年金担保融資についてご存知ですか?
近年では、高齢者の人の生活苦も大きな問題となっています。しかし、フルタイムのお勤めがなく、健康的なリスクも高い高齢者の人は、一般的な金融機関から借金できないことの方が多いといえます。
そんな中、年金担保融資という制度が注目されています。これは、年金制度を担保にして融資を受けることで、老後の生活を安心して送るための方法です。年金受給者であれば、公的年金を担保にして金融機関からローンを組むことができるため、資金調達にお困りの方にとって有益な選択肢となるでしょう。
ただし、年金担保融資を利用する際は注意が必要です。違法な年金担保融資の被害に遭わないためにあらかじめ知っておくべき重要なポイントを解説します。銀行や消費者金融のカードローンが70歳を超える人への貸付をおこなっていないこともあり、高齢者が悪質業者の詐欺被害に遭うリスクもあるのです。利息や返済条件にも注意し、将来にわたる生活設計を見据えつつ、年金担保融資を上手に活用しましょう。
老後の準備は慎重に行いたいものですね。年金担保融資は、定収入を持つ年金受給者にとっては頼りになる手段ですが、計画的な利用が肝心です。保証を持った安心感と柔軟な資金使途が魅力の年金担保融資、これからの生活に一考の価値があります。適切な知識を身につけて、安全に利用しましょう。ご参考になれば幸いです。
お金を作る方法については以下の関連記事をご参照ください。
目次
1、年金担保融資とは
年金担保融資とは、文字通り、高齢者にとって最も重要な生活費の原資となる年金を担保にとることを条件に行われる貸付のことです。
通常、年金担保融資という言葉を用いる場合は、法律によって認められた年金担保融資の仕組みを指すのですが、近年では貧困に悩む高齢者が増えてきたことに伴って、「違法な年金担保融資」の被害に遭う人が増えています。
2、年金を担保に入れ融資を受け取ることは禁止
年金は、高齢者の方が憲法で保障された最低限度の文化的な生活を送るために必要となる資金を確保するために設けられている制度です。
そのため、年金(を受け取る権利)を他人への譲渡・担保としての提供することだけでなく差押えも法律によって禁止されています(税金などの公租公課を滞納した場合はのぞきます)。
国民年金法24条
給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、年金給付を受ける権利を別に法律で定めるところにより担保に供する場合及び老齢基礎年金又は付加年金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押える場合は、この限りでない。
厚生年金保険法41条
保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、年金たる保険給付を受ける権利を別に法律で定めるところにより担保に供する場合及び老齢厚生年金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押える場合は、この限りでない。
2 租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金銭を標準として、課することができない。ただし、老齢厚生年金については、この限りでない。
つまり、「年金を担保に他人にお金を貸し付ける行為」というのは、そもそも違法であるということになります。
3、法律で認められた年金担保融資の基本的な仕組み
以上のように、年金を担保にお金を貸す(借りる)ことは法律で禁止されているのですが、その「唯一の例外」が独立行政法人福祉医療機構(通称WAM)の行っている年金担保融資の制度です。
ここでは、その基本的な仕組みについて確認しておきましょう。正規の制度について知識があれば、違法・悪質な業者の被害に遭うリスクも減るといえるからです。
(1)WAMによる年金担保融資の仕組み
WAMによる年金担保融資の基本的な仕組みの流れは下記の図のとおりになっていて、借り入れたお金は、2ヶ月に1回振り込まれる年金から天引きされる形で返済していくことになります。
画像出典:厚生労働省ウェブサイト
(2)年金担保融資はどんな場合に利用できるのか
年金担保融資は、年金生活者のための福祉事業の一環として厚生労働省の所管にある独立行政法人福祉医療機構が行っているものです。
そのため、年金担保融資の利用は次のような目的の場合に限られることになっています(融資を受ける際には使途を説明する必要があります)。
- 入院、手術、治療、検査といった医療費
- 医療器具や健康器具の購入費用
- 介護施設、介護サービスの利用料金や施設の入居一時金
- 自宅の改修工事や引っ越し費用
- 冠婚葬祭費用
- 事業維持や起業のための費用
- 借金の返済(一括整理)
- 生活必需品の購入
(3)年金担保融資の申込み先
年金担保融資の申込みは、WAMの貸付課または取扱金融機関の窓口で行うことになります。年金担保融資の申込みを受け付けている金融機関は全国にある銀行(都市銀行・地方銀行)となっていて、その店舗では「独立行政法人福祉医療機構代理店」と表示されています。そのほかの金融機関(いわゆる街金融など)では、年金担保融資の取り次ぎは行っていません。
参考:受託金融機関一覧(WAMウェブサイト)
(4)令和4年3月末での受付終了が決定
WAMが行っている年金担保融資制度は、令和4年3月末日をもって新規の受付を終了することがすでに決まっています。
今後、新規受付終了に伴う新たな詐欺の手口(「私が紹介すれば受付終了後も融資を受けられる」といった手口など)が横行する可能性も高いといえるでしょう。
4、違法な年金担保融資の手口の具体例
冒頭でも触れたように、近年では高齢者の方にも貧困・借金問題を抱える方が増加しているといえます。今回のテーマである違法な年金担保融資は、そのような状況に陥ってしまった立場の弱い高齢者につけいる非常に悪質な手口です。
以下では、違法な年金担保融資の手口の特徴を紹介していきますので、被害に遭わないように十分注意しましょう。
(1)違法業者の広告手口
違法な年金担保融資業者は、主として
- 新聞広告(いわゆる三行広告)
- 折り込みチラシ
- ダイレクトメール
- ポスティング
といった手法で広告活動を行っています。
たとえば、
- 「年金立替」
- 「中高年専門」
- 「中高年歓迎」
といったフレーズが用いられているような融資(貸金)の広告は、違法な年金担保融資業者の可能性が高いので警戒する必要があります。
また、最近では、WAMへの申込みの取り次ぎや、融資の仲介などと称して、紹介料名目の金銭をだまし取る業者も増えているようです。
しかし、すでに解説したように、WAMからの融資の申込みは、指定の銀行(とWAMの窓口)のみでの対応となっています。
(2)違法業者が年金を担保にとる行為
WAM以外の業者などが年金を担保にとることを条件に金銭を貸し付ける行為は、法律違反の行為です。とはいえ、年金の場合には、不動産を担保に入れる場合の登記のような手続があるわけではありません。
そのため、債権者から要求された行為が事実上の担保提供行為であるかどうかわからないまま応じてしまうことも少なくないといえます。
そこで以下では、違法業者が債務者に要求する担保提供行為の例を紹介します。
①年金証書の差入れ
違法な年金担保融資業者は、融資に際して年金証書の差し入れを要求することがあります。このような要求は、年金を担保として提供することを求めているものといえますので、上で解説したように法律に禁止する行為です。
さらに悪質な業者の場合には、業者側が債務者名義の別口座を開設し、年金をそこに振り込ませるような対応を取るところもあります。
②年金入金口座のキャッシュカードなどの預入れの要求
債務者に年金の入金される銀行口座のキャッシュカードや預金通帳・銀行印の預け入れを要求する行為も、事実上年金を担保に提供させる行為に等しいといえますので違法な行為です。
③年金受け取り口座からの振替依頼
違法な年金担保融資を行う業者は、毎月の返済のために、年金の受取口座から債権者への自動引落しの手続を求めてくる場合も少なくありません。
このような対応は、見た目には、通常の返済のための振替手続ともいえるのですが、業者のターゲットは年金であるという点で、年金を実質的に担保にとる行為と変わりがないといえます。
また、さらに悪質な業者の場合には、債務者から預かった証書・印鑑などを用いて、債務者の全く知らない銀行口座を開設し、その口座に年金を振り込ませる対応をとるところもあるようです。
(3)違法金利
違法な年金担保融資を行う業者から借金した場合には、法定利息を上回る法外な違法利息を要求されるケースも多いといえます。つまり、債務者の年金から返済してもらう目的でお金を貸し付ける業者のほとんどは、いわゆる闇金ということになります。
このような違法で法外な金利を要求してくる業者からの借金は、融資行為そのものの悪質性もかなり強いので全く返済する必要がありません。
5、違法な年金担保融資の被害に遭ったと思った場合には早めに相談を
お金の問題は他人に相談しづらいものです。借金の原因が生活苦にあるような場合には「恥ずかしい」と思ってしまうこともあるでしょうし、浪費などが原因の場合には「怒られたくない」と身構えてしまうこともあるからです。そのため、借金をきっかけに悪質な業者の被害にあった場合には、問題の発覚・対応が遅れがちになってしまいます。
(1)早期に弁護士に相談するメリット
トラブルは早期に専門家に相談すると解決のための負担・コスト・リスクを軽減できる可能性も高くなるといえます。
年金担保融資のケースでも、契約などの時点で不審に感じた段階で弁護士に相談すれば被害を未然に防ぐことができます。
また、融資を受けてしまった場合であっても早期に対応することで、被害額を最小限に食い止めることもできますし、被害を回復できる可能性も高くなるといえます。
さらに、違法な年金担保融資の他にも返済困難な借金を抱えているという場合には、違法業者への対応をあわせて債務整理を行うことで、問題の抜本解決を図ることができます。
借金・生活苦などの問題に詳しい弁護士であれば、それぞれのケースに見合った最善の解決方法を提案してくれるはずです。
(2)法テラス(民事法律扶助)
違法な年金担保融資の被害に遭ってしまったというケースでは、弁護士に相談したくてもその費用が支払えないというケースも多いと思われます。
そのような場合には、法テラス(日本司法支援センター)が行っている民事法律扶助という仕組みを利用することで無料相談を受けることができる場合があります。また、この場合には違法業者などへの対応を依頼する場合の費用についても法テラスが立て替えてくれます。
法テラスが立て替えた費用は、立替実施の2ヶ月後から毎月1万円(もしくは5000円)ずつの分割返済となりますが、病気などの事情で返済が難しい場合には、返済の猶予などの救済措置を受けることもできます。
民事法律扶助・無料相談の申込みは、全国にある法テラスの地方事務所以外にも、最寄りの弁護士事務所で受け付けてもらえる場合もあります。借金問題に携わっている弁護士の多くは法テラスの対応も可能ですので、まずは最寄りの弁護士事務所に問い合わせてみるとよいでしょう。
まとめ
「生涯現役」、「新現役」といった言葉が用いられる場面が増えているように、近年では定年後も何かしらの形で働き続ける高齢者が増えているとはいえ、年金は安定した生活を確保するための重要な資金源です。
年金を担保にとる金融屋は、違法な貸付を行う悪質な業者です。生活のために緊急の融資が必要な場合には、公的な支援を受けることも可能ですので、お住まいの地域の社会福祉協議会などに相談してみるとよいでしょう。
また、すでに違法業者の被害に遭ってしまったという場合には、できるだけ早く弁護士に相談してください。