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宗教を理由に離婚できる?信条や価値観を巡る問題を解説

宗教による離婚は珍しくない事例です。

「夫や妻が熱心な宗教活動で家に帰らない」
「配偶者の宗教上の理由で通常の夫婦生活が困難」

これによって、「子供に悪影響を及ぼすのではないか」「自分も強制的に宗教に入信させられるのではないか」と心配し、離婚を考える人も多いでしょう。

このため、以下のポイントについて詳しく解説します。

  • 宗教を理由に離婚できるのか
  • 相手の宗教から慰謝料を請求できるのか
  • 宗教理由で離婚した場合、親権獲得の有利さはあるのか
  • 実際の宗教による離婚の事例と非離婚の事例

ベリーベスト法律事務所の弁護士が監修し、これまで数多くの離婚事件を解決してきた経験から、具体的なアドバイスをご紹介します。

「相手の宗教を尊重したいが、現状では普通の結婚生活が送れない…」

宗教による問題に直面している方々にとって、この記事が問題解決の第一歩となることを願っています。

弁護士相談に不安がある方!こちらをご覧ください。

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1、宗教を理由に離婚はできるの?

宗教を理由に離婚はできるの?

宗教を理由にした離婚を考えるとき、まず押さえておきたいのが憲法で定められている「信教の自由」との兼ね合いです。

ざっくり言うと、日本では「どの宗教を信じるのも信じないのも本人の自由」という基本的人権が保障されており、ここには宗教活動を行う自由ももちろん含まれています。

第20条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。 引用:日本国憲法

そのため、調停や裁判で争うことになった場合、単純に「相手が自分の気に入らない宗教に加入しているから」という理由だけでは、離婚が認められない可能性も高いでしょう。

しかし、次のようなケースでなら宗教が理由でも離婚を成立させることができます。宗教が原因の離婚率は、それなりに高いと考えられるでしょう。

(1)話し合いにより夫婦の合意が得られれば可能

調停や裁判を行うよりも前に、離婚の最初のステップとしてまずは夫婦で話し合いを行うのが基本です。
この話し合いでお互い離婚に同意し、スムーズに話がついた場合は、理由の内容に関わらず離婚することができます

(2)裁判でも民法第770条1項5号に該当すれば可能

夫婦間では話がまとまらず、調停・裁判へ進むことになった場合でも、民法第770条1項5号に定められている「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断されれば、離婚を成立させることは可能です。

(裁判上の離婚) 第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。 五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。 引用:民法

宗教がこれに当てはまる可能性のあるケースとしては、たとえば次のような状況があります。

  • 夫・妻が宗教活動にのめり込むあまり、仕事や家事を全く行っていない
  • 配偶者への相談なく、宗教活動に多額の資金を費やしている
  • 夫婦の一方が反対しているにも関わらず、子供に宗教の方針を押し付けている

簡単にいえば、宗教から派生した事態(宗教のためにお金を勝手に使ってしまうなど)が夫婦生活の根底に著しい悪影響を与えているか、ということです。

詳しくはまた後ほど離婚が認められた実例のところでもご紹介しますので、そちらを参考にしてください。

2、宗教で離婚したい…宗教を理由としてパートナーに慰謝料請求はできるのか

宗教で離婚したい…宗教を理由としてパートナーに慰謝料請求はできるのか

夫や妻の宗教が原因で離婚を考えているみなさんの中には、夫婦関係が破綻してしまったことに対する慰謝料を相手に請求したいと考えている方も多いでしょう。

ここでもポイントとなってくるのは「信教の自由」で、そもそも慰謝料とは相手にその状況を招いた故意・過失の責任がなければ請求できません。

(1)宗教の信仰だけでは基本的に認められない

そのため、離婚請求のときと同じく、単に相手が自分と異なる宗教を信仰しているというだけでは「相手に故意・過失の責任がある」とは言えない=慰謝料の請求は認められないのが現実です。

ただし、宗教がきっかけで夫婦関係の悪化を招いた場合でも、その前に離婚せざるを得ない状況に陥ってしまったこと自体の責任を追及できるケースでは、慰謝料が認められる可能性もあります。

(2)破綻慰謝料の獲得が目指せる可能性がある

相手が結婚するまで宗教に加入していることを隠しており、結婚後にそれが発覚して問題となったケースがこれにあたり、このような場合に支払われる慰謝料のことを一般的に「破綻慰謝料」と呼びます

状況が自分にも当てはまりそうな方は、この破綻慰謝料のほうで獲得を目指せないかどうか検討してみましょう。

3、宗教の離婚により親権の獲得が有利になることはあるのか

宗教の離婚により親権の獲得が有利になることはあるのか

子供がいる方にとっては、離婚するにあたって子供の親権をどちらが持つことになるのかも気になるポイントでしょう。

(1)親権者の決定に宗教が左右されることはない

相手が宗教に加入していることで、自分のほうが親権獲得に有利なのではないかと考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、実際のところ親権者の決定が宗教によって左右されることはありません。

たとえ宗教が離婚の主な原因になっていたとしても、法律上ではそれと子供を育てることには直接的な関係がないとみなされるためです。

(2)子供の世話をどれくらい行ってきたかが重要

親権を夫婦のうちどちらに認めるか、裁判所が判断する上で特に重視するのは「これまで子供の世話をどれくらい行ってきたか」で、ほかにも経済力や子育ての環境など細かい項目は色々とありますが、子供が小さければ小さいほど基本的には母親のほうが有利になる傾向があります。

4、宗教により離婚が認められた判例

宗教により離婚が認められた判例

ここからは、夫・妻の宗教が理由で離婚が認められた判例をご紹介していきます。

(1)子供の病気がきっかけで宗教に入信

1つ目のケースでは、子供が病気にかかったことをきっかけに妻が宗教に入信。

家事や他の子供の世話を放棄して布教活動に熱中したため、夫とその母との関係がギクシャクするようになりました。

①同居を再開するも…

やがて妻は別居のため一旦実家に戻りますが、反省の態度も見られたことからまた夫婦で同居を再開。

しかし病気の子供が亡くなってしまったことで再び宗教に傾倒した妻は、育児を夫の両親に任せる形で勝手に家を出てしまいます。

②裁判で離婚が認められる

残された夫は離婚を求める訴訟を起こし、裁判所はこの請求を認めました。

参考:仙台地方裁判所判決|昭和49年10月8日

(2)夫の説得を聞き入れず宗教活動に勤しむ

こちらも宗教活動に熱心な妻に対して夫が離婚と慰謝料を求めたケースで、妻は自分だけでなく未成年の子供も引き連れ宗教団体が主催する集会に参加。

夫は妻に対してそういった活動をやめるように説得しましたが、妻が頑なに信仰を貫き続けたたため、家庭内別居を経てその後完全な別居に至りました。

①2度の離婚調停を起こすも不成立に

また、離婚を求める調停も2回申し立てたものの、いずれも不成立。

夫は妻に対して離婚と慰謝料600万円の支払い、そして子供の親権を妻が持つことを求める裁判を起こします。

②裁判により離婚が成立

この裁判は一審では請求が棄却され、後の控訴審でも慰謝料の請求については認められませんでしたが、離婚そのものは次の理由から夫婦関係が破綻しているとみなされ、成立しています。

  • 仮に妻が宗教活動を止めたとしても、夫にはすでに結婚生活を続ける意思がないこと
  • 妻は離婚を拒否しているが、宗教活動を自粛するつもりも一切なく、夫と考え方が相容れないこと
  • お互いに自分の意見を譲らず、話し合いを重ねても夫婦関係を修復できる見込みがないこと
  • 信教の自由があることをふまえた上でも、夫婦はまずお互いの関係を円満に保つ努力をするべきであり、自分が宗教活動をすることの正当性ばかりを主張して夫の気持ちを無視した妻には婚姻関係を破綻させた責任があること

③慰謝料は認められず

一方、慰謝料の請求が認められなかったことについては、夫側にも妻の行動や気持ちを理解しようとせず、宗教活動に反対し続けたという頑なな姿勢があり、最終的に婚姻関係が破綻した責任は双方にあると認定されたことが主な理由です。

参考:東京高等裁判所判決|平成2年4月25日

(3)お互い異なる宗教に入信し争いへ

夫は創価学会に、妻はキリスト教に入信していることで対立し、離婚が認められたケースもあります。

このケースでは本人同士で離婚の同意自体は得られていたのですが、お互いが相手に対して慰謝料を請求しており、裁判に判断が委ねられることになりました。

①一度は双方の慰謝料請求が棄却される

まず第一審では夫婦関係の破綻が正式に認められ、慰謝料については破綻の原因がお互いの宗教の違いから発展した問題にある=責任は双方にあるとしてどちらの請求も棄却。

しかし控訴審では妻からの慰謝料請求100万円を認め、その理由として次のポイントを挙げています。

  • 結婚時、夫は自分が創価学会員であることを妻に隠していた
  • 妻は相手がキリスト教以外の特定の宗教を信仰していると知っていればそもそも結婚を決めなかった
  • 結婚にあたって妻は仕事を退職し、別居後に再就職を果たしたが月収が7万円しかなく、夫の経済状況と比べて明らかに不利益をこうむっている

②結婚前の事情まで考慮されることも

これらの理由から、妻に認められた慰謝料100万円の請求は「離婚せざるを得ない状況を生み出した責任は元はと言えば夫側にある」という破綻慰謝料にあたると考えることができ、裁判所が判断するにあたって夫婦の結婚前の事情まで考慮している点についても要注目です。

参考:横浜地方裁判所判決|昭和57年9月24日

5、宗教を理由とした離婚が認められなかったケースも

宗教を理由とした離婚が認められなかったケースも

宗教上の理由で夫婦関係が破綻していると認められれば裁判になっても離婚することが可能ですが、中には「まだ夫婦としてやり直せる可能性がある」ということで離婚が認められないケースも実際には少なくありません。

 (1)夫からの離婚請求を棄却した事例

たとえば平成5年9月17日の東京地方裁判所による判決では、妻が過剰な宗教活動を行っていることから夫婦はすでに別居状態となっていましたが、申し立ての時点で別居期間が2年未満と短く、夫が妻の信仰に対してもう少し歩み寄る姿勢を見せればまだ夫婦関係を改善できる余地があるとして、夫からの離婚請求を棄却しました。

参考:東京地方裁判所判決|平成5年9月17日

 (2)具体的にどのような影響を及ぼすのか説明できる準備を

憲法で信教の自由が保障されている以上、裁判所はこの基本的人権を原則は尊重し、判断を行います。
そのため上記の判例に限らず、離婚を請求する側が、配偶者の宗教を一方的に「気持ち悪い」「不気味だ」と申し立てるだけでは、訴えが認められる可能性も低くなるでしょう。

どうしても相手の宗教を理由に離婚したいという場合は、相手の宗教活動が家庭や子供に与える悪影響を具体的に説明できるよう、しっかり準備を行ってください。

6、宗教による離婚の話がまとまらないときは

宗教による離婚の話がまとまらないときは

ここまで見てきたように、夫・妻の宗教が理由で離婚を考えている場合、まず行うべきことは夫婦間での話し合いです。
相手に離婚の意思を伝え、協議を重ねることで相手が離婚に応じてくれれば、その時点で離婚は成立します。

しかし相手がみなさんの言い分に納得せず、離婚を拒否して話が平行線になってしまったときには、そのまま夫婦で話し合いを続けても余計に状況がこじれ、気力や体力を消耗するだけの結果に終わってしまうことも少なくありません

(1)弁護士へ相談すれば法的観点から解決策のアドバイスをくれる

そうなる前に一度弁護士へ相談を行い、どういった形で話を進めていくのが良いのかアドバイスを受けたほうが、スムーズに問題を解決することができるでしょう。

万が一調停や離婚に発展したときにも、あらかじめ弁護士に依頼しておけば、必要な手続きを代理で行ってもらうことができ、事務的な負担を最小限に抑えることができます。

(2)有利な立場で離婚成立を目指すためのサポートをしてくれる

また、宗教の問題が絡む離婚訴訟では信教の自由との兼ね合いがあるため、一般的な離婚訴訟よりも内容が複雑になりがちです。

なるべく有利な立場で裁判を進めていくためには、法律のプロである弁護士の力が必要不可欠。
自分の希望通りに離婚を実現させるためにも、早めに弁護士に相談を開始し、入念に準備を行いましょう。

まとめ

配偶者の宗教を理由にした離婚は、当事者同士で話がまとまればその場でスムーズに離婚を行うことが可能ですが、相手が離婚を拒否する・話し合いに応じない場合には調停・裁判で決着をつけることになります。

裁判になれば、離婚が認められるのはみなさんの状況が法的な離婚事由に当てはまると判断された場合に限られ、配偶者の宗教活動が「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるかどうかが最大のポイントとなるでしょう。

宗教上の理由から離婚を検討しているみなさんは、今回ご紹介した内容を参考に、ぜひ弁護士ともよく相談しながらスムーズな問題解決を目指してみてください。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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