夫婦間で何らかの問題があり、別居を行うことになるケースもあるでしょう。
引越しを行う際には住民票を移しますが、夫婦の別居では住民票をどのようにすべきか悩む方も多いでしょう。
別居時の住民票の異動は必要なのでしょうか?
ここで、
・別居時に住民票を移動させるメリット
・デメリット
・具体的な手続き
についてもご紹介します。
これから別居をするという方も、まだ別居を検討中だという方も参考にして、住民票の移動について検討してみてください。
夫婦の別居については以下の関連記事をご覧ください。
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目次
1、別居時には住民票を移すべきなのか?
引越しをして住所が変われば、住民票を引っ越し先の市区町村に移すことが一般的です。
しかし、別居をする際にも住民票の移動が必要なのかお悩みの方も多いでしょう。とくに一時的な別居であれば元の住居に戻る可能性もあるため、住民票の移す必要があるのか悩んでしまいます。
別居時に住民票は必ず移さなければならないものなのでしょうか?
(1)居住地を変更した場合住民票を移すことが義務付けられている
住民票は、現住所を証明するための公的な書類です。そのため、居住地を変更した場合には住民票を移す必要があることが住民基本台帳法23条にも定められています。
もし住民票の移動を14日以内に行わなかった場合には、5万円以下の過料に処されます。
しかし居住地の変更が一時的なものであった場合はどうなるのでしょうか?
次の項目で確認していきましょう。
(2)離婚を前提としている場合には住民票を移すべき
住民票の移動は離婚を視野に入れているのかどうかという点から考えるべきでしょう。なぜなら住民票の変更は、一時的な居住地の移動であれば移さなくても良いとされているからです。
もし復縁の可能性があるのであれば住民票を移しても、再び同居するのであれば住民票を移さなければなりません。そうすると、その度に役所での手続きが必要になり、手間がかかってしまいます。
一方で、復縁はないと考えているのであれば、今後の住まいも変わるため住民票は移しておくべきだと言えます。住民票を移しておくことで、離婚後の新生活の準備が行いやすくなります。
(3)一時的な別居の場合は不要
前述したように、居住地の変更があった場合には住民票を移すことが義務付けられているものの、一時的な移動であれば住民票は移さなくても良いとされています。
そのため、一時的な別居であれば住民票を移す必要はありません。
例えば、
- 夫婦で冷却期間を設けるために別居をしている場合
- 単身赴任で別居になる場合
であれば住民票の移動は不要と言えるでしょう。
2、別居時に住民票を移すメリットとデメリット
別居時に住民票を移すという場合は、
- 離婚を視野に入れている時
- 別居期間が長期化することが分かっている時
だと言えます。
しかし、別居時に住民票を移すことにはメリットとデメリットがあるので、十分に理解してから検討する必要があります。
(1)メリット
離婚がなかなか成立しない場合にも別居して住民票を移せば、既に離婚が成立している場合と同様の扱いを受けられることでさまざまなメリットが得られます。
また、離婚を成立させやすくなるなどのメリットもあります。
まずは住民票を移すメリットから見ていきましょう。
①公営住宅の申し込みができる
別居や離婚で子供を一人で育てることになれば、家賃の安い公営住宅に入居したいと考える方も多いでしょう。自治体によって公営住宅の申し込み基準は異なりますが、別居の住居確保の目的で公営住宅を申し込んでも認められないケースがあります。
この場合、別居が一定期間経過していることが証明でき、所得などの基準を満たせば申し込みすることができます。別居が一定期間経過していることを証明するには、住民票の移動が必要です。
②公的給付金の申し込みがしやすくなる
住民票を移せば移動した居住先の市区町村の住民になるため、
- 自治体のサービス
- 公的給付金
などの申し込みができるようになります。
例えば、東京都の江戸川区であれば、区内に住む乳幼児を育てる家庭には乳児養育手当という給付金が用意されています。
また、ひとり親家庭として各自治体の医療費助成制度を利用できる可能性もあります。
こうした
- 公的給付金
- 公的サービス
などの手続きには住民票が確認書類として必要になるため、申し込みをしたいと考えている場合には住民票の移動が必須です。
③別居状態の証明になる
もともと住んでいた場所から住民票を移せば、夫婦が別の場所に住んでいるという「別居の証明」になります。
別居が長期化すれば離婚が認められやすくなりますが、住民票を移していれば客観的に別居状態を証明することができます。
そのため、なかなか離婚協議が進まずに別居を行うという場合であれば、住民票を移して別居状態の証明をすることに備えておくべきでしょう。
④学校・保育園・幼稚園へ転入・編入しやすい
子供を連れて別居するのであれば、居住地の近くの学校や保育園、幼稚園に編入させたいと考えるのではないでしょうか。
しかし、住民票を移していない状態であれば、編入を受け入れてもらえないことが大半です。学校側に事情を話して理解してもらえるケースもあるかもしれませんが、長く通い続けることは難しいでしょう。
そのため、子供を連れて別居する場合には住民票を移動させることは必須になると言えます。
⑤児童手当を受け取れる
中学生以下の子供がいる場合、所得や年齢に応じて「児童手当」を特別給付として受けられます。この児童手当の受給者は子供と一緒に住んでいる親であり、父親の名義になっていることが多いでしょう。
しかし、子供を連れて別居するのであれば、住民票を移すことで直接児童手当を受け取られるようになります。そのため、自分が児童手当を受け取りたいと考えている場合にも住民票の移動は必須です。
⑥保育料が下がる
子供を認可保育所に預ける場合、保育料は夫婦の所得の合算した額から算定されます。そのため、別居したが離婚していないという状態の場合、夫婦の所得から保育料が算定されてしまいます。すると、ご自身の収入に対して保育料負担が大きくなってしまう恐れがあります。
しかし、別居が一定期間経過していることを証明できれば、子供と同居している親の収入のみを基準にして保育料を算定してもらえることがあります。
夫婦の所得から算定していた場合と比較して保育料が下がる可能性があります。
自治体によって基準は異なるため相談が必要にはなりますが、いずれにしても住民票を移していることが前提になると言えます。
(2)デメリット
別居の際に住民票を移せば公的サービスや給付を受けられるなどさまざまなメリットがありますが、デメリットが発生する恐れもあります。
別居の際に住民票を移すことで、次のようなデメリットが起こり得ます。
①国民健康保険料の負担
妻が夫の社会保険の扶養に入っている場合、別居をしても妻は夫の扶養のままになり、夫が保険料を負担することになります。
しかし、夫婦ともに国民健康保険に加入している場合には、国民健康保険には扶養という概念がないため、住民票で保険料の負担が変わります。
また、世帯単位で加入することになるため、住民票を移せば世帯が分かれることになります。そうすれば、別居先で新たに国民健康保険へ加入することになり、ご自身で保険料を支払うことになるでしょう。
ただし、保険料は世帯の所得によって変わり、所得が低い場合には減免制度を利用できます。保険料の減免制度については以下をご確認ください。
参考:日本年金事務所
②住民票を移す人が住宅ローンの名義人になっている場合〜契約違反の恐れ
住宅ローンを組んで家を購入したものの、ローン返済中に別居することになるケースもあるでしょう。
この場合、ローンの名義人が家を出て行くことは計約違反になる恐れがあります。なぜならば、住宅ローンは自分が住むことを条件に金融機関からお金を借りているからです。そのため、住宅ローン返済中に住所変更することは原則的に認められません。
もし別居して住民票を移していることが発覚した場合、
- 借り換え
- 一括返済
を要求されてしまう可能性があります。
また、住民票を移せば、住宅ローン控除も受けられなくなるというデメリットもありますので、住民票を移す人が住宅ローンの名義人になっている場合には注意しましょう。
③危険な配偶者に居場所がバレる
例えば
- DV
- モラハラ
が原因で別居する場合、身の危険があるため配偶者に居場所を知られたくないと考える方もいるでしょう。
しかし、別居時に住民票を移せば配偶者に居場所を特定されてしまいます。なぜならば、夫婦は同じ戸籍に入っているため、戸籍から簡単に住民票を調べられるからです。
住民票を移せば戸籍の附票という部分に転記され、配偶者は附票を取得することで転居先を調べることができます。そのため配偶者に居場所を知られたくないという場合には慎重になる必要があります。
もっとも、場合によっては住民票の閲覧制限を求めることもできるので、住民票を移す前に弁護士に相談するのがいいでしょう。
④子供の転園や転校が必要になる
子度を連れて別居をする際には、住民票を移せば子供がこれまで通っていた
- 学校
- 幼稚園
などに通うことができなくなるというデメリットがあります。
私立の学校であれば問題ありませんが、校区で決められた学校や幼稚園に通っている場合には、校区外の場所へ引っ越せば転校が必要になります。
3、別居はするものの住民票を移すべきではないケース
別居する際に住民票を移すべきケースは、離婚の意思が固まっているような場合です。
それでは反対に、別居はしても住民票を移すべきではないケースとはどのような場合が該当するのでしょうか?
(1)単身赴任になる場合
仕事の都合で配偶者もしくはご自身が単身赴任をすることになるような場合もあるでしょう。
この場合、一時的な居住地の移動になるため住民票を移す必要はありません。単身赴任はやむを得ない理由で夫婦が別々に暮らすことになるだけで、別居とは異なるものです。そのため、離婚の成否で問われる別居として扱われることもありません。
(2)夫婦の関係を修復したい場合
別居をしても夫婦関係をいずれは修復したいと考えている場合は、住民票は移すべきではないと言えるでしょう。なぜならば、住民票を移せば別居期間を証明することになり、相手が離婚に向けて準備を進める可能性があるからです。
また、一時的な別居だと考えているのであれば、再び元の家に戻ることになるため住民票を移動させる必要性がないと言えます。
(3)居場所を知られると危険が及ぶ可能性がある場合
配偶者から
- DV
- モラハラ
を受けていて別居する場合、住民票を移せば居場所を特定されてしまいます。そのため、住民票を移す場合には注意が必要です。
居場所を知られて危険が及ぶ可能性がある場合には、
- 実家
- 保護シェルター
の協力を得るという方法があります。
また、DV等支援措置を利用すれば住民票の閲覧制限がかかるため、居場所が特定されることを防げます。
配偶者が危険な人間の場合は全国の婦人相談所などに相談してみてください。
参考:厚生労働省
4、別居するときに住民票を移しても生活費を請求できるのか?
別居をしても夫婦の扶養義務があるため、収入の少ない方の配偶者は収入が多い方の配偶者に対して「婚姻費用」を請求することができます。
婚姻費用とは別居中の生活費です。住民票を移しても離婚するまでの期間であれば、婚姻費用の請求が可能です。
しかし、離婚に向けて別居するのであれば、別居前から
- 働き口を探す
- 貯金する
などの事前準備をしておくことも大切です。婚姻費用だけに頼らず、離婚後に自立できるように準備を行いましょう。
5、別居で住民票を移す時に注意すべきこと
別居で住民票を移すことを決めた場合には、住民票を移動させる前にもう一度次の注意点について確認を行ってください。
(1)夫婦には同居義務がある
夫婦は同居し、相互に協力して扶助しなければならないことが法律によって決められています。(民法第752条)
そのため、
- 一方的に家を飛び出すこと
- 相手の許可なく別居を始めること
法律に違反することになります。
もし別居をしたいと考えるのであれば、できることならば相手の同意を得ましょう。同意を得て別居を行うことは問題ありません。
ただし配偶者が危険な人物で逆上するような恐れがある場合には専門機関や弁護士にまず相談しましょう。
(2)住民票を移すと世帯主が分かれる
離婚はしていなくても、別居で住民票を移せば世帯主が分かれることになります。
世帯主が分かれると、国民健康保険の場合は加入の必要があります。国民健康保険は世帯ごとに保険料を支払うため、子供を連れて別居するのであれば子供の保険料も加わることになります。
夫婦で国民健康保険に加入している場合には、今後の保険料の負担についても把握した上で住民票を移すようにしましょう。
(3)子供はどちらが引き取るのか
離婚後の親権も含めて子供はどちらが引き取るのか考えてから別居をするようにしましょう。
離婚後に親権を持つ方が家を出るのであれば、別居時に住民票を移すことで子供の学校など新生活に向けた準備を行いやすくなります。
子供の学校の新学期にタイミングを合わせたいと考える方も多いので、学校の転入の時期なども含めて子供を含めた家族で話し合って決めることをおすすめします。
(4)断りなく子供を連れて行くのは危険
別居の際に、配偶者へ断りなく子供を連れて出て行ってしまうようなケースもあるでしょう。
しかし、配偶者の承諾なく子供を連れていけば、法的手続きによって子供を取り返されてしまう可能性があります。
また、場合によっては離婚時に親権者として不適格だと判断されるリスクも高まることもあります。
子供の親権で揉めてしまうような場合には、弁護士に相談するようにしましょう。
6、別居で住民票を移すときの手続き方法
別居で住民票を移す手続きは、各市区町村の役場で行います。
同一地域での移動であれば、「転居届」のみの提出になります。
一方で、別の地域へ移動する場合には、
- 現在住んでいる地域で「転出届」を提出
- 転居先の地域で「転入届」を提出
する必要があります。
別の地域へ転居する際には、
- 印鑑登録
- 公租公課関係の変更手続き
も併せて行いましょう。
別居時の住民票に関するQ&A
Q1.別居時には住民票を移すべき?
離婚を前提としている場合には住民票を移すべき
復縁はないと考えているのであれば、今後の住まいも変わるため住民票は移しておくべきだと言えます。
一時的な別居の場合は不要
居住地の変更があった場合には住民票を移すことが義務付けられているものの、一時的な移動であれば住民票は移さなくても良いとされています。
Q2.別居はするものの住民票を移すべきではないケースとは?
単身赴任になる場合
夫婦の関係を修復したい場合
居場所を知られると危険が及ぶ可能性がある場合
Q3.別居するときに住民票を移しても生活費を請求できるのか?
婚姻費用とは別居中の生活費です。住民票を移しても離婚するまでの期間であれば、婚姻費用の請求が可能です。
まとめ
ここでは、夫婦が別居する際に住民票を移すメリットやデメリットについてご紹介しました。
別居の際に住民票を移せば、転居先の公的サービスなどを利用できるようになることや、子供の転入ができるようになるなど、離婚に向けた第一歩を踏み出すことができます。
離婚も含め、今後の夫婦関係についてお悩みの場合には弁護士へご相談ください。
離婚に向けて必要な準備や手続きのサポートだけではなく、相手との交渉なども任せることができます。