
過払い金の請求について弁護士が紹介します。
過払い金は、本来であれば支払う必要のなかったお金ですから、債権者に対して返金を求めることは、当然に認められた正当な権利行使といえます。特に、違法金利の支払いを何年にもわたって行ってきたというケースでは、100万円を超える返金を受けられるケースも珍しくありません。そのため、10年以上前からの借金が残っている人であれば、現在の借金がゼロになる、または大幅に減る可能性も高いといえます。
しかし、2020年現在の借金には過払い金は発生しませんし(違法金利ではなくなっているから)、請求されずに放置されている過払い金も、近い将来請求できなくなってしまうものも少なくありません。2020年の現在、さまざまな事情で過払い金の請求それ自体も、簡単ではなくなっているのです。
そこで、今回は、
- 2020年現在でも過払い金を請求できる場合
- 2020年に過払い金を請求する方法
- 2020年に過払い金を請求することによるデメリット
などについてまとめてみました。
この記事をお読みいただくことで、ご自身でも過払い金請求が可能となるように解説していきます。
「私の(過去の)借金にも過払い金があるかもしれない」と少しでも思い当たる節のある人は、1日でも早く対処された方がよいでしょう。
目次
1、過払い金の請求は可能?過払い金が発生しているか確認する方法
過払い金を請求するためには、当然ですが、過払い金が発生していなければなりません。
ご自身に過払い金が発生しているかを確認するためには、以下の事項を確認することが必要です。
(1)過払い金が発生する2つの条件
過払い金が発生するための最低条件は、グレーゾーン金利で借金の取引をしていたことです。
グレーゾーン金利とは、利息制限法所定の上限金利を超えるものの、出資法所定の上限金利の範囲内の金利のことです。
民事上は違法ですが、刑事罰の対象とはならないため「グレーゾーン金利」と呼ばれています。
グレーゾーン金利について詳しくは、以下の記事をご参照ください。
グレーゾーン金利で借金の取引をしたことがある人の場合、過払い金が発生しているかどうかは次の2点を検討することで、おおよそ判断することができます。
①グレーゾーン金利で概ね5年以上取引していたこと
現在も借金を返済中の人については、グレーゾーン金利で概ね5年以上取引している場合は過払い金が発生している可能性が高いです。
ただし、「5年」というのはあくまでも目安です。借入額や返済額、追加借入れの時期や金額などによって結果は異なります。
実際に過払い金が発生しているかを確認するためには、後ほど「(3)」でご説明する利息の引き直し計算をする必要があります。
②一度でもグレーゾーン金利で取引し、その後完済したこと
すでに借金を完済している人の場合は、一度でもグレーゾーン金利で取引をしたことがあれば、確実に過払い金が発生しています。
ただし、後ほど「(2)③」でご説明する消滅時効にかかっていないかどうかを確認する必要があります。
(2)過払い金を請求できない4つのケース
次に、過払い金が発生しないか、発生しているとしても請求できないケースについてご説明します。
①利息制限法の上限金利内でのみ取引していた
上記「(1)」でご説明したように、グレーゾーン金利で取引したことがなければ,過払い金が発生することはありません。
利息制限法の上限金利内であれば、貸金業者が正当に利息を受け取ることができるため、過払い金は発生しないのです。
なお、利息制限法の上限金利は、借入れの元金の額に応じて次のとおりに定められています。
- 元金10万円未満の場合 年利20%
- 元金10万円以上100万円未満の場合 年利18%
- 元金100万円以上の場合 年利15%
②カードのショッピング枠を利用した
クレジットカードによるショッピングでも分割払いを利用すれば手数料がかかりますが、これは過払い金の対象とはなりません。
なぜなら、クレジットカードによるショッピングの利用は立替払いであって、借金ではないので、利息制限法が適用されないからです。
一方、クレジットカードでもキャッシングの利用は借金なので、利息制限法が適用され、過払い金の対象となります。
③完済から10年以上が経過した
過払い金の返還請求権には時効があります。最終取引(完済)から10年が経過すると、消滅時効が完成し、その後は過払い金請求をしてもお金を取り戻すことはできなくなります。
④借入先が倒産した
過払い金が発生していても、請求先である貸金業者が倒産してしまえば、もう返還を請求することはできません。
近年は過払い金の返還などが負担となって経営が傾き、倒産した貸金業者も少なくありません。
そのため、過払い金が発生している場合は1日でも早く請求した方がよいでしょう。
(3)過払い金の発生の有無を実際に確認する方法
以上の各項目を検討することで、ご自身が過払い金の対象となり得るかどうかを判断することは可能です。
ただ、その場合も、実際に過払い金が発生しているかを確認するためには、次の作業が必要になります。
①取引履歴を取り寄せる
まずは、借入先の貸金業者から取引履歴を取り寄せましょう。
過払い金の発生の有無を確認するためには、ご自身と貸金業者とのすべての取引を正確に明らかにする必要があります。
貸金業者はすべての取引を記録した「取引履歴」を保管しているので、これを取り寄せます。
②引き直し計算をする
取引履歴を取り寄せたら、そこに記載されているすべての取引について、利息引き直し計算をします。
通常、取引履歴には契約上の金利に基づいた取引経過が記載されています。
そのすべてについて、利息制限法所定の上限金利を適用して計算し直すのです。
この計算によって、過払い金の発生の有無と、発生している場合は金額が判明します。
2、過払い金をいくら請求できる?過払い金の計算方法
過払い金が発生しているとしても、その返還を請求するためには具体的な金額を割り出さなければなりません。
そのためには、前記「1(3)」でご説明したように、取引履歴を取り寄せて引き直し計算をする必要があります。
ここでは、引き直し計算について詳しくご説明します。
(1)引き直し計算の方法
引き直し計算とは、ご自身と貸金業者との取引について、利息制限法所定の上限金利を適用して計算し直すことです。
例えば、2005年4月1日に50万円を借り入れて、1ヶ月後の5月1日に1万5000円を返済した場合、30日分の利息として支払った金額は取引履歴に記載してあります。
ただし、その利息は契約上の利息(29.2%など)に基づいて計算されたものです。
それを利息制限法所定の上限金利である18%で計算しなおせば、本来支払うべきだった利息が判明します。
すべての取引についてこのような計算をしていくのが引き直し計算ですが、手作業で行うのは大変です。
そこで、「過払い金計算ソフト」を使います。
過払い金計算ソフトは、以下の記事から無料でダウンロードできます。使い方も詳しく説明されていますので、以下の記事をご参照ください、
(2)途中で完済している場合の計算方法
前記「1(2)③」で、完済してから10年が経過すると過払い金返還請求権は消滅時効にかかることをご説明しました。
ただし、10年以上前にいったん完済した場合でも、その後に同じ貸金業者から再度借り入れた場合、完済前の取引と再度の借入れ後の取引を一連の取引として扱うことが可能な場合もあります。
その場合は、完済した取引の引き直し計算に続けてそのまま、再度の借入れ後の取引も計算していきます。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
関連記事3、どうやって過払い金を請求すればいい?過払い金の請求手順
引き直し計算によって過払い金の額が判明したら、いよいよ貸金業者に対して返還を請求します。
ここでは、具体的な過払い金の請求手順をご説明します。
(1)過払い金請求書の送付
過払い金の請求方法に決まりはありませんが、まずは「過払い金請求書」という書面に返還を求める金額を明記し、貸金業者へ送付するのが一般的です。
過払い金請求書の書式は、以下の記事から無料でダウンロードできますので、ご活用ください。
関連記事(2)貸金業者と交渉
過払い金請求書を送付してから数日~1週間程度後に、貸金業者から連絡があるのが通常です。
電話連絡の場合が多いですが、書面で回答がくることもあります。
多くの場合は、貸金業者も過払い金の返還義務は認めるものの、こちらが請求した金額の何割かで和解したいという内容の回答となります。
70~80%を返還するという業者もあれば、20~30%しか返還できないという業者もいます。
あるいは、0~10%しか返還できないという業者もいて、業者の対応は様々です。
いずれにしても、何割を返還してもらうかを貸金業者との電話または書面のやりとりで交渉していくことになります。
なお、交渉によって満額を返還してもらえることはまずありません。
満額の返還を求める場合は、裁判が必要になります。
ただし、裁判には時間がかかりますし、裁判をしても満額を回収できる保証があるわけではありません。そういったデメリットも頭に入れつつ、慎重に交渉することが必要です。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
関連記事(3)裁判を起こす
任意の交渉によって和解するよりも、裁判を起こした方が一般的には取り戻せる過払い金の額は大きくなります。
ただし、裁判手続きには専門的な知識が必要ですし、手間もかかります。消滅時効などの法的な論点がある場合には、事実上弁護士に依頼する必要がありますが、その場合は弁護士費用もかかります。そのため、結果的に裁判をするのが損か得かについては慎重に検討する必要があります。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
関連記事(4)訴訟上の和解を検討する
裁判を起こすと、ご自身と貸金業者がお互いに主張と証拠を出し合って裁判期日を重ねていき、最終的に判決が言い渡されます。
ただし、裁判の中でも話し合いによって和解が成立することはよくあります。
通常、訴訟上の和解は訴訟前の和解案に比べて請求者に有利な条件で和解できるものです。
和解案を見て納得できる場合は、訴訟上の和解をするのもよいでしょう。
(5)過払い金が振り込まれる
和解が成立するか、判決が確定した場合は、貸金業者から過払い金が振り込まれるのを待つことになります。
もし、決められた期日までに振り込まれない場合は、差押えなどの強制執行手続きを検討する必要があります。
その場合は、弁護士に相談した方がよいでしょう。
4、過払い金を請求する際に注意すべきこととは?
過払い金を請求する際には、以下の4点に注意する必要があります。
請求した結果、「こんなはずじゃなかった」ということにならないよう、請求前に検討しておきましょう。
(1)過払い金請求をするとブラックリストに載ることがある
ブラックリストとは、借金を延滞したり債務整理をしたときに信用情報機関に登録される事故情報のことです。
いったんブラックリストに登録されてしまうと、5年~10年は新たな借入れやローン、クレジットカードの利用などが難しくなります。
過払い金請求をした場合にブラックリストに載せられるかどうかは、次のようにケースに分かれます。
①既に完済している場合
ブラックリストに載ることはありません。
既に借金を完済しているため、延滞することがないからです。
②現在も返済中だが、引き直し計算の結果、完済となる場合
この場合は、貸金業者によっては一旦ブラックリストに登録されてしまうことがありますが、貸金業者に対して事故情報の抹消申請を求めることで、ブラックリストから抹消されます。
過払い金請求をした時点で返済をストップするため、いったん「延滞」の情報が信用情報機関に登録されます。
しかし、本来は既に完済していたはずなので、「延滞」がなかったものとして情報の修正を求めることができるのです。
③現在も返済中で、引き直し計算をしても借金が残る場合
この場合は、ブラックリストに登録されてしまいます。
残った借金について「延滞」が発生してしまうためです。
(2)10年以上前の借金でも過払い金請求できる場合がある
前記「2(2)」でご説明したように、完済から10年以上が経過していても、その後に再度借入れをして、取引の連続性が認められる場合には過払い金請求が可能なこともあります。
例えば、平成10年に初めて借金をして平成18年に完済したとします。
その2年後の平成20年に同じ業者から再度借入れをして現在も返済中の場合、完済前の取引と再度借り入れた後の取引に連続性が認められる可能性があります。
この場合、完済前の取引からは過払い金が発生している可能性が非常に高いので、引き直し計算をしてみる価値があります。
ただし、取引の連続性が認められるかどうかはケースバイケースであり、判断が難しいので弁護士に相談されることをおすすめします。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
関連記事(3)延滞中でも過払い金請求は可能
現在、借金を延滞中であっても、過払い金が発生している場合は問題なく返還を請求することができます。
ただし、長期間延滞している場合は、遅延損害金が発生しているため、引き直し計算をすると過払い金が発生していない場合もあります。
まずは、引き直し計算をして過払い金が発生しているかどうかを確認する必要があります。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
関連記事(4)過払い金が戻ってくるまでには時間がかかることもある
過払い金請求をしてから実際に過払い金が戻ってくるまでの期間の平均は、2020年現在、おおよそ以下のとおりです。
- 任意交渉で和解した場合
- 3ヶ月~6ヶ月
- 裁判をした場合
- 6ヶ月~1年
注意が必要なのは、和解成立または判決確定の後、貸金業者から過払い金が振り込まれるまでの期間が年々、長引きつつあるということです。業者によっては3ヶ月程度かかることもあります。
どの貸金業者も数多くの顧客への過払い金返還が負担となり、返還を約束してもすぐにはお金を振り込めない状況となっています。
この傾向は今後もさらに続くと思われるため、過払い金を早く取り戻すためには早期に請求することが重要です。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
関連記事5、過払い金請求は弁護士に依頼すべき?費用は?
過払い金請求は、弁護士に依頼した方がメリットが大きい場合が多いといえます。
ただし、弁護士に依頼するには費用もかかりますし、弁護士選びも重要な問題です。以下の点を考慮した上で、まずは無料相談を活用してみるのも良いでしょう。
(1)弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼する主なメリットとして、以下のことを挙げることができます。
- 過払い金を正確に計算できる
- 貸金業者との交渉や裁判の手続きをすべて任せられる
- 専門的なノウハウにより、過払い金を多く取り戻せる可能性が高い
なお、弁護士のほかに司法書士も過払い金請求を取り扱っています。
しかし、過払い金の額が140万円を超える場合は、司法書士に依頼することはできません。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
関連記事(2)過払い金請求にかかる弁護士費用
過払い金請求にかかる弁護士費用は、依頼する法律事務所によって異なります。
おおよその相場としては、以下のとおりです。
- 着手金 1社当たり2万円~4万円
- 報酬金 回収した過払い金の20%程度
これらの費用は、任意交渉で和解するか、裁判をするかによっても異なってきます。
このほかに、法律相談料や実費がかかることもあります。詳しくは、以下の記事をご参照ください。
関連記事(3)過払い金請求に強い弁護士の探し方
弁護士にも得意分野・不得意分野があるため、過払い金請求を依頼するなら過払い金請求に強い弁護士を選ぶことが重要です。
インターネットなどで良い法律事務所を探した上で、複数の事務所で無料相談を利用し、比較した上で選ぶのがおすすめです。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
関連記事 関連記事まとめ
2010年に利息制限法が改正されてから10年目となる今年(2020年)は、現在請求されずに残っている過払い金の多くに消滅時効が成立することが予測されます。
自分の借金に過払い金が発生しているかもしれないと思われる場合には、1日も早く、過払い金請求の経験が豊富な弁護士・司法書士に相談することを強くオススメします。