のぞきで逮捕されたというニュースをときおり見かけることがあると思います。
しかし、「のぞき罪」という犯罪は存在しないため、のぞき犯がいったい何罪で逮捕されるのか疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
たかがのぞきで逮捕されるなんて信じられない、とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
そこで今回は、
- のぞき行為は何罪に当たるのか
- のぞきで逮捕される可能性はどれくらいなのか
- のぞきをしてしまった場合、逮捕を避ける方法とは
といった問題について解説した上で、
- のぞきで逮捕されてしまったときの対処法
もご紹介します。
自分や身内の方がのぞき行為をしてしまい、どうすればよいのかお悩みの方のご参考になれば幸いです。
性犯罪について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、のぞきで逮捕される可能性について知る前に|そもそも「のぞき」とは?
ひと口に「のぞき」といっても、さまざまな場面があります。
そのなかで、犯罪に問われる可能性がある「のぞき」には、大きく分けて2種類の行為があります。
ひとつは、住居や更衣室、風呂場、トイレなど人が通常衣服を脱ぐような場所を盗み見る行為です。
実際に他人の身体や下着を見たわけではなくても、このような場所を盗み見る行為自体が「のぞき」に該当します。
もうひとつは、通常衣服で隠されている他人の身体や下着を盗み見る行為です。
エスカレーターなどで女性のスカート内を盗み見るような場合がこれに当たります。
このような行為は、場所を問わず「のぞき」に該当します。
2、のぞきがバレると何罪で逮捕される?
以上のようなのぞき行為はバレなくても犯罪に該当しますが、バレると逮捕される可能性があります。
では、いったい何罪で逮捕されるのでしょうか。
のぞき行為が該当しうる犯罪には、以下の3種類があります。
(1)迷惑防止条例違反
のぞきが発覚すると、ほとんどの場合は各都道府県などの自治体が定めている「迷惑防止条例」違反として逮捕されます。
のぞきは、他人を著しく羞恥させ、または不安を覚えさせるような行為(粗暴行為)に含まれ、迷惑防止条例の規制対象となります。
規定の仕方は自治体によって異なりますが、東京都の迷惑防止条例では以下のように定められています。
第5条 1項 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(中略)
3号 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
引用元:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
公共の場所または公共の乗物において、通常衣服で隠されている他人の身体や下着を盗み見ることは「卑わいな言動」に当たるので、東京都の場合はこの規定に違反することになります。
のぞきが迷惑防止条例違反に該当する場合の刑罰は、多くの自治体で6か月以上の懲役または50万円以下の罰金と定められています。
なお、迷惑防止条例違反の刑罰について、1年以下の懲役または100万円以下の罰金と説明されることが多いですが、それは盗撮をしたり、盗撮目的で撮影機器を差し向けまたは設置した場合です。
最近ではスマートフォンや隠しカメラなどを利用した盗撮が多いのは事実ですが、単に盗み見ただけの場合の刑罰は「6か月以上の懲役または50万円以下の罰金」です。
ただ、刑罰が軽くても逮捕される可能性はあり、決して許されない行為です。
(2)軽犯罪法違反
のぞき行為は軽犯罪法違反に該当することもあります。
第1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
(中略)
23号 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者
引用元:軽犯罪法
迷惑防止条例が公共の場所や乗物内でののぞきを規制しているのに対して、軽犯罪法は人が通常衣服を脱ぐような場所での覗きを規制しています。
ただ、風呂場や更衣室、トイレなどであっても不特定または多数の人が利用する施設内であれば「公共の場」に該当します。その場合には迷惑防止条例が適用されます。
軽犯罪法違反に対する刑罰は、拘留または科料です。
拘留とは、1日以上30日未満の間、身体を拘束される刑罰です。しかも、拘留を執行猶予とすることはできず、必ず実刑となります。
科料とは、1,000円以上10,000円未満の罰金のようなものです。
(3)住居侵入罪・建造物侵入罪
のぞきをするために他人が管理する場所へ侵入した場合は、住居侵入罪や建造物侵入罪に該当することがあります。
第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法
女性の住居をのぞくためにその住居内に忍び込むようなケースが典型例ですが、デパート内のトイレや旅館内の風呂場をのぞいた場合でも、建造物侵入罪が成立することがあります。
なぜなら、のぞき目的での立ち入りを施設の管理者が許可したわけではないため、施設内への立ち入り自体に「正当な理由がない」と考えられるからです。
3、のぞきで逮捕される可能性は高い?低い?
のぞきが犯罪に該当する場合は、発覚すれば逮捕される可能性があります。
では、その可能性はどの程度あるのでしょうか。
(1)現行犯逮捕の場合
のぞきで逮捕されるときは、現行犯逮捕によることが圧倒的に多いです。
現行犯逮捕とは、現に罪を行った者をその場で逮捕することです。警察官だけでなく、一般の人でも現行犯逮捕をすることができます。
第213条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
引用元:刑事訴訟法
公共の場所でも住居などでも、不審者がいるとの通報を受けて駆けつけた警察官に逮捕されるケースが多いです。
施設の管理者や目撃者、あるいは被害者本人から取り押さえられて警察官に引き渡されることもあります。
現にのぞきをしていることが見つかれば、逮捕される可能性が高いといえます。
(2)後日逮捕の場合
のぞきで現行犯逮捕されなかった場合は、後日に通常逮捕される可能性が高いとまではいえません。
のぞきの現場が映っている防犯カメラの映像などを証拠として後日逮捕される可能性はありますが、被害届が出なければ捜査機関が本格的に捜査することが少ないからです。
ただし、何度ものぞき行為を繰り返していると、やがて複数人の被害者が警察に相談することにより捜査が行われることがあります。この場合、逮捕される可能性も十分にあります。
また、盗撮をした場合は逮捕される可能性が高くなります。特に、更衣室やトイレなどに設置した隠しカメラが見つかった場合は本格的な捜査が行われるため、逮捕を覚悟する必要があるでしょう。
4、のぞきで逮捕されたときのデメリット
のぞきは数多くある犯罪のなかで、重い刑罰が定められた犯罪とはいえません。
それでも、逮捕されてしまうと以下のように大きなデメリットを受けてしまいます。
(1)身柄を拘束される
逮捕されると、一定の期間は警察署内の留置施設等に身柄を拘束されます。
自由な行動は許されず、会社や学校へ通うこともできません。
会社員なら解雇や減給といった懲戒処分を、学生なら停学や退学の処分を受けてしまうおそれもあります。
家族構成によっては、子どもの世話や高齢の親の介護ができなくなるなど、家庭生活にも支障をきたしてしまいます。
(2)実名で報道される
軽い犯罪でも、逮捕されると実名で報道されることがあります。
また、全国のテレビニュースで報道されなくても、地方の新聞に掲載される可能性は十分にあります。
のぞきで逮捕されたことが実名報道されると、通常は社会的信用を大きく損なってしまいます。
仕事関係をはじめとする人間関係に支障が出ますし、近所にも知れ渡ってしまったり、結婚話が破談になったり、既婚者の方は離婚問題に発展することも少なくありません。
(3)前科・前歴がつく
逮捕された時点で前歴がつき、その後に有罪判決が確定すると前科がつきます。
前科・前歴がつくと、万が一次に犯罪を犯した場合に処罰が重くなってしまう可能性があります。
また、資格を要する仕事など一定の職業については、前科がつくことで欠格事由となるため仕事を失ってしまう場合もあります。
5、のぞきによる逮捕を避ける方法
のぞきで逮捕されることには以上のような大きなデメリットがあるため、なんとかして逮捕は避けたいところです。
逮捕を避けるためには、自首する方法があります。
のぞき行為が捜査機関に発覚する前に自首することで、逮捕される確率を下げることができるかもしれません。
自首とは、みずから罪を認めて捜査機関へ犯罪事実を申告することです。
そうすることによって、逮捕の要件である逃亡や罪証隠滅のおそれがないことを示せるので、逮捕されにくくなるのです。
捜査を受けるとしても、在宅で捜査が進められる可能性が高くなるともいえます。
自首する際、または、任意の取り調べを受ける際は、できるだけ弁護士に依頼して同行してもらうのがお勧めです。
弁護士に依頼していることで、逃亡や罪証隠滅のおそれがないことを捜査機関にさらに強く信用してもらうことができるからです。
この点、のぞき行為が捜査機関に発覚していない時点で自首することに躊躇する方もいらっしゃることでしょう。
自首するのが得策かどうかは、弁護士に相談してアドバイスを受けるとよいでしょう。
ただ、自首するなら早いほうが逮捕を避ける効果が高いことは言うまでもありません。
6、のぞきで逮捕された後の流れ
万が一、のぞきで逮捕されてしまったときにどのようなことが行われるのかは、誰しも気になるところでしょう。
そこで、逮捕された後の手続きの流れを簡単にご説明します。
(1)逮捕後の取り調べ
逮捕されると、まず警察官による取り調べが行われます。
この段階での取り調べは、次の「送検」の手続きまでの最大48時間以内に行われます。
時間の制約があるため、取調官の態度も厳しいものになりがちです。
しかし、ここで被疑者として供述したことはその後の処分に影響を及ぼす可能性が高いです。
そのため、事前に弁護士に相談しておくか、ただちに接見に来てもらって取り調べへの対応についてアドバイスを受けることが重要です。
(2)送検・勾留
警察官によって逮捕されてから48時間以内に、被疑者の身柄が検察官に送致されます(送検)。
送致を受けた検察官は、「弁解録取」という取り調べを行います。
身柄拘束を継続する必要があると判断した場合は、24時間以内に裁判所への勾留請求が行われます。
裁判所でも身柄拘束の継続が必要と判断されると、原則10日間の勾留が決定します。
その後は、さらに警察官や検察官による取り調べや犯行現場での実況見分などの捜査が行われます。
なお、のぞきの犯罪では考えにくいですが、捜査の必要性に応じて最大でさらに10日間勾留期間が延長されることがあります。
(3)起訴・不起訴
勾留期間が終了するまでに、検察官によって起訴・不起訴の判断が行われます。
起訴される場合は、正式起訴と略式起訴の2種類があります。
正式起訴されると、裁判所の公開法廷で通常の刑事裁判を受けることになります。
この場合、刑事裁判が終わるまで勾留が継続する可能性が十分にあります。
略式起訴されると、裁判所による書面だけの審理によって罰金刑が言い渡されます。
罰金の裁判の告知があったとき、勾留状の効力はなくなりますので、罰金言渡しの略式命令書が被告人に交付される同時に、釈放となります。
また、略式命令の際には、仮納付といって仮に罰金を納付することを命ずることとされていますので、処分当日に罰金を納めると刑事事件の手続きは終了します。
(4)刑事裁判
刑事裁判というのは、上記の「正式起訴」の場合に開かれる裁判のことを意味するのが一般的です。
無罪を争う場合は、アリバイを立証するなどして検察官の主張に反論していきます。
罪を認める場合は、情状を立証して軽い処分を求めることになります。
無罪判決や罰金判決、執行猶予つき判決を言い渡された場合は、その日に釈放されます。懲役の実刑判決が言い渡された場合は、勾留が継続します。
7、のぞきで逮捕されたときの対処法
のぞきで逮捕されても、その時点ではまだ有罪が確定したわけではありません。
その後の対応次第では不起訴処分を獲得することも可能です。
したがって、まずは不起訴処分の獲得を目指し、万が一起訴されてしまった場合は軽い処分の獲得を目指すという順番で考えるべきです。
そのための対処法として重要なのは、次の2点です。
(1)早期釈放を目指す
のぞきは刑罰の種類が重い部類に入るとまではいえない犯罪なので、逮捕されても微罪処分として厳重注意のみですぐに釈放されるケースも比較的多くあります。
送検されても勾留されずに釈放され、在宅で捜査が続けられるケースも少なくありません。
勾留されたとしても、処罰の必要性が低いと検察官に判断されれば不起訴処分によって釈放されることもあります。
このように早期釈放を獲得するためには、身元がしっかりしていて逃亡や罪証隠滅のおそれがないことや、再犯のおそれがないことを捜査機関に信用してもらうことが重要です。
そのためには、心から反省することは当然として、家庭環境を調整し、仕事や学業を継続できるように交渉することも必要になるでしょう。
これらの調整や交渉は逮捕・勾留されていると自分で行うことは難しいので、弁護士のサポートを受ける必要性が高いといえます。
(2)示談交渉
早期釈放を獲得するためにも、軽い処分を獲得するためにも、最も重要性が高いのは被害者との示談を成立させることです。
逮捕されてしまったら、検察官が起訴するまでに速やかに示談を成立させたいところです。
しかし、自分や家族が示談交渉をすると、示談できるとしても通常は時間がかかってしまい、起訴までに間に合わないおそれがあります。
また、直接交渉することを嫌がる被害者も少なくありません。
そのため、逮捕されたら可能な限り早く弁護士に依頼して、示談交渉を代行してもらうことが大切です。
8、のぞきで逮捕されないか不安なときは弁護士に相談を
のぞきをしてしまった、または、のぞきの疑いをかけられてしまった場合、たとえ現行犯逮捕されなくても後日逮捕される可能性はゼロではありません。
犯行が防犯カメラに映っていたり、設置した隠しカメラが見つかったりするなど証拠の状況次第では逮捕される可能性が高い場合もあります。
そんなときに、自首や示談など逮捕を避けるための方法をこの記事ではご説明しました。
逮捕されないか不安なときは、早めに弁護士に相談して見通しについてアドバイスを受けた上で、弁護士と一緒に正しく対処するようにしましょう。
まとめ
のぞきは、つい出来心でやってしまうこともあるかと思いますが、ついやってしまったで許されるものではなく、れっきとした犯罪です。
初犯で重い処分を受けることは考えにくいですが、逮捕されると事実上大きな不利益を受けてしまいます。
もし、のぞきをしてしまった、または、のぞきの疑いをかけられてしまった場合は、逮捕の可能性に怯えて一人で悩まず、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。