
残業代(法律上は、「割増賃金」といいます)を請求するのには、「証拠」が必要ということをご存知ですか?
今回は、
- 残業代請求をするうえで証拠収集が最も重要となること
- どのような証拠を収集する必要があるのか
- 残業代の計算方法
等、知っておくべき7つのポイントをご説明いたします。
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目次
1、残業代請求における証拠の重要性
会社に対して残業代を請求するうえで、残業代の正確な金額を計算して、証拠に基づいて証明する責任は、労働者の側にあります。
そのため、あなたが残業代請求をしていく上で最も重要となるのが証拠収集です。
あなたが真実において膨大な時間の残業をしていたとしても、客観的な証拠が何一つ提出されないまま、裁判所が、あなたの主張をそのまま受け入れるということはありません。
裁判所は正義の味方というよりは、証拠を持った側の味方なのです。
では、残業代を請求するためにはどのような証拠が必要となるのでしょうか。
2、雇用契約の締結を立証するための証拠
まずは大前提として、雇用契約の締結を立証するための証拠が必要となります。
具体的には、
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
などの証拠が必要となります。
3、雇用契約中の時間外労働に関する合意の内容を立証するための証拠
次に、雇用契約中の時間外労働に関する合意の内容を立証するための証拠が必要となります。
- 就業規則
は、所定労働時間、所定休日、時間外手当の内容等の残業代計算における重要な要素を特定するために重要な証拠となります。
また、
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
には、時間外手当に関する取り決めが記載されている可能性が高いため、雇用契約の締結を立証するためのみならず、時間外労働に関する合意の内容を立証するためにも重要な証拠となります。
4、請求の対象となる期間の給与額を立証するための証拠
請求の対象となる期間の給与額を確定するために、
- 給与明細
- 就業規則(賃金規程)
などの証拠が必要となります。請求の対象となる期間の給与の内訳が、残業代計算の基本となるからです。
5、残業の存在とその時間数を立証するための証拠
(1)使用者が労働者の毎日の実労働時間を把握することを目的とするもの
使用者には、労働者の毎日の実労働時間を把握する義務があります。
この義務に従っている使用者の下で働いている場合については、使用者が毎日の実労働時間を把握することを目的とするものが強い証拠となります。
タイムカードによって時間管理がなされている場合は、特段の事情でもない限り、その打刻時間をもって実労働時間と事実上推定するのが裁判例の立場であり、タイムカードもしくはそれに類する以下のような証拠を収集できるか否かが第一に重要となります。
- ①時刻が打刻されたタイムカード、管理ソフト等に基づく労働時間の記録データ
- ②労働時間が記載された記録(業務日報等)のうち上司の承認印のあるもの
(2)記録から残業の存在とその時間数が推認できるもの
①②のような証拠が手元にありさえすれば、残業の存在とその時間数を立証することは比較的容易です。
しかし、残業代の支払いを免れようとの意図の下、故意に労働時間の管理を適正に行っていない使用者も少なくありません。
このように、使用者が労働時間管理を適正に行っていない場合、残業代の請求を諦めざるをえないということになるのでしょうか。そんなことはありません。以下のような記録を収集することにより、残業の存在とその時間数を推認することも可能です。
- ③業務上のパソコン(PC)に残っているログイン・ログオフの記録
- ④残業時間中に送信した電子メールの時間記録
- ⑤残業時間中に使用した携帯電話のメールの記録(内容が仕事中であることを推測できるもの等)
- ⑥入退館記録
(3)残業の存在とその時間数を推認させるもの
強い証拠となるわけではありませんが、以下のような、その性質上、一定の労働時間を推認させるものも証拠となりえます。
⑦に関しては、その指示の内容からすれば、その日はこのくらいは残業したはずであろうというように、⑧に関しては、その人の仕事内容からすれば、特段の事情がない限り、店舗の営業時間は働いていたはずであろうというように推認するわけです。
- ⑦上司からの残業指示のメール、メモ等
- ⑧店舗等の営業時間(HP、採用広告等)
(4)労働者自身の手による労働時間の記録
以下のような労働者自身の手による労働時間の記録は、単体では弱い証拠であることから、この証拠だけをもって必ず訴訟で勝てるとはいえません。
しかし、本来、労働時間は使用者側が管理して記録していなければならないものです。
そのため、他の証拠や事案によっては、その労働者自身の手による記録などに基づいて、概括的に「少なくともこのくらいは働いていたはずだ」ということを主張することもあります。
- ⑨労働者自身の手による労働時間の記録(手帳等)
6、残業代の計算方法
労働者が会社に請求できる残業代等には労働時間の性質に応じて以下の種類があります。
(1)所定時間外労働
1日の所定労働時間が7時間30分などの8時間以下の場合には、所定労働時間を超過し、法定労働時間である8時間までの労働が所定時間外労働となります。
所定時間を超えて労働を行った場合には、労働者は会社に対し、所定時間外労働として残業代等を請求することができます。
(2)法定時間外労働
労働基準法に定められた法定労働時間は1日8時間、1週間40時間であるため、1日の労働時間が8時間を、1週間の労働時間が40時間を超える場合には基本時給を割増した残業代等を請求することができます。
なお、法で定められた最低割増率は1.25倍です。
(3)深夜労働
労働基準法に22時から翌5時までの時間帯は、深夜早朝勤務として通常の賃金に加えて別途割増手当を支給する義務が会社に課されています。
そのため、深夜労働時間帯に労働を行った場合には、労働者は会社に対し深夜労働時間の割増手当を請求することができます。
(4)法定休日労働
労働基準法により、会社は労働者に対し週に1回は休日を取得させることが義務付けられています。
この週に1回付与しなければならない休日を法定休日といいます。
そして、会社の事情により、法定休日に労働者が就労を行った場合には、労働者は会社に対し法定休日労働に対する割増賃金を請求することができます。
そして、残業代等は以下の計算式により算出されます。
「労働者の1時間当たりの賃金」×「残業時間数」×「割増率」
ここで最も重要なことは、「残業時間数」がどのくらいであるか、正確に主張をしていくことです。
そのために、これまで述べてきた残業の存在とその時間数を立証するための証拠が必要になります。
7、証拠がなくても残業代請求ができた事例
当事務所では、残業の存在とその時間数を立証するための証拠として労働者自身のメモ以外に客観的証拠が存在しなかった事案において、会社との交渉により、労働者側の請求に沿った形での解決を勝ち取ったなどの実績があります。
ただし、これまで述べてきたとおり、残業代請求を勝ち取る上で、客観的証拠がそろっている方が有利なことは明らかです。
したがって、仮にあなたが残業代請求を考えているのであれば、上記で掲げた証拠をできるかぎり収集しておくことをお勧めします。
その際は、会社から妨害を受ける可能性も考慮して、慎重に証拠を収集するべきです。特に残業代請求をするのと並行して退職を考えているような場合は、退職してしまうと、会社の内部にある証拠の収集が困難になりえますので、退職前に証拠を保全しておくべきです。
まとめ
今回は、残業代請求に必要な証拠について説明させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
本記事をご参考にしていただき、満足のできる残業代を勝ち取っていただければ幸いです。