
「赤の他人に、故人の全財産が相続される」
ドラマや小説で取り上げられそうな相続問題に思われますが、実はこのようなケースは少なくありません。
本来、財産を受け取るべき人が受け取ることができない事態に陥った場合、家族の間でトラブルになるだけでなく、相続財産を全くもらえずに生活が困窮してしまうリスクもはらんでいます。
法律では、財産を受け取るべき人が最低限の財産を相続するために、「遺留分減殺請求権」という権利が認められています。
今回は
・遺留分減殺請求とは
・遺留分減殺請求の請求手続きの流れ
などについてご説明いたします。
ご参考になれば幸いです。
目次
1、遺留分減殺請求って何?
法律では、遺産相続が起こったときに相続人になるべき人のことを「法定相続人」として定めています。
これは、故人との経済的関係が比較的強いと考えられる一定の親族について、法律で一律に相続権を与えるもので、故人が死亡しても残された親族の経済活動に大きな影響がないようするための制度です。
一方、故人の気持ちを優先するという考えもあり、遺言など、故人が自身の財産を譲る相手を決められる制度も存在します。
故人の気持ちを優先しては法定相続人の生活に支障が出る、法定相続人の生活を優先しては故人の気持ちがないがしろになる・・・。
この狭間に生じるリスクを解消する制度、それが「遺留分減殺請求」です。
たとえば、故人の遺言書に「愛人に全財産を相続する」と書かれていたとしましょう。
ご遺族の方々からすれば、たとえ故人の希望であったとしても赤の他人に全財産が渡ってしまうことに納得はできないはずです。
また、故人にお子さんが何名かいらっしゃるにもかかわらず、遺言でだれか一人にだけ財産を渡す、あるいは一人にだけ財産を渡さないとされている、というケースもあります。
このように、故人の意思により、本来の法定相続人が財産を受け取ることができないケースにおいて、法定相続人が受け取ることができる最低限の遺産の割合を「遺留分」といい、遺留分を請求することを「遺留分減殺請求」といいます。
2、遺留分減殺請求の対象
遺留分減殺請求の対象となる財産は「遺贈された財産」「死因贈与された財産」「生前贈与された財産」の3種類です。
(1)遺贈された財産
遺贈とは、遺言書に従って遺産を分与することです。
遺言書で孫や愛人など法定相続人以外の人にすべての遺産が分与されてしまうと、本来の法定相続人が遺産を受けとることができません。
この場合、法定相続人は遺贈された財産について遺留分減殺請求することができます。
(2)死因贈与された財産
死因贈与は、贈与者(財産を贈与する人)の死亡を原因として効力が生じる贈与契約のことです。
契約なので受贈者(財産を受け取る人)の承諾が必要となります。
遺言書のような厳格な規定がなく、口約束でも成立するものですが、死因贈与は遺言と同じように扱われることが多く、遺留分減殺請求の対象となり得ます。
(3)生前贈与された財産
生前贈与とは、贈与者が生きている間に財産を贈与する契約です。
遺留分減殺請求の対象となる生前贈与は、基本的には死亡前1年以内に行われた贈与に限られます。
ただし、民法1030条では「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする」とあり、この場合は例外的に1年以上前であっても遺留分減殺請求の対象となり得ます。
3、遺留分減殺請求に関する基本的な知識
遺留分減殺請求をする前に知っておきたい基本的な知識について解説します。
(1)もらえる財産の割合
遺留分減殺請求で受け取ることができる財産の割合は、民法第1028条で次のように定められています。
(遺留分の帰属及びその割合) 第千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。 一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
引用:民法
直系尊属とは、被相続人の親や祖父母など直系で上にたどっていく親族のことです。
通常は被相続人の親か祖父母までになることが多く、それら直系尊属にあたる人が相続人になる場合には、遺産の評価額の3分の1の遺留分が認められます。
それ以外のケースは、すべて遺産の評価額の2分の1が遺留分となります。
遺留分の割合の計算方法は以下の記事をご参照ください。
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(2)時効
民法第1042条では、減殺請求の時効について次のように定められています。
(減殺請求権の期間の制限) 第千四十二条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
引用:民法
「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」とは、被相続人が亡くなったことを知った時ではなく、減殺請求の対象となる財産があることを知った時を指します。
また、相続が開始されて10年を経過した場合も同様です。
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(3)兄弟(姉妹)には遺留分は認められていない
遺留分が認められる人は、被相続人の配偶者・子供、被相続人の直系の親、これらについての代襲相続人です。
被相続人の兄弟姉妹は法定相続人であるものの、子供や親など直系の親族ではないため、遺留分の請求が認められていません。
ただし、兄弟であっても相続財産を相続できる可能性はあります。
詳しくは以下の記事をご参照ください。
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(4)遺言書があっても遺留分は確保できる
被相続人の遺言書が見つかった場合に、その内容が相続人の納得いかない場合もありえます。
そのような場合において、遺言書の内容にしたがって法的手続きが執行されても、相続人は遺留分を取り戻すことができます。
また、遺言書の無効を主張する申立てを行い、それが裁判所に認められれば、遺留分のみでなく法定相続分の相続財産を受け取れる可能性があります。
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(5)相続放棄する場合について
被相続人に近い親族であれば遺留分を受け取れる可能性がありますが、その遺留分をあえて放棄することもできます。
遺留分の放棄とは、つまり遺留分減殺請求をしないことです。
被相続人の死後(相続開始後)であれば、遺留分減殺請求をしないことで遺留分の放棄ができます。
相続開始前であっても遺留分の放棄はできますが、家庭裁判所の許可が必要です。
遺留分の放棄に関しては、以下の詳細記事をご確認ください。
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4、遺留分減殺請求の手続き流れ
遺留分減殺請求を行う際の具体的な手続きの流れを解説していきます。
(1)内容証明郵便を送る
まずは財産の受遺者に対して内容証明郵便を送ることで、遺留分減殺通知を行います。
通知すること自体は口頭でもできますが、口頭では「言った・言わない」の問題になってしまいます。
その結果、減殺請求から1年後に「遺留分減殺請求はされていない」と言われてしまったら、遺留分を受け取ることができません。
確実に遺留分請求を行なったことが証拠として残るように、内容証明郵便を利用する必要があるのです。
内容証明郵便を利用すれば、郵便局と差出人の手元に控えが残りますので、郵便物を送ったという確かな証拠になります。
郵便局によって送付した日付も記入され、さらに配達証明をつければ相手に送達された日も証明できるようになります。
遺留分減殺通知を内容証明郵便で行う場合、1、000円~2、000円程度の費用がかかります。
内容証明の書式は、横書きで1行20文字の26行で作成することが一般的です。
受遺者は遺留分減殺請求をされたら、どのように遺留分を返還行うべきかの話し合いに応じる必要があります。
ただし、話し合いでは合意に至らなかったり、完全に無視されたりして、トラブルに発展することも少なくありません。
さらに、遺留分の返還でもっともトラブルが起こりやすいのは不動産の扱いです。
たとえば被相続人から分与された不動産の価値が3、000万円だとして、遺留分の割合が2、000万円だった場合に、不動産をすべて返還されると返しすぎということになってしまいます。
この場合は不動産を相続人に渡したまま、遺留分の2、000万円を現金で支払う方法が考えられますが、必ずしも合意に至るとは限りません。
遺留分減殺請求の話し合いは、十分な法律の知識と客観的な立場で減殺請求が行える弁護士に相談されることをおすすめします。
(2)調停
受遺者との話し合いで遺留分について解決が見られない場合は、家庭裁判所で遺留分減殺調停を行います。
遺留分減殺調停とは、家庭裁判所の調停委員に間に入ってもらって話し合う手続きのことです。
当事者同士が直接対面して話し合いをする必要がないため、遺留分の返還についてお互いが冷静になって話をすることができます。
申立て費用は1、200円分の収入印紙+連絡用の郵便切手数千円分程度で済みますので、遺留分減殺請求をした後に話し合いが進まないようであれば、調停での解決をおすすめします。
申立てをしたら、家庭裁判所で1回目の調停期日が開催されます。
申立人と相手方は一切顔を合わせることがなく、調停員が間に入って双方の意見を伝えます。
1回目の調停で遺留分の返還方法について合意がなかった場合、1ヶ月ほどの間を置いて2回、3回と期日が開催されます。
(3)訴訟
受遺者が調停でも遺留分の返還に応じないのであれば、受遺者の所在地や被相続人の最後の所在地を管轄する地方裁判所か、遺留分が140万円以下の場合は簡易裁判所に訴状を提出、裁判の手続きを行います。
遺留分減殺請求の訴訟を提起したら、自分に遺留分があることを明確な証拠を持って主張、立証する必要があります。
裁判では裁判官が客観的な視点で判決を出すため、証拠がないことには遺留分を認めてもらうことはできません。
たとえば不動産が裁判の争点となった場合、不動産の評価が正しく行われていないと返還される遺留分の金額が低くなってしまうため、なるべく高い評価方法を採用してもらえるように訴訟活動をすすめなければなりません。
このように、裁判では法的な主張と立証活動を展開する必要があるため、相続問題を解決してきた実績のある弁護士にご相談されることをおすすめします。
まとめ
今回は、遺留分減殺請求の基礎知識から実際の手続きの流れについて解説いたしました。
相続に関する問題はきわめて複雑で、なおかつ当事者間の感情的なやりとりで話し合いが長期にわたることも少なくありません。
相続問題の早期の解決を図るためには、専門性の高い弁護士に相談されることをおすすめします。
弁護士に依頼する場合の費用相場や弁護士の選び方については以下の記事もご参考になさってください。
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