否かが判断されてきました。
これについてはのちほど詳しく説明致します。
解雇については、労働基準法第20条では、「少なくとも30日前に解雇を予告するか30日分以上の平均賃金を支払わなければならない」と規定されていますが(解雇予告手当)、懲戒解雇の場合は即時に解雇することが多いといえます。また、解雇予告手当は、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」には支払わなくてもよいことになっています。ただし、この場合は、労働基準監督署から除外認定を受ける必要があります。
なお、懲戒解雇の場合は退職金を全額カットしたり、減額して支給したりすることもあります。
2、解雇を企業に言い渡されたら受け入れなければならない?整理解雇が適法となる4要素(4要件)とは?
(1)整理解雇が適法となる4要素(4要件)とは?
いくら会社側が労働者を整理解雇することが認められることがあるといっても、会社の経営が厳しくなったからといって、簡単に労働者を解雇できるわけではありません。
そもそも、解雇は、
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります(労働契約法第16条)。
繰り返しになりますが整理解雇の場合には、労働者に落ち度はありません。
ですので、解雇が権利濫用か否かについては、整理解雇は通常の解雇よりも厳しく判断される傾向があります。整理解雇が有効かは次の4要素(4要件)が当てはまるかどうかを個別に慎重に検討します。
- ①人員削減の必要性
- ②解雇回避努力を尽くしたこと
- ③解雇される者の選定方法の合理性
- ④手続きの相当性
以下ではそれぞれについて詳しく説明していきます。
なお、解雇の効力と4要素の関係の種類については以下の2つの裁判例があります。
- 4要素に関する諸事情を総合的にとらえて解雇の効力を判断する枠組みを採用する裁判例(4要素説)
- 整理解雇が有効になるには4要件をすべて満たす必要があるという枠組みを採用する裁判例(4要件説)
①人員削減の必要性
これは会社が著しく経営が傾いており、解雇によって人を減らす必要に迫られていたか、ということです。
会社側は「経営が苦しい、このままでは存続が危ない」という事実を客観的に誰が見ても分かる状態にしておかなくてはなりません。
そしてどの位のレベルで経営が悪化していて、どの程度人を減らす必要であるのかを具体的に説明できる必要があるとされています。
しかし裁判例によっては「企業の合理的運営上やむを得ない必要性があれば足りる」として、経営の方針については企業が決定するということを広く認めるものもあります。
例えば「今の経営は苦しくないけれど業界の動向が下火なので先に人を減らしておきたい」といった程度のレベルでも認められる可能性があります。
やはり会社が人を減らす必要があるとの経営判断をしているのに、部外者の他人がそれをだめだと判断するのは難しいところがあるようです。
②解雇回避努力を尽くしたこと
会社側は、役員報酬を含む経費の削減、新規採用の停止、時間外労働の中止や賃金カット、他の部門への配転・出向、一時帰休の募集などの他の雇用調整の手段を取って対応することによって、解雇という手段を取ることを回避するため、労働者の期待を裏切らないように誠実に行動するという義務を負っています。
この要素に関して裁判例では、企業が解雇を避けるために、また経営を持ち直すため、どれくらい努力をしていたかについては若干意見が分かれているようです。
つまり、会社の状況に応じて、どの手段を使って経営を持ち直そうとするかは、その会社にゆだねられているということです。
例えば、会社の経営が明らかに悪化していて「一時休業の募集」をする暇もなく、整理解雇がなされた場合に、解雇された者が即座に「違法だ」と言えるか、というと言えない可能性もあるということです。
③解雇される者の選定方法の合理性
整理解雇の対象者を決定する基準は合理的で公平でなくてはいけません。
そしてその運用にも公平性が求められます。
基準については色々ありますが、整理解雇の対象者として挙がる可能性が高いのは、例えばアルバイトやパート等の非正規労働者など一般に会社への帰属性が低いと考えられる者、年配者など賃金が高額な者、若者など労働者の再就職可能性が高い者、養っている家族がいないなど受ける打撃が少ない者、テストの成績が悪い者、遅刻・欠勤・懲戒処分の数が多い者などが考えられます。
こちらは個別具体的にそれぞれのケースごとに判断されることになるようです。
④手続きの相当性
会社が労働組合・労働者に十分な説明を行い、誠実に協議をしたのかが問われます。
こちらは非常に重視されるポイントとなっています。
経営者による誠実な説明や協議の場をもつこと、そして解雇される者の納得を得るため手順を踏んでいない整理解雇は、他の3要素を満している場合であっても無効とされるケースがあります。
(2)4要素(4要件)を満たして整理解雇が認められた例
4要件を満たして整理解雇が有効と認められた例として、平成6年2月9日に福岡地方裁判所で出された「福岡県労働福祉会館事件判決」があります。
福岡県の労働福祉会館の経営が悪化した結果、経営を立て直すための対策として事務作業を外部に委託することになり、会館の職員を全員整理解雇しました。
それに対して整理解雇された職員は「組合活動を理由とする不当労働行為であり、解雇権の濫用に当たる」といって裁判に持ち込みました。
これについて裁判所は、上記の4要件に照らして下記のような結論を出しました。
①赤字経営がそのまま推移すればやがて事業経営が破たんすることは必至と解される状況の中で,一定の経営努力をし,赤字の解消を図り,漫然と赤字状況を放置していたわけではないことからすると,人件費の削減はやむを得ない措置と解される
②退職金を120%にしたこと、賃金、業種及び勤務先など原告(会館の職員)らの労働条件がなるべく下がらないように配慮した再就職先の紹介を行ったことなど、解雇を回避するために最大限の努力をしたものと認めることができる
③職員全員を解雇したので、本件においては問題にならない
④組合との間で解雇に関しては十分に協議をしたことを認める
⇒つまり本件解雇が権利の濫用だと言うことは到底できない。
このように4つの条件を満たすのは会社としても大変ハードルが高いことが分かります。
(3)こんな場合は違法かも
では具体的にどんな場合に違法になるかということですが、下記の例をご覧下さい。
整理解雇を言い渡された後も、
- 役員報酬は変わっていないようだ
- 求人募集を積極的に行っているようだ
- 残業量は変わらなかった
→このような場合、4要素のうちの②解雇回避努力を尽くしたことが認められないと判断される可能性があります。
- 説明がないまま突然整理解雇通知が来た
→通知が30日前に来てもそれまでに会社から誠意をもった十分な説明や協議・交渉の場がもらえなかった場合は、④の手続きの相当性に欠けると判断される可能性があります。
もちろん上記以外の事情がある場合でも解雇無効と判断される可能性があります。
突然のことでなかなか落ち着いて対処することは難しいと思いますが、少しでも4要素を満たしていないのでは?と感じた場合は早めに弁護士に相談することをおすすめ致します。
3、整理解雇に妥当性がないと思われる場合の対処法は?退職撤回の方法
整理解雇され、でもなんだかおかしいな、どうしたらいいのかな、と悩んでいて長期間が経ってしまうと、会社側から「解雇に納得した」などと言われかねません。
解雇を争う場合は、早めに会社側に自分の意思を伝えることが重要です。
では違法だ、不当な解雇だ、などと思われる場合はどのように行動すれば良いのでしょうか。
(1)何を訴えればいいのか?
では不当と思われる場合は具体的に何について訴えていけば良いのでしょうか。
これについては主に2点が考えられます。
①解雇を無効だと訴えること
1つ目は解雇そのものの無効を求めるということです。
認められれば解雇は無効となり、併せて解雇後の賃金請求もしていれば,会社には解雇後の賃金支払義務が認められることになります。
②慰謝料等を請求すること
違法な解雇によって、精神的な苦痛を受けたといって慰謝料を請求する、というものです。
もっとも通常は、①の主張をしていくのが一般的といえるでしょう。
(2)具体的な方法
ご自身で解雇を争う場合、具体的な対応方法は以下の通りです。
①会社と交渉する
まずは直接会社と交渉による解決を目指します。
労力はかかりますが、これで解決するのであれば最善とも言えるでしょう。
②会社に対して解雇通知書、解雇理由証明書を請求する
それでも「解雇」と言われたら、まずは解雇通知書と解雇理由証明書を書面で発行するよう会社に請求してください。
この書面を見れば解雇の理由は何か、ある程度会社側の言い分を把握することができます。
書面として記載してもらえれば、あとで言った、言わないというトラブルを避けることもできます。
また、具体的にどのような理由で解雇すると主張しているのか、その内容をはっきりさせて、証拠として手元に残しておくことができます。
それでも会社が書面を出さない場合は、ICレコーダー等でやりとりを録音しておきましょう。
後に裁判になった場合には、やりとりの証拠を持っているということがとても重要になってきます。
なお、会社は、労働者が退職の理由等の証明書を請求すれば、遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法第22条)。
③会社に対し、「解雇は嫌だ」とはっきり伝える
解雇通知を取得したらすぐに口頭でもよいのでⅠ.解雇に納得していない、とはっきり会社に伝えましょう。
そしてさらに内容証明郵便等記録に残る方法でも、同じ内容を会社に伝えましょう。
内容証明郵便とは、郵便局が「どんな郵便を送ったか」(差出人、受取人、内容など)を公的に証明してくれるサービスです。
有効に利用できると良いでしょう。
書き方については色々と決まりがありますので、郵便局のホームページをご参照ください。
郵便局に行く時間がない、という方はWeb上で送れるe内容証明郵便もあります。有効にご利用ください。
また解雇が不当であるかどうかを争う場合は、会社と労働者間の話し合いだけでは解決できず、裁判に発展することが多い傾向にあります。
解雇が違法であると認められるためには会社が主張する解雇には十分な理由がないことを裁判官に分かってもらう必要があります。
繰り返しになりますが、解雇からあまり間を置いてしまうと、裁判官にも、「なんですぐに争わなかったのか。自分でも解雇されても仕方ないといったんは受け入れたのでは?」と誤解されてしまう可能性があります。
また裁判になると解雇された時から判決が確定するまでのお給料も併せて請求するのが一般的です。
この場合は、会社側の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなった、つまり、働く意思があるのに会社が拒否したという状態(=労務の受領拒絶)を作っておくことが重要です。
④労働基準監督署に相談する
まずは会社の管轄のある労働基準監督署に相談することを思いつく方が多いのではないでしょうか。
労働基準監督署では、労働基準法に書いてあることに関してアドバイスを得ることが出来ます。
例えば、解雇予告が30日前になされず解雇予告手当が支給されなかった場合、会社に是正するよう指導をしてくれます。
しかし、残念ながら国の機関は「民事不介入」に基づいての行動が基本です。
つまり労働基準監督署が一労働者のために行動してくれる範囲には限界があります。
また,解雇の効力に関しては,最終的には裁判所によって判断されるものであるため,明言を避けられる可能性が高いことを覚えておいていただければと思います。
⑤都道府県労働局の紛争調整委員会による「あっせん」を利用する
あっせんとは「当事者の間に弁護士、大学教授、社会保険労務士など学識のある第三者が入り、双方の主張の要点を確かめることを目的とした話し合い場を提供」してくれるという制度です。
費用も無料ですし、誰が相談したとか内容についてはプライバシーも守られています。
あっせんで解決に至った場合は民法上の「和解」と同じ効力を持ちます。
あっせんを利用したからといって会社が労働者に不利な扱いをすることも禁止されています。
このあっせんには下記のようなデメリットもあります。
- ア.拘束力がないこと
あっせんの期日に出席するか否か,出席したとしてあっせん案を受け入れるか否かは当事者の自由であり、例えば会社側が「いやだ」と言えばそこで終わってしまいます。
- イ.詳細な審理が期待できないこと
あっせんは基本的に話合いの場であり,訴訟のように証拠に基づいてじっくりと事実の有無を認定していくことが予定されていないため,事実がどうだったのかという点についてあいまいなまま終わってしまうこともあります。
- ウ.強制力がないこと
あっせんにより当事者間に合意が成立しても,裁判上の和解とは異なるため,履行を強制することができません。合意内容の不履行があった場合には,改めて裁判手続をとる必要があります。
(3)弁護士に相談するのも有効
上記の方法でも会社が交渉に応じない、またはあなたの望んでいる解決に歩み寄る見込みがないなど、折り合いがつかないときは、法的処置をとることになります。
会社との関係や労働者の望む解決等に応じて、手続を選択することになりますがこの場合も相談できる弁護士がいると安心ですね。
できれば上記のステップを踏む前に弁護士に相談をすることをおすすめいたします。
少しでも「これは不当な解雇じゃないか?」と思ったら専門家に意見を聞くのが一番です。
早ければ早いほど取りうる手段は多いですし、プロとして最善で冷静なアドバイスをもらうことができます。
また内容証明郵便等の事務的な手続きも代理人として対応してくれるのでどうやって送ったらよいかと悩むことも少なく、安心して過ごすことが出来るでしょう。
4、退職金や助成金はちゃんともらえるの?
(1)退職金規定を確認
もし、不当解雇にはあたらない正当な整理解雇だと考えられる場合、そしてそれを受け入れる場合は、退職金が入るのか、入るとしたら一体どの位入るのか気になる方も多いと思います。
そもそも退職金が支給されるのか否かについては,会社によって異なりますので,まずは退職金規定などあなたの会社で退職金がどのように定められているのか確認しましょう。
計算方法は?
一般的な退職金の計算方法の例としては下記のようなものがあります。
退職金=1ヶ月分の基本給×勤続年数×給付率
給付率については会社の退職金規定に書かれていることが多いですので、確認をしてみましょう。
(2)上乗せはされる?
規模の大きい会社だと、整理解雇をする前にまず退職を推奨したり、早期退職制度の利用を提案したりするなど別の方法を利用しての自発的な退職を促す場合が多いようです。
この場合、通常の退職金に上乗せされることが多いように思います。
上記のことを考慮すると整理解雇の場合にも、退職金の金額が上乗せされる可能性があります。
しかし上記でも述べましたが、整理解雇時の退職金がどのくらいになるのかについては,まずは退職金規定の内容によりますし,会社の状況によって大きく変化する可能性もあります。
通知を受けたときの会社側の説明をよく聞き、状況を把握しておけば、ある程度上乗せがあるのかどうか分かる可能性もあります。
また急な解雇の場合、有給休暇が残っていることも考えられますので、その分上乗せを交渉することができることがあるかもしれません。
会社側に問い合わせをすれば応えてもらえる可能性もありますので、確認してみましょう。
ただし,この交渉を行うことは,反面,解雇の効力自体は争わないものと受け取られる可能性がありますし,上乗せ分の支払いを受けて退職したことをもって合意退職だと受け取られる可能性もありますので,解雇を争う場合には注意が必要です。
(3)手当てはあるの?
前記でも述べたとおり、会社が労働者を解雇しようとする場合には30日前に予告するか、もしくは平均賃金の30日分の予告手当を支払わなければならないと労働基準法20条によって定められています。
即日解雇の場合は30日分の予告手当を受け取ることができますし、例えば20日前に解雇を予告された場合に会社は10日分の予告手当を支払ってもらえることになります。
また予告手当の不払いを訴えても解雇自体が無効になるかというと、必ずしもそういうわけではないことも覚えておいてください。反対に,解雇予告手当の支払いを請求することは,解雇自体は受け入れていると判断されてしまう可能性もありますので,解雇を争う場合には注意が必要です。
会社が解雇予告手当の支払いを拒む場合、かつ解雇は有効と考えられる場合は、解雇予告手当の支払いを求めて、話し合いの場を持ちましょう。
やはりこの場合も、会社とのやり取りで揉めないためにも、協議の場の会話を録音しておくことや解雇通知書・解雇理由書を発行してもらうなどして証拠を残しておくことが重要です。
5、その他覚えておきたいこと
その他に覚えておいていただきたいことに失業給付金があります。
まず整理解雇のようないわゆる会社都合退職と自己都合退職とでは、ハローワークで失業給付金を受け取るまでの待機期間の有無に違いがあります。
いわゆる会社都合退職の場合、給付金を受け取るまでの待機期間はありませんので,最短で7日で支給されます。いわゆる自己都合退職の場合は待機期間が3か月ありますのですので、給付を受けるまでの期間が大幅に変わってきます。
またいわゆる会社都合退職か自己都合退職かは,給付日数や給付要件にも違いがあります。
あわせて覚えておくと良いでしょう。
整理解雇まとめ
突然整理解雇を言い渡されたらだれでも戸惑ってしまい、焦ることと思います。
しかし記事にも書いた通り、もし解雇を違法として会社と争う場合は、一刻も早く行動に出なくては不利になってしまう可能性があります。
この記事を読んだ方が安心し、そして迅速に次に取るべき行動のステップに進むことができたら幸いです。
そして少しでも悩むことがあれば一刻も早く労働事件に強い弁護士に相談してみることをおすすめ致します。