有休取得の義務化が、2018年6月29日に可決された働き方改革関連法案により、正式に導入されました。これは、『対象使用者は、10日間以上有給休暇が与えられる場合には、その基準日から1年以内に5日間の有給休暇日を使わせなければならない』というものです。
いったいなぜ、有休取得は義務化されたのでしょうか?その背景にあるものや、法改正のメリットはどこにあるのでしょう?
今回は、
- 有休取得の義務化の詳しい内容や仕組み
- 有休取得義務化のメリット
- 有給休暇取得の規則に違反した際の罰則
などを解説していきます。ご参考になれば幸いです。
目次
1、有休取得の義務化とは?規定された背景
2018年6月29日に行われた参院本会議において、新たな働き方改革関連法案が成立しました。
そのひとつが、有休取得(有給休暇を使うこと)の義務化です。
その内容は、先ほども少し記載したように、『その基準日(有給休暇を付与された日)から1年以内に5日間の有給休暇を使わなければならない』というものです。
この法律は2019年4月1日から施行されています。
有給休暇を取得することが義務付けられた背景には、日本の会社員は諸外国の会社員に比べ、会社を休む日数(有休を取得する日数)が少ないという現状があります。
厚生労働省の調査によると、平成29年の日本人の有休取得率は、49.4%でした。
諸外国では、60%〜100%の取得率がある中で、これはかなり低い数値といえるでしょう。
過労死や長時間労働が社会問題化している現代において、労働環境の見直しや、日本人の有休取得率の低さを改善しようという意図が、この法案の成立に繋がりました。
2、有休取得の義務化の中身
有休取得義務化の中身について、ここで簡潔にご紹介していきます。
(1)基準日から1年以内の取得
有休休暇を取得するのは、基準日から1年以内です。
この基準日とは、実際に有給休暇が付与された日のことを指します。
出典元:厚生労働省
例えば4月1日に入社をすると、その半年後の10月1日に10日間の有給休暇が与えられますが、その日から1年以内の翌年9月30日までに5日間の有給休暇を取得しなければなりません。
このように、有給休暇の取得にはその期限が指定されています。
(2)会社からの時季指定
有給休暇の取得は、会社側から時季が指定されますが、その決定に当たっては、労働者の意見を聴取・尊重しなければならないとされています。
また、労働者自ら1年以内に5日間の有休を取得していた場合、会社から時季指定をされることはありません。
あくまでも、1年以内に5日間の有休を取得することが目的であり、すでに4日取得しているのであれば残り1日が、2日取得しているのであれば残り3日が、それぞれ会社から取得を命じられるということです。
(3)中小企業やパート・アルバイトでも適用される?
有給休暇は全従業員に付与される権利がありますので、もちろん中小企業やパート、アルバイトにも同様に付与されます。
3、有給休暇付与のタイミングとその日数
入社してから6ヶ月後に、10日間の有給休暇が付与されます。
アルバイトであっても同様です。
労働基準法39条1項は「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」と定めています。
しかし、入社から半年が経過していても、その出勤日数が全体の8割に満たない場合、有給休暇は付与されません。
また、入社から半年が経過した日から一年後にも、さらに有給休暇が付与されますが、これに関しても、その出勤率が8割未満の場合には付与されませんので、注意しましょう。
勤続年数 | 半年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
また、労働基準法39条2項では、次のように定めています。
「使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の八割未満である者に対しては、当該初日以後の一年間においては有給休暇を与えることを要しない。」
しっかり出勤している、また、有給休暇が付与されるべき日数が経過しているにもかかわらず付与されていない場合は、その旨を上司に伝えつつ、弁護士などの専門家に相談してみてください。
4、有休取得が義務化される3つのメリット
有休取得が義務化されることにより、どのようなメリットがあるのでしょうか?
ここでは労働者側・使用者側それぞれのメリットについて、紹介します。
(1)労働者のメリット
まずは労働者のメリットです。
- 定期的に休みが作れることで労働への意欲が増す
- 過労死や過重労働を防止できる
- 休むことへの罪悪感が減る
などが挙げられます。
中には、休暇を申請するのに罪悪感を感じてしまう人もいると思います。
実際、諸外国と比べ、日本の会社員の有休取得率は低いものとなっています。
こういった現状の改善が期待できること、また、しっかりと休暇をとることで、心身ともに健康な状態で私生活を送れるようになるでしょう。>
(2)使用者のメリット
次に、使用者側のメリットを挙げました。
- 業務が少ない時期に従業員を休ませることができる→忙しい時期の出勤率が上がる
- プライベートも充実してもらうことで、仕事への意欲が増す
- 働きやすさが増し、離職率が下がる
有給休暇を取得しづらい会社では、従業員のモチベーションも下がり、結果的に仕事の生産性や業績が落ちてしまうことにもなりかねません。
そういった事態を防ぐためにも、時期を指定して定期的に休暇を与えることで、プライベートが充実し、より健康的な状態で仕事に励んでもらうことが期待できるでしょう。
5、期限内に有休を取得しなかった場合の罰則
新たに成立した有休取得の義務化ですが、もしもこれに違反した場合、どのような罰則が与えられるのでしょうか?
年5日間の有給休暇の取得を指せなかった場合には、30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法120条1号、39条7項)。
罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われます。
6、厚生労働省では有給休暇義務化において「計画的取得」を推奨
厚生労働省では有給休暇について、計画的な取得を推奨しています。
毎年10月を『年次有給休暇取得促進期間』とし、この月に従業員を計画的に休ませることを促進するため、リーフレットが公表されました。
具体的には、
- ワークライフバランスを整えるために、計画的に有給休暇を取得する
- 土日・祝日にプラスして、連続した休暇をとる
- 有給休暇を取得しやすい社内環境を作る
ことを目指しています。
労働者・使用者の双方がともにメリットのあるこの計画は、参院本会議で成立した有休取得の義務化によって、さらに促進することが期待されています。
参考:厚生労働省
まとめ
今回は、2018年に新たに成立した有休取得の義務化について、その中身やメリットを解説してきました。
有休取得の義務化は、労働者だけでなく、労働者がよりモチベーション高く働くことで、結果的に会社の業績アップも期待できると考えられています。
労働者・使用者双方にメリットの多い有休取得の義務化によって、日本の社会全体がさらに良くなっていくことが、これから大いに期待できるでしょう。