SNSの普及と共に、悪口を言いふらす「名誉毀損罪」に該当する事例が増加しています。
多くの人が「SNS上なら何を書いても大丈夫」「匿名であればバレない」と考えがちですが、このような錯覚に陥り、悪意のある中傷が蔓延しています。
本記事では、名誉毀損罪の意味と重要性について掘り下げつつ、中傷行為の相手を法的に訴える方法や、特定できない場合の対処策についても解説します。
目次
1、悪口を言いふらす人を名誉毀損罪で訴えられる?
刑法230条1項は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」とし、名誉毀損罪を法律に定めています。
名誉毀損罪は「公然と」「事実を摘示し」「人の名誉を毀損」という3つの要件を満たしたときに成立します。それぞれの要件について順番に確認していきましょう。
(1)公然
「公然」とは、不特定または多数の人が認識できる状態を意味します。特定の人に直接名誉毀損の内容を伝えていなくても、不特定の人が認識できる状態に情報を書き込めば「公然」に該当します。
また、実際にどれくらいの人が認識したかどうかではなく、たとえ少数の人に名誉毀損の内容を言いふらした場合でも、そこから派生して多数の人がその情報を認識できる状態になるのであれば「公然」に該当します。
(2)事実の摘示
「事実を摘示」については、社会的評価を害するに足るかどうかがポイントとなります。一部の人が知っている情報であっても社会的評価を害するものであれば「事実を摘示」の要件に該当します。
この要件は具体性も重視され、名誉毀損罪の要件の中で最も問題となりやすい要件です。
また、内容が真実か虚偽かは問われないので、たとえ内容が真実であっても社会的評価を害するのであれば
「事実を摘示」に該当し得ます。
(3)人の名誉を毀損
「人の名誉を毀損」とは、実際にその人の名誉が毀損されたか否かには関係なく、社会的評価を害するに足る行為があれば「名誉を毀損」に該当します。「現実的な被害は出てないから問題ない」という論理は通用しません。
また「人」には法人も含まれますので、特定の個人ではなく会社や団体の名誉を毀損した場合も「人の名誉を毀損」の要件に該当します。
(4)名誉毀損罪が成立する具体的事例
以下の2つの事例で名誉毀損罪が成立するかどうか確認していきましょう。
①職場で悪口を言いふらされた
職場で悪口を言いふらされただけでは、そこまで大人数に悪口を言われたわけではないので「公然」の要件に該当しないように思えますよね。
しかしながら、職場の人に悪口を言われた際、「絶対に口外しないこと」などの伝播可能性の否定がなければ、その後不特定多数の人に伝わる可能性があります。したがって、「公然」の要件を充足し、その悪口の内容によっては名誉毀損罪に該当し得ます。
②SNSで悪口を言いふらされた
SNSは不特定多数の人が閲覧可能な媒体です。たとえ悪口を書いた本人に影響力がなかったとしても、SNSに書き込みをすることは多くの人が閲覧可能な状態に情報が置かれたことを意味します。
そのため「公然」の要件に該当します。SNSは気軽に書き込みができてしまう分、マナーをしっかり守るように注意が必要です。
2、悪口を言いふらされたと感じても名誉毀損罪で訴えることができないケース
以上のように、悪口を言いふらすことは名誉毀損罪に該当する可能性があります。一方、悪口を言いふらされたと感じても名誉毀損罪で訴えることができないケースもあるので、以下確認していきましょう。
(1)3つの成立要件を満たさない
名誉毀損罪が成立するには、上記の「公然と」「事実を摘示し」「人の名誉を毀損」という3つの要件が必要となります。要件は3つ全て必要となりますので、どれか1つでも要件が欠けると名誉毀損罪は成立しません。
(2)悪口を言っているものの誰の悪口なのか特定できない
悪口を言っているものの誰の悪口なのか特定できないケースについても、名誉毀損罪で訴えることができません。名誉を毀損する表現があっても、「あの人には前科がある」と言う書き込みの「あの人」が誰なのかわからない場合は名誉毀損罪の要件を満たしません。
(3)具体的な事実が摘示されていない
名誉毀損罪の要件となっている「事実を摘示」については、具体的な事実を示すことが必要です。抽象的で何についての事実を摘示しているのかはっきりわからない場合は、名誉毀損罪の成立要件を満たさない可能性が高いです。
(4)公共の利害に関する事実であること
刑法230条の2第1項では「前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」とし、名誉毀損罪として罰しないケースを定めています。
すなわち、摘示された事実が「公共の利害に関する事実」であり、その目的が「専ら公益を図る」ためであって、その内容が「真実であることの証明があった」場合は、刑罰が科されません。
3、悪口を言いふらした相手を名誉毀損罪で訴える方法
ここからは、悪口を言いふらした相手を名誉毀損罪で訴える方法について見ていきましょう。悪口を言いふらした相手が不明な場合は下記4をご参照ください。
(1)刑事告訴する方法
①警察に告訴状を提出
悪口を言いふらした相手に刑事罰を求める場合、警察に捜査を行ってもらう必要があります。そのためにはまず、警察に告訴状を提出しましょう。
告訴状には、
- 作成年月日
- 提出先(署長名)
- 告訴人(自分)の住所、氏名、連絡先
- 被告訴人の住所、氏名等(不明の場合、加害者を特定しやすい情報をできるだけ書く)
- 告訴の趣旨(何罪に当たるのか、など)
- 告訴事実(犯行日時、状況、場所などの概要)
- 告訴に至る経緯(どういった経緯でトラブルが起き、結果としてどのような不利益を被ったのか)
- 証拠(保有している証拠について記載)
- 添付資料(証拠資料などについての記載。たとえば診断書や写真など)
等の事情を記載する必要があります。
②警察が捜査を行い刑事手続が進行する
告訴状を作成後、管轄の警察署に告訴状を提出しましょう。どこの警察署でも告訴状を受理してもらえるかと言うとそういうわけではないので、必ず管轄の警察署を確認してから告訴状を提出しましょう。
告訴状を提出し警察に受理してもらったら、警察の捜査が開始されます。なお、告訴状を提出し受理されてからすぐに捜査が開始されるわけではないので、警察からの連絡を待つようにしましょう。
警察により捜査が行われ加害者の名誉毀損行為が判明すれば刑事手続が進行していきます。
③裁判で有罪になれば刑事罰が下される
警察の捜査により加害者が逮捕され起訴すべきであると判断されれば、加害者は起訴されます。その結果有罪となれば、加害者に刑事罰が下されます。
(2)民事上の損害賠償請求を行う方法
①弁護士へ相談
悪口を言いふらした相手に刑事罰を求めるというよりは謝罪や損害賠償の請求をしたい人もいるでしょう。この場合は、刑事手続きではなく民事上の損害賠償請求を行うことになります。
民事上の損害賠償請求を行う場合、事前に弁護士に相談をするようにしましょう。相手への連絡方法や方針については実際に行動にうつす前に弁護士と相談しながら具体的な戦略を検討していく必要があります。
②示談を行う
悪口を言いふらした相手に謝罪をしてもらったり損害賠償金を支払ってもらったりすることを目的としているのであれば、通常は示談に向けて話し合いを進めていくことになります。悪口を言いふらした相手と直接話し合いをすることを避けたいと考える人は、弁護士に依頼をしておけば直接相手と話をせずに済みます。
相手と話し合いを重ね、示談が成立すれば、謝罪や金銭の支払い等を取り決めた示談書を作成し、示談成立となります。
また、謝罪広告等により損害を回復させたい場合は示談の内容にその旨も折り込みましょう。
③調停や民事訴訟
話し合いができない場合や話し合いをしたものの示談が成立しない場合は、調停や民事訴訟を検討していくことになります。
裁判所の手続きを利用する際は、裁判所に費用をおさめる必要性が生じますので費用がかさみます。示談を検討する際は、裁判をした場合の費用対効果も考えながら着地点を検討しましょう。
4、悪口を言いふらした相手を特定できない時はどうする?
悪口を言いふらした相手を特定できない場合もあるでしょう。特に、インターネット上の匿名掲示板や匿名アカウントでのSNSへの書き込みは、誰が書き込みをしたのかがすぐにはわかりません。
このような場合、情報開示請求をし、IPアドレスを特定することを裁判所に申し立てます。情報開示請求についても弁護士に一任することができるので、悪口を言いふらした相手を特定できない場合は弁護士に相談をするようにしましょう。
詳細は以下の記事をご参照ください。
5、こんな時はどうなる?名誉毀損に関するQ&A
最後に名誉毀損に関するよくある質問に回答します。
(1)悪口を言いふらされてから時間が経過しているが訴えられるのか
悪口を言いふらされてから時間が経過している際にも相手を訴えることができるのか疑問に感じている人もいるでしょう。
名誉誉棄損罪の公訴時効は3年なので、名誉棄損行為をしたときから3年が時効となっています。悪口を言いふらされてから時間が経過しているものの相手の刑事罰を望む場合は早めに告訴状を提出するようにしましょう。
(2)名誉毀損の証拠を残すには
名誉毀損の証拠は目に見える形で残っていることが少ないので、証拠による立証のハードルは高いです。
口頭での名誉毀損を証拠として残す場合は、発言の録音、発言をしている現場の動画撮影、目撃者の証言等が証拠となります。
インターネット上での名誉毀損を証拠として残す場合は、名誉毀損発言が記載されているページのURL、発言のスクリーンショット等が証拠となります。
自分でも名誉毀損の事実の把握をしっかり行うために、いつ、どんな出来事があったのかメモ等で具体的かつ詳細に残しておくようにしましょう。
(3)弁護士費用はどれくらいかかるのか
弁護士費用については事務所や事件内容により異なりますし、犯人がわかっているのか、示談だけで済ませるのか、刑事罰まで望むのか等によっても解決までにかかる期間や弁護士費用は変わってきます。
弁護士に相談する際に費用についても確認しておきましょう。
6、悪口を言いふらされ名誉毀損罪で訴えたいときは弁護士へ相談
悪口を言いふらされて加害者を名誉毀損罪で訴えたいときは弁護士へ相談しましょう。加害者が悪口を言いふらすということは、あなたに対して何らかの好意的でない印象を抱いている可能性が高いです。あなたが危ない目に遭わないためにも、弁護士と相談しながら慎重に進めていきましょう。
まとめ
悪口を言いふらされたとき、まずはあなたが加害者に対してどんなことを望むのかを明確にしましょう。示談により謝罪や示談金で解決するのか、それとも名誉毀損罪として相手に刑事罰が下されることを望むのかは人によって価値観が異なります。
悪口を言いふらされることは誰にとっても不快なことですから、あなたの気持ちを第一に考えて弁護士と一緒に解決に向けて進んでいきましょう。