
配偶者が不倫をすると慰謝料等の損害賠償の対象となりますが、不倫相手が同性の場合はどうなるのでしょうか?
「同性同士の不倫なら仕方ないか」
「同性でも異性でも不倫は許せない」
など、さまざまな考え方があると思います。
しかし最近、同性同士の不倫も民法上の「不貞行為」に当たるとして、妻の不倫相手に対して慰謝料支払いを命じた裁判例が出ました。
- 同性との不倫が不貞行為に当たる理由
- 同性との不倫による慰謝料の金額
- 同性との不倫も離婚原因になるのか
などについて、弁護士が解説していきます。
同性同士の恋愛や結婚に関心をお持ちの方は、ぜひ参考になさってください。
目次
1、同性との不倫も違法?今回の判決のポイント
妻の不倫相手である女性に対して、夫からの損害賠償請求が認められるかが争われた裁判で、東京地裁は2021年2月16日、同性同士の性的行為も民法上の不貞行為に当たるとして、女性に対して慰謝料等11万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
今までの社会常識からすると、同性同士の性的行為をもって「不倫」や「不貞行為」ということには少し違和感を感じる人も多いのではないでしょうか。
そこで、今回の判決はどのような理屈で不倫相手の女性に対して賠償金の支払いを命じたのかをみていきましょう。
(1)同性との性的関係も不貞行為に当たる
今回の裁判で被告となった女性は、不貞行為とは異性との行為を意味するものであり、同性同士の性的行為は不貞行為に当たらないと反論していました。
しかし、今回の判決では、不貞行為とは「婚姻生活の平和を害するような性的行為」のことを指すのであり、それは男女間の行為だけに限られないと指摘しました。
そして、「同性同士の行為の結果、既存の夫婦生活が離婚の危機にさらされたり形骸化したりする事態も想定される」と述べ、今回のケースはそれに該当するとして妻と相手女性との性的行為を不貞行為に当たると認定しました。
(2)妻の不倫相手(同性)には慰謝料支払い義務がある
今回の判決では、妻の不倫相手の女性に対して、慰謝料など合計11万円の支払いが命じられました。
一般的に、不貞行為が認定されると、配偶者は不倫をしたパートナーと不倫相手の両方に対して慰謝料等の損害賠償請求が可能となります。
不貞行為は配偶者の「婚姻生活の平和」を侵害する不法行為であり、不倫をした2人が「共同加害者」となるからです。
この理屈は男女間での不倫の場合でも、同性同士の不倫の場合でも同様に適用されることが、今回の判決で明らかにされたといえます。
2、なぜ同性との性的関係が不貞行為に当たるの?
では、今回の判決で述べられた以上の理屈をベースとして、同性との性的関係に関する法的論点について、詳しく考えていきましょう。
まずは、なぜ同性との性的関係が不貞行為に当たるのかという点について解説します。
(1)そもそも不貞行為とは
不貞行為とは、民法第770条で離婚原因のひとつとして規定されているものです。
その定義については従来、「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて配偶者以外の異性と性的関係をもつこと」とされるのが一般的でした。
今回の被告の女性による反論も、この定義に従ったものといえます。
しかし、実は民法上、不貞行為の相手として同性も含まれるのかどうかは明確に規定されていません。
以前は同性愛や同性カップルの存在の認知度が低かったため考慮の外に置かれていましたが、現在では社会的な認知度が高まってきています。
そのため、裁判所の「不貞行為」の解釈も広がってきたのです。
(2)不貞行為に当たるかどうかは「婚姻生活の平和を害する」かどうかがポイント
今回の判決では、不貞行為の定義について「婚姻生活の平和を害するような性的行為」であるとし、男女間の行為であるか同性同士の行為であるかには関わらないと判断しました。
被告の女性の反論に対しては、「同性同士の行為の結果、既存の夫婦生活が離婚の危機にさらされたり形骸化したりする事態も想定される」と述べています。
つまり、不貞行為に当たるかどうかは「婚姻生活の平和を害する」かどうかがポイントであり、同性同士の不倫でも離婚の危機にさらされたり、夫婦関係が形骸化したような場合は不貞行為に当たるということです。
(3)結論:男女問わず婚姻生活の平和を害する性的関係は許されない
結論として、今回の判決で述べられた理屈に従うならば、男女問わず婚姻生活の平和を害する性的関係は許されないということになります。
従来の社会常識では「男女関係かどうか」に焦点が当てられてきましたが、同性カップルの存在が社会的に認められてきた現在では、「婚姻生活の平和を害する関係か」に焦点が移行しているといえるでしょう。
3、同性との不倫で慰謝料が発生する理由
次に、同性との不倫による慰謝料の問題について解説します。
(1)そもそも不倫慰謝料とは
不倫慰謝料とは、パートナーに不倫された配偶者に対して支払われる損害賠償金のことです。
夫婦はお互いに婚姻生活の平和を維持する法的義務を負っています。不倫が行われると、婚姻生活の平和が侵害され、配偶者は精神的苦痛を受けることになります。この精神的苦痛に対して支払われる損害賠償金が「不倫慰謝料」なのです。
従来は貞操権を侵害する相手として異性のみが想定されていましたが、今回の判決では同性によっても婚姻生活の平和が侵害されることがあり、慰謝料の支払い義務が発生することが認められたことになります。
(3)同性との不倫慰謝料も高額化する可能性がある
そもそも慰謝料額は、被害者が受けた精神的苦痛の程度に応じて算定されるべきものです。
ただ、個人が受けた精神的苦痛の程度を客観的に測定して金銭に換算するのは困難なことです。そのため、裁判では相場と比較しつつ、具体的な事情を考慮して慰謝料額を決めるという手法が採られます。
したがって、場合によっては、同性同士の不倫による慰謝料額も、異性間の不倫の場合のいわゆる相場のレンジに近づいてくる可能性があります。
4、同性との不倫は離婚原因になる?
今回の裁判では、原告の夫が不倫相手の女性に対して損害賠償を求めただけですので、同性との不倫が離婚原因になるかどうかについては判断されていません。
しかし、法的に重要な問題ですので、以下で解説していきます。
(1)法定離婚事由とは
法定離婚事由とは、夫婦の一方が同意しない場合でも、もう一方の離婚請求が強制的に認められる事情として民法に定められた事由のことです。
民法第770条1項で5つの法定離婚事由が定められていますが、その1番目に「不貞行為」が挙げられています。
(2)同性との不倫も不貞行為として離婚原因となりえる
同性との不倫も不貞行為に該当するという今回の判断に従えば、離婚原因となります。
したがって、今回の裁判の原告の夫も、妻に対して離婚を求めれば、これを不貞行為として離婚が認められる可能性があります。
(3)配偶者が許していた場合は離婚原因とならない可能性もある
パートナーが不倫をしても、配偶者が許していれば婚姻生活の平和を害するとはいえず、離婚原因とならない可能性もあります。
今回の裁判でも、原告の夫は妻に同性愛に対する関心があることは理解しており、女性と親しく付き合うことも認めていたようです。
そのため、不倫相手の女性も、夫が2人の関係に気づいていたことから、婚姻関係を壊してはいないことを主張していました。
しかし、判決では2人が性的行為をすることまでは夫は許していなかったと認定しています。
仮にですが、同性の不倫相手との性的行為まで許容する配偶者がいたとしたら、離婚原因とはならず、慰謝料も認められない可能性もあります。
5、同性との性的関係に関する過去の裁判例と今後の見通し
今回の判決は地裁レベルの判決であり、しかも原告である夫が控訴したため、まだ確定していません。
そこで、同性との性的関係に関する過去の他の裁判例も振り返り、今後どのように裁判例が動いていくのかも解説します。
(1)以前は不貞行為としては認めていなかった
まず、以前の裁判例では、不貞行為とは配偶者以外の異性との性的行為を指すとされており、同性同士の性的行為は不貞行為には当たらないとされていました(名古屋地裁昭和47年2月29日判決)。
ただ、この裁判例では、同性同士の性的行為などよって夫婦の婚姻関係が破たんしていることが認められ、民法第770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」による離婚請求が認められました。
このように、裁判例では従前から「婚姻関係が破たんしているかどうか」は重視されてきましたが、あくまでも不貞行為は異性間の性的行為に限るとされてきたのです。
(2)不貞行為と認められるようになったのは平成16年
平成16年になると、同性同士の性的行為も不貞行為に当たるとする判決が言い渡されました(東京地裁平成16年4月7日判決)。
この裁判例では、3人の女性と性的関係を持った妻に対する夫の損害賠償請求が認められました。
同性同士の性的行為を不貞行為と認めた裁判例は、おそらくこれが最初のものです。
この判決が出た当時は、同性カップルの存在が今ほどには社会的に認められていなかったことから、異例の判決だと評価されていました。
(3)同性カップルにおける「『婚姻関係』の平和」も保護されるようになった
さらに、令和に入ると同性カップルの関係も婚姻に準ずる関係として保護されるとした判決が言い渡されました(東京高裁令和2年3月4日判決)。
この裁判例では、女性同士のカップルの一方が男性と性的関係を持ったことによって同性カップルが破局に至ったというケースで、不貞行為による損害賠償請求が認められました。
この判決が出た当時には同性カップルの存在に対する社会的な認知が広まっており、平成27年以降、全国のさまざまな自治体で同性カップルを「夫婦と同等の関係」であると認めるパートナーシップ制度が導入されてきました。
(4)今後、不貞行為と判断する裁判例は増えると考えられる
以上の裁判例の流れから見ると、今回の令和3年2月16日判決で同性同士の不倫が不貞行為に当たるとして配偶者の損害賠償請求が認められたことも、不自然ではないといえるでしょう。
今回の判決はまだ確定していませんが、同性愛に対する社会的認知度は今後もさらに高まっていくでしょうし、パートナーシップ制度も普及されていくでしょう。
このような流れからすると、今後は同性のカップル間の貞操の保護が強化されていくとともに、人の道にそむく同性との性的関係に対しては厳しい判決が増えていくと考えられます。
6、同性との不倫で困ったら弁護士に相談しよう
世の中には、同性との不倫について悩みを抱えている人も少なくありません。
配偶者が同性と不倫することで夫婦関係がうまくいかずに困っている人や、普通に結婚したものの同性愛者の傾向があり、異性であるパートナーとの関係だけでは満足できない人など、さまざまな立場で悩んでいる人がいると思います。
同性同士の不倫の問題については、裁判例も動いている途中ですので、正確な情報を把握しておかなければ思わぬ法的責任を負ってしまう可能性があります。
ですので、お困りの際は弁護士に相談の上、何が許されて何が許されないのかについてアドバイスを受けることをおすすめします。
もし、すでに同性との不倫で配偶者とのトラブルが生じている場合は、弁護士があなたの味方となって問題解決をサポートします。ひとりで悩まず、お気軽に弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
同性同士の不倫が不貞行為に当たるというと、現時点では驚くか意外に思う人が多いかもしれません。
しかし、今後はそれも当然のこととされていく可能性が高いです。
ご自身や配偶者に同性愛の傾向がある場合、今までの社会常識で判断すると道を誤ってしまうおそれがあります。
同性愛の傾向がある方が幸福を求めることは何も悪いことではありませんが、法律や裁判例には注意を払う必要があります。
不安な方は、弁護士にご相談の上、安心して幸福を追求していきましょう。