非親告罪とは、被害者の告訴がなくても起訴して刑事裁判にできる犯罪です。
今回は、
- 非親告罪とは
- 非親告罪と親告罪の違い
- 非親告罪では示談をしても意味がないのか
などについて解説します。
目次
1、非親告罪とは?親告罪とどう違う?
まずは、親告罪・非親告罪とは何か、どの犯罪が該当するかなど基本的な知識を解説します。
(1)そもそも「親告罪」とは
親告罪とは、告訴がない限り検察官が起訴できない犯罪類型です。
検察官は、加害者を起訴して刑事裁判にかけるか否かを決定する権限を持っています。
しかし、親告罪については、被害者などによる告訴がないと起訴できず、刑事裁判による処罰を求められません。
告訴とは、被害者などが捜査機関に対して被害にあった事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示をすることをいいます。
告訴と被害届とは、被害届は捜査機関に対して犯罪事実の申告を行うものであって、処罰を求める意思表示が含まれていない点で異なります。
なお、告訴ができる罪名には制限がないため、親告罪だけでなく非親告罪についても、被害者など告訴する権利を有する人であれば、告訴ができます(告訴権者については刑事訴訟法230条~233条)。
親告罪が規定されている理由としては、以下の3つが挙げられます。
- 比較的軽微な犯罪であり、被害者が望まなければ処罰する必要がないから(例:器物損壊罪)
- 訴追され事件が公になると、プライバシーの侵害など、さらに被害者に不利益が生じるおそれがあるから(例:名誉毀損罪)
- 親族間の犯罪については家族における話し合いを尊重するべきであるから(例:配偶者、直系血族及び同居の親族以外の親族に対する窃盗罪)
(2)絶対的親告罪と相対的親告罪
親告罪は、「絶対的親告罪」と「相対的親告罪」に分けられます。
絶対的親告罪とは、いかなる場合でも告訴が起訴の条件となっている犯罪です。
たとえば、絶対的親告罪である過失傷害罪では、誰が被害者であっても起訴するには告訴が必要になります。
相対的親告罪とは、加害者と被害者の間に一定の関係がある場合に限って親告罪となる犯罪です。
たとえば、窃盗罪では、被害者が「配偶者、直系血族(親・祖父母・子・孫など)、同居の親族」以外の親族の場合に限り、告訴が起訴の条件となっています。
親族以外が被害者であれば、告訴の有無にかかわらず、検察官の判断で起訴することができます。
なお、被害者が「配偶者、直系血族、同居の親族」であれば、そもそも刑が免除されるため、罰されません。
絶対的親告罪と相対的親告罪の主な例は、以下のとおりです。
親告罪の種類 | 罪名 | 条文 |
絶対的親告罪 | 過失傷害罪 未成年者略取誘拐罪 名誉毀損罪 侮辱罪 器物損壊罪 | 刑法209条 刑法224条 刑法230条 刑法231条 刑法261条 |
相対的親告罪 | 窃盗罪 詐欺罪 背任罪 恐喝罪 横領罪 業務上横領罪 遺失物横領罪 | 刑法235条 刑法246条 刑法247条 刑法249条 刑法252条 刑法253条 刑法254条 |
なお、告訴は、原則として犯人を知ってから6か月以内に行う必要があります。
したがって、親告罪の場合には、犯行が終了してから、告訴をするにあたって十分な程度に犯人が誰であるかを特定されてから、6か月以上が経過した場合には、起訴はされないと思ってよいでしょう。ただ、告訴は6か月以内にあって、捜査は進められていたというケースもあるため、注意は必要です。
(3)非親告罪=告訴がなくても起訴される罪
非親告罪とは、告訴がなくても起訴できる犯罪です。親告罪である旨が規定されていない犯罪はすべて非親告罪であり、大半の犯罪が該当します。
代表的な非親告罪としては以下が挙げられます。
- 殺人罪
- 傷害罪、傷害致死罪
- 暴行罪
- 過失致死罪
- 保護責任者遺棄罪
- 脅迫罪
- 住居侵入罪
- 強盗罪、強盗致死傷罪
- 現住建造物放火罪、非現住建造物放火罪
- 公務執行妨害罪
- 覚せい剤取締法違反
- 大麻取締法違反
- 迷惑防止条例違反(盗撮、痴漢)
- 児童ポルノ禁止法違反
2、近年は親告罪の非親告罪化が進んでいる
近年の法改正で、従来親告罪であった犯罪が非親告罪に変更されるケースが目立っています。非親告罪になった犯罪類型と変更理由を解説します。
(1)性犯罪
一部の性犯罪は、従来「親告罪」とされていました。性犯罪は、法廷の場で審理されると、被害状況を事細かに述べなければならなくなるなど、被害者のプライバシーや名誉を侵害するおそれがあると考えられていました。そこで、被害者の意思を尊重するために「親告罪」としていたのです。
しかし、親告罪となっていたがゆえに、告訴するかどうかの選択を迫られていると感じたり、告訴したことにより犯人から報復を受けるのではないかと不安に思ったりと、被害者にとって、より大きな負担になっているとの問題が生じていました。
そこで、刑法改正により、2017年7月から以下の性犯罪が非親告罪とされ、告訴がなくても起訴できるようになりました。
- 強制わいせつ罪(刑法176条)
- 準強制わいせつ罪(刑法178条1項)
- 強制性交等罪(旧強姦罪、刑法177条)
- 準強制性交等罪(旧準強姦罪、刑法178条2項)
(2)ストーカー規制法違反
ストーカー規制法違反についても、法改正により非親告罪となりました。
ストーカー規制法は、つきまといなどのストーカー行為を規制する法律で、罰則も設けられています。
当初は親告罪でしたが、性犯罪と同様、被害者に告訴の判断をさせるのは精神的負担が大きいこと、報復を恐れて不安を感じることから、非親告罪に変更されています。
(3)著作権法違反
著作権法違反についても、一部が非親告罪に変更されました。
従来は、文章や音楽、絵画などに存在する著作権を侵害する罪については、大半が親告罪とされていました。被害者である著作権者の意向が重視されていたためです。
しかし、環太平洋パートナーシップ(TPP)の発効にともない、諸外国の規制状況に合わせて一部が非親告罪とされました。
非親告罪になったのは、以下の条件をすべて満たすケースです。
- 対価として財産上の利益を得る目的または著作権者等の得ることが見込まれる利益を害する目的があること
- 有償著作物等について、原作のまま譲渡・公衆送信または複製を行うものであること
- 有償著作物等の提供または提示により、著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されること
非親告罪になった具体例としては、販売中の漫画・小説の海賊版を販売する行為や、映画の海賊版をネット配信する行為などです。
漫画の同人誌をコミケで販売する行為や、漫画のパロディをブログに投稿する行為などは、現在も親告罪のままとなっています。
3、非親告罪で告訴が取り下げられるとどうなる?
これまで説明してきたとおり、非親告罪では告訴がなくても起訴が可能です。
では、もし非親告罪で告訴が取り下げられた場合には、どのような影響が生じるのでしょうか。
(1)告訴の取り下げについて
被害者などは、起訴される前であれば一度した告訴を取り下げることができます(法的には「取消し」と言います。)。一度告訴を取り下げると、再度告訴をすることはできなくなります。
(2)親告罪では告訴が取り下げられると起訴されない
親告罪の場合、告訴が取り下げられると起訴はされません。
たとえば、名誉毀損罪で加害者が捜査されていても、事後的に被害者との示談が成立するなどして、被害者から告訴の取り下げがあれば、刑事裁判になる可能性は消滅します。
このように、親告罪において、告訴の取り下げは、刑事裁判にできるか否かを決定的に左右するのです。
(3)非親告罪では告訴が取り下げられても起訴される可能性がある
一方、非親告罪の場合、告訴があったことは起訴の要件ではないため、告訴が取り下げられても加害者が裁判にかけられる可能性は残ります。
とはいえ、告訴の有無は検察官が起訴するかどうかを判断する際に少なからず影響を与えます。
4、非親告罪では示談をしても意味がない?
以上からすれば、「非親告罪では、告訴の取り下げがあっても起訴されうるから示談は無意味」と考えられるかもしれません。本当にそうなのでしょうか。
本章では、非親告罪における示談の意義を解説します。
(1)非親告罪でも示談は重要
結論からいうと、非親告罪でも示談は重要な意味を持ちます。
示談の成立により、被害が金銭的に一定程度回復し、被害者が加害者への処罰を望まなくなった、あるいは、ある程度は許してもらったということができます。
検察官や裁判官は、処分を決したり、起訴不起訴の判断をするときに、被害状況の回復や被害者の処罰感情を重く見るため、示談の成立は加害者の処分を軽くする方向に働くでしょう。
(2)不起訴となる可能性が高まる
示談がなされていると、検察官が不起訴とする可能性が高まります。
特に、被害金額の少ない窃盗罪などの財産犯では、金銭的に被害が回復されていて、被害者に処罰感情がなければ、起訴する必要性はないと判断されやすいです。
また、従来親告罪であった性犯罪についても、非親告罪となった今でも、被害者の意向は依然として重視されているため、示談していれば不起訴の可能性は高まります。
不起訴となれば、前科はつきません。非親告罪であっても、起訴前に示談して告訴を取り下げてもらうのは重要といえます。
(3)起訴されても刑罰が軽くなる可能性が高い
被害が大きいなどの理由で、示談が成立していても起訴されるケースはあります。
その場合でも、裁判官が示談の事実を有利に評価して、刑罰を軽くする可能性が高いです。
判決で執行猶予が付く、実刑でも刑期が短くなるといった効果が期待できます。
5、非親告罪に問われたときは弁護士への相談が有効!
非親告罪であっても、罪に問われている場合はお早めに弁護士にご相談ください。弁護士は以下のお手伝いをいたします。
(1)被害者との示談交渉を代行してもらえる
弁護士に依頼する大きなメリットは、被害者との示談交渉を本人に代わってしてもらえる点にあります。
ここまで説明したように、非親告罪であっても、処分の決定にあたって示談の有無は重要な要素です。
とはいえ、加害者本人やご家族が直接示談交渉するのは、被害者も感情的になって接触を拒まれるなど、非常に困難であり、脅迫が疑われるおそれもあるため、オススメできません。
交渉はプロの弁護士に任せ、少しでも早く示談に向けた準備をしていく方がよいでしょう。
(2)取り調べへの有効な対応の仕方をアドバイスしてもらえる
弁護士に依頼すれば、捜査段階における取り調べの対処方法についてアドバイスを受けられます。
取り調べの際に事実とは異なる調書が作成されてしまい、後に不利な証拠として使われるケースが後を絶ちません。
そこで、弁護士に相談すれば、
- 取調べにおいてどの程度話すべきか
- 調書にサインをしてもいいか
といった取り調べに関する疑問が解消します。
取り調べにどう対処すべきかについては、ケースによって千差万別です。弁護士に相談すれば、自分にあった方法のアドバイスをもらえるでしょう。
(3)検察官とかけ合ってもらえて不起訴の可能性が高まる
弁護士は、起訴の判断権限を持つ担当検察官ともやりとりをして、不起訴に向けて活動します。
検察官の判断においては、弁護士から示された事実がポイントになるケースも多いです。
示談の状況の報告、加害者に有利な事情の説明などを通じて、不起訴にすべきであることを効果的に検察官に訴えれば、不起訴の可能性が高まります。
加害者本人がそのような説得をするのは難しいため、早めに弁護士に依頼するのが重要といえます。
まとめ
非親告罪について、親告罪との違いや示談の意義について解説してきました。
非親告罪は告訴がなくても起訴できる犯罪ですが、示談による処分の軽減は期待できます。早めに弁護士に相談して、不起訴処分を目指しましょう。