所得について正確な申告を怠り、納税を逃れること、一般的に「脱税」と呼ばれる行為。
しかし、この行為が発覚すれば、逮捕の危険性があるのでしょうか?また、税務調査が始まった際、どのように行動すべきか、結果次第で逮捕のリスクがあるのか、多くの人が気になる問題です。
この記事では、脱税による逮捕の基準と逮捕時の適切な対処法について詳しく解説いたします。
脱税に関する疑念を抱えている方々の参考になれば幸いです。
警察に逮捕について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、脱税での逮捕の基礎知識|税務調査段階では逮捕されない
脱税や申告漏れに心当たりがあるとき、税務調査が行われることになれば「逮捕されてしまうのか?」と心配になるかもしれません。
しかし、任意で応じる税務調査の結果に基づいて逮捕されることは、なかなかありません。
任意で行われる税務調査は、脱税や申告漏れを発見し、税金を適切に支払わせる目的で行うもので、刑事訴追を目的とするものではないからです。
たとえ調査によって申告漏れや不申告が発覚しても、必要な税金(追徴課税を含む)を支払えば、刑事責任を問われないのが通常の経過です。
2、税務調査の目的と種類
もっとも、「税務調査」には任意で行われるものと、強制的に行われるものの2種類があり、後者の場合には逮捕される可能性もあります。
(1)任意調査(税務署)
任意で行われる任意調査(強制調査と比べて任意調査の方が圧倒的に多いため、一般に「税務調査」と言うときには、こちらを指します)は、既にお伝えしたように申告漏れや脱税の事実を把握して、未払いの税金を適切に支払わせることを主眼としています。
確定申告していなかったり税金の計算方法を誤っていたり、経費を水増ししたりしていると、未払いの税金について追徴課税される可能性がある一方、逮捕・起訴されないのが通常です。
また、「任意」とされているものの、国税通則法127条によって、質問に対して「答弁せず」又は「偽りの答弁」をした人については「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と罰則が定められているため、実質的には拒否することはできません。
(2)強制調査(国税局査察部)
強制的に行われる「強制調査」は脱税犯を摘発する目的で行われるもので、国税局査察部(いわゆるマルサ)によって行われます。
強制捜査が行われる際は、国税局の調査員が会社や自宅、取引先などにやってきて、強制的に調べ上げます。
強制捜査の中で脱税が発覚すると、逮捕・起訴される可能性が高いでしょう。
3、脱税で逮捕・処罰される要件
どのようなときに「脱税」犯として逮捕・処罰される可能性があるのか、詳しくみてみましょう。
脱税については、以下のように各種税法において処罰要件が定められています。
(1)偽りその他の不正行為
「偽りその他の不正行為」とは、売上について虚偽を述べたり、裏帳簿を作って所得を隠したり経費を水増ししたりといった工作を行うことです。
(2)脱税もしくは所得還付を受けた
実際に税金の支払いを免れたり、所得税の還付を受けたりしたことです。
(3)脱税の故意
自分が上記のような「脱税」行為をしているという故意が必要です。
経費にならないものをなると思い込んで計算していた「申告漏れ」などの場合には、基本的に脱税の罪は成立しません。
所得税法 第二百三十八条
偽りその他不正の行為により、第百二十条第一項第三号に規定する所得税の額若しくは第百七十二条第一項第一号若しくは第二項第一号、又は第百四十二条第二項の規定による所得税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
引用:所得税法238条
法人税法 第百五十九条
偽りその他不正の行為により、第七十四条第一項第二号に規定する法人税の額、第八十一条の二十二第一項第二号に規定する法人税の額、第八十九条第二号に規定する法人税の額若しくは第百四十四条の六第一項第三号若しくは第四号に規定する法人税の額若しくは第百四十四条の六第二項第二号に規定する法人税の額の規定による法人税の還付を受けた場合には、法人の代表者でその違反行為をした者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
引用:法人税法159条
消費税法 第六十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 偽りその他不正の行為により、消費税を免れ、又は保税地域から引き取られる課税貨物に対する消費税を免れようとした者
二 偽りその他不正の行為により第五十二条第一項又は第五十三条第一項若しくは第二項の規定による還付を受けた者
引用:消費税法64条
4、脱税で逮捕された場合の罰則
脱税の罰則は、各種税法にそれぞれ定められていますが、基本的に10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金刑あるいはその併科(両方の刑が科されること)です。
さらに、脱税額を限度として、罰金が増額される可能性があります。
5、脱税で逮捕された例
(1)2,600万円の脱税で逮捕
乗馬クラブが約2年間に及び、消費税と地方消費税を申告しないで2,600万円もの脱税を行った事件です。
東京国税局が告発したことにより、千葉地検特捜部が運営会社の代表取締役を逮捕しました。
所得税法違反等に問われ、千葉地方裁判所において有罪判決を受けています。
参考:千葉日報
(2)4,000万円の脱税で逮捕
広島で、ラウンジを経営していた男性が脱税で逮捕された事件です。
ラウンジ経営者は、2014年から2016年までの所得8,400万円を申告せず、2,400万円の所得税を脱税し。
また、従業員の給料から天引きしていた源泉徴収税についても約1,600万円分を納税しなかったと報道されました。
広島国税局は、上記約4,000万円の脱税について岡山地検に告発しました。
参考:産経WEST
このように、脱税で逮捕されるのは脱税額が高額の事案が多く、零細個人事業主が犯してしまった申告漏れや多少の不申告(初犯)で逮捕される可能性は低いでしょう。
6、逮捕された場合どうなるの?刑事事件の流れ
もっとも、脱税の方法が悪質であったり、脱税額が大きい場合には、逮捕されてしまう可能性も十分にあります。
もしも逮捕されてしまった場合には、以下のような流れで処分が進んでいきます。
(1)送検と勾留決定(または在宅事件)
警察に逮捕された場合には、取調べ等が行われた上、逮捕後48時間以内に検察官のもとに送致されます(いわゆる「送検」)。
そして、送致を受けた検察官は24時間以内に、被疑者の身柄を引き続き拘束するかどうかの判断を行います。
身柄拘束が必要と判断されると、検察官は裁判所に勾留請求を行います。
裁判所も勾留する必要性を認めると、勾留の決定がなされ、逮捕された被疑者の身柄は引き続き警察の留置場で拘束されます。
勾留の必要性がないと判断されたら釈放されます。
もっとも、疑いが晴れたのでなければ、被疑者を拘束しないまま捜査が続けられます。
被疑者が在宅のまま捜査を続けることを「在宅捜査」といい、在宅捜査が行われる事件を「在宅事件」といいます。
(2)勾留と起訴、不起訴の処分
勾留請求が認められると、逮捕に引き続いて10日も身柄拘束が続きます。さらに、10日では捜査が終わらない場合、最大10日延長され、20日もの間勾留が続きます。
勾留期間が満了するまでに、または、在宅事件で捜査が終了すると、検察官は起訴か不起訴かを決定します。
不起訴になれば刑事裁判にならないので、そのまま釈放してもらえます。
起訴されたときには、刑事裁判に進みます。
(3)2種類の刑事裁判
刑事裁判には略式裁判と通常裁判の2種類があります。
略式裁判になった場合には、罰金の納付書を使って支払いをすれば、刑を終えたことになります。
裁判所に行く必要はありません。
略式裁判になるのは、100万円以下の罰金刑(又は科料刑)が適用されるケースです。
通常裁判になった場合(いわゆる「公判請求」をされた場合)には、裁判所で審理が開かれて裁かれます。
この場合、被告人は毎回法廷に出廷しなければなりません。
身柄事件では、保釈(※)されない限り拘置所での生活が続きます。
通常裁判で有罪である場合、懲役刑や罰金刑が宣告されて、その審級での裁判が終了します。
保釈・保釈金についてはこちらの記事をご覧ください。
7、家族が脱税で逮捕されてしまったら
もしも家族が「脱税」で逮捕されてしまった場合、ご家族のできる最大のサポートは早期に弁護士へと相談・依頼することです。
逮捕されると、その後勾留されるまでの最大72時間、被疑者は家族とも面会することができません。
この間に精神的に追い詰められて、黙秘権があるにもかかわらず、捜査官に対して不利なことを話してしまう被疑者も少なくありません。
弁護士であれば72時間の逮捕段階であっても被疑者と面会できるうえ、今後の手続きを説明したり適切な対応方法をアドバイスしたりして、本人を勇気づけることができます。
早期から弁護士に依頼しておけば取調べに対しても、後の裁判を見据えて、有利な事実を繰り返し供述しておく、不利な事実を徹底的に黙秘するなど戦略的に対応していくことができます。
まとめ
無申告状態や過少申告状態で放置しておくと、税務調査の対象となり高額な延滞税や加算税を課されて大きな損失が発生する可能性があります。
脱税の程度が悪質・重大な場合には、逮捕・処罰される可能性もあります。
税務調査や刑事手続が心配な場合、早めに弁護士や税理士に相談してください。
ベリーベスト法律事務所には、弁護士も税理士も在籍しており、刑事事件化の可能性がある税務問題にワンストップで対応可能ですので、ぜひお早めにご相談下さい。