過払い金が発生する条件についてご紹介します。
借金を抱えている人であれば、「自分の借金に過払い金が発生しているか知りたい」と考えることでしょう。
過払い金返還は、本来払う必要のなかった利息の返還を請求するものですから、消費者金融などの高利の借金を抱えていた場合に請求できる可能性があります。
実際に発生している過払い金の金額を正確に算出するためには、相応の手間をかけて作業する必要がありますが、過払い金が発生している可能性があるかどうかを判断することは、比較的簡単に行うことができます。
そこで、今回は、
- 過払い金が発生する条件
- 自分の借金に過払い金が発生しているかどうかを確認するためのチェックポイント
について解説します。
ご参考になれば幸いです。
過払い金に関してはこちらの記事をご覧ください。
1、過払い金が発生する条件
まずは、過払い金の基本について確認しておきましょう。
(1)「過払い金」はすでに支払った違法金利のこと
金融機関からの借金には利息が付されるのが通常です。
過払い金とは、簡単にいえば「法律上支払う必要のなかった利息」のことを指します。
たとえば、100万円の借金がある場合に、本当であれば毎月1万円の利息だけを支払えばよかったところを、毎月2万円の利息を支払っていたという場合であれば、その差額である1万円が過払い金となるというわけです。
(2)グレーゾーン金利と過払い金
利息についての規制(法律上の上限利率)には、出資法が定める上限利率と、利息制限法が定める上限利率の2種類があります。
過払い金は、この2つの上限利率に違いがあったことが過払い金の生じてしまった一番の原因です。
具体的には、かつての出資法では、上限利率を年29.2%と定めていて、利息制限法は、(借金の額に応じて)年15%・年18%・20%を上限利率としていました。
この2つの利率の間の利率(15%・18%・20%~29.2%)のことを「グレーゾーン金利」とよんでいます。
ここでいうグレーゾーンというのは、「適法ではないが罰則が科せられるわけではない」という意味合いで用いられています。
つまり、かつての貸金業者は、「利息制限法違反には罰則がない」ということを逆手にとって、違法な金利を顧客に請求していたということになります。
もっとも、当時の法律もこのような違法金利の請求を無条件で認めていたわけではありません。
金融機関がグレーゾーン金利を顧客から受け取るためには、貸金業規制法(当時:現在の貸金業法)に定められた要件にしたがった方法で取引が行われる必要がありましたが、最高裁判所が平成18(2006年)1月に実務上行われていた契約の方式(いわゆるみなし弁済)が違法であるとの判断を下したことで、「貸金業者によるグレーゾーン金利の受け取りが違法」ということになったものです。
2、過払い金が発生しているかを判断するための3つのチェックポイント
上の説明をふまえた上で、自分の借金に過払い金が発生しているかどうかをチェックするためのポイントについて説明していくことにしましょう。
過払い金が発生しているといえるための基本条件は、「利息制限法の上限金利を超える利息を支払っていること」ということになりますが、具体的には、以下のチェックポイントを順に確認していくことで、過払い金の有無を大筋で判断できるようになります。
(1)借入先
最初のチェックポイントは借入先です。
債権者が消費者金融(いわゆるサラ金)、信販会社(クレジットカード会社など)であった場合には、過払い金が発生している可能性が高いといえます。
その他方で、債権者が「銀行」であった場合には、過払い金が発生している可能性はゼロといえます(以前から銀行の傘下にあった消費者金融(モビットなど)も過払い金が発生している可能性は低いです)。
また、少数派ではありますが、消費者金融・信販会社の中には、以前から利息制限法の上限金利以内でしか融資を行っていないところも存在しないわけではないので注意する必要があるといえます。
(2)借金の利率
すでに説明したように利息制限法の上限金利は、15%・18%・20%となっているので、20%を超える金利が設定されていた借金には、原則として過払い金が発生していることになります。
実際に適用されていたグレーゾーン金利は、20%ギリギリというよりも、出資法の上限金利である年29.2%にかなり近いものがほとんどでしたので、適用金利が19%で判断に迷うというようなことはあまりないといえます。
ただ、過去の借金の契約書や取引明細(領収書)をきちんと保管している人は少ないと思います。
その場合には、債権者に「取引履歴」の開示を求めることで契約内容などを確認する必要があります。
(3)借入れした時期|過払い金の有無を判断する目安
借金に適用されていた利息は、取引履歴を確認しなくても「借入れの時期(契約した日時)」によっておおよその推測をすることが可能です。
なぜなら、ごく一部の貸金業者・クレジットカード会社を除けば、2007年頃まではグレーゾーン金利での貸付を行っていたからです。
したがって、2007年よりも前から抱えている借金には過払い金が発生している可能性が高いといえます(2007年から現在までずっと返済が続いている借金も含みます)。
実際に、過払い金の簡易診断のようなシステムは基本的に、借入先と借入れ時期の情報から過払い金の有無を判断しています。
なお、2010年6月18日に現行の出資法・貸金業法が施行されたことにより、それ以降は、グレーゾーン金利は消滅したことになっていますが、金融機関のほとんどはそれに前倒しをして「適用利率の引き下げ」を行っています。そのひとつの目安の時期が2007年というわけです。
ただし、業者によっては、2006年1月の最高裁判決をうけて、2007年よりも早い時期に金利の引き下げを行っている業者もあるので注意する必要があります。
3、過払い金が発生しない3つのパターン
上で説明したことをまとめておけば、「2007年以前に消費者金融やクレジットカード会社などからした借金」には過払い金が発生している可能性が高いといえます。
また、過払い金の額は「返済期間が長いほど多くなる」ので、2007年以前の借金を今でも返済しているというケースにおいて、相当な金額の返金を受けられる可能性があります。
しかし、この条件に合致している場合であっても、次のパターンにあてはまる場合には、「過払い金が発生していない」、「過払い金はあったが消滅してしまった」可能性が高いといえます。
(1)担保を提供している借金
借金に適用される利率は、「貸し倒れとなる確率・リスク」に比例するのが一般的です。
したがって、一般的な無担保で小口の借金ほど適用利率は高くなります。
他方、住宅ローンのように担保を提供している借金の場合には、担保の処分によって貸し倒れを回避することが可能ですから、高い金利が付されることはまずありません。
これと同様に、自動車ローンの場合にも、債権者に所有権留保とよばれる担保権が認められていることから、過払い金が発生するような違法金利が付されることは、(よほど悪質な業者でローンを組んでいない限りは)原則としてありません。
(2)クレジットカードでのショッピング
過払い金は、上でも説明したように「支払う必要なかった利息を支払った」ことを原因に発生するものです。
クレジットカードで(3回以上の)分割払い・リボ払いをしたときに発生する「手数料」は、機能としては利息と同じものですが、法律上は「利息とは異なる」ものとされています(利息制限法ではなく割賦販売法が適用される取引です)。
したがって、クレジットカードのショッピング(借金ではなく立替払い)には過払い金は発生しないことになります。
なお、クレジットカード利用分であっても、「キャッシング利用分」は、借金ですから、これに違法金利(グレーゾーン金利)が適用されていたときには、その部分については過払い金が発生します。
(3)最後の返済日から10年以上過ぎている場合
令和2年の今日現在で、最も注意すべきは「過払い金請求権の消滅時効」です。
債権者から過払い金を返金してもらえる権利も、他の権利と同様に消滅時効の対象となるからです。
過払い金の消滅時効は、「最後の取引日から10年」以内に債権者に返金を請求しなかった場合に完成します(正確には、初日不算入の原則が適用されるので取引日の翌日から10年です)。
上でも解説したように、過払い金は、2007年以前に契約した借金にのみ発生するものですから、借入れから3年以内に完済したケースでは、すでに消滅時効が完成してしまっている場合が多いと考えられます。
なお、2007年以前の借金の完済(の翌日)から10年以上経過してしまっているというケースであっても、完済直後に再度の借入れをしている場合では、「先の借金の完済後も取引が継続している」と考えられる場合もあり得るので、諦めずに弁護士などに相談してみる価値はあるといえます。
4、必ず専門家に調査を依頼しましょう
平成18年1月の最高裁判決が出たことで、過払い金が発生する基本条件は非常にシンプルになりました。
それ以前であれば、いわゆるみなし弁済(債務者が違法金利であることを承諾した上で支払っているとみなせるための条件)の有効性を判断する必要がありましたが、最高裁判決によってみなし弁済が事実上違法とされたことで、「借金に適用されている金利」だけを判断すればよくなったからです。
とはいえ、いまでも過払い金を請求できるかどうか、請求できる(受け取れる)過払い金の金額がいくらであるかといったことは、より詳細な調査を行わなければ把握することはできません。
一般の人が自力で行うことも不可能ではありませんが、かなりの手間と時間がかかります。
また、過払い金が発生していたとしても金融機関から返金を受けることも簡単なことではありません。
多くの金融機関はさまざま理由をつけて過払い金の減額を求めたり、過払い金の存在自体を否定することも珍しくないからです。
したがって、過払い金を正確に調査し、確実に回収したいと考えるときには、相応の費用はかかりますが、過払い金回収に長けた弁護士・司法書士に依頼するのが一番といえるでしょう。
まとめ
現在の法律の下ではグレーゾーン金利は存在しませんので、近年契約された借金には原則として過払い金は発生していません。
そのため、最近の利率だけを見て、本当は過払い金が発生していた過去の借金についても「私の場合は違う」と思い込んでいる人も多いでしょう。
特に、2007年前後の借金については勘違い・思い込みのケースも少なくないと思われます。
過払い金は、すでに完済してしまった借金であっても、消滅時効が完成する前であれば請求することができます。
過払い金の発生条件それ自体は非常にシンプルなものです。
ほんの少しでも思い当たる節があるときには、1日も早く弁護士・司法書士に相談することをおすすめします。