交通事故の中でも「自損事故」を起こしてしまったら、「事故の相手」がいないので、損害賠償請求することができません。
この記事では、
- 自損事故とは?
- 事故を起こしてしまった場合の流れ
- 自損事故の損害を補償してくれる保険の種類や範囲
などについてご説明します。
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1、自損事故とは?
そもそも自損事故とはどのような交通事故か、見てみましょう。
自損事故は、運転者が単独で起こす交通事故です。
たとえば、運転を誤ってガードレールに激突したり、施設や建物に突っ込んだり、溝に落ちたりするケースなどが自損事故となります。
自損事故では通常の交通事故とは異なり、事故の相手方がいません。
そこで、自分が怪我をしたり運転していた車が壊れたりしても、それらについての損害賠償請求をする相手がいないことになります。
つまり、自損事故を起こした場合、発生した損害に対する補填については、すべて運転者本人が自己責任で対応しなければならないこととなります。
2、自損事故を起こしてしまった場合の流れ
自損事故を起こした場合には、どのように対応すべきなのでしょうか?
(1)負傷者の有無を確認する
まずは、車を降りて、周囲に負傷者などがいないかどうかを確かめましょう。
もし負傷者がいたら、単なる自損事故ではなく「人身事故」となり、自分は加害者の立場になってしまうからです。
被害者がいたら、すぐに救護をしなければなりません(救護は道路交通法第72条第1項前段に規定されており、救護をしない場合は5年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます)。
被害者がおらず、自分の身体や車が傷ついただけであれば、自損事故です。
(2)自損事故でも警察に通報すべき
自損事故の場合、一般的に「警察に通報しなくて良い」「自己責任だから、そのまま立ち去っても良い」と思われていることがありますが、これは間違いです。
自損事故であっても、ガードレールやその他の施設にぶつかるなどして、物を壊している可能性が高いからです。
このように、交通事故で他人の物を壊すと、物損事故となり、物損事故でも、加害者には警察への報告義務があります(道路交通法第72条第1項後段)。
通報をしないと道路交通法違反となり罰則(3月以下の懲役または5万円以下の罰金)も適用され、「3、自損事故を起こしてしまった場合の注意点」でご説明するようなリスクも発生するので、必ず車を降りて警察に通報し、到着を待ちましょう。
(3)危険防止措置をとる
事故現場の危険防止措置も必要です。
危険防止措置とは、後続車による二次被害を防止するために、周囲に散らばったものを片付けたり車を脇に寄せたりして、危険を除去することです。
危険防止措置も、交通事故の当事者に課される道路交通法上の義務(道路交通法第72条第1項前段)ですから、必ず行いましょう。
ただ、自損事故を起こしたケースでは、事故を起こした本人が怪我をしてしまうこともあり、重傷の場合には、危険防止措置をとることが難しいことも考えられます。
そのようなときには、とにかく自力で救急車を呼ぶか、周囲の人に助けを求めて救急車を呼んでもらいましょう。
(4)病院に行っておく
警察が来たら、簡単な聞き取りと確認があり、解放されます。
帰宅してもよい状況になったら、必ず一度、病院に行っておきましょう。
交通事故に遭ったときには、痛みなどの自覚症状がなくても、実際には怪我をしているケースがあるからです。
脳内出血などが起こっていたら命に関わる危険性もありますし、すぐに病院に行っていないと後に痛みが出てきたときに交通事故との因果関係を証明しにくくなります。
自損事故では、自分の自動車保険を利用できる可能性がありますが、保険を適用するためには医師の診断書が必要になるケースもあるので、できるだけ交通事故に近いタイミングで受診しておくことが大切です。
3、自損事故を起こしてしまった場合の注意点
以下では、自損事故を起こしてしまった場合の注意点をご紹介します。
(1)自動車保険を使えなくなるリスク
自損事故だからといって警察への通報を怠ると、自動車保険を使えなくなるリスクがあります。
交通事故が起こったとき、警察へ届け出ると、自動車安全運転センターで「交通事故証明書」が発行されます。
交通事故証明書は、交通事故があったことを証明する資料ですから、自動車保険を利用する際に保険会社から要求されるケースが多いです。
事故が起こったときにきちんと警察へ報告をしておかないと、交通事故証明書が発行されないので、保険会社が保険金を支払ってくれない可能性があるのです。
(2)当て逃げになってしまう可能性
自損事故を起こしたとき、すぐに届出をせずに、後から警察に届け出ようとする方がおられます。 その場では「たいしたことがない」と考えて警察を呼ばないで立ち去るのですが、後に「やっぱり車両保険や自損事故保険を使いたい」などと考えて、届出をしようとするのです。
しかし、このような場合、当て逃げ犯人扱いされてしまう可能性があります。
自損事故の場合、ガードレールや建物などの施設を傷つけてしまうケースが多いためです。
前述の通り、物損事故でも警察への通報義務がありますし、通報しなければ道路交通法違反となり、罰則も適用され、運転免許の点数も加算されます。
そのようなことからも、自損事故を起こしたら、その場で警察に通報すべきです。
(3)警察が受け付けてくれないおそれ
自損事故でも、他人のものを傷つけずに自分の身体や車だけが傷ついた場合には、被害者はいません。
このようなケースでは、交通事故から時間が経つと、警察が自損事故の届出を受け付けてくれない可能性が高くなります。
そうすると、交通事故があったことを証明できず、自動車保険を利用できない可能性が高くなります。
(4)道路や施設の管理者に損害賠償請求できる可能性
自損事故を起こした場合、必ずしも運転者に過失があるとは限りません。
たとえば道路や施設がきちんと管理されていなかったことが原因で交通事故につながったのであれば、道路や施設の管理者や所有者に対し、損害賠償請求できる可能性があります。
そこで、自損事故を起こしたときには、現場の状況についてもきちんと検証しておくことが重要です。
そのためにも、事故を起こしたらすぐに停車し、その場で警察を呼んで状況を確認してもらいましょう。
(5)自損事故と運転免許の点数について
自損事故を起こしたとき、運転免許の点数が加算されるのか不安に感じる方も多いですが、自損事故では、基本的に免許の点数は上がりません。
そこで、警察を呼んでも免許停止や取消などにはならないのです。
しかし、自損事故でガードレールなどの施設を傷つけたにもかかわらず警察に届出をしなければ、「当て逃げ」となって点数が上がります。
この場合、前歴がなくても7点が加算されて、免許停止処分を受けることとなります。
4、自損事故で保険金をもらう方法
自損事故では事故の相手がいないので、相手の保険会社や相手本人に損害賠償を求めることはできません。
相手の任意保険の対人賠償責任保険や対物賠償責任保険はもちろんのこと、自賠責保険も利用できませんし、政府保障事業も適用されません。
しかし、自分が自動車保険(任意保険)に加入している場合には、自分の自動車保険から保険金を受け取ることができます。
自損事故で利用できる可能性がある保険は、
- 自損事故保険
- 人身傷害補償保険
- 搭乗者傷害保険
- 車両保険
です。
自損事故保険とは、契約者が自損事故を起こしたときや、契約者に100%の過失があって相手の自賠責保険から支払いを受けられない場合に保障を受けられる保険です。
契約者が怪我をしたり死亡したりしたときに適用されます。
支払われる保険金は、死傷者の収入などの条件にかかわらず、死傷の結果に応じて一定の金額が支払われます。
一例を示すと、死亡した場合には1,500万円、後遺障害が残った場合には、その内容に応じて50~2,000万円、介護が必要になった場合には200万円などとなっています。
入通院をした場合には、入通院した日数に応じて保険金が支払われます。
人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険は、契約者やその家族が交通事故に遭ったときに人身損害部分について保障を受け取れる保険です。
自損事故保険よりも補償額が高額になるケースもあるので、忘れずに適用を申請しましょう。
自損事故保険、人身傷害補償保険、搭乗者傷害保険は人身損害に対する保障ですので、車が壊れたケースなどでは適用されません。
車などの物損については、「車両保険」によって対応する必要があります。
車両保険は、契約者の車両が壊れたり、盗難に遭ったり当て逃げ被害に遭ったりしたときに保険金の支払いを受けられる保険です。
ただし、車両保険には一定金額まで免責がありますし、利用すると保険の等級が下がって次年度の保険料が上がってしまいます。
そこで、車両保険を利用するかどうかについては、ケースに応じて慎重に検討した方が良いでしょう。
なお、「3、自損事故を起こしてしまった場合の注意点 (1)自動車保険を使えなくなるリスク」でご説明した、自動車保険を利用する際に必要となる「交通事故証明書」は、保険会社が取付けを行うことが一般的ですので、自分で取付ける必要はありません。
5、自損事故で保険会社とやり取りする際の注意点
自損事故に遭ったときに保険会社に保険金を請求するときには、いくつか注意点があります。
(1)保険の等級が下がる
まずは、保険の等級の問題です。
自損事故保険や車両保険を利用すると、3等級ほど下がるので、次年度からの保険料が上がります。
(2)逸失利益算定のトラブル
次に、後遺障害が残った場合の逸失利益の問題です。
後遺障害が残ったら人身傷害補償保険から「逸失利益」の支払いを受けられますが、その際の計算方法があいまいなため、保険会社と被害者の間でトラブルになりやすいのです。
(3)偽装事故の疑いがかかる
また、自損事故の場合、保険会社から保険金目当ての偽装事故だと捉えられてしまうケースがあります。
このような場合、最終的に保険金を受け取れるとしても、長い時間が必要になることが多いですし、保険金支払いを拒絶される可能性もあります。
まとめ
今回は、自損事故とその対処方法について解説しました。
自損事故は、人身事故などに比べるとあまり重要視されない交通事故ですが、正しい知識を押さえておかないといろいろな不利益を受ける可能性があります。
今後に備えて、自損事故についての理解を深めましょう。