
誹謗中傷の書き込みを削除する方法をご存知でしょうか。
携帯電話会社の通信料定額プランやスマートフォンの普及に伴い、インターネット…特にSNSの利用率は右肩上がりの状況です。
今では、誰もがインターネットを通じて簡単に情報にアクセスできますし、逆に誰に対してでも情報を発信できます。
このような変化から、十数年前と比べ、あらゆる情報が流通しやすい状態にあるといえます。
流通する情報は人々を助けるものばかりではありません。
「ネットいじめ」という言葉も生まれるほどインターネットには個人の中傷が溢れていますし、事実誤認に基づいて有名人や有名企業が風評被害を受けることも増えています。
そこで今回は、
- ネット中傷されたときに想定されるリスク
- 誹謗中傷書き込みの削除を実現する方法
についてご紹介します。
本記事でご紹介したネット風評対策が、誹謗中傷に悩まれている方の参考になれば幸いです。
目次
1、誹謗中傷書き込みを削除する方法を知る前に|ネット風評対策の重要性
冒頭でもお伝えしましたが、ネット上での誹謗中傷書き込みにより有名人や有名企業、ときに一般の方までもが風評被害を受けることが増えています。
ネットで中傷された場合に想定されるリスクは、他にもあります。
具体的にどのようなリスクが想定されるのか確認していきましょう。
(1)掲示板サイトを通じて転載され、被害が拡大する
利用者の多い掲示板において、有名企業や有名人(あるいはニュース、SNS等を通じてクローズアップされた一般人)についての中傷・虚偽情報が書き込まれてしまい、転載されていって被害が拡大してしまうケースがよくみられます。
(2)SNSでのなりすまし被害
ツイッターやFacebookといった大手SNSにおいても、その信頼度を利用する形で悪用されてしまうケースが発生しています。
典型的なケースとしては、人の名前を詐称してアカウントを作成し、詐称された人の名義で不適切な発言を繰り返す、というものです。
最近では、採用活動にあたって担当者が就活生の名前をインターネットで検索して、SNSでどのように振る舞っているかをチェックしている、という噂もあります。
そのような状況の中、たとえばプロフィール欄で出身大学などが一致している「なりすまし」アカウントが暴言をつぶやいていたりすると、非常に大きな不利益を受けることになります。
特に、身近な人間に逆恨みされて「なりすまし」をされる場合、通っている大学やおおまかな所在地などが知られていて、それらを「なりすまし」に利用されてしまいます。
大学や所在地などが一致していると、一見、「本人のアカウントに違いない」と思われてしまうアカウントが容易に作れてしまいます。
2、被害を最小限に抑えるために|発見後すぐにネット風評対策を行うことが重要
有名人や企業が中傷された場合にしばしば起こるのが、削除請求を行ったことがきっかけでさらなる中傷や炎上を招いてしまうケースです。
特に、情報の流通性が必ずしも高くない・特定性が低いケースではあえて放置する、企業不祥事などで落ち度が明確なら不正確な情報の訂正にとどめるといった選択肢もあります。
もっとも、既にご説明したようにインターネットの流通性が日々加速し続けている状況ですから、中傷被害を受けている場合は早期に削除請求や発信者情報開示請求などの対策をとらないと拡散・エスカレートしていってしまうことも多く、特に個人が中傷されたような場合には迅速にネット風評対策を進めることが必須なケースも多々あります。
最近では、無料相談を実施している法律事務所も増えていますから、身内だけで悩んでしまうよりも、まずは弁護士に相談し、自分のケースについてどのような対応が適切なのかを検討してみてください。
以下では、削除請求を行うと決めた場合に、削除を実現するための方法について具体的にご案内します。
関連記事3、対策① ウェブフォームなどからの削除依頼
中傷が書き込まれたサイトに、問題のある書き込みや投稿記事の削除を依頼できるフォームが用意されている場合、まずはそのフォームを利用して削除を依頼してみるといいでしょう。
フォームから削除依頼を行った場合、中傷が投稿されたサイトにおいて削除の要否を検討します。
(1) 弁護士を通じて削除依頼を行うといいケースも
個人が管理しているサイト(趣味についての掲示板、小規模な情報サイトなど)に依頼する場合、弁護士を通じて削除依頼を行うことが特に有効です。
「弁護士から連絡が来てしまった」ことのインパクトによって、早期の対応が行われることが多いからです。
(2)誠実な対応が期待できないときは
一方、大手サイトの場合には、組織が大きいからか、弁護士を通じて削除依頼を行った場合でさえ即時の対応をしてもらえないことがあります。
サイト側が削除依頼に誠実に対応しようとしない場合には(まったく連絡が来ないことさえあります)、ガイドラインに則った請求や裁判を検討することになります。
4、対策② ガイドラインに則った請求
任意の対応をしてもらえない(期待できない)場合には、一般社団法人テレコムサービス協会の作成したガイドラインに従って、送信防止措置依頼をすることが有効です。
(1)ガイドラインの利用方法
ガイドラインを利用するには、まずサイトの管理者やプロバイダに対して依頼書を郵送します。
依頼書が届くと、サイトの管理者やプロバイダにおいて本人(又はその代理人)からの依頼かを確認した上で、情報の発信者に対して書き込みの削除の可否を尋ねます。
その後、もしも発信者から7日間以内に反論がなければ削除が実現します(反論があった場合には、「権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」の有無をサイト管理者やプロバイダが判断します)。
(2)弁護士を通じての対応が望ましい
発信者情報の開示はあまり認められませんが、情報の削除という点についていえば有効な方法です。
もっとも、権利侵害について資料を添えて立証していくには法的な専門知識が必要となるため、弁護士を通じて行った方が削除される可能性が高くなるでしょう。
5、対策③ 法的手段による削除
これらの比較的穏当な手段を用いてもサイト側が削除に応じようとしない場合には、裁判所を通じて中傷情報の削除を求めていくことになります。
「裁判をしたら、何年もかかってしまうのではないか?」とお思いになるかもしれません。
しかしながら、裁判所を通じた手続きの中には「仮処分」という暫定的に請求を認めてもらえる手続があります。
裁判で時間をかけて是非を判断していると、結果に関わらず被害が出てしまって意味がなくなってしまうためにできた手続きです。
そして、暫定的なものであっても裁判所によって削除することが相当と判断されたことになりますから、仮処分が認められた時点でサイト側が削除など任意の対応を行い、本格的な裁判に発展しないケースが多いようです(特に大手サイト)。
裁判に準じた手続で“証拠の収集”や“主張の構成”など専門的な知識が非常に重要になりますから、削除請求の経験が豊富な弁護士に依頼した上で行うことを強くおすすめします。
6、対策④ 逆SEO等の技術的な削除
これら3つの方法で削除が実現できない・記事の削除という方法になじまないが中傷による被害が生じ続けている、というケースも少なからず存在しています。
たとえば、不利な情報が検索サイトのサジェスト欄に残り続けてしまっている(解雇した従業員に逆恨みされて中傷書き込みが続いた結果、関連ワードとして「〇〇 ブラック」と表示されている等)場合、そのサジェスト結果自体の削除請求を行うこともできますが、直接中傷したような場合と比べ、やや削除が認められにくい傾向にあります。
そのため、通常の関連ワード(「〇〇 食べログ」「〇〇 場所」など)がサジェスト欄に表示されるよう技術的な対抗措置をとることが考えられます。
他にも、たとえば、事実誤認に基づく批判記事が上位表示されてしまう場合に、直接削除しようとしても記事が多くイタチごっこになってしまうようなケースもあります。
そのような場合、個々の記事の削除ではなく、批判されている内容が事実とは異なっている旨を丁寧に説明した記事を用意して、より上位表示されるようにすることで、閲覧者が誤解したままにならないように誘導することが有効です。
このように中傷情報自体が削除できない・削除しても効果が薄い場合には正しい表現・言論によって、中傷が人の目に触れないようにすることも有効です。
もっとも、この中傷が検索されにくくする「逆SEO対策」は、単にポジティブな内容の記事を増やせばいいというものではなく、他の3つの方法以上に専門的な技術・知識が必要な方法です。
ひとまず弁護士とともに削除による対処を検討した上で、それがなかなかうまくいかない場合に検討するといいでしょう。弁護士自身、あるいは、対策できる業者を通じての措置を一緒に考えてくれるはずです。
7、中傷情報の発信者への対処
ここまではネット風評それ自体への対策についてご案内しましたが、最後に、その「中傷」の発信者への対処方法についてもご案内します。
(1)発信者情報開示請求
発信自体を繰り返させないように発信している人間を特定したい場合には、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき発信者情報開示請求を行います。
もっとも、誰が情報を発信しているのか、というプライバシーを保護する観点から、同条に基づく請求には「権利が侵害されたことが明らか」という明白性が要求されています。
「権利が侵害されたことが明らか」という明白性について具体的には次の要件が必要です。
- その情報が社会的評価を低下させるような内容であること
- それが公益目的といえないような不当な情報発信であることを立証(仮処分では疎明)する必要があること
また、発信者情報について、その痕跡が偽装されてしまっていたり、ネットカフェから書き込まれていたために人物の特定ができなかったりするなど、手を尽くしても情報が得られないこともあります。
そのため、まずは削除請求だけでは足りないかを検討したうえで、おそらく同一人物が書き込みを繰り返している・削除しても再び中傷が投稿されてしまう、といった削除だけでは対処が難しいと考えられる場合に、時間や費用が無駄になってしまうリスクと天秤にかけて決断することをおすすめします。
関連記事(2)名誉毀損を理由に損害賠償請求
また、発信者が特定できれば、中傷によって違法に社会的評価を低下させたものとして、損害賠償を請求できる可能性があります。
書き込む側でも誤解している人が多いのですが、たとえ事実であっても損害賠償請求が認められる可能性があります。
特に、個人のプライバシーを暴く、何年も前の行動について批判するような内容については、批判にそれなりの合理性があっても損害賠償が認められる可能性があります。
「有名税」という言葉がありますが、その逆で、たとえ人から批判されるような言動が過去にあったとしても、そのことを世界中に発信されるネット上で暴露・批判されることまで甘受する必要はないからです。
だから、「自分が悪いのかも…」と思ってしまっても、諦めないでください(もちろん、鎮静化させるためにあえて損害賠償請求まではしないという選択も考えられます)。
関連記事まとめ
今回は、年々被害が拡大しているインターネット上の中傷への対処についてご説明しました。
どのような方針で対処していくのかの検討を含め、経験ある弁護士への相談が重要です。
万が一、中傷されているのを発見した場合には、なるべく早く弁護士にご相談ください。
なお、「削除代行」をうたう業者もいますが、弁護士資格のない業者に依頼すると、資格のない者が弁護士にしか行えない業務を行う「非弁行為」であるとして、そもそも依頼した契約自体が無効とされてしまう可能性もあります。
そうなれば依頼自体が無意味になってしまうため、焦っていても資格等がはっきりしない業者に依頼するのではなく、法律事務所に相談しましょう。