夫婦別姓のメリットってなんだろう?
今回は、
- 夫婦別姓のメリット・デメリット
- 夫婦別姓の声が高まる背景
- 夫婦別姓の審議の歴史
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、夫婦別姓とは
現在の日本においては法律上「夫婦同姓」が原則となっています。
一方、夫婦同姓ではなく「夫婦別姓」という選択肢の導入を求める意見も増えています。
夫婦別姓には、次の2つの方法があります。
- 選択的夫婦別姓
- 例外的夫婦別姓
①選択的夫婦別姓
「選択的夫婦別姓」とは、現在の「夫婦同姓」の制度を維持したまま、「夫婦別姓」を希望する夫婦は結婚後にそれぞれの結婚前の姓を名乗るという選択も可能となることです。
「選択的」な制度となるため、すべての夫婦が必ずそれぞれの結婚前の姓を名乗らなければならないというわけではありません。
「選択的夫婦別姓」制度が導入されたとしても、夫婦が同じ姓を名乗りたいという場合には、どちらかの姓に合わせて同じ姓を名乗ることが可能です。
②例外的夫婦別姓
「例外的夫婦別姓」とは、現在の「夫婦同姓」の制度を原則として、夫婦が結婚後にそれぞれの結婚前の姓を名乗ることを「例外」として認めることです。
例外的夫婦別姓を実現させるためには、次のような明文化が必要と考えられます。
- 現行民法の「夫婦同姓」についての規定に加えて、但書として「夫婦別姓」を明記して「原則」と「例外」を明確にする
- 例外を選択した「別姓夫婦」から原則の「同姓夫婦」へ変更のみを認めることを明記する
③「選択的夫婦別姓」と「例外的夫婦別姓」の違い
①・②で、「選択的夫婦別姓」と「例外的夫婦別姓」についてそれぞれ説明しました。
しかし、「双方似たような意味でどこが違うのかわからない……」とお感じの方もいらっしゃるでしょう。
「選択的夫婦別姓」と「例外的夫婦別姓」の違いとは、「夫婦同姓」を原則としているか否かという点です。
具体的には、次のとおりです。
選択的夫婦別姓 | 同姓夫婦と別姓夫婦のどちらが原則かということを明示しない |
例外的夫婦別姓 | 夫婦同姓を原則として、夫婦別姓を例外と明示する |
例外的夫婦別姓の「夫婦同姓」を原則とするのは、旧姓民法から現行民法が適用されている現在まで、「夫婦同姓」が支持されてきたという点が重視されていることが考えられます。
あわせて、「夫婦別姓」を選択肢として追加しても、別姓夫婦は比較的少数に留まることが予想されていることも考えられるでしょう。
なお、同姓夫婦と別姓夫婦は、夫婦で同じ姓を名乗っているか名乗っていないかが違うだけです。
同姓夫婦と別姓夫婦の間で、「夫婦間の権利義務」や「子どもに対する親の責任や義務」についての違いはありません。
(3)夫婦別姓は事実婚と違う?
夫婦別姓は、事実婚と似たような部分があると感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
夫婦別姓と事実婚は、どのような点で異なるのかについて、説明します。
夫婦別姓が導入された場合、別姓夫婦も同姓夫婦と同様に婚姻届を提出して「法律上の夫婦」となります。
一方、事実婚の夫婦は婚姻届を提出していないため、法律上の夫婦ではありません。法律上の夫婦ではないものの、お互いの意思で法律上の夫婦と同様に事実上夫婦として共同生活を営んでいることです。
現在の日本では、(1)で説明したとおり「夫婦同姓」が法律上原則なので、夫婦で別々の姓を名乗りたい場合には、婚姻届を出して法律上の夫婦となることができません。
しかし、「選択的夫婦別姓」が導入された場合、婚姻届を提出した法律上夫婦が別々の姓を名乗ることが認められるのです。
(4)海外における夫婦の姓は?
日本では、現在までの長い間で夫婦同姓制度が続いています。
しかし、海外を視野に入れると、日本のように法律で「夫婦同姓(同氏)」を義務付けている国はほとんどありません。
さまざまな国における、姓についての事情をまとめました。
①アジア
国名 | 事情 |
中国・台湾・韓国・朝鮮・シンガポール | 原則として別姓 |
タイ | 2005年に選択的夫婦別姓を導入 |
フィリピン | 原則として夫の姓(妻の姓も加えられる) |
インド | 夫の姓を称する |
サウジアラビア | 父の姓を称する |
②北南米
国名 | 事情 |
アメリカ合衆国 | 規定する法律は特になく、選択可能 |
カナダ | 州によっても異なるが、 |
ペルー・ブラジル・アルゼンチン | 自分の姓と夫の姓をつなげる |
③ヨーロッパ
国名 | 事情 |
イギリス・フランス・ベルギー | 規定する法律は特にない |
ドイツ | 1994年から選択的夫婦別姓 |
オーストリア・スイス | 2013年に別姓が認められる |
イタリア | 妻はその固有の姓に夫の姓を付加する |
ポルトガル・ギリシャ | 自己の姓、または自己の姓+配偶者の姓 |
④その他
国名 | 事情 |
ロシア・カザフスタン | 父称+自己の姓または共通姓 |
オーストラリア | 規定する法律は特にない |
南アフリカ | 夫の姓または自己の姓 |
(5)日本人が夫婦別姓でいる方法
2021年4月現在、夫婦同姓が法律上原則の日本において、夫婦別姓を選択するための方法は、以下の3つです。
- 事実婚
- 海外で結婚
- 通称を使用する
①事実婚
(3)で解説した事実婚は、法律上夫婦となれるわけではありませんが、夫婦別姓を希望する夫婦が選択できる方法です。
しかし、法律婚ではない事実婚は、法律上の立場が弱いという点がデメリットとなるため、注意が必要です。
②海外で結婚
(4)で紹介した国のなかには、夫婦別姓が認められている国が多数ありました。
夫婦別姓が認められている国で結婚すると夫婦別姓になれますが、法律の不備のため、日本では夫婦と認められないため、事実婚と同様に注意が必要です。
③通称を使用
日本で結婚し、姓が変わったとしても、仕事の場などでは通称を使用することができます。
「通称」とは、戸籍上の本名ではないものの、日常生活で使用し、世間一般にも通用している氏名のことです。
しかし、職場などで通称を使用する場合、人事・経理関係の手続きが煩わしいうえに、仕事上で不利益を被ることもあります。
2、夫婦別姓のメリット・デメリット
現在の日本では、夫婦同姓が法律上原則であるため、夫婦別姓となるためには「1、(5)日本人が夫婦別姓でいる方法」で紹介した手段を選択する必要があります。
実際に夫婦別姓となるメリットとデメリットには、どのようなものがあるのか確認しましょう。
本章では、現在の日本において、事実婚によって夫婦別姓となる場合のメリット・デメリットについて解説します。
(1)夫婦別姓となるメリット
夫婦別姓となるメリットには、次のようなものが挙げられます。
- 姓が変わらないので諸手続きが不要
- プライバシーが保たれる
- 男女平等を実現できる
①姓が変わらないので諸手続きが不要
夫婦別姓となることで、姓を変える必要がないため、運転免許証やパスポート、銀行口座などの各種手続きが不要です。
自分の姓が好きだったり、仕事での便宜上変更したくなかったりと考える人にとっては、そのままの姓を維持できるという点で、大きなメリットといえるでしょう。
②プライバシーが保たれる
事実婚の場合、結婚しても離婚しても、戸籍上の姓は変わりません。職場や友人から認識される姓も変わりません。
戸籍に結婚歴や離婚歴が残らず、周囲の人からも結婚・離婚に関することがわかりにくいという点から、プライバシーが保たれるというメリットがあります。
③男女平等を実現できる
現段階で、法律婚において改姓する割合としては女性の方が断然大きいものとなっています。慣習的に、結婚の際には「女性が苗字を変えるもの」と半ば強制されているとも考えられるでしょう。
もちろん、改姓を希望する女性も多くいらっしゃることは事実ですが、「女性が姓を変えなければならない」ということにストレスを感じる女性も少なくないでしょう。
事実婚を選択し、夫婦別姓とすることで、自尊心を確保し夫婦平等を実現できるというメリットもあります。
(2)夫婦別姓となるデメリット
夫婦別姓となるデメリットとして、次のようなものが挙げられます。
- 子どもが「非嫡出子」となる
- 相続権が認められない
- 公的優遇を受けにくい
- 代理人や保証人になれない
- 住宅ローンや携帯電話の家族割を利用できない
①子どもが「非嫡出子」となる
婚姻届を提出した法律上の夫婦の間に生まれた子どもは、「嫡出子(ちゃくしゅつし)」となります。
嫡出子となることで、法律上の父子関係は当然生じることになります。
しかし、事実婚(内縁関係)の夫婦の間に生まれた子は婚外子として「非嫡出子」となります。
父子関係は、法律上当然生じません。
非嫡出子と内縁の夫と間に法律上の父子関係を生じさせるためには、父親(内縁の夫)による認知が別途必要です。
父親からの認知されない限り、法律上の父子関係がありませんので、次の点が認められません。
- 法律上父親に扶養を求める権利
- 父親の法定相続人となること
事実婚の夫婦の子どもは母親の戸籍に入り、母親の姓を名乗るのが一般的です。
父親とは、姓が異なってしまうのです。
父親と同じ姓を名乗るためには、次の手続きをする必要があります。
- ①父親に認知してもらう
- ②「子の氏の変更許可審判申立て」を家庭裁判所へ申立てる
- ③変更許可の審判がされたら、父親の戸籍への入籍届を役所へ提出する
以上の手順を踏むことで、事実婚の夫婦の子どもでも、父親の戸籍に入り、父親と同じ姓を名乗ることが可能です。
なお、母親の戸籍からは除籍されますので、注意が必要です。
また、共同親権は法律婚の夫婦にのみ認められています(民法808条3項)。
事実婚の夫婦の子どもは、共同親権が認められず母親の単独親権しか認められていないという点も、デメリットといえるでしょう。
なお、父親が子どもを認知した後、協議のうえで親権者を父親に変更することは可能です。
②相続権が認められない
事実婚の夫婦は、法律上の夫婦ではないため、お互いに法定相続人となることができないという点もデメリットです。
事実婚の状態で配偶者の一方が死亡しても、もう一方の配偶者は法定相続人として遺産を受け取れません。
なお、子どもがいれば、子どもは母親の法定相続人となります。
父親の認知を受けていれば、父親の法定相続人となることも可能です(民法887条1項)。
子どもがいない場合には、直系専属(両親や祖父母)が法定相続人となります。
直系専属が死亡していれば、兄弟姉妹が法定相続人となります(民法889条1項)。
③公的優遇を受けにくい
事実婚は、税法上でも配偶者として認められません。
事実婚の夫婦は、所得税の配偶者控除や配偶者特別控除などの優遇を受けられないことになります。
また、法律婚の場合に相続や贈与で受けられる各種税金の特例や控除などは、事実婚の場合は受けられません。
なお、不妊治療の費用助成金については、2021年1月より、事実婚の夫婦でも条件を満たせば受けることが可能となっています。
今までは事実婚では受けられなかった公的優遇も、今後は徐々に増えると予想されますね。
④代理人や保証人になれない
事実婚の場合、配偶者が急なケガや病気で入院するケースなどで、配偶者の代理人や保証人となることができないという障害があります。
⑤住宅ローンや携帯電話の家族割を利用できない
夫婦共働きの場合に、住宅ローンのペア・ローンなどを利用することができます。
しかし、事実婚の場合には、金融機関にもよりますがペア・ローンの利用が難しい可能性が高くなります。
また、携帯電話の家族割なども、事実婚の状態では利用ができないということが多いようです。
3、夫婦別姓が叫ばれる理由
なぜ日本でも夫婦別姓を求める声が高まっているのでしょうか。
世論調査では、夫婦別姓の賛成派が多くなっています。
また、夫婦別姓制度導入の声を上げている人の多くは、憲法違反や現行法の矛盾などを指摘しています。
他にも、結婚によって夫婦どちらかが必ず苗字を変えなければならないことによって、次のような問題が生じる可能性があります。
- 女性の社会進出の障害となる
- 姓を変えることが結婚の障害になる
以上のような事情から、「夫婦別姓」の導入を希望する人が増えているのです。
(1)世論調査や共同声明でも「夫婦別姓」賛成派多数
①2018年公表の世論調査
2017年11~12月、内閣府による5回目の「家族の法制に関する世論調査」が行われ、2018年に調査結果が公表されました。
本調査では、「選択的夫婦別姓制度の導入に向けて民法を改正すべきか」との問いに、「改正しても構わない」と賛成派の意見が42.5%を占めました。改正の「必要はない」とする反対派29.3%を、大幅に上回る結果となっています。
反対の割合は過去最少、賛成の割合は過去最高となり、夫婦別姓を認める声が強まっているといえるでしょう。
世代別では、10代~60代のすべての年代で賛成派が反対派を上回りました。
特に、18~39歳の年齢層では、賛成が5割を超えています。
一方、70歳以上になると反対派が52.3%と過半数を占めていて、年齢層が高まるにつれて、夫婦同氏制の方が良いと考える人が多いことがわかりました。
「法律が変わって旧姓を名乗れるのであれば、利用したいか」という質問では「希望する」と答えた人が19.8%、「希望しない」と答えた人が47.4%でした。
家族構成を見ると、別姓を希望する人には一人っ子が多く、31.7%もの一人っ子が別姓を希望しています。
また、双方が名字を変えたくないという理由で正式な夫婦となる届け出をしない人がいると思うかとの問いには「いると思う」と答えた人が67.4%にものぼりました。
②「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」の共同声明
2021年4月1日、企業経営者など19名が「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」を発足し、選択的夫婦別姓制度実現のための共同声明を発信しています。
本会のメンバーには、後に説明する「夫婦別姓に関する訴訟」を提起したサイボウズの青野慶久社長をはじめ、幅広い分野の企業のリーダーが参加しています。
具体的には、「望む人だけが改姓し、望まない改姓はゼロにする」という社会を実現するために、以下の声明を掲げました。
私たちは、性別によらず能力を発揮し、自分らしく働けるダイバーシティ(多様性)に富んだ社会を実現するために、選択的夫婦別姓制度の法制化に賛同します。 |
(引用:【期間延長!】「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」賛同署名ご協力のお願い)
上記の声明に賛同するビジネスリーダーの署名を集め、政府へ提出するとのことです。
(2)夫婦同姓に関する法の不備・憲法違反
姓に関する現行の日本国憲法の違反や、それに付随する法律が矛盾しているという声も上がっています。
①憲法違反
選択的夫婦別姓制度導入をめぐる国家賠償訴訟は、1989年の家庭裁判所への不服申し立て以降、何度か提議されています。
特に、2010年以降は訴訟が活発化しています。
- 2011年訴訟:元高校教師らが夫婦別氏を認めない民法規定が違憲であると争われた訴訟(一・二審敗訴)
- 2015年訴訟:男女5名が夫婦別姓を認めず同姓を義務付けている民法規定が違憲であると争われた訴訟(最高裁で「合憲」と判断)
- 2018年1月訴訟:ソフトウエア企業「サイボウズ」の社長である青野慶久氏が、婚姻時に妻の氏を選択したことで、旧姓を通称名としなければならず「経営者として不利益を受け続けている」と訴訟
- 2018年6月訴訟:映画監督の想田和弘氏と映画プロデューサーの柏木規与子氏が起こした訴訟
この4つの訴訟に共通しているのは、憲法違反を訴えている点です。
2011年訴訟では憲法第13条の個人の尊重・尊厳と幸福追求権、2015年訴訟・2018年6月訴訟では憲法24条の個人の尊厳と両性の本質的平等への違憲を指摘しています。
2015年訴訟では、最高裁大法廷が夫婦同姓を規定している民法は「合憲」と初めて判断しました。
また、2020年12月9日、「夫婦別姓の婚姻届が受理されないのは違憲」と主張する3件の家事事件について、最高裁の裁判官15人全員によって大法廷で審理することを決定しました。
最高裁で夫婦別姓について判断されるのは、2015年以来ということになります。
「夫婦別姓」に関する訴訟について、今後の行方が非常に気になりますね。
②法の不備
夫婦別姓を実現するにあたって、障害となっているのは「法の不備」です。
代表的なものは、以下のとおりです。
- 日本人同士が結婚する場合のみ姓を統一しなければならない
- 海外で結婚した夫婦が別姓を選択すると日本では夫婦とみなされない
- 通称姓使用で受ける不利益
日本人同士が離婚する際、戸籍法に基づく届け出を行うことで、婚姻時の姓をそのまま使用できます。
戸籍法上、日本人と外国人が結婚・離婚する場合は、夫婦別姓の選択が可能です。
一方、日本人同士が結婚するときだけ「夫婦別姓」となる選択がないのは法の不備といえるでしょう。
海外で結婚した場合、その夫婦は日本においても夫婦とみなされます。
しかし、夫婦別姓OKの国で別姓を選択した場合、日本では夫婦とみなされないのです。
以上のこともまた、法の不備といえます。
(3)女性の社会進出の障害となる
2013年に行われた一般財団法人の「労務行政研究所」の調査によると、上場・非上場企業3,700社のうち、65%は「仕事の場における旧姓の使用」を容認しています。
1993年の調査開始時はわずか13%でしたので、かなり上昇していますが、今でもなお旧姓の使用を禁じている企業も存在します。
女性の社会進出が進むことで、姓の変更が仕事に悪影響を及ぼす可能性は訴訟などで指摘されているとおりです。
また、夫婦同氏制は、日本が1985年に批准した『女性差別撤廃条約』に違反し、国連女性差別撤廃委員会から同姓制度を改正するよう、3回勧告されています。
この事実は、日本でも注目されるようになってきていることも、夫婦別姓の導入の声が大きくなっている理由といえるでしょう。
(4)姓を変えることが結婚の障害になる
近年は、代々受け継がれてきた氏を大切にしたいという感情を持つ人が増えています。
少子化が進む今の日本では、今後一人っ子同士の結婚の増加も予想されます。
しかし、自分の家族を守りたい気持ちから氏を変えることに抵抗を感じる人もいるでしょう。
結婚して姓を変えても、「通称」として旧姓を使用することは可能です。
仕事など社会的活動の場で、既婚者が結婚後も旧姓を通称として使うことを「通称使用(または通称姓使用)」と呼びます。
通称姓使用は、利益の確保やアイデンティティーの確立に有効です。
一方、給与や社会保障、税金面ではどうしても戸籍名が必要となるため、人事や経理関係の手続きが複雑になるというデメリットがあります。
これが「通称姓使用の限界」と指摘されるものです。
4、日本における夫婦別姓の民法改正で問題となる点
夫婦別姓には「選択的夫婦別姓」と「例外的夫婦別姓」があります。
今現在、法務省では、民法改正にあたって「選択的夫婦別姓制度」と「例外的夫婦別姓制度」の2つで検討されています。
どちらの制度が採択されたとしても、姓以外の点で問題となるのは次の点です。
- 子どもの姓をどうするか
- 夫婦別姓制度開始前の同姓夫婦は別姓に変更できるか
また、夫婦別姓を求める声が多く、夫婦別姓の審議も多数行われてきているのに、なぜ民法改正が進まないのでしょうか。
本章では、日本における夫婦別姓の民法改正で問題となる点について、より詳細に解説します。
(1)子どもの姓をどうするか
夫婦別姓が認められた場合、大きな問題となるのは「子どもの氏をどうするか」です。
さまざまな考え方がありますが、今のところ、婚姻の際にあらかじめ子どもが名乗る氏を決めておくという考え方が採用される可能性が有力となっています。
この場合、複数の子どもがいるときには、子ども全員が同じ氏を名乗らなければならないため、注意が必要です。
(2)夫婦別姓制度開始前に婚姻している夫婦はどうなる?
別姓制度導入前に結婚した夫婦は、一定期間内に戸籍法の定める手続きに従って届けるなど要件を満たせば、別姓にできるという方法が有力となっています。
以上の方法は、「3、(2)1996年2月:法務省法制審議会」で解説した1996年の法制審議会の答申において提示された案の内容です。
(3)民法改正が進まない理由
夫婦別姓実現への民法改正が進まない理由として、第一に「家族の一体感がなくなる」と考える人が多いようです。
しかし、一体感とはあくまで心情的なものであり、姓が同じだからといって必ずしも家族が一体になるわけではありません。
外国人夫婦には戸籍を認めずに、日本人夫婦のみに同姓を強要しているという矛盾点もあります。
国際結婚が増えつつある近年では、法の不備が指摘され、民法改正が今後さらに注目されていくのではないでしょうか。
5、別姓夫婦の実録!旧姓を通称にしているご夫婦の例
実際に、旧姓を通称として使用しながら夫婦別姓として生活しているご夫婦のケースを紹介します。
紹介するのは、月間120万PVを誇るプロブロガーの「ヨスさん」です。
ヨスさん夫妻は、別姓を選択しています。夫婦別姓に関する電子書籍も販売しているヨスさん。
戸籍上では、ヨスさんは奥さんの戸籍に入っているため、奥さんの苗字です。
しかし、必要な場合以外ではすべて旧姓を通称として生活しているとのことです。
夫婦別姓を考えている人は、実際の「別姓夫婦」のリアルな声を参考にできるでしょう。
(1)夫婦別姓を選択した理由は?
ヨスさん夫妻は、なぜ夫婦別姓を選択したのでしょうか。
ヨスさんの考える理由は、次の2つです。
- 子どもに対する男女平等教育のため
- 夫婦同姓制度に違和感があるため
①子どもに対する男女平等教育のため
ヨスさんは、子どもに「自分の性別だけを理由にして、自分のやりたいことをやめてしまったりしてほしくない」という気持ちを持ってほしくないと考えているそうです。
夫婦同姓では、女性の姓に合わせることも可能であるのに、女性が姓を変更する割合が96%という点は、男女平等に反するとも考えられます。
夫婦の姓を別々にすることで、子どもに対して「男女平等」の手本を示せると考えているとのことです。
②夫婦同姓制度に違和感があるため
ヨスさん夫妻は、夫婦の姓を自動的に同一化させたがる社会の圧力に抵抗感を感じているため、夫婦別姓を選択しているとのことです。
現行民法によって、無理やり変えさせられた戸籍上の姓に違和感を覚えている人は、ヨスさん夫妻だけではないでしょう。
(2)困ったこと
ご自身の信念を持って夫婦別姓を選択したことに満足しているヨスさんですが、困ったこともあるそうです。
- 「婿養子?」などの質問への対応が面倒
- 戸籍上の姓を使わなければならない場面が多い
①「婿養子?」などの質問への対応が面倒
ヨスさんの戸籍上の姓は奥さんの姓であるため、「婿養子?」と周りの人に聞かれることが多いそうです。
このような質問を毎回否定し、夫婦別姓を選択していることを説明するのは、なかなか面倒とおっしゃっています。
②戸籍上の姓を使わなければならない場面が多い
職場や親族、友人の間では通称を使用できます。
一方、銀行口座開設やスマホの契約、パスポートの申請など、戸籍上の姓を使わなければならない機会は意外と多く、そのたびに苦労しているというヨスさん。
通称との使い分けが大変と感じることもあるようです。
(3)家族の一体感について思うこと
ヨスさんは、夫婦別姓を選択することによって家族がバラバラになることは絶対にないと断言しています。
ヨスさんが子どもの頃、一緒に暮らす家族のなかで1人だけ名字が違うおばあさんと暮らしていたことが背景にあるようです。
世界のほとんどの国が夫婦別姓を認めていることからも、家族の一体感については姓の選択はほとんど関係ないといえるでしょう。
引用 ヨッセンス
まとめ
夫婦別姓について、詳しく解説しました。
2010年以降は夫婦別姓を訴える訴訟が増えていて、少しずつですが夫婦別姓を認める声が高まっています。アンケート調査の結果を見てもそれは明白です。
しかし、世界各国と比較してみると、日本の夫婦の姓への理解はまだまだ遅れているといえるでしょう。
夫婦別姓の実現に向けて、政府も少しずつ動きを見せていますが、やはりひとりひとりが夫婦別姓の必要性を訴えていくことが重要だと考えられます。
夫婦別姓を訴えることによって、夫婦別姓問題が広く認知されるようになり、世論も変わってくることが期待されます。
これから家族との関係を考えたい、見つめ直したいと考えている方は信頼できる弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
自分の周りにはいないとしても、世の中には夫婦別姓を求める人がたくさん存在することがきっとわかるはずです。