国家賠償請求権とは?国に対する損害賠償についてわかりやすく解説

国家賠償請求権

国家賠償請求権とは、国または公共団体の行為によって損害を受けた場合に、国や公共団体に対して損害の賠償を求める権利のことです。

「国家賠償請求権」や「国賠請求」という言葉を報道などで見聞きすることはあっても、具体的にどのような権利であり、どのような場合に請求可能で、請求すればどのような手続きが行われるのかをご存知の方は多くないことでしょう。

そこで今回は、

  • 国家賠償請求権とは
  • 国家賠償請求権が認められるケース
  • 国家賠償請求権を行使する方法

などについて、弁護士がわかりやすく解説します。

本記事が、国家賠償請求権について理解を深めていただくための手助けとなれば幸いです。

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1、国家賠償請求権とは

国家賠償請求権とは

まずは、国家賠償請求権が、どのような権利であるか確認していきましょう。

(1)憲法で保障された国民の権利

戦前、明治憲法下では、今日の国家賠償法のような国・公共団体の損害賠償責任について定めた一般的な法律はなく、民法に損害賠償に関する規定がおかれていただけでした。

そこでは、国・公共団体の行為のうち、私人と同じような立場で行う行為(たとえば、鉄道工事の設計や、国立公園に設置された遊具の管理など)については、民法の規定による救済が図られていていましたが、純然たる公的な行為(立法や租税に関する処分)については、救済の余地がなかったのが実情です。

このような状況は「国家無答責の原則」と呼ばれていました。
戦後、現行の日本国憲法が制定・施行されました。

その第17条では、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」と、国家賠償請求権が国民の権利であることが明記されました。

これは戦前の「国家無答責の原則」を否定したものといえます。

この憲法の規定を受けて、国家賠償請求権の要件を整理したものが、国家賠償法です。

(2)損害賠償請求権との違い

民法第709条は、他人の行為により損害を受けた場合に、その他人に対して損害の賠償を請求できるとしています。
この規定に基づく損害賠償請求権と国家賠償請求権とは、何が違うのでしょうか。

民法は私人間の法律関係について定めるものです。
したがって、純然たる国・公共団体の行為が問題となっている場面(立法行為や租税に関する処分のほか、国道や河川の管理等)では、民法第709条ではなく、もっぱら国家賠償法が問題となります。

また、公務員の行為であっても、私人として行われた行為が問題となる場合(たとえば、公務員が非番の日に、ケンカをして他人に怪我を負わせたような場合)については、もっぱら民法第709条に基づく損害賠償請求が問題となります。

他方、区別が曖昧な行為、たとえば、国立大学病院の医師の医療過誤や、官公庁の上司部下との間でのパワハラ等については、国家賠償法に基づく請求も考えられますし、民法第709条に基づく請求も考えられます。

このように、純然たる国・公共団体の行為が問題となる場面では国家賠償、私人間の行為が問題となる場合は民法の損害賠償と一応区別することはできますが、国家賠償請求と民法の損害賠償請求とが重なる場面もあるという点には留意が必要です。

2、国家賠償請求権が認められるケース

国家賠償請求権が認められるケース

次に、国家賠償請求が認められる要件や、具体的なケースについて、解説していきます。

(1)公務員が職務に際して他人に損害を加えたとき

国家賠償法では、まず公務員が職務に際して他人に損害を加えたときに国家賠償責任を課しています(同法1条1項)。
まずはこの点について詳しくみていきましょう。

① 国家賠償法1条に基づく国家賠償請求が認められるための要件

国家賠償法第1条は「国又は公共団体の公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を与えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」と規定しています。

整理すると、国家賠償請求が認められるためには、

  • 公権力の行使にあたる公務員が、
  • 職務を行うについて、
  • 故意または過失によって違法に、
  • 他人に損害を与えた

といえることが必要です。

② 「公権力の行使にあたる公務員」とは?

まず、「公権力の行使にあたる公務員」という要件の「公務員」には、身分上の公務員に限られず、政治家や官僚、市町村で勤務する職員、警察官、消防署の職員等いわゆる一般的な意味での“公務員”のほか、郵便局の職員や国立大学の教授などの“みなし公務員”を含み、さらに、公共団体から公共団体が行うべき事務を委託されている団体の職員も「公務員」に含まれるとされています。

「公権力の行使」も広く解釈されており、営業停止処分といった純然たる「公権力の行使」だけでなく、公務員による暴行といった事実行為も含むとされています。

③ 「職務を行うについて」とは?

次に「職務を行うについて」の要件は、それ自体ではあまり意味を持たず、「公務員」が純粋に私人として行った行為を除外する意味を持つと解釈されていますが、実際には職務に当たらないが客観的に当該公務員の職務執行の外形を備える行為も含まれるとされます。

たとえば、警察官が非番の日に、私服で、他人とケンカをして怪我を負わせた場合、純粋に私人として行った行為といえますから、「職務を行うについて」といえず、国家賠償を求めることはできません。

他方、警察官が非番の日に、制服を着て、職務の執行であるかのように装って他人に暴行を加えた場合には、外形的にみれば警察官の職務を行っているようにみえますから「職務を行うについて」として国家賠償を求める余地があります。

④ 「故意または過失によって違法に」とは?

最後に「故意または過失によって違法に」という要件は複雑ですが、その職務を行う公務員として十分な注意を払って職務を遂行したかどうかという基準による“職務行為基準説”が有力です。

たとえば、刑事裁判で無罪が確定したとき、起訴した検察官(検察官は公務員です)の行為について国家賠償請求が問題となり得ますが、起訴当時に、検察官として、十分な注意を払って起訴したといえれば、国家賠償は認められません。

(2)道路、河川などの公共設備から他人に損害が発生したとき

次に、国家賠償法第2条1項は「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる」と規定しています。

①国家賠償法2条に基づく国家賠償請求が認められるための要件

この規定に基づき国家賠償請求が認められるためには、

  • 「道路、河川その他の公の営造物」であること、
  •  その「設置又は管理に瑕疵」があったために、他人に損害を生じた

といえることが必要です。

②「道路、河川その他の公の営造物」とは?

「道路、河川」とはそのままの意味であり、私道を除く道路・河川のことを指します。
「その他の公の営造物」の具体例としては、国や公共団体が管理している橋、官公庁の庁舎、国立の教育施設・病院・図書館などが挙げられます。

抽象的には、“国・公共団体が管理している施設”が広く「道路、河川その他の公の営造物」に含まれるといえます。

③「設置又は管理に瑕疵」があるとは?

「設置又は管理に瑕疵」があるとは、“営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態”をいうと解釈されています(最高裁昭和45年8月20日判決)。

たとえば、道路に穴が開いており、この道路を通行したことで怪我を負った場合、道路が通常有すべき安全性を欠いていたといえますから、「設置又は管理に瑕疵」があったといえます。

他方、このような物理的な瑕疵ではなく、河川の氾濫のように、どのような管理を行っていれば“営造物が通常有すべき安全性”を備えていたといえるかといった問題では、予見可能性と結果回避可能性が問題となります。

たとえば、およそ予見できなかった氾濫が起きた場合や、抽象的には予見できたとしても、その氾濫を防止するために莫大な費用を要する場合には、予見可能性又は結果回避可能性がなく、「設置又は管理に瑕疵」がなかったとして、国家賠償請求が否定されることがあります。

(3)よくある国家賠償請求訴訟の例

ここでは、よくある国家賠償訴訟の例を幾つかご紹介いたします。

①えん罪被害者の損害賠償請求

ある人が逮捕され、刑事裁判にかけられたとします。しかし実際にはえん罪で無罪となった場合、その過程で被った損害(精神的苦痛や、職を失った場合にはその損害等)を求めることができるでしょうか。

法律上、無罪を受けた者については、費用補償請求権と刑事補償請求権が認められています。

費用補償請求権は、刑事訴訟法第188条の2に規定されており、裁判費用(本人及び弁護人の旅費・日当、弁護士費用等)を補償するものです。

刑事補償請求権は、刑事補償法に規定されており、逮捕または勾留されていた期間に対する補償を行うものです。
注意が必要なのは、逮捕・勾留されていなかった場合(いわゆる在宅事件)については、刑事補償請求の対象外という点です。

費用補償請求あるいは刑事補償請求による補償では十分でない場合、国家賠償請求が考えられます。

理論的には、警察官や検察官は「公務員」であり、逮捕や起訴は「職務を行うについて」されたことが明らかですから、国家賠償請求を求めることはできます。

しかし、前にご説明したとおり、「過失」の有無は、職務を行うにあたって十分な注意を払って行われたかどうかを基準に判断されます。

通常、警察官や検察官は十分な注意を払って職務を行っているといえることからすれば、国家賠償が認められる可能性は極めて低いといえます。

②営業停止処分に対する国家賠償請求

たとえば、食中毒の発生を理由に営業停止処分を受けたが、前提となる調査に誤りがあった場合、営業停止期間中の逸失利益等(営業を続けていれば得られていたであろう利益等)を求めて、国家賠償請求をすることが考えられます。

ここでも問題は、調査が十分な注意をもって行われたかどうかという「過失」の要件です。

杜撰な調査が行われた結果、前提となる事実を誤って営業停止処分がされたとすれば、「過失」が認められ、国家賠償請求が認められると考えられます。

他方で、一般的に確立された調査方法に従って調査が行われた場合には、結果的にそれが誤りであったとしても「過失」がなく、国家賠償請求は認められないという結論に傾く可能性が高いといえます。

③国公立学校における「いじめ」や部活動中の事故

国公立学校における「いじめ」や部活動中の事故があった場合、国家賠償を求めることができるでしょうか。

まず責任の主体ですが、いじめた張本人(学生)と国・公共団体が考えられます。いじめた張本人(学生)は私人ですから、いじめた張本人との関係では、もっぱら民法の損害賠償請求が問題となります。
国家賠償請求との関係で問題となるのは、教師や学校長の監督責任です。

そこで次に、国公立学校における教師の教育活動や部活動が「公権力の行使」にあたるかどうかが問題となります。
前にご説明したとおり、「公権力の行使」は広く解釈されており、一般的に国公立学校における教育活動や部活動は「公権力の行使」にあたるとされています。

したがって、最終的には、教師・学校長の「過失」が問題となります。

ケースバイケースではありますが、部活動には一定の危険が伴うため、部活動中の事故については、教師・学校長に危険を防止すべき義務が認められやすく、「過失」が肯定されやすい傾向にあります。

他方、「いじめ」については、「いじめ」の程度、「いじめ」がどの範囲で行われていたか、教師・学校長の「いじめ」に対する認識の程度、「いじめ」による被害の程度等を総合的に考慮して、教師・学校長の「過失」が判断されると考えられます。
一概に「いじめ」があったことから直ちに国家賠償請求が認められるわけではありません。

④警察活動に対する国家賠償請求

警察官の行為により損害を被った場合、国家賠償請求を求めることが考えられます。
たとえば、警察官の所持品検査を拒んで立ち去ろうとしたところ、警察官から服を掴まれ、服が破けたといった場合です。

ここでは、警察官の所持品検査が法律(警察官職務執行法)に基づく適法なものであったかという「違法性」の問題と、警察官の行為に「過失」が認められるかどうかという2点が問題となります。

まず、警察官の所持品検査が法律上の要件を満たす場合には「違法性」が認められず、通常、国家賠償請求は認められません。

他方、所持品検査が事後的に「違法」であると判断された場合には、警察官の「過失」が問題となります。

抽象的には、所持品検査を行った当時の事情から、警察官が所持品検査の要件を満たすと判断したことに一定の合理性があれば「過失」がないといえますし、およそ合理性がなければ「過失」があるとして国家賠償請求が認められる余地があるといえます。

3、実際にあった国家賠償請求訴訟の判例

実際にあった国家賠償請求訴訟の判例

ここでは、実際に国家賠償請求訴訟提起された事例とその結末をいくつかご紹介します。

(1)パトカーによる追跡行為により怪我をした場合に国家賠償請求が認められなかった事例(最高裁昭和61年2月27日判決)

この事案では、警察官が速度超過車両(加害車両)を呼び止めて職務質問を行おうとしたところ、加害車両が逃走を図ったため、警察官がパトカーで追跡しました。

その後、加害車両は追跡を免れるためスピードを上げ、赤信号を幾つか無視して走行していたところ、他の車両(被害車両)と衝突し、被害車両の運転手等が怪我を負いました。

ここで、パトカーによる追跡行為が国家賠償法上、違法かどうかという点が問題となりまいた。

およそ警察官は、その職務として犯罪を行ったと疑うに足りる相当な理由がある場合には職務質問をし、現行犯人を発見した場合には速やかに検挙・逮捕する責務を負っており、この職責を遂行する目的のために被疑者を追跡することは当然想定されています。

最高裁判所では、これを前提として、追跡行為が違法であるといえるためには、「追跡が当該職務目的を遂行する上で不必要であるか、又は逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であることを要する」と示し、結論として、追跡行為が国家賠償法上違法とはいえないと判断しました。

この事案は、警察官の職務行為により損害が発生した場合に、警察官の行為が国家賠償法上違法といえるか否かに関するリーディングケースといえ、追跡行為のみならず、警察官の職務行為一般の違法性を考える上で重要な裁判例ということができます。

(2)営業停止命令が違法でも国家賠償請求が認められなかった事例(東京地裁令和4年5月16日判決)

この裁判例では、東京都が、コロナ禍において営業時間の短縮に応じなかった特定の飲食店に対し、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、営業停止命令を発出したことが違法であるかどうか、違法であるとして国家賠償請求が認められるかどうかが争われました。

裁判所は、新型インフルエンザ等対策特別措置法の解釈として、営業停止命令を発出するためには、時間短縮に応じないことに加え、不利益処分を課してもやむを得ないといえる程度の個別の事情が必要であることを示しました。

その上で、以下の理由により、このケースにおける営業停止命令の発出は違法であると判断しました。

  • 対象となった飲食店では十分なコロナ対策を取っていたこと
  • 対象となった飲食店以外にも時間短縮をせずに営業を行っている店舗もあり、その中で特定の飲食店のみに営業停止命令を発出しても効果が乏しいと考えられること
  • 命令発出時点で緊急事態宣言が数日後に解除されることが確定しており、命令の効果は数日しか続かないにもかかわらず、あえて命令を発出することについて合理的な説明がなされていないこと

もっとも、国家賠償の判断にあたっては、複数の専門家の意見を踏まえた判断であったこと、参照すべき前例がなかったこと、新型コロナの蔓延を防ぐことが急務であったのに対し、対象となった店舗は時間短縮に否定的な態度を取っていたこと等の事情を指摘した上で、都知事において注意義務を怠ったものとはいえないとして、国家賠償責任は否定しました。

この裁判例は、営業停止命令が国家賠償法上違法か否かは、まず営業停止命令がその命令を基礎づける法令に照らして違法であるか否か、違法であるとして国家賠償請求を基礎づける注意義務違反が認められるか否かという2段階の手法を取っています。

同種のケースでも、裁判所は同じような手法を採用するものと考えられ、その意味で、参考になる裁判例といえます。

(3)津波による原子力発電機の事故を防ぐための措置を講じなかったことにつき国家賠償請求が認められなかった事例(最高裁令和4年6月17日判決)

東日本大震災による津波の影響で、福島第一原子力発電所の機能が停止し、周囲に放射線物質が大量に放出される事故が発生しました。
この事例では、このような事故が起こることがないよう、国が、事前に、防波堤等の設置など「適切な措置」を講じるよう東京電力に命じるべきであったのに、これをしなかったことが国家賠償法上違法といえるかどうかという点(規制権限の不行使といわれます)が問題となりました。

高等裁判所では国の責任が認められましたが、最高裁は、規制権限を適切に行使していたとしても、今回起こったような事故の発生を防げなかった可能性が高い(結果回避可能性がない)として、国の責任を否定しました。

この最高裁の結論には賛否両論あり、評価が難しいところがありますが、4名の裁判官のうち2名の詳細な補足意見(最高裁の結論と理由を補足するもの)と、1名の詳細な反対意見(最高裁の結論と理由に反対するもの)が付されている点は、注目すべきといえます。

4、国家賠償請求訴訟における手続きの流れ

国家賠償請求訴訟における手続きの流れ

国家賠償訴訟を提起するためには、どのような手続が必要となるでしょうか。
ここでは、一般的な手続の流れについて説明します。

(1)主張を整理する

まずは、誰に対して何を訴えるのか、ご自身の主張を整理する必要があります。

前にご説明したとおり、国家賠償法1条に基づく請求では、

  • 公権力の行使にあたる公務員が、
  • 職務を行うについて、
  • 故意または過失によって違法に、
  • 他人に損害を与えた

といえることが必要ですから、これらの要件に該当する具体的な事実は何か?という視点から主張を整理します。
また、国家賠償請求に特徴的な点として、公務員の法令上の義務違反が問題となる事案(たとえば前にご説明した法令に基づく営業停止処分等)では、問題となる法令が何であり、その法令をどのように解釈すべきであり、なぜその事案で法令違反(違法)といえるかといった点を整理することが必要です。

(2)証拠を準備する

次に、ご自身の主張を裏付ける証拠を準備する必要があります。

証拠は、契約書や写真など、できる限り客観的なものが望ましく、それらで補えない点は、ご自身で作成されたメモ等を証拠として提出することを検討します。

警察官から殴られて怪我をしたという事案であれば、診断書、怪我の写真、警察官が殴ったことを裏付ける防犯カメラ等の映像などが重要な証拠となります。

(3)訴状を提出する

主張と証拠が準備できたら、「訴状」という書面を作成し、証拠と一緒に裁判所へ提出します。

提出先(管轄裁判所)は、ご自身の住所地を管轄する地方裁判所です。たとえば、東京都の23区にお住まいであれば、東京地方裁判所に訴状と証拠を提出します。

被告は「国」になりますが、住所地は「東京都千代田区霞が関1丁目1番1号」、代表者として「代表者法務大臣」として、訴状提出時の法務大臣の名前を書くことが一般的です。

(4)期日への出席、書面による主張の補充等

訴状を提出した後、裁判所による補正の指示(修正の指示)がなければ、第1回期日が指定され、決められた日時に出頭します。

通常、第1回期日までに、国から答弁書というタイトルの反論書面が提出されます。

第1回期日以降は、答弁書に対する反論書面の提出、反論書面に対する国からの再反論書面の提出、国からの再反論書面に対する再々反論書面の提出・・・といった形で、書面による主張の補充を行いながら、裁判所が主要な争点と双方の主張を整理していきます。

概ね、1ヶ月に1回のペースで3~5回程度の期日が設けられ、その期日の間に、争点と主張の整理が行われます。

(5)証拠調べ

争点と主張の整理が行われた後、証拠調べ手続きとして証人や当事者に対する尋問が行われます。
尋問は、書面での主張を裏付け、あるいは相手方(国)の書面での主張を突き崩すことを目的に行われるものです。

国家賠償請求訴訟では、相手方は「国」ですが、尋問を行うのは具体的な行為を行った「公務員」が想定されるでしょう。

たとえば、公立学校における「いじめ」の事案では、被害児童、加害児童、担任の教師はもちろんですが、そのほかにも、同学年の教師、校長、調査委員会の調査内容が問題となっているケースでは調査委員会のメンバーであった職員等に対する尋問を行うことが考えられます。

(6)判決・控訴

通常、関係当事者の尋問を終えた段階で、審理が終結し、その後、目安として2ヶ月程度で判決が言い渡されます。

判決の内容に不服があれば、判決書を受け取ってから2週間以内に控訴し、もうひとつ上の高等裁判所で再度審理するよう求めることができます。
第1審で原告が敗訴しても控訴できる反面で、勝訴した場合には被告が控訴する可能性が高いですから、国家賠償請求訴訟は長期化しやすい傾向にあるのが実情です。

(7)国家賠償請求は弁護士に相談を

国家賠償請求の流れは、一般の民事訴訟と変わりません。

もっとも、前提として法令違反が問題となるような事案では、該当する法令を特定し、かつ、該当する法令の解釈を整理して主張することが必要です。
国家公務員の行為を規律する法令は複雑であり、これを読み解き、説得力のある法律論を組み立てることは、一般の方にとっては困難です。

また、相手方となる国の側からすると、国家賠償訴訟は「絶対に負けられない戦い」になりますから、あらゆる資源を投じて、徹底抗戦してくることが通常です。
これに対し、一般の方が立ち向かうことは、相当な困難を伴います。

そのため、まずは一度、弁護士に相談することをお勧めいたします。

5、国家賠償請求権に関するQ&A

国家賠償請求権に関するQ&A

ここで、その他にも国家賠償請求権に関する疑問に対してお答えいたします。

(1)公務員に対する求償権とは?

国家賠償法第1条2項は「前項の場合(国家賠償法第1条1項により国又は公共団体が損害賠償責任を負う場合)において、公務員に故意又は重大な過失があったときには、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する」と規定しています。

素直に読めば、国または公共団体が賠償金を支払った場合に、原因となった公務員に故意または重過失が認められるときは、国または公共団体は、その公務員に対して、支払った賠償金に相当する金額を支払えと請求する(これを“求償する”といいます)ことができそうです。

しかし、実務的には、この条文はほとんど使われておらず、国または公共団体から公務員に対する求償権が行使された例は少ないようです。

(2)外国人にも国家賠償請求権はある?

国家賠償法第6条は「この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する」と規定しています。

「相互の保証」は、具体例で説明すると次のようなことです。

たとえば、日本において、日本の公務員の行為によって、A国の外国人が損害を負ったとします。

この時、A国において、A国の公務員の行為によって、日本人が損害を負ったとき、A国の法律で、日本の国家賠償法を適用したときと同じような損害の賠償が求められるときは、「相互の保証」があるとされます。他方、日本の国家賠償法を適用したときと同じような損害の賠償が認められないとき(たとえば、日本人を含めた外国人の国家賠償請求を否定しているとき)には、「相互の保証」がないとされます。

この趣旨については、日本人が外国(A国)で損害を被ったときにA国で日本人が損害の賠償を請求できないのであれば、日本が外国人(A国人)を保護する理由はないという理解に基づいています(相互保証主義といいます)。

「相互の保証」があるかないかは、専門家でなければ判断がつかないところですから、外国人の方が被害者として国家賠償請求を提起しようとする際には、事前に、弁護士に相談した方がよいでしょう。

(3)国家賠償請求訴訟でもらえる金額は?

国家賠償請求訴訟でもらえる金額はケースバイケースですが、賠償額の計算方法は民事訴訟で損害賠償請求をした場合と同じです。
ただ、個人や民間企業に対する民事訴訟と異なり国賠請求訴訟では被告の支払い能力に心配がないので、勝訴すれば高額の賠償金を得る可能性があります。

6、国家賠償請求訴訟をお考えの方は弁護士に相談を

国家賠償請求訴訟をお考えの方は弁護士に相談を

以上、ご説明しましたとおり、国家賠償法条文はシンプルですが、国家賠償請求権を行使しうるケースには多種多様なものがあり、考慮すべき関係法令もケースごとに様々です。

まさに法律を駆使した戦いになりますから、国家賠償請求訴訟をお考えの方は、まずは弁護士に相談することをお勧めいたします。

まとめ

いかがだったでしょうか。

国家賠償請求権とは何か、具体的なケースでどのようなことが問題となるのか、裁判例としてどのようなものがあるか、実際に進めていくためにはどのような準備が必要かなど、お分かりいただけたのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、国家賠償請求訴訟は裁判の中でも難しい訴訟類型になりますので、提訴をお考えの方は、一度、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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