無在庫転売は、物品販売の初心者でもお金を稼ぎやすい副業として、注目を集めています。
“せどり”のように在庫を抱えるリスクがなく、注文を受けてから仕入れをすればよいので、効率よく利益を得ることが可能なビジネスといえるでしょう。
しかし、在庫がないのに出品して顧客が購入するというシステムのため、トラブルが起こりがちであることに注意が必要です。
販売者が違法行為をしたため、実際に逮捕された事例もあります。
無在庫転売をするなら、どのような行為が違法となるのかについて、正しい知識を持っておくことが重要です。
今回は、
- 無在庫転売は違法なのか
- 無在庫転売をするときの注意点
- 無在庫転売でトラブルが発生したときの対処法
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が分かりやすく解説していきます。
この記事が、無在庫転売を行っている方や、興味があるものの違法ではないかと気になっている方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、無在庫転売は違法?無在庫転売とは
まずは、無在庫転売がどのようなビジネスであるのかについて、確認しましょう。
(1)そもそも「転売」とは
「転売」とは、物品をある人から購入し、別の人に売る行為のことです。
物品の値段が一定であれば、転売で利益を上げることはできません。
しかし、近年では、一般の人が利用できるオークションサイトやフリーマーケットサイトが広く普及しています。
これらのサイトを利用すれば、物品を安く仕入れて高く販売することが可能となります。
以上のように、“利ざや”で稼ぐビジネスが、いわゆる「転売」と呼ばれるものです。
(2)有在庫転売との違い
通常の「転売」は、まず販売する商品を仕入れ、次に物販サイトなどに出品し、購入希望者が現れたら販売します。
以上のような流れで行う転売を、「有在庫転売」といいます。
昔から、古本の転売行為は「せどり」と呼ばれてきました。
現在では、インターネットの普及によって商品の転売が容易になっていることもあり、利益を得るための転売行為のことを、一般的に漠然と「せどり」と呼ぶ傾向にあります。
有在庫転売と無在庫転売との違いは、出品よりも仕入れを先に行うか、後に行うかという点です。
有在庫転売の流れ | 無在庫転売の流れ |
1.商品のリサーチ 2.仕入れ 3.出品 4.売買契約 5.商品の発送 | 1.商品のリサーチ 2.出品 3.売買契約 4.仕入れ 5.商品の発送 |
以上のように、有在庫転売では、出品よりも前に仕入れを行われるのです。
有在庫転売は、在庫を保管するスペースが必要となるうえに、売れなければ赤字が発生するリスクがあります。
一方、無在庫転売では先に出品し、注文を受けて売買契約も締結した後に仕入れを行います。
在庫を抱えることがなく、売れた商品だけを仕入れるため、赤字が発生しないという点がメリットといえるでしょう。
2、無在庫転売は違法?
無在庫転売では、商品が売り手の手元にないにもかかわらず出品し、売買契約まで結ぶという仕組みをとるため、「違法ではないのか?」と考える人も多いことでしょう。
本章では、この点について解説します。
(1)仕組みそのものは違法ではない
無在庫転売の仕組みそのものは、法的には売買契約であり、それ自体は違法ではありません。
売買契約の要素は、売主が目的物を所有権とともに引き渡し、買主がその対価を支払うことです。
売主としては、出品・売買契約の時点で目的物が手元になくても、結果として目的物を所有権とともに買主に引き渡すことができれば、契約上の債務を履行したことになります。
(2)違法行為を伴うことがある
仕組みが違法でなくても、無在庫転売に違法行為を伴うことがあります。
出品・売買契約後の仕入れが、必ずしも成功するとは限りません。
他にも、物品販売を行う際に守らなければならない法律がいくつかあります。
無知のまま無在庫転売を行い、違法行為をしてしまう人も少なくありません。
「無在庫販売は違法である」という印象が、世間に広まっているものと考えられます。
具体的な違法行為については、後ほど「3、逮捕される可能性もある!無在庫転売に違法行為が伴うケース」で詳しく紹介します。
(3)販売サイトの規約に違反することがある
無在庫転売では、トラブルが起こりがちということもあり、
- Amazon
- ヤフオク
- メルカリ
- ラクマ
など、国内の大手物販サイトのほとんどは規約で無在庫転売を禁止しています。
この規約に違反すると、原則としてアカウント停止となり、その後は有在庫販売もできなくなるのです。
無在庫転売をするなら、規約で無在庫転売を禁止していない物販サイトを探して利用するか、個人的なルートで販売することになるでしょう。
3、逮捕される可能性もある!無在庫転売に違法行為が伴うケース
無在庫転売に違法行為が伴う主なケースとして、以下の5つが挙げられます。
- 仕入れに失敗して商品を発送できない
- 注文を受けた商品と違う物を発送
- 違法な商品を販売
- 行政の許可や届出をせずに販売
- 商品画像を無断で転載
これらの違法行為は、刑罰法規にも違反するため、発覚すると逮捕される可能性もあります。無在庫転売をする際は、くれぐれもご注意ください。
(1)仕入れに失敗して商品を発送できない
無在庫転売では、注文を受けた後に商品の仕入れをしますが、必ずしも仕入れに成功するとは限りません。
出品時には「数多く流通しているから、いつでも仕入れられる」と思っていても、注文を受けた後で検索すると、入手困難となっていることもあります。
仕入れ価格が高騰していることもあるでしょう。
売買契約締結後に目的物を引き渡せなくなった場合は、債務不履行となります。
既に、買主から代金を受け取っている場合は、速やかに返金しなければなりません(民法第415条2項)。
最初から仕入れが難しいことを知りつつ出品して注文を受け、代金を受領した場合は、詐欺罪に問われることもあります。
詐欺罪の刑罰は、10年以下の懲役です(刑法第246条1項)。
出品時にはリサーチをしっかり行い、確実に仕入れが可能な商品を出品することが大切です。
入手困難となりそうな場合には、出品を取り下げるか、注文を受ける前でも仕入れて在庫を確保するといったことも必要となるでしょう。
(2)注文を受けた商品と違う物を発送
自分で現物を見たこともないような商品を出品すると、商品画像とかけ離れた現物を、購入客に発送してしまうこともあります。
このような事態は、無在庫転売の中でも、仕入れ先から購入客へ商品を直送する「ドロップシッピング」といわれる手法を行ったときに起こりがちです。
販売サイトに掲載した商品画像と現物とがあまりにもかけ離れている場合は、売買契約の目的物を引き渡したことにならず、債務不履行となる可能性があります。
その場合には、上記(1)と同様、代金の返還義務が生じるとともに、詐欺罪に問われるおそれがあります。
自分で直接見たことがないような商品を転売する場合には、くれぐれも注意が必要です。
(3)違法な商品を販売
無在庫転売に限らず、法律で販売が禁止されている商品を販売すると、その販売行為が違法となります。
販売が禁止されている主な商品として、以下のようなものが挙げられます。
- 違法薬物
- 銃砲、刀剣類など
- 輸入が禁止されているもの
- 商標法に違反するもの
- 著作権法に違反するもの
- チケット
- ID
ブランド品やロゴ入りの商品を販売する場合には、コピー商品やパロディ商品に注意が必要です。
ドロップシッピングで販売する場合は自分で現物を確認しないため、商品が偽物かどうかの確認が難しくなるので、特に注意しましょう。
偽のブランド品を販売した場合には、商標法違反(商標権侵害)の罪に問われ、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方が科されることがあります。
チケットについては、「チケット転売禁止法」により、一定の要件を満たすチケットを購入価格よりも高い値段で、反復継続して販売する行為は禁止です。
また、
- オークションサイト
- フリマサイト
- SNS
- オンラインゲーム
などのIDを売買する行為は、「不正アクセス禁止法」等に違反する罪に問われるおそれがあります。
物品販売サイトには誰でも出品できますが、何を売ってもよいわけではないことに注意しましょう。
(4)行政の許可や届出をせずに販売
販売が禁止されているわけではないものの、販売するためには事前に国や地方自治体の許可を受けたり、届出をしたりしておかなければならない商品もあります。
許可や届出が必要な商品を無許可・無届けで販売すると、関連法令に違反したことで罪に問われるおそれがあるため、注意が必要です。
問題になるケースが多い商品として、以下のものが挙げられます。
- 中古品…古物商の許可が必要(古物営業法)
- 医薬品…都道府県知事の許可が必要(薬機法)
- 化粧品…化粧品製造販売業許可が必要(薬機法)
- 食品…食品衛生責任者の資格を取得した上で、食品営業許可が必要(食品衛生法)
- アルコール…酒類販売業免許が必要(酒税法)
特に注意すべきなのは、一度でも第三者の手に渡ったことがある商品は、未開封でも「中古品」となり、古物商の許可を受けず販売すると古物営業法違反となる可能性がある点です(この点、巷の販売サイトには「未開封」と「新品」がごっちゃになっている販売・業者が多いと思われ、注意が必要です。)。
不用品を処分する目的で売却するような場合には、古物商許可は不要ですが、営利目的で反復継続して中古品を販売する場合には古物商許可が必要です。
違反すると、3年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられることがあります。
医薬品・化粧品・食品・アルコールについても、それぞれ所定の許可や資格を取得せずに販売した場合には罰則が定められています。
さまざまな法令が関連しますので、確認するのも大変かもしれませんが、副業やビジネスとして利益を上げるために無在庫転売をする以上は、ルールを遵守しましょう。
(5)商品画像を無断で転載
販売サイトに出品する際には、その商品の画像を掲載することになります。
無在庫転売の場合は、自分で現物を撮影することができないため、どこかから商品画像を入手しなければなりません。
他の出品者が掲載している画像や他社サイト、メーカー公式サイトなどから、画像を無断転載している出品者は少なくありません。
しかし、他人がネット上にアップした画像は、基本的に著作権で保護されています。
無断で転載すると、著作権法違反(著作権侵害)となり、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方を科せられることがあります。
実際には、他人の画像を無断で転載しても相手に気付かれなければ罪に問われないこともありますが、近年では相手から損害賠償を請求されることも増加している傾向です。
その場合、誠実に対応しなければ刑事告訴されてもおかしくありませんので、注意が必要です。
4、無在庫転売でトラブルが発生したときの対処法
無在庫転売では、その仕組み上、有在庫転売の場合よりもトラブルが発生しやすい傾向にあります。
注意して販売活動を行っていても、時にはトラブルが発生することもあるでしょう。
トラブルを適切に対応しなければ、刑事告訴されるなどして、逮捕されるリスクが高くなってしまいます。
トラブルが発生したときには、以下のように対処していきましょう。
- クレームには誠実に対応する
- 弁護士に相談する
(1)クレームには誠実に対応する
まず、購入客からのクレームには誠実に対応しましょう。
仕入れに失敗して商品が未発送となってしまった場合は、当然ですが代金を速やかに返金すべきです。
「注文した商品と違う物が届いた」という苦情を受けた場合も、基本的には購入客の言い分を尊重して、返品・返金に応じる方が無難であるといえます。
「発送が遅い」という苦情を受けたら、まず真摯に謝罪し、場合によっては送料のサービスや代金の値引き等を検討しましょう。
購入客は、「確実に商品を入手できる」と信じて売買契約を結び、代金を支払っています。そのような購入客の期待を裏切り迷惑をかけた以上は、誠実に対応して許しを得ることが何よりも重要です。
他人の画像を無断転載してしまい、相手から画像の使用停止や損害賠償を求められた場合も、誠実に対応すれば大きな問題には発展しないことが多いものです。
(2)弁護士に相談する
購入客によっては、過大な金額の損害賠償を請求してきたりして、出品者が誠実に対応しても収拾がつかないこともあります。
また、違法な商品の販売や、必要な許可・届出を行わず販売したことが行政当局や警察に発覚した場合は、謝罪をしたところで事態が収拾するものではありません。
以上のような場合には、弁護士に相談することが有効です。
購入客とのトラブルであれば、弁護士が間に入って交渉することで穏便な解決も期待でき、損害賠償金を支払う必要があるとしても減額してもらえる可能性があります。
行政当局や警察との問題に発展した場合も、弁護士が適切な対処法を具体的にアドバイスしてくれるでしょう。
万が一、刑事裁判にかけられた場合でも、刑罰が軽くなるよう裁判に対応してもらえます。
トラブルが発生したときは、早期に対処するほど穏便に解決できる可能性が高くなりますので、困ったときは早めに弁護士に相談することをおすすめします。
5、無在庫転売をするならリスクを考慮して安全な方法で
副業として無在庫転売を行う人が増えてきていますが、安易な考えで行うと、最悪の場合は逮捕され、刑罰を科せられるリスクもあります。
お金を稼ぐことも大切ですが、違法行為を行うことはあってはなりません。
無在庫転売をするなら、無在庫転売が禁止されていない販売サイトを利用しましょう。
販売活動においては、前記「3」の解説を参考にして、知らずのうちにでも違法行為を行うことがないように注意することが大切です。
無在庫転売は違法なのかに関するQ&A
Q1.無在庫転売は違法?
- 仕組みそのものは違法ではない
- 違法行為を伴うことがある
- 販売サイトの規約に違反することがある
Q2.無在庫転売に違法行為が伴うケースとは?
- 仕入れに失敗して商品を発送できない
- 注文を受けた商品と違う物を発送
- 違法な商品を販売
- 行政の許可や届出をせずに販売
- 商品画像を無断で転載
Q3.無在庫転売でトラブルが発生したときの対処法とは?
- クレームには誠実に対応する
- 弁護士に相談する
まとめ
無在庫転売の仕組みは違法ではありませんが、正確な知識を持って行わなければ違法行為を伴うリスクがあることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
取り扱う商品によっては、法律の細かな規定を理解する必要がありますし、分からないことや不安なこともあると思います。
そのようなときは、弁護士に事前に相談してみてはいかがでしょうか。
弁護士のアドバイスを受けて安全な方法で無在庫転売を行い、もしトラブルが発生したときには、早期に弁護士のサポートを受けることをおすすめします。