
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の請求に限って裁判所を利用する制度です。
これをお読みの方の中には、何度連絡しても相手がお金を支払ってくれなくて途方に暮れている方も少なくないのではないでしょうか。ネットなどで内容証明郵便を送ったらいいと教えられてもどうしたらいいか分からない、もしくは内容証明郵便を送ったものの相手から何の反応もなく途方に暮れている方もいらっしゃるのではないでしょう。
そのような方のために少額訴訟という制度があります。
そこで今回は、
- 少額訴訟とは?
- 少額訴訟のメリット
- 少額訴訟の手続き
について書いていきます。
ご参考頂き、相手方から無事にお金を回収してもらえると嬉しいです。
目次
1、少額訴訟の基本
(1)少額訴訟とは?
そもそも少額訴訟とはどのようなものでしょうか?
少額と付いていても「訴訟」という言葉からすると敷居が高くて面倒な手続きだとイメージされる方が多いのではないでしょうか?
少額訴訟とは、まさにそのような面倒な手続きを省いて60万円以下の請求に限って裁判所を利用することを可能にする制度で、通常の裁判より簡単に、かつすぐに終わります。
例えば、
- あの人が貸したお金を約束の期限に返さない
- あの会社が契約により決まった月額20万円の広告費を返さない
という場合に有効な制度です。
少額訴訟という制度が設けられた趣旨は、少額の債権を回収する場合、通常の裁判では時間も費用もかかってしまい費用対効果が合わないことから、少額のお金の回収に限り、簡単で費用をおさえつつかつすぐにお金を回収することを可能にする点にあります。
関連記事(2)少額訴訟をするために弁護士・司法書士・行政書士は必要?
また、少額訴訟をするために弁護士・司法書士・行政書士が必要なんじゃないかと思う方もいらっしゃるでしょうが、必ずしも必要ありません。
少額訴訟はご自身ですることができます。
(3)こんな場合に少額訴訟を利用しましょう!
次に少額訴訟を利用したらいいケースについて書いていきます。 基本的な前提としては、
- 請求金額が60万円以下
- 支払い期限を過ぎたために書面やメールを送っているのに支払ってくれない
という状況であることです。
また、具体的なケースとしては以下の通りです。
- 業務委託契約をしたのに業務委託料を支払ってくれない場合
- 広告掲載契約をしたのに広告費を支払ってくれない場合
- お金を貸したのに返してくれない場合
- 商品を販売したのに代金を支払ってくれない場合
- 敷金を返してくれない場合
- 勤務しているのに会社が給料を支払ってくれない場合
- 交通事故に遭った場合に物損について損害を賠償してくれない場合
など。
2、少額訴訟のメリットは?
少額訴訟のメリットは大きくは以下の3つがあります。
(1)弁護士に依頼する必要がないほど手続きが簡単
「訴訟」というとどうしても手続きが面倒に感じられるでしょう。
しかし、少額訴訟は法律知識がなくても訴状などを簡単に作成できます。
また、簡易裁判所では裁判官や書記官が進め方をアドバイスしてくれるので、迷わずに手続きを進めることができます。
(2)費用が安い
裁判をするというとどうしてもたくさん費用がかかるイメージがあるでしょう。
しかし、少額訴訟は費用が安いのが特徴です。
まず、弁護士に依頼する必要がないので弁護士費用がかかりません。
また、仮に強制執行(差し押さえ)したとしても、1〜2万円程度しかかかりません。
費用について詳しくは「4、少額訴訟にかかる費用は?」をご参照下さい。
(3)時間がかからない
裁判というと、どうしても長いイメージがあるでしょう。
しかし、訴訟を裁判所に提出する申立てから審理をして判決が出るまで2ヶ月ほどと比較的短期です。
また、原則として審理は1回でその日のうちに判決が下されるので、何度も裁判所に足を運ぶ必要はありません。
3、少額訴訟にかかる費用は?
では、少額訴訟にはどのような費用がかかるか見ていきましょう。
裁判というと結構かかるイメージがあるかもしれませんが、裁判自体は¥5,000〜¥10,000ほどです。
(1)印紙代
裁判をするには、印紙が必要となります。印紙は郵便局などで購入することができます。
金額としては請求金額に応じて以下の通りです。
出典:裁判所
(2)郵券(郵便切手代)
これに加えて、郵便切手代が必要となります。
具体的にいくらかかるかは各簡易裁判所ごとに異なりますが、おおよそ¥4,000前後です。
なお、東京簡易裁判所であれば¥3,910となります。
(3)強制執行の費用
もし、少額訴訟で勝訴判決を得ても支払わない場合、お金を回収するには強制執行(差し押さえ)が必要となります。
必要な金額は以下の通りです。
①印紙代
1債務者に対して強制執行するために必要な印紙代は以下の通りです。
¥4,000
②郵券(郵便切手代)
また、郵便切手代もかかります。金額は各簡易裁判所によって異なりますが、おおよそ以下の通りです。
¥3,000〜¥4,000 基本的に少額訴訟でお金を回収するまでにかかる費用は以上の通りです。
4、少額訴訟をするために必要な資料は?
次に、少額訴訟をするために必要な資料をみていきましょう。
少額訴訟をするためには以下の書類が必要となります。
(1)訴状
訴状の作り方について詳しくは「6、少額訴訟の訴状の作り方」をご参照下さい。
(2)(相手が法人の場合)登記事項証明書
相手が法人の場合、登記事項証明書が必要となります。
登記事項証明書は法務局で取得できますが、¥500ほどかかります。
(3)訴状副本
また、少額訴訟をする相手の数だけ訴状の副本が必要となります。
「副本」とはいわゆるコピーのことです。
(4)証拠資料
少額訴訟でも証拠が必要となります。
どのような資料が証拠となるかは、「6、どのような資料が証拠となる?」をご参照下さい。
5、少額訴訟ではどのような資料が証拠となる?
次に証拠を集めましょう。
上からより有効な証拠となる傾向があります。
- 契約書
- 請求書
- 見積書
- 領収書
- メール文のコピー
- 電話の録音
など。
上記の証拠について、手元にあるだけ提出するようにしましょう。
もし、以上のような証拠が全くないということだと、少額訴訟で勝訴してお金を回収することが難しくなるかもしれません。
6、少額訴訟の訴状の作り方
次はいよいよ少額訴訟の訴状の作り方をみていきましょう。
(1)まずは雛形をダウンロードしましょう!
訴状を一から作るのは手間だと思います。
そこで、訴状の雛形をダウンロードできるようにしました。
(2)書くにあたっては記載例を参考に!
実際に書くにあたっては少額裁判所の記載例を事件の内容ごとにご参考下さい。
①貸したお金を返してもらいたい場合
②販売した商品の代金を支払ってもらいたい場合
関連記事③未払いの給料を支払ってもらいたい場合
④敷金を返してもらいたい場合
関連記事⑤その他、一般的にお金を支払ってもらいたい場合
関連記事7、少額訴訟の流れ
訴状を裁判所に提出した後は訴訟の手続きが進んでいきます。
少額訴訟の流れをみていきましょう。
(1)訴状の提出
まずは、被告の住所地を管轄する簡易裁判所に作成した訴状を提出します。
(2)期日の連絡
裁判所に訴状が受理されると、実際に審理・判決をする期日の連絡があります。
(3)事前聴取
少額訴訟が1回の期日で終了するようにするための事前準備を行います。
裁判所の書記官の要求に応じて、審事実関係の確認、追加の証拠書類の提出、証人の用意したりします。
(4)答弁書を受け取る
相手方が提出した答弁書が届きます。答弁書には相手の反論が書かれています。
(5)法廷で審理が行われる
原告、被告、裁判官、書記官らにより審理が行われます。30分〜2時間で終了します。
審理では提出した書類や証人尋問などの証拠調べが行われます。
また、場合によっては審理の場で話し合いにより和解が成立する可能性があります。
(6)判決
原則として審理終了後判決が行われます。
8、少額訴訟でもし支払ってくれなければ差押え(少額訴訟債権執行)!
判決が出た時点で支払ってくれれば一番いいのですが、相手が支払わない可能性があります。
その場合、相手の銀行口座等を差し押さえ(少額訴訟債権執行)する必要があります。
そこで少額訴訟で勝訴した後の強制執行の方法について見ていきましょう。
(1)必要書類は?
少額訴訟で勝訴した後に債権執行するために必要な書類は、以下の通りです。
①少額訴訟債権執行申立書
少額訴訟債権執行をするにあたり少額訴訟債権執行申立書が必要となります。
具体的な作成方法については以下の「(2)少額訴訟債権執行申立書の作成方法」をご参照下さい。
②債務名義正本
債務名義正本として、「少額訴訟の確定判決書」が必要となります。
③送達証明書
送達証明書とは、お金の請求先に債務名義等が送達されたことを証明する書面です。
強制執行にあたっては送達証明書が必要となります。
150円分の収入印紙を貼った送達証明申請書を提出することで取得できます。
送達証明申請書の提出のタイミングは、申立書や債務名義正本を提出するタイミングと同じで大丈夫です。
なお、送達証明申請書の雛形ダウンロードと書式例は下記よりご確認下さい。
④(相手が法人の場合)資格証明書
もし、請求先が法人の場合には、少額債権訴訟執行の申立てから1ヶ月以内に取得した登記事項証明書が必要となります。
登記事項証明書は法務局で取得することができます。
(2)少額訴訟債権執行申立書の作成方法は?
以下の順番で書面を並べて左側をホッチキスなどで閉じて下さい。
また、各ページの上部余白部分に押印(捨印)が必要となります。
- 申立書表紙
- 当事者目録
- 請求債権目録
- 差押債権目録
それぞれの書面の雛形ダウンロードと記載例は以下の通りです。
①申立書表紙
②当事者目録
③請求債権目録
④差押債権目録(差し押さえ先が銀行口座の場合)
差押債権目録の雛形のダウンロードはこちら(金融機関の銀行口座)
差押債権目録の雛形のダウンロードはこちら(ゆうちょ銀行の銀行口座)
(3)少額訴訟債権執行に必要な費用は?
少額訴訟債権執行に必要な費用は以下の通りです。
①収入印紙代
請求先が一つで債権執行する先も一つの場合、収入印紙代として4,000円が必要となります。
こちらは債権執行申立書の表紙に貼ることになります。
②郵券代
簡易裁判所によって異なりますが、おおよそ5,000円前後です。
③送達証明書取得費用
送達証明書を取得するために150円分の収入印紙が必要となります。
④登記簿謄本取得費用
相手が法人の場合、登記簿謄本を取得するために500円分の収入印紙が必要となります。
(4)少額債権執行の申立先は?
少額訴訟債権執行の申立先は少額訴訟判決(もしくは和解)をした簡易裁判所の裁判所書記官です。
(5)差押えの対象は?
どこを差し押さえるかですが、やはり銀行口座が一般的です。
相手方がメインで使っている銀行を調べておきましょう。
重要なのは、「空振り」とならないようお金が入っているであろうタイミングを狙うことです。
その会社が従業員を雇っているような場合には、給料日の直前を狙うとよいでしょう。
9、少額訴訟のリスクについて
以上のように便利な面もある少額訴訟ですが、リスクもあります。
少額訴訟を利用するにあたって知っておきましょう。
(1)回数制限のリスク
少額訴訟は年間10回しかできない、という回数制限があります。
(2)通常訴訟への移行リスク
少額訴訟は請求先が通常訴訟を希望すれば、通常訴訟へ移行してしまうリスクがあります。
まとめ
今回は、少額訴訟でお金を返してもらう方法について書いていきましたが、いかがでしたでしょうか?
ご参考いただき、無事にお金を取り戻してもらえれば幸いです。
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