
交通事故による負傷で最も多いのが「むちうち」です。
むちうちは命に関わるような負傷ではないものの、なかなか治らずに苦しむことがあります。
それにもかかわらず、保険会社からは「もう治っているはずだ」「そんなに重症なはずはない」などと言われて、適切な保険金を支払ってもらえないケースも少なくありません。
また、同じような症状であっても、被害者自身の治療段階での対応次第で最終的に受け取れる賠償額が変わってしまうことがあるのが実情です。
そこで今回は、
- 交通事故によるむちうちの適切な治療法
- 交通事故によるむちうちでもらえる賠償金
- 適切な賠償金をもらうためにむちうちの治療段階から意識すべきこと
という観点から、交通事故でむちうちになってしまった人が知っておくべき重要なことを6つのポイントにまとめて解説していきます。
交通事故でむちうちになってしまい、苦しんでいる方にご参考いただければ幸いです。
目次
1、交通事故によるむちうちの種類と症状
むちうちとは、交通事故などの衝撃によって首が鞭のようにしなることで発生する症状の総称で、骨折や脱臼を伴わないものをいいます。
医学上の傷病名としては、「頸椎捻挫」「頸部挫傷」「外傷性頸部症候群」などと診断されることが多いでしょう。
(1)典型的な症状
むちうちになった場合に出てくる症状としては様々なものがありますが、主な症状として、
- 頭痛
- 首や肩の痛みや凝り
- 首の運動制限(動かない、または動きにくい)
- 首を動かすと痛む(運動痛)又は押されると痛む(圧痛)
などがあります。
上記のような症状が出たとしても、適切に治療を受ければ多くの場合は1~3か月程度で治癒するといわれています。
しかし、症状の経過には個人差があり、すべてのケースで3か月以内に治癒するわけではありません。
そのため、安易に治療を中止せず、根気よく治療を続けることが大切です。
(2)バレ・リュー症状型
むちうちになってしまった場合、交感神経が刺激状態になることによって、自律神経に失調をきたすこともあります。これを「バレ・リュー症状群」と呼ぶことがあります。
こういった症状が出ても、Ⅹ線上外傷性の異常は認められないため、保険会社から「もう治っているはず」や「それほど重症とは考えられない」などと言われがちです。
交通事故の損害賠償の実務において、問題となりやすいケースといえます。
自律神経に異常を来すと、以下のような症状が出ることがあります。
- 頭痛、めまい、吐き気
- 目のかすみや視力の低下
- 耳鳴りや聴力の低下
- 疲れやすい、だるい
(3)ヘルニアなどの画像上の異常が認められる場合も
また、椎間板が変形または突出したりすることによって、神経根(脊椎から左右に出る末梢神経の根元の部分)が圧迫され以下のような症状が出ることもあります。
椎間板の異常については、MRI撮影をして確認することになります。
画像上の異常所見が認められる場合には、「椎間板ヘルニア」といった診断名がつくことになります。
【主な症状】
- 首から腕にかけての痛みやしびれ、麻痺
- 知覚障害
- 脱力感、身体に力が入らない、筋力低下
- 反射異常
滅多にないことですが、さらに重度のものになると、脊髄そのものや脊髄から出ている神経が事故の衝撃によって損傷し、深部腱反射の亢進(過剰に強く反応が出ること)や病的反射の出現等の脊髄症状が現れるものもあります。
【主な症状】
- 手足の痛みやしびれ
- 知覚障害、麻痺
- 歩行障害
- 排尿や排便の障害
(4)脳脊髄液減少症・低髄液圧症
事故の衝撃によって脳脊髄を覆っている「くも膜下腔」が損傷し、そこから脳髄液が少しずつ漏れ出すことによって、以下のような症状が出ることもあります。
これを「脳脊髄液減少症」とか、「低髄液圧症」と呼んだりします。
脳・脊髄MRIをはじめとする様々な専門的な検査を受けないと診断できない症例ですが、通常、交通事故の直後にこのような検査が行われることはほとんどありません。
そのため、むちうちの治療をある程度続けても症状が改善しない場合は、脳脊髄液の漏れを疑って検査をしてもらう必要があるかもしれません。
【主な症状】
- 起立性頭痛(立ったり座ったりするときに痛みがひどくなる)
- 頭から手足にかけての痛み
- 疲れやすい、全身の倦怠感
- 吐き気、嘔吐、食欲の低下、味覚障害
- めまい、ふらつき、顔面のしびれ、耳鳴り
- 視機能障害
2、むちうちの治療で気をつけるべきこと
交通事故によるむちうちで治療を受ける際には、注意しなければならないポイントがいくつかあります。
自己判断でよかれと思って行ったことが原因で、むちうちがなかなか治らなかったり適切な損害賠償を受けられなかったりすることもあります。
むちうちの治療では、次の3つのポイントに注意しましょう。
(1)医療機関を受診する
交通事故でむちうちになってしまったら、必ず医療機関(主として整形外科)を受診してください。
適切な治療を受けるためには、交通事故によってご自身の身体がどのように損傷したのかを正確に診断してもらわなければなりません。
そのためにも、レントゲンやMRIなどの検査を受けた上で正確な診断を受けることができる医療機関を受診することが必須です。
整骨院や接骨院、鍼灸院、マッサージなどに通うことが有効な場合もありますが、まずは専門の整形外科にかかることが必要です。
また、加害者側に損害賠償を請求する際には、医師が作成した診断書が必要となります。
整骨院や接骨院、鍼灸院、マッサージなどの施術師は医師ではなく、診断書を書いてもらえないため、注意しましょう。
(2)症状固定となるまで治療を続ける
症状固定とは、それ以上治療を続けても症状が良くも悪くも変化しない状態に至ることをいいます。
むちうちで治療を始めたら、主治医から症状固定の診断を受けるまで治療を継続してください。
仕事が忙しかったり、なかなか治らなかったりすることを理由に自己判断で治療を中止すると、慰謝料の減額や、後遺障害の認定を受けることができなくなることもあります。
治療を中止しないまでも、症状があるにも関わらずたまにしか通院しなければ、やはり慰謝料の金額が減ったり、場合によっては保険会社から治療費の支払を打ち切られたりします。
主治医が「もう治療を続けても効果は上がらない」と判断するまで、指示どおりに通院しましょう。
(3)仕事や日常生活で無理をしない
むちうちの治療において、事故直後は特に静養することが重要です。
仕事や家事が忙しく、静養していられないという方も多いと思いますが、無理をしないようにしましょう。
無理をするとむちうちが治りにくくなるだけでなく、保険会社から事故と症状の因果関係を疑われてしまうことがあります。
事故後に無理をしたために症状が悪化した場合は、悪化した部分については自己責任とされ、適切な損害賠償金を受け取れなくなってしまいかねません。
医師から休業するように勧められた場合は、きちんと休業して保険会社から休業損害を支払ってもらうようにしましょう。
3、むちうちと後遺障害等級
むちうちでは、治療を続けてもなかなか治らないケースも少なくありません。
医師から症状固定の診断を受けた場合は、治療はそこで終了し、その後は後遺障害の問題となります。
むちうちと後遺障害の問題について詳しくは、「交通事故に遭ってしまったら!むちうちで後遺症が残ってしまったら知っておきたいこと」をご参照ください。
関連記事後遺障害が残った場合は、それまでの「傷害」に関する賠償金とは別に後遺障害に関する賠償金を請求できます。
ただし、後遺障害が残ったすべてのケースで賠償金を請求できるわけではありません。
請求するためには、「後遺障害等級」の認定を受けることが必要です。
そのため、むちうちで後遺障害が残った場合には、適切に後遺障害等級の認定申請を行うことが重要です。
また、後遺障害等級に認定されるか、また何級に認定されるかによって、最終的に受け取れる賠償金の額は大きく異なります。
後遺障害等級認定の結果は申請する方法によっても左右されうるため、申請方法についても慎重に検討しましょう。
後遺障害等級の認定申請の方法について詳しくは、「【弁護士が解説】後遺障害等級認定の申請手続の流れと必要書類」をご参照ください。
関連記事4、交通事故でのむちうちでもらえる賠償金
交通事故でむちうちになると、どのような賠償金をもらえるのでしょうか。
ここでは、もらえる賠償金の種類を説明し、その中でも特に重要な「慰謝料」と「後遺障害」に関する賠償金について詳しく解説します。
(1)賠償金の種類
まず、交通事故でむちうちになったときに被害者側が加害者側に請求できる賠償金の内訳としては、主に以下のようなものが挙げられます。
- 治療費
- 通院交通費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 後遺障害逸失利益
これらの中で特に重要な「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「後遺障害逸失利益」について、以下で説明します。
(2)賠償金を計算する際の3つの基準
上記の3つの賠償金の計算基準は、次の3種類です。
- 自賠責保険基準
- 任意保険基準
- 裁判所基準(弁護士基準)
基準ごとに金額が異なるので、どの基準で計算するかが重要です。
大まかな傾向として、自賠責保険基準で計算する場合が最も低額となり、裁判所基準で計算する場合が最も高額となります。
詳しくは、「交通事故の慰謝料計算における3つの基準を解説」をご参照ください。
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(3)入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故で怪我をしたことや、その怪我の治療のために入通院を余儀なくされたことによって生じた「被害者の精神的苦痛」に対して支払われる賠償金です。
詳しくは、「交通事故でむちうちになってしまった場合の慰謝料の相場」をご参照ください。
関連記事また、具体的な計算方法や少しでも高額の慰謝料を勝ち取る方法については、「入通院慰謝料はどう計算される?計算方法と慰謝料を増額させる方法!」をご参照いただけると幸いです。
関連記事(4)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、交通事故による後遺障害のために、被害者がその後の仕事や日常生活などで受ける精神的苦痛に対して支払われる賠償金のことです。
金額は3種類の計算基準のどれを用いても、認定された後遺障害等級に応じて定められています。
むちうちの場合、認定される可能性がある後遺障害等級は12級または14級です。
裁判所基準による慰謝料額は、12級で290万円、14級で110万円となります。
後遺障害慰謝料について詳しくは、「後遺障害の慰謝料で損しないために知っておきたい4つのポイント」をご参照ください。
関連記事(5)後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残るとそれまでどおりに仕事をすることが難しくなるため、事故に遭わなければ将来得られたであろう収入などの利益について、相当な範囲で支払われる賠償金のことです。
裁判所の基準では後遺障害等級に応じて労働能力の喪失率が決められており、12級で14%、14級で5%です。
この数字に、被害者の症状固定時の年齢や事故直前の収入などを考慮した数値をかけ合わせることによって、後遺障害逸失利益の金額が計算されます。
詳しくは、「後遺障害賠償における逸失利益とは?~逸失利益の算出方法と増額するためのポイントを紹介」で解説しています。
関連記事5、交通事故によるむちうちの損害賠償請求で注意すべきポイント
交通事故によるむちうちで適切な損害賠償を受けるためには、さらに注意すべきポイントがあります。
以下のポイントは、どれもよくあるケースなので十分にご注意ください。
(1)治療費を打ち切られた場合
交通事故でむちうちとなって治療を続けていると、保険会社から「そろそろ治療費の支払いを打ち切りたい」「まだ治っていないのなら症状固定の診断を受けて後遺障害等級の申請をしてください」などと言われることが多くあります。
治療開始から3か月ほどが経過すると、保険会社からこのような打診があることが多いでしょう。
しかし、むちうちのすべてのケースが3か月で治癒するとは限りません。
実際にはまだ治療が必要な状態なのに治療を中止してしまうと、入通院慰謝料の金額が低くなります。
まだ症状が変化する可能性もあるため、後遺障害等級も適切に認定されない可能性があります。
このような打診を受けたら、主治医に相談した上で必要な治療を継続すべきです。
それでも治療費を打ち切られた場合は、いったん自費(健康保険)で治療を続けましょう。
後に後遺障害等級が認定されれば、症状固定までの治療費と入通院慰謝料も支払われることがほとんどと言えるため、ご安心ください。
ただ、後遺障害等級が認定されなければ、打ち切り後の治療費が自己負担となってしまうことがほとんどです。
後遺障害等級認定に関して不安がある場合には、後遺障害等級認定の可能性がどの程度あるのか、弁護士に相談して確認しましょう。
(2)整骨院や鍼灸院に通いたい場合
むちうちの症状の改善のために整骨院や鍼灸院に通いたい場合は、必ず整形外科にかかったうえで、主治医の指示や勧めに基づいて通いましょう。
自己判断で整形外科にかからずに整骨院や鍼灸院のみ通うと、医師による診断が得られず、保険会社から治療費が支払われない可能性が極めて高いため、注意が必要です。
(3)休業損害が支払われない場合
交通事故で怪我をして仕事に耐えられなくなったり、入通院のために仕事を休んだりする必要がある場合には、その結果として減少した収入を補填するための休業損害が支払われます。
しかし、むちうちで症状が軽い場合には、保険会社が休業損害を支払ってくれないケースもあります。
保険会社からは「大した症状ではなく、仕事に支障はないはずだ」などと判断されてしまい、休業損害が早期に打ち切られるケースもあります。
そんなときは、主治医とよく相談して「休業の必要性あり」ということを診断書やカルテなどに記載してもらいましょう。
それでも休業損害を十分に支払ってもらえない場合は、弁護士に依頼して保険会社と交渉してもらうことをおすすめします。
(4)後遺障害等級が認定されない場合
むちうちで後遺障害が残っても、必ずしも「後遺障害等級」が認定されるわけではありません。
むちうちの場合は、骨折や脱臼などの、画像に映って第三者が知覚することのできる異常(他覚的所見)がないことがほとんどであるため、申請をしても「非該当」となることが多いのです。
後遺障害等級の認定結果に不服がある場合は、異議申し立てをして再度審査を受けることが可能です。
ただし、いったん下された認定結果を覆すことは簡単ではありません。
後遺障害等級認定結果の異議申し立てをする場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
(5)逸失利益が一定期間に制限される場合
後遺障害逸失利益は、原則として被害者が67歳になるまで働くと仮定したうえで、事故に遭わなければそれまでに得られたであろう収入などの利益について、相当な範囲で支払われる賠償金です。
ただ、むちうちで14級に認定された場合は、67歳までの期間ではなく、数年分しか逸失利益が認められないケースがほとんどです。
他覚的所見がないことがほとんどのむちうちは、将来的に馴化(じゅんか・痛みに慣れること)して労働能力の制限がなくなる可能性が高いと考えられているからです。
裁判例でも、14級の場合は労働能力喪失期間を5年程度と認めている事例がほとんどです。
また、保険会社は示談交渉段階では2~3年分しか逸失利益を認めないことも多いです。
そのような時には、交通事故の取扱い経験が豊富な弁護士に依頼し、裁判における決着と同等の示談ができるように交渉してもらいましょう。
6、交通事故でむちうちになったら早めに弁護士に相談を
ここまで説明してきたように、交通事故によるむちうちで適切な損害賠償を受けるためには、多くの注意すべきポイントがあります。
一般の人は気付かないポイントも多いので、弁護士に相談してアドバイスを受けた方がよいでしょう。
治療段階から注意すべきこともありますので、早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に依頼しておけば、保険会社への対応で困るというストレスから解放されます。
また、弁護士が示談交渉をするときには裁判所基準で計算した金額を請求してくれるため、受け取れる賠償金が高くなることも期待できます。
弁護士に依頼すると、弁護士費用が気になる方が多いと思いますが、ご自分が加入している任意保険に「弁護士費用特約」が付いていれば、保険会社の費用負担で弁護士に依頼することができるため、安心です。
弁護士費用特約について詳しくは、「弁護士費用特約とは?知っておきたい7つのポイント」をご確認いただければと思います。
関連記事まとめ
交通事故によるむちうちは、命に関わる負傷ではないものの、仕事や日常生活にも支障をきたすため、被害者本人にとっては非常に辛いものです。
交通事故でむちうちになってしまったら、できる限り早く治癒を目指して治療に努めるとともに、適切な賠償金を得られるように対処することが大切です。
一人で対処するのが不安な場合は、弁護士に相談してアドバイスを受けるようにしましょう。