
差押えとは、債権者による債権回収において、債務者の所有物や財産、資産などの金銭的権利(いわゆる金目のもの)について、債務者が勝手に処分することを国(裁判所)が禁止することです。債権者はこれらを換金して債権回収する目的をもって差押えを裁判所に申し立てます。
「貸金業者からの督促状を無視したら差し押さえられた」
映画やドラマで家の物に赤札をペタペタ貼っていく差押え。家の物はもちろん、給料だって差し押さえられます。
すべて自分が悪いのだけど、汗水流した給料を強制的に取られるなんて納得いくはずありません。
結論からいうと、差押えを回避する方法はあります。
そこで今回は、民事執行法(一部国税徴収法)に基づく差押えについて、
- 差押えとはどんなものか
- 差押えできる・できない財産
- 差押えを回避する方法
などについて法律事務所の弁護士が徹底的に解説していきます。
差押通知が来て焦りを感じている方や、給料差押えを回避したい人のご参考になれば幸いです。
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目次
1、差押えとは強制執行の準備段階
差押え(さしおさえ)とは、法律に則り財産や給料を強制的に回収する強制執行の準備として行う、財産処分の禁止です。
債権者はお金を返さない債務者の財産に対し、裁判所を通して強制的に換金して債権回収をはかることができますが、その前に、債務者が自分の財産を隠してしまっては意味がありません。
そこで、債務者が財産を隠したり処分したりする前に、債権者は、債務者が保有する財産や金銭的権利を債務者自身が処分することを禁じるよう、裁判所に申し立てることができます。
例えば、債務者が高価な絵画を持っていたとします。
債権者は絵画を競売(強制執行)にかけ、その売却代金で債権回収をはかることができるのですが、債権者は裁判所に対し、債務者がこの絵画を隠したり誰かに売ったりすることができなくなるよう、差押え申し立てるのです。
そうすると裁判所は、条件が満たされていれば差押命令を出します。
差押命令が出されると、絵画は執行官によって債務者の占有から離され、債権者側の保管場所へ移されることになります。
これが差押えです。
どんなものが差押えの対象になるのかを解説していきます。
(1)差押え可能な財産
差押えできる財産は以下などの金銭的に価値のあるものです。
- 給料:4分の1(手取り33万円を超えた場合は超えた金額すべて)
- 車や自動車、有価証券などの動産(不動産以外の物)
- 家や建物などの不動産
- 銀行口座の預金
- 生命保険の返戻金
など
(2)差押え不可能な財産
金銭的に価値のないものは差し押さえられません。
以下に差押さえることができない財産をまとめました。
- 現金66万円(2ヶ月分の生活費として政令(※)で認められている)
(※)政令・・・内閣が定めた命令 - 生活に欠かせないもの(衣服・寝具・台所用品)
- 仏像や位牌など祭祀を行うのに欠かせないもの
- 仕事に欠かせないもの
- 未発表の発明や著作物
- 自分または親族に与えられた勲章や名誉を証明するもの
- 債務者の物ではない物(他人の物)
(参考:民事執行法代131条)
なお、債務者に所有権のない他人所有の物についての差押えは無効です。
特に販売店を債務者とする差押えで気をつけるべきことですが、販売店に陳列された動産が、販売店所有かどうかは一概にはいえません。差押え時点で製造元などから完全に所有権が販売店に移転していなければ、その差押えは有効ではありません。
(3)仮差押えとは
仮差押え(かりさしおさえ)とは、その名のとおり、仮の差押えです。
差押えは、債権者が債務者に対して債権を持っていることが裁判手続き上明らかである場合に行われるものですが、場合によっては債権の存在自体を争うことから始めるケースもあるわけです。
この場合、争っている間に債務者が強制執行の対象になりそうな財産を全て隠してしまうことは、容易に想像されることかと思います。
これを禁止するのが「仮差押え」です。
まだ債権が確定していないけれど、確定した時には財産の移転が行われていた、ということでは困るので、まず仮に差し押さえておく必要があるのです。
2、差押えにあう4つのケース
どんな場面で差押えをされるのか、4つの具体的ケースをまとめました。
- 借金や税金の支払い督促を無視し続けた場合
- 裁判で和解したのに支払いの約束を破った場合
- 裁判の判決で支払を命じられたのに支払いをしなかった場合
- 強制執行認諾条項付の執行証書(※)が作成された場合
(※) 執行証書・・・強制執行が認められている公正証書
3、差押えになる前にできる対処法(回避法)
差押えを回避する方法は2つあります。
(1) 債権者へ相談する
差押えを回避するためには、債権者(※)へ分割払いできるか相談してみましょう。
(※)債権者・・・お金を請求する権利のある人
絶対とは言い切れませんが、相談の余地があるからです。
できれば債権者も手間のかかる差押えの手続きはしたくありません。
差押えの通知がきたとしても諦めずに、まずは債権者へ勇気を出して相談してみてください。
(2)弁護士に債務整理を依頼する
借金返済のお金が工面できなくても、弁護士に債務整理(※)の依頼をすれば差押えは回避できます。
(※)債務整理・・・借金を減額できる手続き
差押えが回避できる債務整理は2つ。
個人再生(※1)と自己破産(※2)です。
(※1)個人再生・・・借金を減額できる債務整理
(※2)自己破産・・・すべての借金を0円にできる債務整理
個人再生・自己破産なら借金を大幅に減額したり無くせたりなど、債権者にとってもやむを得ない方法だからこそ差押えを回避できます。
どうしてもお金を用意できないなら、まずは弁護士へ債務整理の相談をしてみましょう。
4、差押えの流れ
差押えの流れは、借金やローンの返済をしなかった場合と税金を滞納した時で違います。
(1) 借金やローンの返済をしなかった場合
① 債権者から督促状が届く
② 督促状を無視すると支払督促が届く
③ 支払督促も無視されると債権者は手続きをして債権名義(※)を手に入れる
(※)債権名義・・・【強制執行によって実現される予定の請求権の存在・範囲・債権者・債務者】が記載された公の文書
④ 債権者が裁判所へ債権差押えの申立てをする
⑤ 申立てが許可されると裁判所からあなたと勤務先へ差押命令正本という書類が送られます
⑥ 差押命令正本が届いたことにより、勤務先はあなたに給料の差押え対象部分を支払えなくなります
(2)税金滞納の場合
① 税金の納付期限20日以内に督促状が届く
② 督促状が届いて10日が経過すると差押えが可能になる
③ 差押えをする前に財産についての調査がされる
④ 調査が終われば差押えがされる
5、差し押さえられた場合の注意点
差し押さえられる場合は生活に支障が出ますし、役職によっては全額報酬が差し押さえられます。
(1)職場に連絡が行くので社内に差押えがバレる
給料が差し押さえられると職場の人に借金していたことがバレます。
上述しましたが、給料が差押えになってしまうと職場に連絡がいくことは回避できません。
もし借金のことがバレたとしても表向きは何も言われないかもしれませんが、非常に働きづらくなるでしょう。
(2)役員報酬は全額差し押さえられる
あなたが役員であるなら報酬すべてを差し押さえられます。
役員報酬は、民事執行法の給料や賃金に該当しないからです。
支払わない場合は、債権者から法人に対して訴訟されるでしょう。
(差押禁止債権)
第百五十二条 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
(引用:民事執行法第152条2項)
まとめ
差押えは、家にある価値のある動産の他に給料も差し押さえられます。
給料が差し押さえられてしまうと、職場にバレて働きづらくなるでしょう。
もし差押えを回避したいなら、債権者へ分割払いできるか相談してみてください。
分割払いできるお金も用意できないのなら、弁護士へ債務整理の依頼をして差押えを回避しましょう。
まずは、あなたの状況を弁護士へ相談することをオススメします。